カイルの怒り
陛下の怒りっぷりに殿下が心配で急ぐが…
「リチャードさん。このままオーランド殿下の元へ向かいます」
「いえ。少し遅れると連絡しておりますので一旦部屋に戻りお召替えを」
「え〜面倒臭い」
陛下の執務室から次の予定のオーランド殿下との食事に向かう。もう6刻を過ぎているからこのまま向かうと思ったら、何故かリチャードさんは一旦部屋に戻ろうとしている。
面倒だし遅くなるから渋ったのに聞き入れてもらえない。諦めリチャードさんに手を引かれ薄暗くなった廊下を進む。
やっと部屋に辿り着くと部屋にはアイリスさんが待ち構えていて、直ぐに着替えさせられる。
『よかった…楽なワンピースだ』
先程の陛下の色のドレスではなくゆったりした菫色のロングワンピースだ。ウェストを幅広のリボンで結ぶから食事しても調整できて苦しくない。
「私も同伴してよろしいでしょうか?」
「アイリスさん?えっいいけど…喧嘩しないでね」
「私は元々温厚なのですよ」
「ア…エ…ソウナンダ…」
自分的にはそうなんだ。どう反応していいか分からず曖昧に笑い流す。
会議や面会は護衛で騎士さんが付いてくれるが、令嬢の様に普段から侍女は付き添わない。悩んだけど断ってもついて来そうな勢いなので拒めず、辛辣な発言をしない事を条件に同行を認めた。そしてやっとオーランド殿下の元へ向かう。
『今日はよく歩くなぁ…万歩計があったら5000歩はいっているなぁ…』
そんな事を考えながら歩いていたら部屋に着いた。
「急な願いをお受けいただきありがとうございます」
「いえ。殿下は大丈夫…じゃ無いですね」
オーランド殿下の顔色は明らかに悪い。これはかなり陛下に絞られたなぁ…
『陛下は怒っていたもんなあ』
溜息を吐き殿下に促されて着席し直ぐに食事が運ばれいただく。向かいに座る殿下はじっと見つめるだけで全く食事に手をつけない。その様子を見ていておばちゃん気質?母性?が芽を出し放って置けなくて、立ち上がり殿下の隣の席に座りフォークを取り上げて
「はい!あーんして!」
「たっ多恵様?」
「ちゃんと食べないと体が持ちません」
「あっでも」
「はい!」
強引に殿下の口にキッシュを突っ込んだ。目が点な殿下はフリーズしている。次にサラダをフォークに刺し二口目を準備して、視線で食べる様に促すと困惑した表情をして咀嚼する殿下。何度か食べさせある程度食べれたら、フォークを殿下に返し食べる様に言い自分の席に戻った。
「この後しっかり話を聞きますから、沢山話せる様にしっかり食べて下さい」
「貴女に気を遣わせ…」
「このエビゴンは美味しいですよ。殿下も召し上がって下さい」
こうして私も食事を再開し体力をつけるためにしっかり食事をとる。やっと食事を終え食後のお茶を飲みながら一息吐く。そして
「はぃ!お話を聞きますよ」
「…」
やっと聞ける状態になったのに黙り込む殿下。慌てず殿下のペースで話せる様に気長かに待っていたら、アイリスさん部屋の隅から歩いて来て発言許可を求めて来た。
とても嫌な気がして来た…大丈夫?視線で”優しくね”と合図を送り許可を出す。今殿下にキツイ言葉は追い込んじゃうからね!
「多恵様は大変お疲れの所、オーランド殿下を思いこうやって伺っているのです。そこをご承知おき下さいませ」
「アイリス…ゔ…んギリセーフだね」
アイリスさんにしては柔らかい物腰だけど言葉はまぁまぁキツイ。唖然とする殿下にご自分のペースで構わないとフォローする。すると
「申し上げない。貴女にバスグルより先にレッグロッドに来て欲しいと陛下に話しましたが猛反対されまして…」
「はい。私も陛下から許可できないと言われました」
「…ダラス陛下が言われる事も理解できる。だが貴女に来てもらわないと我が国は!」
切羽詰まった表情で訴える殿下。分かっているし私は先にレッグロッドに行くと決めている。だから…
「明日、アルディアからアーサー殿下かお見えになるそうです。恐らくこの件についてアルディアの見解を伝えに来るのでしょう」
「はい。さっき俺の耳にも…」
私の予想では多分モーブルと同じ意見だろう。めちゃくちゃ気が重いけど…でも…
「殿下。私はレッグロッドに必要ですか?」
「勿論です!貴女の力添えが必要です」
「私もそう思います。だから一緒に問題に立ち向かうんでしょ⁉︎ならなんでも話し相談して下さい。そこを遠慮されたら信頼関係を築けないわ」
真っ直ぐ私を見据え少し考えた殿下は
「申し訳ございません。多恵様の言われる通りです。俺は変なプライドで貴女に頼るのを躊躇していたようだ。それは貴女を信頼してないと思われても仕方ない。俺は浅はかでした」
「そうですよー。頼りなさそうで私案外出来る子なんですからねー」
張り詰めた雰囲気を変えるために戯けてみたら
「その通りでございます。多恵様は行動力と素晴らしい知識がおありになり非の打ち所など無い完璧な…」
「ちょっ!アイリスさん言い過ぎだから!やめて恥ずかしい」
アイリスさんが頬を染め大太鼓持ちになってしまった。そうだ箱庭には”ボケ”や”自虐ネタ”なんて概念が無かったのだ。自分で振った”ボケ”?”自虐ネタ”?で大火傷をする羽目になってしまった。
やっと穏やかな表情をした殿下は私の横に来て手を差し伸べて跪き
「俺は貴女を信じて嘘偽りなく全てを話します。だからレッグロッドに来て欲しい」
「はい。あっでも直ぐには無理ですよ。いくらモーブルが整ったとはいえ、まだやる事がもう少しあるので、レッグロッドに向かうのは少し待って下さい」
そう!王妃様の件があったのだ。レッグロッドに行く前に王妃様に会いに行って話し合い、そして陛下と王妃様の仲も持たないとね。
「しかしアルディア側からも反対されたら…」
「反対されても私が必要と思ったから文句を言わせません。押しと通します」
「多恵様!」
恐らくダラス陛下を説得仕切れないのは、朝に聞いた前乙女との密約があり、それを言えないからだろう。
『”密約”なんて国家機密だ。でもきっとこのままだと陛下を説得は無理だろう』
すると珍しく殿下の後ろで黙っていたカイルさんが発言許可を申しでて、殿下は少し悩み許可をした。そして
「オーランド。前乙女の”密約”の存在を陛下に明けせば理解してもらえる。その存在を知らないモーブルとアルディアは我らレッグロッドを無能だと思っている。そして信頼できない我らに多恵様を預けれないと思っているんだ」
「それは…」
“密約”については私もリリスやフィラからも聞いた事なく、本当にレッグロッド王とベスパス公爵しか知らなかったのだろう。この事情を知らない他国からしたら、自国の貴族を纏めれ無い無能の君主だと認識されても仕方ない。でも”密約”は…
「カイルさん。私は反対です」
「何故です!我らの王は無能と思われているのですよ!」
「今まで明かして来なかったのにはそれなりに理由があるはず。それに明かすかを決めるのはレッグロッドの王です。オーランド殿下が決めれる事では無い」
「多恵様…」
図星の様で私の発言に安堵の表情を浮かべる殿下。カイルさんは自国を蔑まれているのが許せない様だ。殿下はカイルさんを説き伏せているがカイルさんの怒りは治らない。
部屋の端でどんどん表情が険しくなるアイリスさんにも気を配りながらカイルさんを説得。
頑ななカイルさんは中々納得してくれない。だんだん苛ついてきて思わず
「モーブルとアルディアがなんと言おうと私はレッグロッドに行きます。何故なら私が必要と判断したから」
「しかし反対しているのでしょう!」
カイルさんと言い合いになり間にいるオーランド殿下は青い顔をしている。しかし私は頑固者で決めた事を曲げません!
「自分で言うのは烏滸がましいけど、私はリリスの代理で謂わばリリスと同じ地位になるわ。だから両陛下より偉いんです。だから両陛下には文句は言わせません。正直言うとねアルディアとモーブルにはお世話になったから仲違いはしたく無いけど、この件に関しては私の意見が正しい。だから大丈夫!」
「「「…」」」
「あれ?」
鼻息荒くそう言い切ると3人は黙り込んでしまった。でも私は間違っていないもん!仁王立ちをして胸を張る。すると殿下、カイルさんとアイリスさんがいきなり跪き頭を下げてしまった。私何かした?
「多恵様に尊敬と感謝を…」
「俺は多恵様に絶対的な信頼を…」
「多恵様。貴女は素晴らしい。是非レッグロッドには私を側女としてお連れ下さいませ」
3人の眼差しは熱く反対に冷静になって来た。そしてやっと皆さんが落ち着き話せる状況になり安心する。そして気分を変える為にダイニングからソファーに移動し話し合いの再開。
とりあえず明日来るアルディア側の意見を聞く事と、もしアルディアも反対なら説得をする。どうしても賛同を得れない場合は乙女の権限を使いレッグロッド行きを決める事にした。
「正直そうならなければいいけど、陛下が最後まで首を縦に振らなければ私に任せて下さい。その代わり…」
「なんでしょう?」
「レッグロッドの問題が解決したら、両陛下にあれの存在を話して下さい」
「何故ですか?」
「両陛下は聡明な方です。きちんと事情を知りたいはずだし、誤認のままを良しとされないでしょう。他から耳に入るより正確な説明をしておいた方が、その後の付き合いが良好になるでしょうから」
【誤解】と言う言葉に反応するカイルさん。忠誠を誓う王の誤解が解けると知るとやっと穏やかな表情になった。
やっと話し終えたら7刻を過ぎていた。すると部屋の外からリチャードさんが入室許可を求め許可すると入室し
「オーランド殿下。失礼ではごさいますが、明日多恵様はアルディアのアーサー殿下のお迎えがおありです。そろそろお休みをさせていただく…」
「あぁ…分かったよ。しかしほんの少し時をくれ」
殿下そう言うと何故か皆んな一斉に退室して行った。そして殿下と2人になり…
「ぅっわあ!」
勢いよく殿下に抱きつかれ思わず声が出てしまった。そして殿下から口付けの雨を降らされ、恥ずかしくて体が熱くなり、更に耳元で愛を囁かれて腰が抜けそうになる。
「俺の女神…レッグロッドでは俺が全てのものから貴女を守る。早く来てくれ…」
「えっと…頑張ります?」
そして終わらない抱擁にカイルさんが突入してくれやっと殿下の腕から解放された。退室するときにオーランド殿下のお願いされ殿下の頬に口付ける。はにかみながら微笑む殿下は少年の様で可愛らしい。伴侶候補の中で何故かオーランド殿下には偶におばちゃん気質が出てきてしまう。
『少年のようで可愛いいから?』
そう考えるとオーランド殿下もないかも…
そんな事を考えながら人が少なくなった廊下を重い足取りで部屋に戻る。
明日はアーサー殿下かぁ…何を伝えにくるんだろう⁈それよりサリナさんとの仲が気になって仕方ない。少しでも進展しているといいけど…
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