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視察団

婚約者フィアンセの手紙に大きなヒントが

『なに なやむ?』

『手紙をどちらから読むか悩んでいるの』

『いっしょ する いい』

『へ?』


てん君はそう言い目を閉じて私の膝の上で丸まった。一緒って同時に読めって事?

取りあえず両方開封して両手で持ってみた。見た感じいつも通り激甘な愛の言葉がつづられ苦笑いする。2人共レックロッド行で私が困っているのではないかと心配しているようだ。そしてグラントのある一文が目にとまる。


『王という立場も分かりますが、ダラス陛下が本当に多恵を愛しているのなら多恵を信じ見守り応援サポートするべきだ。私なら多恵が必要とする事ならばこの世界の皆が反対しても私は多恵を信じ応援する』


やきもち大魔王で心配性のグラント。彼の想いが伝わり嬉しくて思わず口元が緩む。そしてキースの手紙に目を通すと


『ダラス陛下が反対されるのは当然です。我が王も初めは反対されておられた。何故なら陛下は国を背負うお方だからです。多恵には考えがあり今レックロッドに行くべきだと判断したのでしょう。聞く所によるとダラス陛下が反対していると聞き及んでいます。貴女が困っていると聞き不要かもしれませんが手助けになればと…』



キースの手紙には陛下を納得させる為の案が書かれていた。考え付きもしなかった案にキースの手紙を何度も読み返した。


「流石キース!」


思わず声を上げると煩そうにてん君が顔を上げて私を見た。昼寝の邪魔をしたとてん君に謝り頭を撫でて再度手紙を読み進める。手紙にはいきなりレックロッドに行くのではなく、現状確認の為に数日レックロッドに視察に行けばいいと書かれていた。


『モーブル側から数名を同行させレックロッドの現状をチェックしダラス陛下に報告すればいいのです。そして多恵が滞在するのに問題無いと判断されればダラス陛下も反対は出来ないでしょう。この箱庭で多恵は女神リリスの次に高貴な身分。いくらモーブルの王と言えども多恵の意志を拒む事は出来ない。それに多恵は強行するのでは無く、ダラス陛下の許可を得たいのでしょう⁈』

「キースは私の事をよく分かっているね。もぉ!また惚れちゃうじゃない」


”女神の乙女”である私がレックロッド行を決めて強行しても誰も責めない。それにモーブルでそれなりに成果を出しているから、バスクル行を後にしても文句も出ないだろう。でも平和主義者の私は揉め事は避けたいし、出来るだけ皆さんの賛同を得てレックロッドに行きたい。だからキースの案をいただく事にした。

そしてこの後2人の手紙を読み終え、便箋から香る婚約者の香りに癒されていた。そして気が付くと窓の外は薄暗く日が落ちたようだ。


「多恵様。お食事のお時間でございます」

「あ…はい。行きます」


アイリスさんに声を掛けられ夕食を頂き、早めに湯浴みをしてオーランド殿下をお迎えする準備を始める。毎日忙しいオーランド殿下は7刻前にお越しになる。アイリスさんの話によるとモーブル貴族に会いに行かれ、ダラス陛下説得の協力をお願いしているようだ。忙しさと心労で窶れてるんじゃないかと心配でならない。殿下は騎士の様に鍛えられているが(心が)繊細なお方だから病んでないといいけど…

楽なワンピースに身を包みソファーで本を読んで殿下が来るのを待っていたら先触れが来た。身なりを整えソファー横に立ちお迎えすると、少し痩せた殿下と眉間の皺が深くなったカイルさんが入室して来た。


『…やっぱりご苦労されてるなぁ』


いつも通りに微笑んでご挨拶したらオーランド殿下に無言で抱き付かれた。アイリスさんが一歩出て何か言おうとしたが手で制し、そっと殿下の背に腕を廻しポンポンと子供をなだめるように叩く。溜息を一つ吐いた殿下は微笑んで


「貴女から面会を申し込んでいただき嬉しかった。貴女の微笑みは疲れた体に力をくれる」

「こんな不細工な笑顔をいいならいつでも」


そう言うと殿下は頬に口付けまた強く抱きしめた。殿下の後ろには少し表情を緩めたカイルさん。目が合ったので口パクで”お疲れさまです”と言うと微笑みを返してくれた。

殿下が満足するまでぬいぐるみの私。少ししてやっと腕を解いた殿下はソファーに誘導し、やっと話が出来る状態になりお茶を頂きながらお話を聞きます。

殿下はここ数日でモーブルの貴族に会いにまわり、私のレックロッド行に賛同して欲しいと協力を願っていた。レックロッドと縁がある貴族は協力を約束してくれたが、歴史の古い貴族(主に公爵家)は陛下と同じ考えで協力を得れなかったようだ。

他の国でも高位貴族の方が保守的だ。歴史が長く国を支えて来た自負があるからだろう。

反対に下位貴族は今回のモーブルの騒動で貴族派を一掃する助けをした私に好意的で協力を約束してくれたそうだ。

何度目かの溜息を吐いたオーランド殿下にキースの案を話してみる。


「私…って言うかキースが提案してくれんですが、陛下に納得してもらう為に信頼する家臣で視察団を編成し、レックロッドに視察に行くのはどうでしょう?」

「視察ですか?」

「はい。陛下はレックロッドの現状をご存知ない。視察の報告を受ければご理解いただけるんじゃないですか?」


オーランド殿下は目を見開き驚いた顔をしている。そしてさっきまでお疲れモード全開だったカイルさんは精気を取り戻し殿下の真後ろに駆け寄り殿下の肩を掴み


「キース殿は凄い!我らは陛下を説得し許可をいただく事しか考えていなかった。確かに改善を勧めている我が国を見て知っていただければ、多恵様がわが国に来ても問題無いと分かっていただける筈だ!」


カイルさんは夜とは思えない声量ボリュームでオーランド殿下に話しかける。その声でやっと起動しだしたオーランド殿下は何度も頷き少し涙目だ。

お2人の様子を見ていてお役に立てた事が凄く嬉しくて心の中でキースに感謝する。やっと瞳に光が戻った殿下は目の前来て跪き、私の手を両手で握りしめてご自分の額につけて震える声で


「貴女に感謝を…正直ダラス陛下を説得できる自信が有りませんでした。あぁ…気が動転して言葉がでません」

「感謝はキースに言って下さい。アルディアの皆さんも応援して下さっているんですよ」

「この恩はいつになるか分かりませんが必ずお返しします」


やっとお2人は穏やかな表情になり安心する。私も安心してハーブティーを一口飲み凄く気分がイイ!隣に移動した殿下はアイリスさんを呼び、紙とペンを用意するように指示した。


「?」


ぼーと殿下を見ていたら殿下は頬に口付けた。そして腰に腕をまわし引き寄せる。間近に殿下の横顔があり見ていた。殿下は青年の表情から色気のある精悍な男の顔をしている。打開策が見つかりやる気に満ちているから?

急に意識しだして恥ずかしくなってくる。視線を外すとカイルさんがこっちを見ていて、何故か親指を立ててウィンクされた。なんか意味深に笑うカイルさんに何故か苛立った。


「侍女殿。済まぬがこの手紙を陛下は届けてくれ。遅い故返事は明日で構わないと」

「畏まりました。あの…発言許可をいただきたく…」

「へ?何アイリスさん」


私とオーランド殿下から許可をもらったアイリスさんはある事を提案してくる。この提案のお陰で陛下を説得できる事になるなんて、この時は想像もしていなかった。


「アイリスさん凄い!確かに言う通りだよ」

「侍女殿。貴女の案を使わせていただこう」

「お役に立てて嬉しゅうござます」


こうして話が纏まりこの後7刻半までオーランド殿下と楽しくお喋りした。そして7刻半を過ぎて殿下は来た時とは別人のように笑顔で帰って行かれた。

恐らく明日オーランド殿下とダラス陛下の話し合いがある筈。そして私も呼ばれるだろうから早く休む事にした。

夜着に着替えベッドに入るとてん君が胸元に身を寄せて


『キース いいやつ てがみ かく』

『勿論書くよ。他に手紙をくれた人にもね』

『キースとグラント てん いく』


どうやらてん君は2人に会いたいようだ。取れそうな位尻尾を振るてん君が可愛くて腕が限界になるまで撫でた。こうして程よい疲れと問題が進展した事で気分がよくなり、目を瞑ると直ぐに眠りについた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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