恋文
ケビンから渡された手紙は明らかに恋文だけど?
目の前のケビン様は耳を真っ赤にして俯き気味に
「乙女様にこの様なお願いは失礼なのは重々承知しております。しかし他に方法がなく…恋に溺れた哀れな男に慈悲を!」
「えっと…」
目の前に綺麗な字で書かれた手紙を見ながら困惑していた。そう恋文は私宛では無くなんと!
『フィナさん!』
確か恋愛関係が皆無で早く恋人が欲しいといつもこぼしていたあのフィナさん?
固まる私に焦り手紙を下げようとするケビン様。慌てて
「ごめんなさい。預かりますが…えっと…経緯をお聞きしても?」
「そうでございますね。いきなり手紙を託されても困ってしまいますね。実は…」
そうしてケビン様は事情を説明し出した。
「それなら直接話せば…」
「何度も王城を訪ねるのですが面会を断られ、いつもモニカ嬢が代わりに来て困っております」
そうフィナさんとケビンさんは親同士が仲が良く、幼い頃から交流があり将来を約束していた。そして適齢期になれば婚姻する予定が、丁度私がこっちに来た頃に急に原因は分からず避けられる様になったそうだ。何度も手紙を送るも戻ってくるし会いに行っても断られ…
「仲のいい令嬢に聞いても他に思いを寄せる令息が居る訳でもないようで、私には思い当たる節もなく困っております。ご存知の通り父が倒れ近々私が当主を継ぐ事になり、婚姻を急がされている。私の妻は彼女以外考えられない。それなのに…」
「?」
ワイズ子爵家は今回の不正貴族摘発で取引先が減り、ある伯爵家から援助を条件に令嬢との縁を持ちかけられている。ワイズ子爵様もケビン様の気持ちを知っているが、これ以上は先延ばしに出来ず決断を迫られているそうだ。
「彼女の気持ちが本当に私にないなら諦め、伯爵家との縁を受け入れるつもりです。ですがちゃんと彼女の口から想いを聞かないと納得できない」
そう言い辛そうな顔をするケビン様。すると部屋の隅に控えていたアイリスさんが、私の後ろに来て発言許可を求める。許可するとアイリスさんは驚く事を話し出す。
「今のケビン様の話はおかしいですわ。フィナ嬢は同じ多恵様の侍女仲間で仲良くしていただき、ある程度プライベートな話も致しますがケビン様の話は聞いた事がございません。それに早く想う人を欲しいとよく話しております」
「本当ですか!」
「アイリスさん。本当に?それよりそんな話するなら仲間に入れてよ」
どうやら何か誤解がある様だ。唖然とするケビン様と考え込んでいるアイリスさん。
暫く沈黙が続き…
「もしかして縁組を申し込まれている伯爵家の令嬢はモニカ様では?」
「はい。何故?」
「確かフィナ嬢がお仕え始めた時からモニカ様が絡む事が多く、確か苦手だとフィナ嬢から聞いた事があります。それに部屋が隣のはずですわ」
「何かありそうだね…ケビン様の手紙は私が預かり直接フィナさんに手渡しして話を聞きましょう。でももしフィナさんの想いが貴方にない時は諦めて下さいね」
「ありがとうございます。感謝致します」
こうしてケビン様の恋文を預かる事になった。このお遣いが根深いレベッカの呪縛の洗礼を受ける事になるなんてこの時はまだ知らない。
「多恵様。お急ぎを」
「ごめんなさい!」
ケビン様と話し込んで出発が遅れ慌てて部屋に戻り用意する。そして早足に玄関に向かうと皆んな準備が終わっている。子爵家の皆さんもお見送りの為に玄関前に集まってくれていた。巻き気味にお礼を述べ直ぐの出発となった。
昨日と同じでケビン様がデスラート公爵領まで護衛して下さる。子爵家を出てすぐに長い街道に出ると昨日のように渋滞はしておらず、更にスピードアップし必死に馬の鞍を掴み静かにしている。そして少し行くと草原に出て一面の緑の絨毯が目に入り…
『目に良さそうだ。ずっと見てたら私の老眼も良くなるかなぁ…』
と意味の無い事をぼんやり考えている内にデスラート公爵領に入った。約束場所の川沿いの広場に公爵家の騎士さんが数名が待機している。
ここでワイズ子爵家の騎士さん達とケビン様にお礼を述べ、ここから公爵家の騎士さんの護衛で王妃様の元に急ぐ。ノンストップで走りやっとお昼過ぎに公爵領の一番大きな街に着いた。ここで昼食をいただき、直ぐに王妃様が療養する別荘を目指す。
『ゔ…気持ち悪い…』
食後のすぐの乗馬はキツイ!胃の中がミキサーのようだ。でも気持ち悪いとか言ってられない。皆んな眉間に皺を寄せ必死なんだもん。こちらに転生しても三半規管が弱い私の乗り物酔いは未だ健在だった。
「乙女様!あの先に見えて来た屋敷に王妃様がいらっしゃいます」
「やったー!やっとだよ〜」
嬉しくて思わず鞍から手を離し万歳をすると、まだ馬はトップスピードで体がぐらついた。直ぐにアッシュさんが手を引きアッシュさんの腕の中に抱え込まれる。
全神経を使い疾走するアッシュさんの腕の中は熱く大変なのが分かり
「ごめんなさい!嬉しくて思わず…」
「心配無用ですが危ないので、もう暫く我慢下さい」
頷き大人しく前を向いていたら、どんどん屋敷が近付いてきて…
「多恵様。遠いこの地までお越しいただき、心から感謝いたします。さぁ!まずはお部屋に案内いたします」
玄関先には公爵様と家臣の皆さんが出迎えてくれた。
「公爵様。急な訪問にお応えいただきありがとうございます。あの…王妃様は?」
「今はお休みになられておりますので、ますば皆さん休息なさって下さい」
こうして屋敷の侍女さんや従僕さんの案内で各自部屋に案内していただく。でも…
「公爵様…先にお話ししたい事があるのですが、お時間いただけませんか⁈」
「私は構いませんが多恵様のお体が心配でなりません」
アイリスさんを呼び持って来た巾着袋をもらい、部屋に行かず公爵様のエスコートで貴賓室へ。休憩するより先に話があると言われた公爵様の顔色は悪い。
『でも早くフィラからもらった鎮痛剤を渡したい』
貴賓室に案内されソファーに座ると一気に力が抜けて、だらしなく座ってしまう。
その様子を微笑ましく見ている公爵様だか、よく見ると目元がくぼみ疲れが見て取れる。
従僕さんがお茶を運び退室すると直ぐに公爵様にフィラから預かったモルランの樹皮を公爵様に渡す。
「多恵様…感謝致します。ここ数日は樹皮の効きも悪く服用回数も増え、以前送っていただいた樹皮も残り少なく、王妃様は精神的に不安定になられておいででした」
「間に合ってよかったです。来た甲斐がありました」
お茶をいただきやっと落ち着いた。出されたケーキが美味しそうで顔が緩む。するとまだ表情が険しい公爵様が
「多恵様は王妃様の終わりをご存知ですか?」
「あ…」
思わぬ質問に答えれず黙ってしまった。体を酷使してやっと着いたのに、今から心を酷使する事になりそうだ。覚悟をして来たけどやっぱり辛いなぁ…
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