進展-1
まだまだレッグロッド行は決まりそうになく…
「昨日はありがとうございました」
「いえ。かなりお疲れのご様子でしたが、ゆっくりお休みになられましたか?」
そう朝目覚めたらまたベッドだった。昨晩の記憶の最後はグレン殿下の部屋を出て直ぐにへばってしまい、アッシュさんに抱っこしてもらったところまで。
またまた寝落ちしてしまい皆さんに迷惑をかけている。起きて直ぐ絡んでくるフィラをあしらい、フィナさんとアッシュさんにお礼を言いに来ている。
初めは迷惑をかけたから謝っていたが、どうやら謝罪よりお礼の方がいい事を途中から気付き、それからは“ありがとう”を伝えるようにしている。どうやらお仕えする人はその方が嬉しい様だ。
こうしてやっと1日が始まり、先ずはエネルギーチャージから。食事をしていたら宰相補佐のエルビス様が来た。どうやら急ぎの用事みたいだ。
食事を中断してお迎えする。用向きをお聞きするとアーサー殿下が面会を希望されており、帰国のスケジュールもあり出来れば早く会いたいとの事。
「殿下のご都合が宜しければこの後伺うとお伝えください」
「ではご用意が出来次第アーサー殿下のお部屋へお願いいたします」
「え?殿下のご都合は?」
どうやら殿下は何時でもウェルカムの様で、その上出来るだけ早くという事だった。フィナさんに手伝ってもらい身支度を急ぐ。
そして急いでアーサー殿下が滞在する部屋に向かっていると途中でアーサー殿下と会った。
「面会をお受けいただいたのでお迎えにと思いまして」
「ありがとうございます」
そう言いご挨拶するとスマートにエスコートをアッシュさんと代わる殿下。騎士の皆さんもとても紳士的で優しく接してくれるが、やはり殿下は王族だけあり洗礼されエスコートも優雅だ。そして他愛もない話をしながら歩いていると直ぐにアーサー殿下部屋に着いた。
デュークさんが扉を開けてくれ殿下が手を引いてくれる。ソファーに座ると懐かしい香りのするお茶が目の前に出される。
「あ…これ!」
「嬉しいな。覚えていてくれて。貴女がアルディアで好んで飲んでいた茶葉を持って来たのだ」
そうこのお茶は柑橘系の香りと少し甘めの茶葉で砂糖を入れなくても甘くて大好きだった。思わず顔が綻ぶと殿下も嬉しそうに綺麗な所作でお茶を召し上がる。そしてお菓子も私の好きだったものばかり用意されている。
「やはりサリナ嬢は貴女の事をよく知っているなぁ…」
『ん?あれ…』
サリナさんの話をする殿下の表情は意外で思わずガン見してしまう。そして理由が知りたくて思わず部屋の隅に控える兄貴を見るとウィンクされた。およよ…
殿下の表情が気になり根掘り葉掘り聞きたいが、殿下は初めに話し出したのは金融機関に関する話だった。帰国後は最優先で着手すると話してくれた。嬉しくて無意識に口角が上がると殿下が
「やはりグラントの訪問は嬉しいですか?貴女を諦め友を応援しようと思いましたが、やはり妬いてしまうな」
「えっ?何でここでグラントが出て来るんですか?」
キョトンとした殿下は金融機関を設立となれば打ち合わせに宰相補佐が来るのは当たり前だと言う。言われればそうだ。来てくれるのは嬉しいけど、やきもち大魔王が来たらごっそりHPを持って行かれるもんなぁ…思わず苦笑いしてしまう。
何とも言えない顔をしていたら殿下が茶菓子を勧めてくれる。
「私の見たところモーブルでまだ強く反対しているのは陛下のみですね。大丈夫。貴女の想いは必ず陛下に届きますよ。私はこれ以上手助けは出来ませんが、アルディアから上手く行くように皆と祈っていますから」
「ありがとうございます。そのお気持ちが嬉しいです」
アルディアの皆の顔を思い出し少し泣きそうになる。すると殿下は隣に移動して来てご自分の頬を指で突いた。
『あ…お礼の催促だな。そんな事しなくてもするつもりでしたよ!』
そう思いながら殿下の肩に手を置いてから綺麗な顔に近づき、両頬に私の頬を交互に軽く着けた。口付けが来ると思っていた殿下は真っ赤な顔をして狼狽えている。
『あれ?欧米人はハグの時にこんな挨拶してなかったけ?』
異常なほど挙動不審になった殿下の扱いに困り兄貴に視線で助けを求める。いつもの様に溜息を吐いて殿下の背後に来て
「多恵様。そのご挨拶は元の世界のものですか?」
「はい。親しい人にするものです」
「そっそうであったか!多恵殿は人が悪い。一瞬私を受け入れてくれるのかと思ったぞ!」
思い付きでした事が変な誤解を招いてしまった。それにしても狼狽え過ぎです殿下!
でも狼狽えた理由はこの後直ぐに分かった。結果から言えば殿下はサリナさんを意識し始めている。嬉しい展開に胸がどきどきして来た。新しい恋愛小説を読み出したみたいにワクワクしている。そして私がアルディアを発った時からの事を話してくれる殿下。私は“人の幸せは蜜の味”だ。さぁ私の心を満腹にして下さい!
「貴女がモーブルに渡ってすぐに貴族令嬢が城に詰めかけ、日々顔合わせをさせられぐったりしたよ。国の為に早く妃を迎えねばならないのはよく分かっているのだが、貴女への想いがまだある私は苦痛で…」
「…」
これに関しては私も心苦しい…
「しかし陛下がそんな私の心情を理解下さり、貴女に仕えていたサリナ嬢を私に部屋付きにして下さった。彼女は乙女の侍女をするだけの事はある。とても優秀で細やかな心遣いが出来る女性だ。妃選びで疲弊する私に寄り添い愚痴に付き合ってくれる。そして心寂しい時に貴女の話をしてくれ、それが心に安らぎを与えてくれた」
「はぁ…」
『サリナさん私の話って何を殿下に話したの?変なことバラして無いよね!』
顔には出さず心の中で焦る私。グラントから聞いてはいたけど、サリナさんが殿下にお仕えしいい感じになっている様だ。サリナさんの話をする殿下の表情は穏やかで優しい顔をしている。まるで恋する少年のようだ。そんな殿下をみてほっこりしていたら
「それでだなぁ…」
「マジで!やめて下さいよ!」
殿下がとんでも無い事を言い出し焦る。何と私が好きな殿下とサリナさんが想う会(所謂ファンクラブ)を結成し、密かに推し活をしているらしい。唖然としく口を開けて固まってしまった。2人で私の事を語り合っていて、それが心の支えになっていると胸を張って話す殿下。
『そういう所がズレているんですよ殿下!しっかり者のサリナさんが止めるどころか一緒に推し活してるなんて!』
猛烈に恥ずかしくて両手で顔を隠し動悸が納まるまで小さくなる私。その横でサリナさんとの活動を誇らしげに語る殿下。
指の間から兄貴が目に入ると、兄貴は遠い目をしている。
『兄貴止めて下さいよ』
私の視線に気付くと後ろを向いてしまう兄貴。その間も殿下の推し活の報告は止むことは無く、どんどん小さくなっていく気分だ。私の感覚では最小サイズのてん君位。
「そうそう。グラントに想う会の事を話したら入会したいと言って来たのだ。しかし奴は多恵殿と思い合っている故に拒否したよ。我らは密かに想う者が集う会故に、グラントには入会資格はない」
「!!」
そう言いきった殿下。グラントの悋気全開の表情が脳裏に浮かび身震いする。そして殿下の推し活報告はまだまだ続く。
あの…すみません…そろそろこころの旅に出ていいですか⁈
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