進展-2
アーサーがサリナを意識し始めたのはいい事だが、知らない間にファンクラブが出来ている事を知り恥ずかしくて…
こころの旅の途中の私。もう穴を掘って頭まで埋まりたい気分だ。するといきなり体が揺れた。一気に現実に引き戻されると焦った顔の殿下の顔が間近にあり飛び上がる。
「ちっ近い!」
「大丈夫ですか?顔色が悪い。医師を呼びましょうか?」
「あ…殿下が想う会をやめてくれたら元気になります」
「デューク。医師の手配を」
殿下は想う会をやめる気がない!でもそんな集まりが明るみに出たら恥ずかしくてアルディアに戻れない!だから…
「大丈夫です!デュークさん呼ばなくていいです!でもね殿下。想う会の存在は秘密にして欲しいです」
殿下を上目遣いで見上げて目一杯可愛くお願いすると抱き付かれた。慌てて部屋の隅から兄貴が駆け寄り離すように言ってくれるが殿下の腕は更に強まり
「こんなに可愛い貴女の望みはどんな事でも叶えたい。しかし許してくれ。既にアルディア貴族には知れ渡り入会希望者が後を絶たない。しかしサリナ嬢と私は新規会員を入れる気はないのだ。この会は私とサリナ嬢の心の支えになっている。故に他の者は全て断っている」
「もうバレているの?」
思わず後ろにいる兄貴に視線を送ると無言で頷きそして
「兄である私も入れてもらえません」
「!!!」
『あ…ほとぼりが冷めるまでアルディアには行けない…』
悲しい事実を知り気が遠くなって来た。推しの気持も知らずに殿下はサリナさんと推し活を楽しんでいるようだ。そして殿下の発言からサリナさんに特別な感情を向けているように感じる。私を口実に2人の仲が進むのなら我慢するよ。すると何かに気付いたデュークさんが
「殿下。皆様からお預かりした物をお忘れですが…」
殿下の後ろから兄貴がそう言うと殿下は徐に立ち上がり、寝室の方へ行ってしまった。待っている間に兄貴と話しをする。兄貴の話ではカワハラ領に建てられる屋敷はもうすぐ完成するそうだ。どうやらイザーク様が張り切り拘って建てている様で少し怖い。
「イザーク様は多恵様の婚約者やお仕えした侍女達に多恵様の好みを聞き、多恵様好みの屋敷になっているそうです。ですので安心して何時でもアルディアにお帰り下さい」
「あっありがとうございます」
侍女の皆さんに聞いたのなら安心できるけど、グラントとキースの意見が入っている時点で少し不安。絶対自分たちの部屋を作っていそうだ。キースはまだマシだけどグラントは私に関する事は暴走する所があるから正直不安だ。きっとキースとケイティさんが止めてくれているよね…
屋敷の話をしていたら殿下が大きな箱を持って寝室から戻って来た。
『何?荷物?』
ぼんやり見ていたら殿下が目の前にそれを置いた。殿下に促され箱を開けると沢山の手紙と本が入っていた。
「これ…」
「私が多恵殿に会いに行く事になりサリナ嬢から手紙を預かったのだが、それを聞いた他の者達がサリナ嬢に手紙を預けこの量になったよ」
「こんなに沢山…」
「多恵様は人気がありますから」
嬉しくて涙が出てきた。殿下が赤子を抱くように抱きしめてくれデュークさんがハンカチを貸してくれた。アルディアでもモーブルでもとても大切にしてもらった。自惚れだけどそれなりに頑張っきたからだと思っている。だから始めはアウェーでもきっとレックロッドの為に頑張れば仲良くなれるはずだ。そう思うと心が前向きになってくる。
会いに来てくれたアーサー殿下にお礼を言い、お礼のキスをしようとしたらさっきのチークキスがいいと頬を染め強請られる。ではご要望にお応えして!
殿下は背が高く屈んでもらわないと出来ないので、屈んでもらい肩に手を置いて頬を合わせる。チークキスをして離れると満面の笑みを向けられる。そして視界の端にそわそわした兄貴が…。その姿が可愛くて兄貴の元に行き屈んでもらう。兄貴は殿下より背が高く膝をついてくれた。そしてチークキスをしたら兄貴に抱きしめられる。そして耳元で
「自信をもって下さい。貴女なら大丈夫です」
「ありがとう…」
こうして色々有り過ぎたけど殿下との面会を終えた。急ではあるが殿下は午後にアルディアに帰られる。殿下はこの後に陛下と宰相のチェイス様に話があるらしい。帰国の挨拶の時に謁見の間で顔を合わすが話す時間がなく、朝早くから面会を申し込んでくれた訳だ。
帰るのは分かっていたけどやっぱり寂しい。名残惜しくて色々話していると文官さんが部屋に来た。どうやら陛下の元に行く時間らしい。忙しい殿下に気を使わさないように寂しさを隠し退室した。
部屋に戻るが足取りが重い。私の横でアッシュさんが心配そうに見つめて来る。そして気を使ったアッシュさんが
「こんなに沢山の手紙。多恵様は人気者ですね。今日中に全て読むのは無理でしょう」
「はい。皆さんのお顔を思い出しながら読むので数日はかかりますよ」
「いい出会いをされ羨ましいです」
そうだ。手紙でアルディアの様子が分かるんだ。そう思うと少し気分が浮上する。しっかり読んで皆さんに返事を書こう。そう思うと足取りも軽くなりアッシュさんが微笑んでくれる。流石モーブルの兄貴。妹の機嫌取りはお手の物の様だ。
部屋に戻ってくるとお昼になっていて皆さん交代の時間。アッシュさんにお礼言い別れた。部屋に入るとケイスさんとアイリスさんが待っていた。今熱々のお2人に元気をおすそ分けしてもらった。
午後からはアーサー殿下の帰国のご挨拶に同席したらその後は特に予定はない。午後からはゆっくり手紙が読めそうだ。するとアイリスさんが
「オーランド殿下の滞在が延期になっておいでですが、お忙しいのかお見えになりませんね」
そう言われればここ数日会っていない。陛下を説得するためにレックロッドと繋がりが強いモーブルの貴族と会っているようだ。無理されてないといいけど…
すこし様子を見に行った方がいいかもしれない。アイリスさんに殿下が空いている時間に伺いたいと伝えて貰い、返事が来るまでアルディアからの手紙を読むことにした。
箱の一番上には何と陛下と王妃様の手紙がある。恐れ多くて汗が出て来た。
『やっぱり一番に読まないといけないよね…』
私的にはサリナさんの手紙を一番に読みたい。アーサー殿下の感じでは2人はいい関係を築けているみたい。自然にゆっくり関係を深めて欲しいけど家臣からの圧力があり妃選びが急がれているようだ。のんびりしていたら高位貴族の令嬢との縁を進められてしまう。
何か起爆剤になるような事があればいいのだけれど、私が意図的に何かするとサリナさんが怒る気がする。本当に2人には結ばれて欲しい…
そう思いつつ誰の手紙から読むか悩む。ここにはアルディアの人はいないから陛下の手紙を後回しにしても誰も責めないけど、小心者の私はイケない事をしてるように感じ心苦しい。サリナさんの手紙と陛下の手紙を持って悩んでいたら、私の膝の上で丸まるてん君が呆れた顔し前脚で私の手を叩いた。叩かれたその手はサリナさんの手紙が…
『たえ リリス つぎ えらい きにしない』
『てん君…ありがとう』
てん君に背中を押されやっぱりサリナさんの手紙から読む事にした。サリナさんは貴族令嬢だけあり、綺麗な字と丁寧な文に感動しながら読み進める。そして冒頭は殿下にお仕え出来た事へのお礼が書かれていた。
『陛下からアーサー殿下の専属の侍女になれたのは、多恵様の口添えがあった事をお聞きしました。いつも周りの者を気遣う多恵様らしいですね。お傍でお仕えし妃選びに疲弊する殿下をお支えするべく“多恵様を想う会”なるものを発足いたしました。大した集まりではなく多恵様が好きだったお茶とチョコラーテを頂きながら多恵様の想い出話しをし、日々穏やかに過ごさせていただいております。
まだ殿下の妃選びは続いており、日に日に令嬢達のアプローチは激しくなり殿下が女性嫌いにならないか心配でなりません。特にイーサン殿の妹君のアプローチが強烈で側近のデューク様はじめグラント様も懸念されておられます。
私としては多恵様のような優しく朗らかな令嬢と縁を持っていただきたい。そしてご成婚されお子がお生れになられたら、乳母になりお世話をするのが目下の私の夢でございます。そして殿下のお子が多恵様のお子と縁を結べれば…と夢は膨らみ楽しい限りでございます。
詳しくは存じませんが、ご苦労されておられると聞き及んでおります。ケイティ様やマリカがとても心配しております。リリスの命は大切かと思いますが、御身を大切になさって下さいませ。遠いアルディアからお祈りしております』
「サリナさんらしいなぁ…自分の事より私の事ばかり…」
手紙を読んでサリナさんに会いたくてなって来た。一緒にお茶して色々話をしたい。
『たえ かなしい?』
『悲しいじゃなくて、寂しいかなぁ…』
『サリナ また あえる』
涙目の私にてん君は背伸びをして頬を舐めてくれる。てん君を抱きしめて少し泣いてしまった。
泣いたら少しスッキリした。昔に泣くとストレス解消になると何かで見た気がする。
読み終わりサリナさんの手紙を便箋にしまおうとしてある一文が目に入る。
“イーサン殿の妹君が強烈”あのイーサン様の妹?イーサン様を思い出し苦笑いしていたら、アイリスさんが帰ってきた。
部屋に入るなり駆け寄り目が腫れていると心配される。手紙を読んで寂しくなったと告げると、苦笑して冷やしたタオルを用意してくれた。アイリスさんは察してくれあえて何も聞かない。その心遣いが嬉しい。タオルは冷たく気持ちいい。目を冷やしながらアイリスさんの話を聞く。
「オーランド殿下は夕刻までご予定がお有りで、7刻前にお部屋に来てくださるそうです」
「ありがとう。その時には目の腫れも治るから反対に良かったよ」
「お茶を入れ直しますわ。それから便箋とガラスペンをご用意致しましょうか?」
「うん。沢山用意してもらえる⁈」
「畏まりました」
そう言いアイリスさんは退室した。夜までゆっくり手紙を読んでいきます。次は陛下の手紙を読もうと手に取ったら、視界の端に箱が目に入りグラントとキースの手紙を見つけてしまう。
『・・・』
こうしてまた暫く誰の手紙から読むか悩む事になった。
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