ヘルマン
デスラート公爵領に出発する朝。日課になったフィラの訪問を受けて…
手首に違和感を感じ目覚めると、目の前に色っぽく微笑むフィラがいる。
「おはよう」
「またお前は無理をするなぁ…」
そう言い口付けてくるフィラ。そして髪を撫で腰に腕を回し引き寄せる。肌触り最高の夜着にフィラの抱擁。朝から贅沢である。
幸せに浸っていたらフィラが私の手を取り
「これは体の負担を軽減し身を護る。帰るまで身に付けておけ」
そう言い私の手首を撫でた。手首には深緑色の革紐が結ばれている。王妃様の病状を知っていて行くなとは言わないフィラ。
私以外どうでもいいと言いながら、さり気無く優しいところが好き。婚約者を惚れ直していたら私の手に巾着袋を乗せた。何か分からずフィラを見たら、前に渡してくれたモルランの樹皮だった。少し気分が落ちこんな事知らない方がいいけど…
「ねぇ…彼女の命の火はどのくらい?」
「グリスの見立てではよく持って2ヶ月程だと」
「早過ぎない⁈」
王妃の病は元の世界の癌の様に痩せ細る事もなく、静かに内臓を蝕んでいくため、側の者は殆ど分からないそうだ。だが本人は相当な痛みを伴うらしくモルランでないと痛みは取れない。
「お前がこのタイミングで行くことに大きな意味がある。今モルランを渡せば最後まで痛みなく逝けるだろう」
「…」
分かってはいたけど、改めて言われると胸が苦しい。泣きそうな顔をしていたらフィラが慰める様に抱きしめてくれる。そうしていると控えめに寝室のドアがノックされた。今日は早朝出発だからのんびりできない。再度フィラに抱きしめてもらい起き上がって返事をすると、同行してくれるアイリスさんが入室してきた。
「アイリスなら多恵を任せれる。頼むぞ」
「お任せ下さいませ」
そう言いフィラは帰って行った。そこから急ピッチで準備をして馬車の待機場まで急ぐ。
廊下を出ると目の前に立派な馬車が停まっている。そして…
「凄い面子…」
馬車の前には陛下、チェイス様、サザライス公爵様、シリウスさんとセイン様。そして何故か…
「オーランド殿下?」
少し窶れたオーランド殿下とカイルさんまでいる。驚いていたら足早に目の前に来て殿下に抱きつかれた。
「我が国に訪問される直前に遠出されるとお聞きして急なことで驚きました。貴女のお身が心配でなりません。出来るならお辞めいただきたいが…」
そう言い強く抱き寄せる殿下。心配ないし予定通りレッグロッドに行く旨伝え、待っていて欲しいと伝える。
オーランド殿下は明日帰国予定で、お見送りできない旨をお詫びする手紙を渡していたのだ。それを読みお見送りに来てくれた殿下。その気持ちが嬉しく顔が綻ぶ。
「オーランド殿。私も多恵殿に挨拶したいのだ。そろそろ代わってくれぬか」
「失礼いたしました」
オーランド殿下の腕の中にいたら声がし、そちらを見ると眉間に皺を寄せたダラス陛下がいた。腕を解いた殿下は私の手を取り陛下に差しだすと、陛下は私の腕を引き強く抱きしめる。
「陛下!苦しいです」
「すまん。少し我慢してくれ」
そう言い私の頭の上に頬を乗せ密着する。少し腕が緩んだので陛下に身を任せてじっとしていると陛下は耳元で
「王妃に近いうちに会いに行くと伝えてくれ」
「はい」
「無理はしてくれるなよ」
「う…ん一応努力します」
中々離してくれない陛下に少し苛ついたチェイス様が後ろから陛下を引っ張り開放された。すると公爵様が目の前に来て手を差し伸べて馬車にエスコートしてくれる。
こうして予定より少し遅れて王城を出発した。見えなくなるまで窓から皆さんに手を振り、窓を閉め膝掛けをかけ静かに座る。
「閣下、セイン様。道中よければ先代の妖精女王の伴侶になられたお方のお話をお聞かせ頂けませんか?」
「よろこんで…」
こうしてサザライス領に着くまでの道中、フィラのお父さんの話を聞く事になった。
先代の妖精女王の伴侶になったのは当時サザライス公爵家の次子のヘルマン様。ヘルマン様と妖精女王との接点は無く、レッグロッドの王弟殿下と破談になった後に知り合う。破談の後にリリスの箱庭の3国の王は集まり会議を開き話し合いの場がもたれた。
その当時妖精女王の相手になれる年頃の未婚男性は少なくレッグロッドのクレモンド侯爵家とアルディアのファーブス公爵家、そしてモーブルのサザライス公爵家の令息の3名だけだった。そして妖精女王と顔合わせが行われヘルマン様が選ばれた。
「私がこの様な発言をするのは不敬になりますが、女王陛下は破談後は憔悴されご意志を述べられず、致し方なく3国が協議し3名のうち妖精達が一番好感を持ったヘルマンに決まったのです。そこに女王陛下の意思はなく愛もありませんでした」
「…」
公爵様の話ではヘルマン様はサザライス家の者には珍しく武術に才がなく、学問を好み自然学を専攻されアカデミーの助教授を勤めていたそうた。そして女性に縁がなく適齢期を過ぎても婚約者もいなかった。
「ヘルマンの残した記録は妖精の森の研究資料が多く、女王陛下や現妖精王との事は殆ど残されていないのです」
「しかし愛のない婚姻は貴族ではよくある事ですよ父上」
「分かっておる。しかし妖精達の愛は人より純粋だ。恐らく女王陛下の愛は王弟殿下にしか向かなかったのだろう。しかし次期王を繋ぐ使命があり仕方ながなく…」
大まかな話は知っていたが悲恋に胸が苦しくなってくる。そしてフィラを思い出し罪悪感が押し寄せる。
『あんなに想いを向けてくれているのに、”別に私じゃなくてもいいよね!”なんて酷い事言ってしまった』
そう思うと高速で自己嫌悪がやって来て凹んでしまう。すると公爵様が優しい眼差しを向けて
「先代は想いを遂げれなかった。しかし現王は貴女という素晴らしい相手にめぐり合われたのです。ぜひ愛のあるご成婚をなされ次期王を授かっていただきたい」
「えっと…頑張ります?」
この後レッグロッドと妖精達の仲を持つのに、何かヒントになるか物が無いかお聞きしたら、ヘルマン様の日記が残されているらしく、お貸しいただける事になった。こうして先代の妖精女王の話がひと段落したら、セイン様が話題を変えいきなり
「私などが口を出していい話で無いのは分かっております。ですが失礼承知で申し上げます」
「あ…はいどうぞ。でも少し怖いなぁ…」
「モーブルの正式な伴侶候補が兄上だとお聞きし、そして陛下も多恵様との縁を望まれていると王宮の者が噂しております。レッグロッドに移られるのが近い今、乙女様のお心はお決まりになられているのでしょうか?」
「えっと…」
先代の妖精女王の話が終わったこのタイミングでのぶっ込み。なんて返していいのか分からず黙ってしまう。暫く沈黙が続き公爵様が
「セインお前の気持ちはよく分かる。しかし乙女様は敬愛するリリスのお役目がお有りなのだ。今我々がお聞きするべきでは無い」
「それは重々分かっております。しかしやっと愛する女性にめぐり逢えた兄の幸せを望むのは当然ではありませんか⁉︎」
セイン様が兄を心配し思っている事が分かり、真剣に答えるべきだと思い
「セイン様…それに公爵様がお気になさるの気持ちも分かります。私はリリスに箱庭の為に呼ばれ箱庭の手助けするのが役目です。婚姻し子を儲けるのはできればであって役目では無いのです。心を向けて下さるのは嬉しい。でもそこはお互いの気持ちだし、他者から急かされたり強要されるべきでは無いと思います」
セイン様は驚いた顔をして目の前で跪いて頭を下げて謝罪される。
「失礼いたしました。出過ぎた真似を…」
「いえ。兄様を想っての事なのは分かっています。私もいい加減な気持ちでシリウスさんと接していません。その時が来たらちゃんとお返事しますので、温かい目で見守っていただきたいです」
「我々サザライス家の者は貴女を”家族”と呼べる日を楽しみにしていますよ」
公爵様はそう言い話を終わらせてくれた。話が終わり暫く窓の外をぼんやり見ていたら、王都とサザライス領の境に来た様で、御者さんが小窓を叩き合図してくれた。
さぁ!ここから過酷な乗馬での移動です。気合いを入れてながら、公爵様の手を借り馬車を降りた。
目の前には屈強な騎士が並び圧が強く、思わず後退りしてしまう。そして公爵様は騎士団の騎士を紹介してくれた。
「公爵様、セイン様ありがとうございました。落ち着きましたらお伺いします。すみません急ぎますので…」
お礼を述べ直ぐにアッシュさんの馬上に引き上げてもらい出発準備し、公爵様とセイン様に手を降りデスラート公爵領に向けて出発した。緊張していたらアッシュさんが笑いながら
「多恵様は乗り物では直ぐおやすみになられるとお聞きしております。しっかりお支えしまさので、おやすみ下さい」
「だっ誰がそんな事言ったんですが⁈ちゃんと起きていれますから!」
と鼻息荒くアッシュさんに言ったのに、5分後にはやっぱり寝てしまっていたのでした。
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