着る〇〇
王妃様に会いに行くべく長距離移動が始まった。でもゴードンさんの新アイテムで快適に?
「多恵様…着きましたのでそろそろ…」
「ふぁぃ…大丈夫です起きてますから…」
”ふふ…”
アッシュさんの笑い声で目が覚めた。昼食&休憩をとる伯爵領に着いたようだ。顔を上げるとアッシュさんが半笑いで私を見ている。寝ている間によだれでも垂らしていたのかと思わず口元確認すると、彼は声を出して笑いだす。笑われ少し拗ねると子供を宥める様に頭をポンポンし微笑んだ。
「すみません。この着るお布団のお陰で熟睡しちゃいました。眠って力の抜けた人を支えるのは大半だったでしょう⁈昼からはちゃんと起きてます!」
「いえ。貴女は軽すぎて負担など皆無でした。昼食後は更にスピードを上げるので眠っていただいて結構です」
「いえ!頑張ります」
そう、長距離の乗馬で体に負担が無いようにゴードンさんが”着る布団”を作ってくれたのだ。事の発端は長距離の乗馬に侍女の皆さんが心配しゴードンさんにクッションを依頼した事から始まった。ゴードンさんから要望を聞かれ、元の世界で使っていた”着る毛布”を思い出し話したら、目を輝かせたゴードンさんがノリノリで作ってくれたのだ。元のは背中開きだったがゴードンさんが作った物は前開きでくるみ釦で数ヶ所留め、ゆったりしたデザインの物で足まですっぽり包まれ温かい。だから…
『これを着たら誰でも寝ちゃうようね』と頭の中で言い訳中。
「多恵様。お目覚めでございますか?昼食をとる宿に着いております」
「本当だ?」
気が付くとサザライス家の騎士さんが居なくて初顔の騎士さんが唖然とした表情でこっちを見ている。どうやらサザライス領を抜けて、伯爵領に入りミリバリー伯爵家の騎士さんが就いてくれたようだ。慌ててアッシュさんに下してもらい、微妙に震える足で騎士さんの元へ
「この度は護衛をしていただき、ありがとうございます。多恵と申します。よろしくお願いします」
「私共からご挨拶せねばならないのに、申し訳ございません。我が伯爵領内の安全をお約束いたします」
伯爵領からは5名の騎士さんが来てくれたいた。後で聞いた話だがサザライス公爵領とミリバリー伯爵領の境にミリバリー伯爵様もお見えになっていたそうだ。しかし私が完全に熟睡していてご挨拶できなかった。アッシュさんは帰りも通るのでその時に挨拶すればいいと言い、慰めてくれたがしっかりと落ち込みました。
ガタガタの体と凹んだ心の私をアイリスさんが支えてくれ昼食をとる宿に入る。昼食をいただくのは1階奥の食堂の個室。部屋に入ると見張りをする騎士さんが先に昼食を食べていた様で、私を見ると急いで食べようとしている。
「あっ大丈夫ですからゆっくり食べて下さい。騎士さんは体が資本で食事は大切です」
そう言うと温かい眼差しを送られる。あまりガン見したら失礼だから見ない様にしていたが、やはり騎士だけあり量が多くて私の食べる量の3倍はある。
『そりゃそうよね。背も2m近くあるし筋骨隆々だもんなぁ…』
そんな事を考えながら席に着くとアイリスさんが給仕をしてくれる。そしてアッシュさんはじめ後半組の騎士さんが席に着き食事を始める。アイリスさんも背も高くスタイル抜群なので私の2倍は食べている。今回初めましての騎士さんは私の食べる量が少ないと思っている様で、港町の視察の時の様に心配し自分の分を分けようとしてくれる。
「(…デジャヴだ)皆さん。私はこれでも多いんですよ。自分の分はしっかり食べて下さいね」
そう言い断った。そして少し騎士さん達も慣れて来たようで他愛もない雑談に参加してくれるようになり楽しい食事となった。
出発前に宿のお手洗いに行きアイリスさんが身なりを整えてくれる。優しく微笑んでくれるが、アイリスさんも慣れない乗馬で疲れがみて取れる。今晩の宿泊はワイズ子爵様の屋敷に泊めていただけるようで、アイリスさんもゆっくり休めそうで安心している。
「やはりゴードン殿は素晴らしい。この装いはとてもお似合いですわ」
「そぉ?ドレスと違い動きやすいから気に入っているの」
そう今日はドレスやワンピースを着ていない。前に弓の練習の時にゴードンさんに作ってもらった練習着のワイドパンツとカッターシャツを着ている。馬に乗せて貰うのにドレスだと横座りになり長距離移動は辛い。やっぱり跨った方が安定するし寝やすいと思っての事だ。そして知らなかったけど、ゴードンさんは明日の着替えにもう1セット仕立ててくれているそうだ。
「仕立てれる口実ができて、彼は喜んでいたんじゃない⁈」
「流石多恵様ですわ。目が爛々として怖いくらいでした。そして彼から伝言です。【ちゃんとリメイクしてますから】との事でございます」
鼻息荒く練習着を説明するゴードンさんが目に浮かび笑ってしまう。こうして疲れはするが道中もそれなりに楽しく過ごせている。のんびりアイリスさんと話していたら、アッシュさんに急ぐよう窘められ慌てて馬で急ぐ。宿の周りには沢山の馬車や荷馬車が止まっていた。アッシュさんの説明ではこの先の道が混んでいるようで、この宿場町で休憩する人が多いそうだ。
そして少し遅れて出発し町を出ると直ぐに沢山の馬車が見えてきた。順調にすすんでいるとアイリスさんを乗せたキリトさんが近づいてきて
「体にご負担無いように早めにお休み下さい」
「いや頑張って起きてますから」
「いえ!ご無理なさらないでください。お休みを」
わらわらとみんなが寄って来て私に寝ろと言う。何故か分からず少しイラっときて
「私が寝たら皆で楽しい事する気ですね。それとも悪口を言われるのかしら?皆意地悪だ」
拗ねてそう言うとアッシュさんがまた楽しいそうに笑いながら
「みんなは愛らしい貴女の寝顔が見たいのですよ。意地悪や悪意はありません。しかし気分を害されたのなら謝罪致します」
アッシュさんがそう言うと皆さん頭を下げる。アイリスさんも下げている!私の寝顔の何処が嬉しいのか理解に苦しむ。こうなったら意地になり必死に起きていたら、道の先に馬車が止まっているのが見えてきた。するとキリトさんが
「やはり込んできましたね」
「そうだな…皆!渋滞の横を抜ける。極力多恵様の傍を離れるな」
そう言い渋滞の横をどんどんすり抜け進んで行く。道のギリギリをすり抜けて行くので馬車に当たらないかヒヤヒヤしながら馬の鞍を必死に掴んでいた。すると先頭を行く伯爵家の騎士さんが誰かと揉めている様だ。
ハプニングにアッシュさんが険しい顔をする。そしてその騎士の所まで来ると、騎士の前に1人の男性が両手いっぱい広げて立ちはだかったいる。
「何をしている⁉︎」
苛つきながら騎士団のテントさんが聞くと、伯爵家の騎士さんが
「この者がワイズ子爵領までの連れて行って欲しいと食い下がり剣を突き付けても引かず…」
念のため警戒し私の前と後ろを騎士さんが囲み、遠巻きにその男性を見ていた。
『見る限り賊や悪意のある人には見えないけど…』
するとアッシュさんとキリトさんが馬を降り話し合いを始めた。馬上の私とアイリスさんは何もできず成り行きを見ていた。すると隣に停まっている荷馬車からお婆さんが声をかけて来た。
「貴族様に失礼なのは分かっておりますが、お聞きいただきたい。あの男はこの伯爵領へ子供の薬草を買い付けに来たようで帰りを急いでいると言っていました。そして彼が乗った辻馬車もこの渋滞に巻き込まれ身動きできず焦ってあのような事を…」
「それで渋滞をすり抜ける私達に助けを…」
確かにさっきから全く動かない馬車達。これではいつ動くか分からない。
「しかしその男が嘘をついている可能性がある故、信ずる事は出来ない」
気がつくと私の所まで戻っていたアッシュさんがそう言い警戒をしている。アッシュさんの言い分も分かる。でも彼の言う事が本当なら…
「アッシュさん。子爵領までのどのくらいかかりますか?」
「多恵様。いけません!」
私の考えが分かったアッシュさんは渋い顔をして窘める。
『でも何とかしてあげたい…』
「…」
アッシュさんは私の考えが分かっているけど、私達もギリギリのスケジュールで余裕など無いのは事実。正直ここでこうしているだけでもロスなのだ。
困っていたら前で騎士さんと揉めていた男性と目が合った。すると立ち上がった男性はこっちへ走って向かった来た。アッシュさんは抜刀し私の前に出た。
「アッシュさん駄目!」
「っつ!」
「へ?」
一瞬の事で何が起こったか分からない。でもその男性はアッシュさん前でキリトさんに押えられている。キリトさんが腕を押え地面に顔をつけた男性は呻いている。取りあえずこの男性から話を聞かないと埒が明かないと判断し、キリトさんに拘束を解くようにお願いすると渋々腕を緩めるが、短剣を首元に当て警戒するキリトさん。物騒な事になり鼓動が早まりドキドキが止まらない。
「お話はお聞きしますがお応えできるか分かりません。それでもいいですか?それと貴方を傷付けたく無いので抗わないで下さいね」
そう言うと男性は頷き真っ直ぐ私を見て
「貴女達は女神リリスの乙女の御一行ですよね。お願いでございますお助けを!」
「「「「はぁ?」」」」
思わぬ発言にアッシュさんはじめ皆が固まり暫く動けなかった。一体どうなっているのか誰か説明ぷり~ず‼
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