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変なネーミング

なぜか乙女一行の事を知っていた男性に理由を聞き…

男性の発言に精鋭騎士さん達も固まっている。すると先ほど話しかけて来たお婆さんが私に


「まぁ凄いわ!こんな渋滞に巻き込まれ良くない日だと諦めていたけど、反対に良い日なのかもしれない」


そう言い少女の様にはしゃぎだした。やっと再起動したアッシュさんとキリトさんが男性に詰め寄り


「何故我々が乙女様一行だと思った!」

「伯爵領では今朝から乙女様がこの領をお通りになると皆話していました。そして騎士に護られ侍女を連れた綺麗な女性がいるので乙女様一行だと…」

「…」


どうやらミリバリー伯爵の家臣から話が漏れていたようだ。周辺は渋滞せいで馬や牛の鳴き声と暇を持て余す人たちの話し声で騒がしく、他の人は気付いていないよう。とりあえず男性の急ぐ理由を聞くと


「何故危ない事をしてまで急ぐのですか?」

「俺には生まれつき体が弱い3歳の息子がいます。1日1回呼吸を整える薬湯を飲まないと呼吸が乱れ意識を失ってしまう。常に常備していたのですがここ数日の長雨で薬草が痛んでしまった。それで急遽その薬草が自生するこの伯爵領へ採りに来ました。この時期ここを通るのは大変なのは分かっているが仕方なく…」


やっぱりやむ得ない事情があったんだ。男性はこの街道がこの時期混むのは分かっていて、高額な借り馬でここを抜ける算段で伯爵領に入ったそうだ。しかし他の人も同じ事を考えるようで、何件も貸し馬の店を回ったが馬は出払い借りれず仕方なく辻馬車に乗っていた。すると後方から馬が渋滞をすり抜けて来るのが見えて咄嗟に止めた訳だ。事情は分かったけど何で私だって分かったの?貴族令嬢の可能性もあるのに。

すると男性は真剣な顔をで


「乙女様お願いでございます。息子の為に子爵領迄馬に乗せていただきたい!」


真剣な表情で懇願する男性…あれ?でもおかしい…彼はこっちを見ているが目が合わない。不思議に思い彼の視線を追ってみると…


『アイリスさん⁉︎』


明らかに男性はアイリスさんに縋る様な視線を送っている。どうやらアイリスさんを乙女だと認識し、私は付き添いの侍女だと思っているようだ。確かに今回アイリスさんはいつもの黒スーツでは無く地味目ではあるが綺麗なワンピースを着ている。どう見てもアイリスさんの方が美形で品があり私より乙女らしい。するとその事に気付いたアッシュさんが困った顔をしている。アッシュさんの思っている事が分かり


「アッシュさん。私は気にしてませんから、彼に本当の事を言ってもらっていいですよ」

「いや…あ…」


そりゃ言いずらいわよね。こっちの貧相なのが乙女だなんて。仕方なく少し凹むけど自ら名乗る事にした。


「私共は道中急いでいます。ですがリリスからモーブルの助けをする様に言われてもいる。だから私は貴方の助けになりたいの。でもね本当に時間が無く正直なところ、この時間ですら私達にはロス。でも…」

「へ?いや…え?もしかしてあんたが乙女様?侍女さんで無くて?」


目が点な男性は恐る恐る聞いてくる。アッシュさんはじめ皆さん微妙な顔して辺りに変な空気に包まれ居たたまれない…。しかし間違いは正さないと…


「貴方の夢を壊して申し訳ないのですが、()()私が乙女なんです…いや!皆さんが間違うのは仕方い事ですから気にしないで下さい。そんな事より本当に先を急いでいて、でも貴方のお子さんも…」


固まる男性に事情を話し提案をしようとしたら背後から殺気を感じ振り返ると、般若の表情をしたアイリスさんが馬から降りて凄い勢いで向かって来る。


『怖い怖い!』思わず馬上なのに逃げ場を必死に探すが有る訳も無く、思わずアッシュさんの愛馬の首に抱き付く。そして男性の前に来たアイリスさんが…


「貴方のお子さんのお体も大切ですが、ご自身の瞳も医師に診てもらうべきですわ!多恵様ほど”カワイイ”が詰まった女性おひとは居ません。ここに陛下がいらっしゃたら…」

「アイリス嬢。貴女の怒りは分かるが今はそんな事言っている間は無いんだよ」


アッシュさんが冷静に対応してくれるが、アイリスさんの怒りは治まらない。でも本当に急ぐから…


「アイリスさん。その男性の意見は一般的で怒る事では無いから。それよりこの場を治めて先を急ぐ相談をしないと!すみません。貴方のお名前をお聞きしていいですか?」

「あ…はい。トマスと言います…本当に貴女が乙女?」

「はい。あのですね。結果から言えばトマスさんをお乗せする事は出来ません。一人乗せてしまうと、他に急ぐ人達からも求められ混乱を招きます」

「そんなぁ…息子が…」


肩を落とし俯いたトマスさん。でもここで彼を乗せると他に急ぐ人達も出てくるだろう。でもトマスさんの息子さんを見捨てる気も無い。だから


「貴方は乗せれませんが、息子さんの薬草は預かりましょう」

「へ?」


私からの提案はこうだ。薬草だけ預かり子爵領で(恐らく)待っている子爵様に預け、息子さんの元へ届けてもらう。ワイズ子爵領の領民だから家の場所と名を告げればきっと家が分かるはずだ。馬は数騎あり人を乗せる余裕はあるが、きっとスピードが落ち遅くなってしまうだろう。しかし薬草なら負担にはならないはずだ。


「お願いします。薬草さえ今日中に届けば息子は発作を起こさない。俺は失礼な事を言ったのになんて慈悲深いお方だ!あぁ…本当に貴女が乙女様なのですね!」

「ごめんなさいね。余裕があれば貴方を乗せてあげたいけど…必ず子爵様にお願いして届けてもらいますからね」


トマスさんは手を差し伸べ感謝を述べられる。キリトさんが制ししようとしたが、アッシュさんがキリトさんの手を抑えたので、私からトマスさんの手を取り握手した。

やっと怒りが治まったアイリスさんが私の肩を抱き、何故か誇らしげにしている。そしてアッシュさんがトマスさんに紙とインク、ペンを渡し住む町の名と場所を書かせ薬草を預かる。

そして再出発準備を整え周りで見ていた人達に子爵領に着くまでの口止めをし、何度も頭を下げるトマスさんに手を振りやっと出発する事が出来た。

遅れた分を取り戻す為にスピードを上げ、三半規管が弱い私が酔ったのは言うまでも無い。


実はこの話には後日談がある。あれだけ口止めしたが人の噂は止めれる訳もなく、ことの成り行きを見ていた者達がリリスの乙女が子を想う父親を救った場所として、その何の変哲も無いこの道を【乙女の温情】と変なネーミングが付けられた事を後に知り赤面する事になったのでした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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