父の思い
騎士を派遣して下さる公爵にお礼を言うべく、面会に向かうが…
勢いでサザライス公爵様に面会をする事になったが正直何も考えてない。その上初めてご挨拶した時に厳つく怖いイメージしか無く少し怖いのだ。思わずエスコートしてくれているリチャードさんに
「公爵様とはご挨拶しかした事ないんです。リチャードさんはご面識ありますか?」
「はい。閣下はご当主になられるまで聖騎士の団長を務められ、私が騎士になりたての頃はしごかれましたよ」
そう言い苦笑いするリチャードさん。そして厳しいがとても情深いお方だと話す。
「真っ直ぐで腹がなく言動は一見きつく感じるしも知れませんが、お優しい方ですのでご心配いりませんよ」
どうやら苦手意識を持っているのがバレている。慌てて話を逸らしていたら応接室が見えて来た。リチャードさんが応接室の扉をノックをし入室許可を求めると、扉が開いてシリウスさんの弟さん?が顔を出した。確か…セイン様だ。
「お待ちしておりました。どうぞ」
「ありがとうございます」
リチャードさんがご挨拶し私の手をセイン様に託し退室していく。そして出迎えてくれた公爵様にご挨拶し着席する。
「この度は護衛を申し出て下さり、ありがとうございます。公爵様がご協力下さりデスラート領へ向かう事ができます」
そう言い頭を下げると公爵様は何も言わずにじっと見つめてくる。
『きっ気まずい…』
厳しいお人だから礼儀作法とか煩いのだろうか⁈やっぱりモーブルの作法を習っておくべきだったと後悔していたら
「父は気難しく見えるのです。父上その様に黙ってしまうと相手を威圧してしまいす。多恵様。父は寡黙なだけで決して怒っている訳ではありませんから!」
「はぁ…」
身を乗り出し必死でフォローするセイン様。すると公爵様は溜息を吐いて
「モーブル貴族として当たり前の事をしたまでで、お礼を言われることではありません。貴女の行動は全てこのモーブルの為だと理解しております。お気になされぬよう」
「あ…はい」
なんか嫌われてるのか諭されているのが分からない。ただただ真っ直ぐ見られている。
気まずくしていると従僕さんがお茶と茶菓子を出してくれたけど、就寝前なので丁重にお断りをした。すると公爵様は従僕を呼び何かを指示した。
その間も眼光鋭く見られていて息苦しい。公爵様の横ではセイン様が一所懸命話題を振ってくれているが、蛇に睨まれた蛙のように固まる私。そんな状況が続いていたら何故か従僕さんがお茶を入れ直した。
「あっ!このお茶は」
そう従僕さんが入れたお茶はハーブティーでリラックス効果のあるものだ。一口飲むと体のから力が抜けていく。すると
「私の面立ちは怖く女性を緊張させてしまう。そのお茶で少しでも気が楽になられるといいのですが…」
「へ?」
そう言い目尻を下げる公爵様。セイン様が言ったように公爵様は怒っている訳ではないようだ。少し安心すると
「デスラート公爵領の後にレッグロッドに視察に向かわれる事を陛下よりお聞きしております。小柄でか弱い貴女様の身が心配でなりません。くれぐれも無理はなさらぬ様に。
我がモーブルは貴女様の味方であり、家族だと思い頼っていただきたい」
公爵様を見ていて初めて会った時のシリウスさんを思い出していた。シリウスさんもぶっきらぼうで初めは嫌われていると思っていたんだ。でも反対に想われていて…
『それからは真っ直ぐに想いを向けられるいるんだった…』
リチャードさんが言った様に情深いお方で、私のことを心配してくれているのだと分かり胸の奥がぽかぽかして来た。
それからは緊張も解けて気楽にお話しできている。話しを聞いていると公爵様が心からモーブルを愛しているのを感じる。そしてやっと笑える様になった頃に徐に公爵様が
「うちのバカ息子がやっと愛を知り、貴女に想いを向けております」
「あ…はぃ」
「アレは私に似て真っ直ぐで不器用なのです。それ故に他の求婚者殿の様な愛情表現や言動は無理で、つまらない男に見えるやもしれません。しかし親の私が言うべきでは無いが、信念を持ち一度心に決めた事は貫く男です。他の求婚者殿に負けぬ程に貴女を愛し守るでしょう。ゆっくり息子をみていただきたい」
父親の顔をした公爵様はそう言い見つめてくる。即答できず困ってしまう。正直言えばモーブルで相手を選ぶ気はない。でもここでそんな事言える訳もなく、そしてこんな時の私は余計な事を言ってしまいがちで
「シリウスさんはいつも真っ直ぐ心を向けて下さります。それに他の方に負けない位に情熱的で…」
「あの兄がですか?」
セイン様が驚いた顔をしている。セイン様の話では本当に女性に縁も興味も無く、見合いも全て断り家族は生涯独身を覚悟していたそうだ。
「兄が多恵様にご執心なのは城仕えの者から聞きてはいましたが…兄も男なのですね」
「えっと…相手が私で申し訳ありません」
すると公爵様が前屈みになりながら
「卑下なさいますな。多恵様はこんな可愛いく聡明で素晴らしい女性だ。そんな愛らしいお嬢さんが義理の娘になるなんて嬉しいに決まっている。妻も多恵様がシリウスを選んでくれる事を望み、楽しみにしているのですよ」
「あ…りがとうございます」
なんか話が違う方向に走り出したぞ!褒め殺しプレイなの?
そして厳つかった公爵様は息子思いの父親になってるし、セイン様は兄の意外な面を知ったと興奮してるし…
『話をどこで終わらせればいいの?』
タイミングを掴めず困っていたら誰かが来た様だ。公爵様が許可を出すと凄い勢いで扉が開いて
「多恵様!」
「シリウスさん⁈」
シリウスさんが入室するなり私に抱きついた。シリウスさんの分厚い胸板で視界が無くなり、シリウスさんの香りに包まれ顔が熱くなるのが分かる。
「父上!多恵様は明日朝一からデスラート領へ向かわれるのです。更に慣れない乗馬もなさる。お早くおやすみいただかないと」
「いや済まない。あまりにも愛らしく話すのが楽しくてな」
「セイン。お前が同席すると言うから安心しておったのに」
シリウスさんはすごい剣幕で2人に文句を言っている。時計を見ると7刻を過ぎていた。どうやらシリウスさんはグレン殿下が就寝され私の部屋に行ったところ、まだ帰ってない私を心配して来てくれたのだ。
「シリウスさん。お2人を責めないで。色々お話を聞けて私は楽しかったですよ」
「多恵様はお優し過ぎます。その優しさは他の者に向けないで私だけにしていただきたい…」
そう言い額に口付けるシリウス。その様子に口を開けて驚いているセイン様。身内がデレてるのって案外恥ずかしいし困るよね。
やっとシリウスさんの腕が緩み公爵様とセイン様が視界に戻って来た。初めと違い目尻を下げ微笑む公爵様はとてもシリウスさんに似ている。シリウスさんがお年をとるとこんな感じになるんだと思ってぼんやり見ていたら、シリウスさんが私の両頬を手で包み顔を覗き込んで
「我が父であっても貴女の視線が向くのは嫌なのです。私だけを見ていただきたい」
「あっ兄上⁈」
「あはは!城内の噂は本当であったな。いいものを見せてもらいましたぞ。多恵様シリウスを頼みます」
「えっと…はぃ?」
曖昧な返事をすると少し不安げなシリウスさんとまだ興奮気味のセイン様。シリウスさんの手を借り立ち上がると公爵様が手を差し出した。何も考えずに手を出すと公爵様は私の手を両手で包んで
「貴女様の行く先に幸多い事を祈っております」
「ありがとうございます」
こうして応接室前で公爵様とセイン様と別れ、シリウスさんのエスコートで部屋に戻る事になった。部屋までの帰りに明日の予定を話してくれる。
明日2刻半前に出発し馬車でサザライス公爵領と王都の境まで向かい、サザライス公爵家騎士団から派遣された騎士さんと合流しここから馬での移動となる。
「王都内の道はそこまで込み合っていないので、少しでも体の負担を減らすために公爵家の馬車にお乗りいただきます」
「ご配慮ありがとうございます」
そしてサザライス公爵領から伯爵領、子爵領と進み夕刻に子爵領とデスラート領の境の街で泊まり、翌日の昼前にデスラート領の王妃様が療養する別荘へ到着予定。
「スケジュールの関係で王妃様にお会いできる時間は1刻弱しかございません」
改めて聞くとかなりタイトなスケジュールで驚く。自分で行きたいと言いながらハードスケジュールに少し後悔している私。
『意地でも弱音は吐きません!だって騎士の皆さんの方がもっと大変だもん』
そう自分に言い聞かせていたら部屋に着いた。扉の前でシリウスさんは私を抱き寄せて
「私はレックロッドに同行するために、明日のデスラート領には同行できない。私は同行したいと志願したのですが、アラン団長や陛下の許可を得れなかった。王宮の騎士は優秀で信頼できるが、正直言うと他の領地の騎士は信用できず貴女が心配でならない」
「大丈夫ですモーブルの方はいい人ばかりだから。それにレックロッドの方が多分色んな意味で大変なので、シリウスさんが一緒して下さるなら安心だし、頼りにしています」
心配だと言い中々離してくれないシリウスさんからリチャードさん助けてくれやっと部屋に戻れた。
明日の朝は早い。急いで就寝準備をし最高級の癒しのてん君抱きしめて眠りに着いた。
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