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授業参観

ダラスに口説かれていたら誰かが突入してきて!

「陛下…お仕事は…」

「今はいい…」

「食事も話も終わったのでそろそろ…」

「今この手を離すと他の男の所に行ってしまうだろう⁈嫌だ…」


こんなやり取りを結構前からしていて、そろそろ私の限界が近い…もうキレていい?

目の前の峰麗しいお顔を見ながら深呼吸し口を開いたら


”バン!”


けたたましい音と共にチェイス様が入って来た。そして第一声が


「ダラス!いい加減に公務に戻れ!文官達が悲壮な顔をしている。お前は多恵様をいつまで軟禁するつもりだ!」

『チェイス様!陛下の事を呼び捨てして”お前”呼ばわりしたよ』


凄い剣幕のチェイス様に言い訳している陛下は王の威厳が全くない。そして怒られた陛下は最後に私を抱きしめ頬にキスをして、文官さん達に何処かに連れて行かれた。仁王立ちし怖い顔のチェイス様の矛先はケイスさんに向く。


「ケイス殿。相手が陛下であれ乙女様の身を守るのが騎士の役目だ。こんな場合は遠慮なく介入してくれていい。多恵様に付いている時は多恵様を最優先させなさい!」

「申し訳ございません」

「チェイス様!私がもっと早く陛下を止めないといけなかったの。皆さんを責めないで」


そう言いケイスさんと文官さんを庇うと…


「そうです!多恵様が毅然とした態度をお取りくださらないと!貴女を慕う男どもは嫉妬深いくしつこい!貴方が舵取り(コントロール)をするべきです!」

「あぁ…申し訳ございません」


冷静で感情の起伏があまりないと思っていたチェイス様の激ギレにビビり、長い説教を受ける事になった。物静かな人がキレると怖く反論もせず、激ギレするチェイス様の小言を聞いていたら遠くで4刻の鐘の音が聞こえて来た。

朝食を食べに来たのにもうお昼になっている。今日はここ数日で一番疲れてたかも…

鐘の音を聞きながら誰かここから救い出してくれないかと、遠い目をしていたらびくびくしながら文官さんが来てチェイス様に耳打ちをした。大きい溜息を吐き深呼吸をしたチェイス様が振り返るといつもの冷静な表情に戻り


「多恵様は一旦お部屋にお戻りを…」

「はぁ…い」


こうしてやっと鬼おこのチェイス様から解放され部屋に戻る事になった。部屋に戻る道すがらケイスさんが謝ってくれ、君は悪くないからと反対に謝る。そしてケイスさんから午後から3国による金融機関立ち上げの会議が行われると教えてもらった。どうやらチェイス様は会議の前に陛下と内容の確認をする予定になっていたそうだ。それを色ボケした陛下がブっちし、チェイス様が激ギレしたのだ。


『それは陛下が悪いから怒られた当然だよ』


予定を知らなかった私はある意味被害者だ。少し拗ねながら廊下を歩いているとグレン殿下が訓練着を着て木刀を持ち前から歩いて来た。私に気付くと駆けて来る。


「多恵殿。今日も美しいね」

「殿下も元気いっぱいですね」


この箱庭は子供でもお世辞を言うのだ。女性を褒めるのは小さい頃から習慣となり、大人になると息をする様に甘い言葉を発する。だからその言葉を間に受けてはいけないのだ。

殿下と立ち話をしていたら誰かが走ってくる。よく見たらシリウスさんだ。目が合うと破顔し目の前に来て手を取り激甘なご挨拶を頂く。


「貴女に会えて今日は良い日だ。オーランド殿下とアーサー殿下の訪問でお忙しくお相手いただけず年甲斐も無く拗ねていたのです」

「はぁ…」


ここにも拗ねている人がいた。シリウスさんも訓練着を着ていて、どうやら今から剣術の訓練の様だ。私は殿下達が会議の間はやる事がない。グレン殿下の剣の腕が上がったと聞いていたので見てみたくなった。王妃様が居ない今は母親気分の私。


「もしお邪魔で無ければ稽古を見学していいでしょうか?」

「それは嬉しいぞ!軽く昼食を食べたら訓練場に向かう予定だ。多恵殿は昼食は?」

「えっと…まだです」

「なら昼食を済まされるといい」


こうして一旦別れて後で訓練場に見学に行く事になった。グレン殿下もだけどシリウスさんが嬉しそうで私もテンションが上がって来る。気分は小学校の授業参観だ。こうして急いで部屋に戻ると交代時間でフィナさんとアッシュさんが待っていた。

グレン殿下の訓練の見学は既に皆に伝わっていて、フィナさんが昼食を用意してくれていた。軽く食べてシンプルなロングワンピースに着替え髪をアップにしてもらう。

アッシュさんのエスコートで訓練場へ向かう。その道すがらアッシュさんが午前中のハプニングを聞いていて同情してくれる。


「チェイス殿は普段は温厚そうに見えますが、心根は熱い方で情熱的なんですよ」

「でもね。陛下の事を呼び捨てにして更に”お前”って。不敬にならないかヒヤヒヤしましたよ」


するとチェイス様が陛下とチェイス様の関係を教えてくれた。どうやら2人は幼馴染でグリード殿下とシリウスさんやアーサー殿下とグラントの様な関係の様だ。だから遠慮がなかったんだ。きっと信頼し合いいい関係なのだろう。


『いいなぁ…男の友情か…』


そんな事を考えていたらあっという間に訓練場についた。今日は聖騎士と騎士団の合同訓練の様でイケメンが揃いパラダイスで眩しい!


「?」


訓練場の端の木陰にテーブルと椅子が用意されていて侍女さんが立っている。アッシュさんは両団長の元へ案内してくれご挨拶する。


「無骨な男たちの訓練など面白くないのでは?」

「いえ、殿下の成長をこの目で見たくてご無理を言いました。許可下さりありがとうございます」

「多恵様のご見学を聞き騎士達の士気が高まり今日は良い訓練が出来そうです」


レックス様もアラン様も好意的で安心する。よく見ると当番で無いリチャードさんも隊列にいた。目が合ったので小さく手を振るといつもの様に優しい微笑みをくれる。すると視界に知っている顔が割り込んできた。よく見るとジョエルさんだ。ウィンクして手を振ってくる。


『相変わらず軽いなぁ…』


苦笑いしていると知っている顔がどんどん視界に割り込んで来て収拾集付かなくなって来た。


「乙女様に御覧いただくのに緊張が足りんぞ!」


レックス様の一喝で身を正す騎士さん達。思わず私も背筋が伸びた。そんな私にシリウスさんが熱い眼差しを送りつづけている。また拗ねられると困るのでシリウスさんと隣の殿下にも手を振ったら微笑みをいただく。

そしてアラン様の掛け声で訓練が始まる。見学は邪魔にならない様に端に移動しようとしたら、アッシュさんが先ほどの木陰に誘導してくる。

先ほど見たテーブルは見学する私の為に用意してくれたものだった。席に着くと侍女さんがお茶と茶菓子を用意してくれ、私如きに申し訳なく思わず小さくなる。


準備運動が始まり隊列は3列になってランニングを始めた。隊列が私の前を駆け抜ける時に、沢山の視線を集め恥ずかしく顔が熱くなるのを感じる。気恥ずかしくてアッシュさんに前に立ってもらう様にお願いすると


「護衛騎士でない者達は中々乙女様に会えず、こうして多恵様の目に留まる事を喜んでいるのです。不快で無ければ温かい目で見てやって下さい」

「はぁぃ…」


目の前を通る騎士さん達は鍛えているだけあり何周も走っているのに息が上がっていない。また幼い殿下も懸命にランニングについて行っている。私の事も忘れ懸命に走る殿下を見ていたら涙が出てきた。もう気持ちは母親で子の成長に涙腺が緩みっぱなしだ。

素人だから殿下がどの位上達しているかは分からない。でも幼児から少年に成長しているのは分かる。

相手するシリウスさんも真剣で私の存在を忘れている様だ。

騎士であるシリウスさんは動きに無駄がなくカッコイイ。

シリウスさんだけでは無い。皆さん素敵だ…


『これを”福眼”って言うんだろうなぁ…』


目が幸せで午前中の疲れも綺麗さっぱり無くなりいい日で終われそうだ。

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