素直に
公爵の質問に固まってしまい
「えっ?あぁ…」
公爵様の問いにどう答えたらいいか分からず固まってしまい二の句が出ない。私の様子から何かを察した公爵様は何か言おうとした時
「俺が代わりに答えよう」
「フィラ!」「妖精王」
前触れも無くフィラが現れた。そして私を抱き上げてソファーに座り膝の上に座らされる。
急な妖精王の登場にも公爵様は慌てる事無く立上り、優雅にフィラに挨拶をしモルランのお礼を述べている。
『やっぱり妖精王からだって知ってたんだ』
フィラは公爵様を無表情で見て何も発しない。そして私に視線を向け微笑んで私の眉間を指で押さえて
「そんな顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ」
そう言ってフィラは触れるだけの優しい口付けをくれる。そしてまた無表情になり公爵様に視線を向け
「妖精の見立てではもって2か月ほどだ。こんな酷な問いを我が番にするな」
「フィラ何てこと言うの!それにストレートに言わずにもっと思いやりを持って…」
「どんなに気を使い遠回しに言っても事実は変わらん。こういう事ははっきり言ってやる方がいいんだ」
「そうかもしれないけど…」
向かいに座る公爵様は分かっていた様で冷静だ。でもその瞳は潤んでいて表情に出さないが悲しみがみて取れる。少しの沈黙の後に公爵様が
「この後恐らく王妃様から乙女様に願いがあると思います。どうか聞き入れていただきたい」
「私にできる事なら…でも何でもOKとはいきませんが」
”コンコン”
応接室に誰か来て公爵様が応対し、その間にフィラが甲斐甲斐しく私の口にお菓子を運ぶ。そして
「乙女様。王妃様がお目覚めになられました。お会いになりますか?」
「はい。よろしくお願いします。フィラはどうする?」
「俺が居ては話が出来ないだろう⁈無理はするなよ。何かあれば俺を呼べ」
そう言いフィラは帰って行った。公爵様といえども妖精王は緊張する様でやっと表情を緩めた。そして公爵様のエスコートを受け王妃様の元へ向かう。部屋に着くとベッドの上で体起こしお茶を飲んでらした。そして私に気付き深々と頭を下げご挨拶をいただく。
「この度は遠い所までお越しいただき、ありがとうございます。多恵様のお陰で痛み無く過ごせております。心から感謝を…」
「いえ…直ぐに来れなくてすみません」
侍女さんがベッド横に椅子を用意下さり座る。そして挨拶し公爵様と侍女さんが退室し王妃様と2人きりになった。王妃様の顔色は悪くなく見た感じは病人には見えない。
「先ほど目覚めた時に侍女からあの樹皮をまたお持ちいただいたと聞きました。残り少なく心細かったので嬉しいですわ」
「いいタイミングで来れたみたいですね。良かったです。あのですね…」
陛下と殿下が近々来る事を話そうとしたら王妃様に話を遮り私の手を取って
「多恵様にお願いがございます!」
「えっ?あ・・・どうぞ」
病人とは思えないほどに力が強くぎょっとする。そして驚く事言われ頭が真っ白になる。
「王都を出る時に陛下の後添えにと言いましたが、やはり陛下をお返し下さい!」
「えっと?」
王妃様はそう言いさめざめと泣きながら訴える。別に貰った覚えも無いし奪った覚えもないんだけど…
どうしていいか分からず王妃様が落ち着くまで手を握り待つしかなかった。そして暫くして落ち着いた王妃様から話しを聞く事に…
「申し訳ございません。取り乱してしまいまして」
「いえ、大丈夫ですから。順を追って話して下さい」
「私は結局何をやってもダメな女なのです。公爵家の娘と王妃としてのプライドから、陛下や王子の事を思い身を引き1人静かに去るつもりでおりました。しかし、病状が進むにつれて不安と恐怖に耐えれなったのです。そして消えることが怖くなり愛する者に傍に居て欲しいと思うように…」
そう。王妃様は自分の死と向き合い恐怖と不安から陛下に傍に居て欲しいと思う様になった。そして私がレックロッドに行く話を耳にし、その前に私に了承を得たいと思ったそうだ。
王妃様は余命宣告されている感じは無く相変らず美しい。
本人は『ダメな人間』なんて言っているがそんな事は無い。誰しも不安な時は誰かに居て欲しいと思うものだし、安らぎを求めるものだ。反対にその相手が陛下がある事が嬉しい。やっぱりお2人の間には愛情が有ったんだ。
なら尚更後悔の無いように残り少ない時間は大切な家族と過ごして欲しい。そう思って
「不謹慎な言葉かもしれませんが私は嬉しいんです。王都を離れられる前に陛下への後ろめたさと、自責の念に囚われ無理をなさっている様に見えたので。私は最後は家族で過ごして欲しい。陛下と王妃様の間にはちゃんと”愛”はあります。素直に向き合って言いたい事を言って下さい。陛下はそれに背を向けるお方ではありませんよ」
「多恵様…ですが陛下は貴女の事を愛しておいでですわ」
「私と陛下にはまだまだ話す時間があります。縁があれば遠回りしても障害があっても結ばれます。だから今はご自分の人生悔いの無いようになさって下さい」
目の前の女性は威厳のある王妃では無く、弱々しく美しい女性だった。これが本来の彼女なんだろう。
シャーロット様は私の言葉に涙し感謝を述べている。彼女のそんな姿を見ながら
『自分の最後がわかった時、私は誰に傍にいて欲しいのだろう?』
ふとそんな疑問が脳裏をよぎり…
『大輔…雪…』
一番初めに思い浮かんだのは夫と娘だった。こちらに来て素敵な男性に想いを寄せられ、最近は殆ど夢も見なくなって来たが、最後になるならやっばり家族に傍にいて欲しい。
だから
「私は数日後にレッグロッドに赴き、その後準備が出来次第正式にレッグロッドに移ります。恐らくお会いできるのはこれが最後になる… ごめんなさい。お役に立てなくて」
そう告げると涙が出て来た。王妃様は微笑み私の手を強く握り
「貴女を遣わせてくれた女神リリスに感謝を。貴女のお陰で最後に自分の気持ちを陛下に向けれそうですわ。そして残り少ない時間で出来うる限り子達に愛を注ぎたいの」
気持ちが定まった王妃様の表情は凛としとても綺麗だ。その表情を見てもう大丈夫だと確信して、時間がギリギリまでグレン殿下とフィル殿下の様子をお伝えする。
王妃様はグレン殿下が野菜を食べる様になった事に驚き、フィル殿下が歩く様になった事に感激されていた。
「もう直ぐご自分の目で見れますよ」
「えぇ楽しみですわ」
そう言い嬉しそうに微笑む。そしてさっきから育児の話に詳しい私に戸惑っている王妃様に
『王妃様になら言ってもいいかなぁ…』
そう思い座り直して元の世界での自分事を話した。
「まぁ!どおりで他の令嬢に比べ落ち着かれておいでで、違和感を感じておりましたの。それならば求婚者や陛下は頼りなく感じられるのでは⁈」
「う…ん。そんな事は無いですよ。素敵な方ばかりですが愛情表現が激し過ぎて戸惑う事が多くて… 元の世界の夫は淡白な人な上にシャイな人ですから」
“コンコン”
「あら!楽しい時間は直ぐ終わってしまうのね…」
「へ?もうそんな時間ですか」
王妃様が許可をすると公爵様が入室され、和気藹々の雰囲気に驚いている。そして戸惑いながら時間だと知らせてくれる。こんなに素敵な女性ならもっと早く仲良くなりたかった。少しテンションが下がると
「多恵様。短い時間ではありましたが、貴女と知り合えた事は僥倖でございました。そんなお顔なさらないで…笑顔でお別れしたいわ」
「ごめんさない… はぃ!直ぐに陛下や殿下がいらっしゃるので、ちゃんとお休みになって王子を抱きしめてあげて下さいね。そして陛下には素直に…」
「えぇ… 私が逝った後の陛下をよろしくお願いしますね」
「それは…」
すると戯けた表情で
「では、陛下を鍛え直しておきますわ」
「お手柔らかにお願いします」
こうして王妃様をハグして退室した。疲れたけど来て良かったと満足したら、盛大にお腹が鳴り公爵様は孫を見る様な視線で微笑んでいた。
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