幼いなりに
グレン殿下のお願いを聞き、寝かしつけの為に殿下の部屋へ向かい
殿下の部屋に入ると湯浴みを終えガウン姿の殿下とシリウスさんが待っていた。
すぐ寝室に行くと思いきや、テーブルに飲み物と果物が用意されているのが目に入る。
「?」
デーブルを見て固まっていたら、殿下が手を引き席に誘導してくれる。座ると目の前にホットミルクと蜂蜜が出された。
「あの…殿下?」
「少し話しがあるんだ」
話と言われて身構えてしまう。失礼だがまだ幼い殿下の話だから大した内容では無いと思うけど…
目の前に座った殿下はホットミルクに沢山蜂蜜を入れ美味しそうに飲んでいる。そしてカップを置いた殿下は
「私は幼いが今城内で起きている事は知っている。レッグロッドとアルディアから王子が来て、多恵殿がレッグロッドに行く件で父上が反対しているのも知っているよ」
「…」
まさかグレン殿下からこの話が出るなんて思って無かった。呆然と殿下の顔を見ていたら、殿下はシリウスさんを呼び
「私は幼く知識も乏しくよく分かっていないが、レッグロッドに多恵殿を任せるのは正直不安だよ。でも多恵殿は正しい事しか言わないから、レッグロッド行きはいいと思う。だから私は多恵殿の味方をするよ」
「殿下…ご立派になられましたね…」
どこまで分かっているのか不明だが、陛下とオーランド殿下がレッグロッド行きで揉めているを聞いたらしく、私を気づかってくれたのだろう。その気持ちが嬉しい。母親を通り越して孫を見る気分だ。
「だがやはり貴女1人がレッグロッドに行くのは心配だからシリウスを護衛に連れて行くといい」
「はぃ?」
殿下が言った言葉が理解できずに殿下を見つめていたら、シリウスさんが胸に手を当てて騎士の礼をして微笑んでいる。
『いやいや…他国の騎士を受け入れる訳ないじゃん。それに両陛下がOKする訳ないよ』
気持ちは嬉しいが実質無理だと殿下に説明する。やはり幼い殿下はイマイチなぜダメなのか分かっていない。殿下は単純に
【 敵地= 守りを増やす 】
と考えたようだ。ダメな理由が分かっているのに何故かシリウスさんがやる気満々なのが気になる。家臣ならきちんと説明し無理な事を教えるべきだと思うんだけど…
「殿下が心配する気持ちは嬉しいのですが実質無理です。シリウスさんも分かっているなら殿下に説明を…」
「いえ。是が非でも多恵様を招きたいレッグロッドなら承諾するでしょうし、陛下も我が国の騎士が護衛に付くなら許可されるかもしれません」
「…」
無垢な殿下の提案が陛下の説得に有効だとシリウスさんは判断したようだ。
アルディアからモーブルに来た時も知り合いが少なく不安だった。でも今はモーブルの皆さんと仲良くなり心を許せている。またレッグロッドに行くと全て一からで、人間関係やしきたりや風習を学ばなければならない。そうで無くても歓迎されていないのだ苦労するのは明らかだ。
シリウスさんが言う様に陛下が信頼する騎士や侍女が同行するとなると、頑なな陛下の態度が軟化するかもしれない…でも…
「それはダメですよ。殿下のお気持ちは嬉しい。でも将来問題になる種は残してはダメ。ちゃんと話し合い陛下に納得いただがないと意味がない」
そう言い殿下の申し出を断る。殿下は納得いかない様で食い下がり
「僕は気を許したシリウス以外が付くのは本当は嫌なのだ。しかし父上は本当に多恵殿を心配してるのが分かるし、多恵殿がレッグロッドに行きたいのも分かった。だから僕が寂しいのを我慢しシリウスを多恵殿に譲ったら上手く行くと…」
目に涙を溜めて訴える殿下。殿下はまだなぜダメなのか説明しても理解できないだろう。しかしいずれか王となるのだ。成人した時に私の判断が正しかったと理解してもらえるはず。
殿下の後ろに控えるシリウスさんは何か言いたげだが、視線を送りこの場での発言を控えてもらった。彼も言い分があるだろうが今ここで言うと殿下が混乱する。
断った事で気まずい雰囲気になり話を変えようと
「陛下がアルディアとレッグロッドの使者が帰えられたら、王妃様の元に向かわれるとお聞きしましたが…」
そう話を振ると殿下は表情を明るくし
「そうなのだ。父上が母上の処へお連れ下さる。訪問した時に成長した姿を見てもらいたくて勉強も武術も頑張っている。九九も全て覚え今は割算を学んでいるぞ」
「もう割算も学ばれているのですか?スゴイです」
そう言い今学んでいる勉強の話をする殿下。
きっと成長した殿下に会われたら王妃様は驚かれるに違いない。殿下は会う度に背も伸び身体つきも逞しくなっている。
話が盛り上がり気がつくと7刻を過ぎ、興奮しているが眠そうな目をしている殿下。まだ話したそうだが宥めて寝室に連れて行き寝付くまで傍にいる。
今日は訓練があったからあっという間に寝ついた。可愛い寝顔に癒され額にキスをし、殿下の寝室を後にした。
部屋の方に行くとシリウスさんが待ち構えていた。今日は疲れていてお相手する体力は残っていない。帰ると告げ扉に向かいアッシュさんを呼ぼうとしたら後ろから抱きつかれた。
「シリウスさん⁈」
「殿下の提案は妙案ではない事はよく分かっています。俺は貴女の傍に居れるならば、どんな事でもするし他はどうでもいい。それに殿下の言った通り俺が傍に居れば陛下は安心するのは間違いなく説得するのに材料になる」
そう言いそ私の肩に頭を預け抱きしめてくる。想ってくれるのは嬉しいがやはり現実的では無い。
『どうしたものか…』
シリウスさんは私を応援すると言ってくれたけど、やっぱり先にレッグロッドに行く事を手放しで賛成している訳じゃないんだ。シリウスさんの頭を撫でて
「レッグロッドの内情だから私の口から言えないけどレッグロッドは大丈夫。確かに歓迎されてないけど味方もいます。それにここでもそうだったけど、結果を出せば敵対する人も分かってくれるわ」
「多恵様…俺の心は葛藤している。貴女を応援したい気持ちと離れたく無い気持ちと…」
なんと言えばいいのか分からず言葉が出てこない。困ってふと視線を泳がすと時計が目に入り、既に7刻半を過ぎていた。もぅ眠いし私の限界も近い…
「失礼致します。多恵様。そろそろお戻りを」
扉の外からアッシュさんが声をかけてくれる。
『助かった…』
アッシュさんの助け舟に感謝しシリウスさんの手を軽く叩く。腕を解いたシリウスさんは頬に口付け
「また話すお時間をいただきたい」
「はい」
寂しそうに微笑んだシリウスは私の手を取って反対の手で扉を開き、外に控えるアッシュさんに私の手を差し出した。シリウスさんにお休みの挨拶をしてやっと部屋に戻る事になった。疲れ切った私の顔を覗き込んで”大丈夫”かと聞いてくるアッシュさん。
「正直疲れました」
そう言うとアッシュさんは”失礼”と言い私を抱き上げた。大丈夫だと言ったが下ろしてくれず
「無理は禁物です。こんな時は頼ってください」
「すみま…あ…いえ、ありがとうございます」
こうして部屋まで運んもらう事になり、逞しく温かいアッシュさんの腕の中で眠ってしまった。
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