新たな援軍
グレン殿下の成長を感じ心穏やかになった多恵。このままいい1日を終えたいけど…
「アッシュさん。普段からこんな感じなんですか?」
ランニングの次に木刀の素振りが終わって組み手をしているが、本当の決闘をしているかの様に鬼気迫り怖い。よく見ると何人かは怪我をしている。もはや練習レベルではない。だんだん怖くなってきて思わず隣に控えるアッシュさんの袖を掴んでしまう。そして優しい眼差しを向けたアッシュさんが
「普段から真剣に訓練していますが、今日は違いますね。恐らく多恵様にいい所を見せたいのでしょう。ご心配いりませんよ。それにそろそろ…」
そう言ったアッシュさんが視線を両団長に向けた時に
「やめ!一旦休憩を取る。怪我をした者は手当を受けて来い」
アラン様がそう言うと大半が医師のいるテントに列をつくった。見ていたら大した怪我はしていない様だが痛々しい。
するとレックス様が見学席に来て私の前に跪き
「顔色が良くない。大丈夫ですか?」
「えっと…鬼気迫る組み手に少し怖くなって」
そう言うとレックス様は私の手を取り両手で包み込み
「騎士達は貴女に勇姿を見てもらいたくて気合が入ったようです。いつもより怪我人が多い。しかし真剣な組み手で各自が己の欠点が分かり有意義な訓練になったようです。見学して下さった貴女に感謝を」
「そっそうなんですかね…。なんか皆さん鬼気迫り怖くて…怪我された方は大丈夫ですか?」
そう言いうとレックス様は”あれ位大した怪我では無い”と笑う。それでも心配でオロオロしていたら遅れてアラン様が来て
「顔色が悪いですね。多恵様に冷たい果実水の用意を。初めて訓練をご覧になり驚かれたのでしょう。大丈夫ですよ騎士はそんな軟ではない。後半は乗馬と弓の訓練になり、怪我をする事はないですから安心してご覧下さい」
そう言い微笑んでくれるアラン様とレックス様。まだドキドキしていたら頬と腕に傷を負ったグレン殿下が走って来る。その表情には幼さは無く精悍な少年の顔をしている。
その顔を見ていたら動悸は止まり心が穏やかになってきた。
「多恵殿。訓練の見学はどうだった?」
「皆さん真剣で頼もしかったです。でも鬼気迫り少し怖くて…」
そう言うとグレン殿下は私に抱き付いて背中をポンポンする。
「この後は激しい訓練はありませんから、リラックスし見学して下さい」
逞しくなった殿下に胸がぽかぽかしてきた。
最近忙しくて様子を見に行けてなかったけど、少し会わない間に成長していく殿下に安堵し、そしてレッグロッドに行っても心配ないと感じた。
「多恵様。殿下をご覧になられましたか⁈」
少し遅れてシリウスさんが救護テントから走ってきた。あら?怪我したの?よく見ると手首に包帯を巻いている。慌てて立ち上がりシリウスさんの元に駆け寄り手を取り
「手を怪我したのですか?」
「あぁ…殿下の不意打ちの打撃に対応が遅れ少し打撲しまして」
「多恵殿。僕は今日初めてシリウスから1本取ったのだ」
「まぁ!」
そう言い私の横に来て少し誇らしげなグレン殿下。その自信に満ちた表情を見て、授業参観に来て良かったと心から思っていた。満足していたらシリウスさんが私の腰に腕を回し引き寄せた。そして
「グレン殿下は逞しくなられモーブルは心配ございません。貴女が尽力されたお陰です。次は我々の番です。だから貴女が望み正しいと思われる事をされるといい」
「へ?」
目の前のシリウスさんは優しく微笑む。まさかシリウスさんがレッグロッド行きを賛成してくれるなんて…
びっくりして見つめ合うと、グレン殿下がシリウスさんの腕を引っ張り、私を解放して殿下が前に立ち私を守って?くれた。
逞しくなったら小さな騎士に守られ涙腺が緩んできたら、シリウスさんが真剣な表情で
「俺はレッグロッドに信頼を寄せている訳ではなく、寧ろ嫌悪と軽蔑しか無い。しかし俺は貴女信じている。俺は大した助けは出来ないが、レッグロッド行きを支持し陛下を説得をしよう」
「シリウスさん…」
てっきり陛下と同じ反応されると思っていたのに、思わぬ援軍に更に涙腺が緩む。
そして気がつくと自分からシリウスさんに抱き付いていた。
抱き着き見上げたシリウスさんの眼差しは優しい。一見冷たく感じるシリウスさんのブルーグレーの瞳が温かく見つめていたら、その瞳が近づいてきて…
「多恵様…」
「うわぁ!」
凄い力で背後からされ引っ張られ、見上げるとそこにはアッシュさんがいて
「シリウス殿。それ以上は…」
シリウスさんの言葉に感動していて、キスされそうになっているのに気づかず、アッシュさんが制止してくれた。
不服そうなシリウスさんに苦言を呈するグレン殿下。私はキスされそうになった事より、シリウスさんの言葉が嬉しくて怒る気にならなかった。
グレン殿下の怒りは治らない。しかし次の訓練の始まりの時間になり、アラン様が呼びに来た。まだ小言をシリウスさんにぶつけながら殿下は訓練場に戻って行った。
私はアッシュさんの手を借りテーブルに戻る。するとアッシュさんが
「私もシリウス殿と同意見です。レッグロッドに信頼をおけない。だから多恵様を送り出すのを正直なところ躊躇する。しかし敬愛し信頼する貴女が必要と考えるなら、それに意を唱えない」
「アッシュさん…」
「恐らく他の者も私やシリウス殿と同じ思いのはず。しかし王である陛下は責任があり、簡単には容認できないのでしょう。ですが時間をかけて話し合えばご理解いただけますよ。陛下はどんな者にも耳を傾けられるお方ですから」
どうやらオーランド殿下が来た時点で、レッグロッド行きの話がされているのを、家臣の皆さんは察しているようだ。
反対意見も多く家臣の中でも意見は様々だが、大半は賛成しているとアッシュさんが教えてくれた。その言葉が嬉しくてとうとう私の涙腺は崩壊し涙が溢れ出た。するとアッシュさんはハンカチで涙を拭ってくれ微笑みながら
「大丈夫です。微力ですが我々は貴女の力になりますよ」
嬉しさMAXの私はアッシュさんに手招きし、屈んだアッシュさんの頬に口付けた。
感謝の気持ちからでそこに男女の色恋はない。アッシュさんはすこし頬を染めて
「光栄です」
と胸に手を当てて微笑んだ。ここでの頑張りを認めてもらえている事が自信にとなり、レッグロッドでも頑張れる気がした。
こうして合同訓練は日が暮れる頃に終わった。終了後にグレン殿下が駆け寄ってきて、目の前でモジモジしながら
「多恵殿。また今晩眠る時に傍にいてくれないか?」
「あっはい。あまり長くは無理ですよ」
「ありがとう。では後でな!」
そう言い元気に走って行った。勇ましくなった殿下だが、やはりまだまだ可愛らしい。また母性が溢れて来る。
思いつきで見に来た訓練だが、得るものが多く有意義な時間となった。
いい気分で部屋に戻っていると、会議を終えたオーランド殿下と廊下で出会う。殿下は相変わらず疲れた顔をしている。でも今日の会議は例の件では無いはずだが…
私に気付くと表情を明るくし駆け寄ってくる殿下。おばちゃん気質の私は心の中で”廊下を走らない!”と注意せずにいれない。
そんな事を考えていたらいきなりオーランドに抱きつかれた。
すぐにアッシュさんと遅れて来たカイルさんが殿下に離す様に言うが、殿下の腕は強く離す気がない様だ。少し震える殿下の腕を感じ、アッシュさんに視線を送り苦労が多い殿下の為に暫くぬいぐるみになる事した。
会議の議題は金融機関立上げだが、恐らくあの話もされているはず。頑なな陛下に搾られたなのだろう。宥める為に殿下の背に腕を回してぽんぽんし落ち着かせると、腕を緩めた殿下は私を見て
「アーサー殿下…いやアルディアが貴女が我が国に渡る事に賛同してくれたのだ」
そういい泣きそうな顔をしている殿下。モーブルに来てから辛い事ばかりだったからね。久しぶりの殿下の笑顔に私まで嬉しくなる。こんなに望まれているんだもの、絶対先にレッグロッドに行こうと強く思う。
この後はオーランド殿下の申し出で、部屋までエスコートしてもらい部屋に戻る事になった。
少しづつだけどレッグロッド行きに近付いている。私も色々準備を始めないといけない。
王妃様の事、バスグルに訪問が遅れる事を伝えて…沢山やる事がある。これから忙しくなるぞ!また痩せたと周りから言われない様にしっかり食べないとね!
そう思ったけどやっぱり夕食はあまり食べれずフィナさんに心配かけてしまう。
『おかしいなぁ…元の多恵ボディなら、この1.5倍は食べるんだけど』
やはり小さく華奢なこの体は胃も小さいのだと痛感し夕食を残してしまった。
この後早めに湯浴みをしグレン殿下の寝かしつけの為に殿下の部屋に向かう。
気分のいい私はこの時はまさかグレン殿下にあんな事を言われるなて思っても無かったのだ…
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