カイルの苦悩
久しぶりのオーランド殿下はすっかり大人の男性になりドキドキしてきて…
朝、目が覚めてある事に気付く
『久しぶりに背中が温かい…』
そして耳元に吐息を感じる。確認しなくても分かる。
「おはよう。久しぶりだね」
「あぁ…奴が帰ったからな」
「でもオーランド殿下が来てるよ」
「あいつはいいんだ」
どうやら同じ婚約者には遠慮するが、候補者に気を使わない様だ。
特に何を話すわけでなく暫くフィラの抱き枕と化す私。少しするとモリーナさんが起きたか遠慮気味に聞いてくる。どうやら物音からフィラが来ているのを察しているようだ。
「明日も来る?」
「勿論だ」
フィラはご機嫌で口付け帰って行った。返事するとモリーナさんが入室しカーテンを開けてくれる。いつも通り身支度をし部屋に行くと朝ごはんの用意ができていた。
今朝はお腹ぺこぺこで直ぐに食べ始める。すると
「レッグロッドのカイル様がご面会を申し込まれております。それから陛下が時間はいつでもいいので、執務室に来て欲しいと」
「えっと…」
普通なら位の高い陛下を優先すべきだが、何故かカイルさんか気になる。
こんな時の予感は案外当たるから
「先にカイルさんに会います。午前中ならお受けすると伝え調整してください」
「畏まりました。陛下の方は…」
「お昼から伺うと」
こうしてモリーナさんが双方に連絡してくれ、カイルさんが来るまでチェイス様が作った金融機関(銀行)に関する資料を読んで過ごす。そして5時前にカイルさんの先触れが来てお迎えの準備をする。
「面会をお受けいただきありがとうございます」
「いえ…えっと…なんのお話しでしょう?」
カイルさんは私の手を取りソファーに座らせ、向かい座り初めは他愛もない話をする。その様子はいつも通り気さくなカイルさんだ。そしてカイルさんはお茶を入れ終わったモリーナさんに退室を指示し、モリーナさんは視線で確認してくる。頷いて返事をしモリーナさんは退室して行った。
「時間をいただきありがとうございます」
「いえ…あのお話は?」
一口お茶を飲んだカイルさんのいつもの軽さはなく真剣な口調で話し出す。
「あ…それはまずいですね」
「はい」
「そんな状況で私が行ったらイジメられるの必至じゃないですか」
「遺憾ですが恐らくそうなると思います。陛下も殿下も改善するため尽力されていますが、長年培われた認識は簡単には変わらず」
カイルさんはレッグロッドの現状を教えに来てくれたのだ。オーランド殿下は私を心配させない為に現状を話さないだろうと…
「(レッグロッドでの)私の認識は?」
「それ聞いちゃいます?」
「知っとかないと対処出来ないでしょ」
「俺、多恵様のそういう所を好きですよ」
「はいはいありがとう。で?」
そう言うと少し考えているカイルさん。多分私を傷付けないように言葉を選んでいるんだろうなぁ…
「聞いて傷付いたら後で俺が慰めますから」
「そんなのいいから早く」
「じゃ!遠慮なく。大した容姿でも無いのに、各国の王族や高位貴族の令息を乙女の立場を利用し婚約者にする身の程知らずだと」
「あぁ…大した容姿で無いのは事実だからいいけど、婚約者はある意味私も被害者なんですよ。私は逆ハーレムを望んだ訳では無いし」
するとカイルさんは私の手を握り真面目な顔をして
「俺は飾りが気の無く自然な愛らしさがある多恵様の方が何倍も魅力的ですよ」
「はぁぃ!慰めありがとう」
「いや!本気ですよ。舞踏会でエスコートするなら見た目が華やか女性がいいが、妻にするなら愛らしく優しい人がいい」
一緒懸命フォローするカイルさん。私がレッグロッド女性から嫌われているのは予想していたからいいけど、オーランド殿下の方が心配だ。
何故なら前聖女の末裔のエミリア嬢がオーランド殿下に婚約を迫っているそうだ。そしてエミリア嬢の父親であるベスパス公爵がレッグロッドの高位貴族の令息を私の相手にする為に陛下に働きかけているのだ。
「当初召喚が分かった時にオーランド殿下が伴侶候補に決まったのに、何故ここに来て候補者の変更になったの?」
「それは…」
何故か言いにくそうなカイルさん。しつこく聞き続けたら重い口を開き
「それは多恵様がアルディアでアーサー殿下を選ばなかったからです」
「はぁ?原因は私?」
「はい。多恵様が伴侶は王族貴族に拘らず平民でもいいと言われ、そしてアルディアでは貴族令息を候補に選ばれた。ベスパス公爵様がその事を理由にし殿下が多恵様の伴侶になる必要性はなく、前乙女の意思を尊重すべきだと言いエミリア嬢との縁組を迫っているのです」
ベスパス公爵家は前乙女の末裔で昔から王家に影響力を持ち王政に関与して来た。そして女児が生まれると必ず王族に嫁がせている。だから是が非でもエミリア嬢との縁を結びたいのだ。
「だから私は悪役になるのね」
「残念な事に…でそれだけでは無くて」
「へ?まだ何か起こっているんですか?」
「はい…」
続けざまにヘビーな話を聞き、少し凹んできた。私には見せないけど殿下は苦労してるんだ。また近い将来直面する問題に憂鬱になり心の旅に出ようとしたら、カイルさんが手をギュッと握り締めて
「我が国を救うには多恵様が殿下を選んでいただくしか無いんです」
「あ…」
これが乙女ゲームの主人公なら楽しいのだろうけど現実だと実に面倒くさい。これ以上攻略対象を増やして欲しく無い。元々ラノベや漫画は好きで恋愛ものも好きだし、逆ハーレムものも好んで読んだ。
『けど…今モーブルでも求婚者をどうしようか悩んでいるのに、レッグロッドでも更に増えるの?嫌すぎる』
ますます凹んで来た。すると風が吹き絶妙タイミングであの人の登場。そしてあの人はカイルさん手を払い私を抱きかかえる。
「お前俺の婚約者に触れただで済むと思うなよ」
「ちょっとフィラ!」
威嚇するフィラにカイルさんは慌てて立ち上がり横にずれて騎士の礼をし挨拶する。見上げたらフィラの表情は氷のように冷たい。
「お前らは改善するどころか多恵を冷遇し妖精の加護をまた失くしつつある。前妖精女王の意思を忠実に守っている”岩”と”水”の妖精も泣いている。もう俺もフォロー出来ないところまで来ているぞ」
「はい。国内でも影響が出ております。陛下も殿下も最優先で対応中でございます」
初耳の話に心の旅に出るのをやめフィラに事情を聞く。レッグロッドの妖精の加護は他の国に比べて極端に少なく、ライフラインは最低限保ていて、それは亡き前妖精女王の遺言であり妖精はそれに従っている。
しかし前乙女か作った地下トンネルのお陰で、なんでも輸入出来てレッグロッド国民は不便に感じておらず妖精に感謝する心が無くなっているそうだ。
「レッグロッドに残った妖精達の疲弊は進み俺もかなり妖力を使っている。それ故にキャパオーバーは早まっているのだ。レッグロッドの意識が変わらねば滅亡は近いぞ」
「陛下は危機を感じ今…」
「何年も変わらぬでは無いか!その上多恵がモーブルに移ってから更に酷くなっている」
頭を下げて悲痛な顔をするカイルさん。いつもの軽い感じは無い。それだけレッグロッドの現状は厳しいようだ。
口を挟める状況に無くフィラの腕の中で2人様子を見守るしかなかった。
暫く沈黙が続き困っていたら、部屋の外が騒がしくなって来た。そしてモリーナさんが戻って来て困った顔をして
「申し訳ございません。オーランド殿下がお約束もなくお見えになりました。今来客中だと申し上げたのですが、カイル様がお越しなのをご存じでして…私では…」
対応出来ないと泣きそうなモリーナさん。この状況でオーランド殿下が来たらとんでも無い事になりそうだ。これは断った方がいいの?困っていたら
「こちらは問題ない。呼べ。直接俺が話す」
「妖精王お待ちを。殿下にこの事(乙女との面会)は了承を得ておりません」
「オーランドを心配した上での事だろう。それくらい事が分からん男ではないだろう」
フィラとカイルさんを交互に見て困惑しているモリーナ。多分オーランド殿下も簡単に引き下がらないないだろうから…
「モリーナさん。ありがとうね。大丈夫だからお通しして、そして皆さんにお茶入れ直し、甘い茶菓子をお願いします。そして退室を」
「畏まりました」
そう言いパタパタと駆けていった。カイルさんは俯き顔色は良くない。そして
“パン!”
「カイル!」
オーランド殿下は入って来るなりカイルさんの胸ぐらを掴んだ。慌てて駆け寄ろうとしたが、さらに強くフィラに抱きつかれ動けない!
「殿下!落ち着いて!話せば分かるから」
しかし私の声は殿下に届いていない。そして殿下はカイルさん殴り床に倒れるカイルさん。駆け寄りたいのに冷たい視線を2人に送りフィラは離してくれない。
モリーナさんは部屋の隅で涙目で震えてるしもぉ!カオス!
誰か助けて!
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