表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
297/442

キース滞在4日目 

フィラにも「愛している」と言え、婚約者との距離が縮まり心満たされる多恵。そしてモーブルの問題もあと少しで

朝。気持ちよく目が覚めキースのガウンを羽織り部屋へ。部屋には誰もいなくてソファーでてん君を抱っこしてぼんやりしていた。


「多恵様。ご起床でございましたか。申し訳ございません。衣装の整理をしておりました」

「大丈夫。てん君とのんびりしてるから」


作業の手を止めアイリスさんはお茶を入れてくれ、香り高い紅茶をいただき気持ちいい朝を迎えている。今日は朝食にはキースは来ない。チェイス様と朝早くから話があり、その後は王城の文官さんと商談があるそうだ。でも今日はキースと午後から一緒にお出かけをする事が決まっている。アイリスさんが用意してくれた朝食を食べていると侍女さんが箱を持って来た。これは私が料理長にお願いした手土産である。

今日の午後からキースの再従兄弟はとこにあたる専属騎士のアッシュさんの屋敷に招待されていているのだ。その時に持って行く手土産をお願いしてあった。

とても品のある綺麗な箱に苦笑いをしているとアイリスさんが


「手土産は何にされたのですが?」

「ポテチ…でもこの箱を見たら王家御用達の焼き菓子やケーキが入っていると思うよね。中は油ギッシュなポテチなんて誰も思わないよね」


そう言い苦笑いするとアイリスさんは鼻息荒く


「何を言うのです!ポテチはどんなデザートより至高のおやつですわ。あれを頂いてがっかりする人はいる訳ありません」

「ありがとう。そう言って貰って少し安心したよ」


王城に仕える人達の中ではポテチは認知されており、おやつによく食べられているから喜んでもらえるけど、お上品な貴族紳士やご婦人に受け入れられるか不安なのだ。まだ不安に思っていたらアイリスさんが


「アッシュ殿の奥様は存じ上げておりますが、大人しく穏やかな女性ですわ。確か奥様の母方が確かアルディアご出身と聞いております。ですからご安心ください」

「あはは…気遣ってくれてありがとう」

『そういえばお城仕えの侍女さんや女官さんに派閥があるんだったね』


この問題は簡単に解決する問題では無いからなぁ…。人の意識はそう簡単には変わらないし時間がかかるなぁ…

気が付くとアイリスさんが食事の片づけを始めていた、邪魔にならないようにソファーで本を読む。少しするとグレン殿下のお付きの従僕さんが殿下のお手紙を持って来た。早速読むとまた夜の就寝時に来て欲しいと書いてあった。また寂しくなったのだろう。


『う…ん。キースが帰るまでは難しいなぁ…でも殿下の所には行ってあげたいし…』


そんな事を考えていたらチェイス様の部下の文官さんが労働基準の資料を持って来てくれた。時間があるから目を通しておく。

初めは私の意見を中心に基準作りをしていたが、今はチェイス様を中心に文官さん達が自分たちが意見を出し合い決めていっている。自主性を大切にして欲しいから口出ししていない。


『いつまでも私に頼っていては駄目よね。これからは自分たちで決めていけないとね』


資料を読んでもおかしな所は無く安心して見ていた。高位貴族と下位貴族の意見の違いも妥協点を見つけ上手く説得し纏められている。漫画などで出てくる師範や師匠気分で


『もう教える事は無い』


って言いたい気分だ。書類に没頭していたらあっという間にお昼前になっていた。

アイリスさんがアッシュさんお宅訪問の準備を始め慌しく部屋を走り回っていると、交代のフィナさんが早めに来て手伝っている。

そして2人は部屋の隅に行き何か話していて気になり聞き耳を立てると


「後はいいから自分の身支度をしてきて」

「いいわよ。時間までお勤めするから」

「今日は久しぶりにケイス殿とお休みが一緒なんでしょ!こちらはいいから」

「でも…」


『凄い!2人は恋バナをしている!会話に混ざりたい!聞きたい!』


楽しそうな2人に熱い視線を送っていたら、気付いたアイリスさんこちらに来て用向きを聞いてくる。だから


「ごめん聞こえた。アイリスさんこの後ケイスさんとデートでしょう?上がってくれていいよ。フィナさんが居てくれるし」

「そういう訳には…」


渋るアイリスさんをフィナさんと協力して上がってもらった。そしてフィナさんにも用事やデートの時は遠慮なく言って欲しいと言うと


「早くデートがあるって言いたいですわ」


と言い深いため息を吐く。フィナさんも可愛いからその気になればすぐ彼氏できると思うだけどね…

時間が迫りアイリスさんが用意してくれたデイドレスに着替え、ヘアーメイクをフィナさんにしてもらい準備OK。後はキースのお迎え待ちである。

すこしするとキースが迎えに来た。顔を見ると疲れがみて取れる。足早に来て抱きしめられ中々離してもらえない。お疲れのキースが満足するまでぬいぐるみの私。

気が済んだキースが腕を解き少し離れて私を見て表情を緩めて褒めてくれる。

イチャイチャしていたら申し訳なさそうにフィナさんが時間だと声をかけてくれた。

毎度ごめんなさい。

やっと今からアッシュさんのお屋敷に訪問します。


馬車の待機場へ移動中にあの事をキースにお願い事をする。それは今夜少しの間でいいのでグレン殿下の元に行く事だ。殿下はまだ幼く色恋は無いが一応婚約者のキースに了解を得る事にした。


『キースとの時間が少なくなっちゃうからね』

「殿下が安心しておやすみいただけるなら、少しの時間殿下にお譲りしましょう」

「ありがとう」


この後馬車の中で聞いたがキースは王妃様が実家の領地に行っている事を知っていた。皆まで言わないけど事情を察しているみたいだ。キースはとても勘がいいからね。

こうして気になる事が一つ減ると、待ってたかの様にキースの愛を沢山受ける事になる。また削られる覚悟でいたらぎゅと抱きしめられ…あれ終わり?

どうやらキースは先日意識が飛んだ事を気にしている様だ。ホッとしていたらアッシュさんの屋敷に到着した。

キースの手を借り馬車から降りると騎士服でない美丈夫のアッシュさんとその横には背が高くスレンダー美女が出迎えてくれた。キースはアッシュさんと握手をして挨拶し奥様にもご挨拶している。そして


「多恵様。ようこそ我が家へ。歓迎いたします」

「お招きいただきありがとうございます。これつまらない物ですが…」

「「?」」


“つまらないもの”と聞き頭に疑問符を付けたアッシュさんが箱を受け取ると…


「多恵様!これもしかして」

「はいポテチです」


すると奥様が両頬を手で覆い感嘆の声上げみんなびっくりしている。


「エラ!お客様の前ではしたない」

「失礼致しました。しかし旦那様のせいですわ」

「「「?」」」


どうやら城勤めのアッシュさんは聖騎士団の食堂でポテチを食べていて、その美味しさを奥様に熱く語り【ポテチ】は奥様の憧れになっていたそうだ。アッシュさんに聞いたら王城ではすっかりポテチは市民権得て城の食堂の定番おやつになっているとか。勿論陛下にも出されているんだって。恐るべしジャンクフード。このスレンダーで美形ばかりの箱庭がメタボだらけにならないといいけど…

私の横でポテチ未経験のキースは呆気にとられている。溜息をついたアッシュさんが奥様をご紹介してくれる。


「多恵様。妻のエラにございます」


するとエラさんはとても綺麗なカーテシーでご挨拶され美しくて見惚れる。慌ててご挨拶をすると私の手をぎゅっと握りしめて


「乙女様に感謝を」

「感謝?」


“初めまして”からまだ数分で私は何を成し遂げた?恐らく頭の上に無数の疑問符を付けまぬけな顔をしている私に気づいたアッシュさんが、詳しい話は昼食をとりながらと屋敷の中へ案内してくれる。

キースもアッシュさんも普通なのに奥様のエラさんには熱い視線をいただく。もしかしてエラさんってアイリスさんのお仲間?

そんな事を考えていたら急に目の前が暗くなり…


「ん!」

「私が直ぐ隣にいるのに誰が多恵の心を占領しているのですか?もっと熱い口付けをしたら、その者は多恵の心から追い出せるのかなぁ?やってみましょうか?」


また皆んなが居るのにキスされた。恥ずかしくて顔が熱くなるのが分かる。

前を歩くアッシュ様は呆れてエラさんは嬉しそうだ。これ以上の羞恥プレイは避けたくて修行僧の様に心を無にする。

そしてやっと部屋に着き着席し食事をすることに。

食事が始まってもエラさんの熱い視線は続き食べた気がしない。キースは終始アッシュさんと楽しそうに話し、偶にエラさんも加り和やかに食事会は進んだ。最後のデザートになりエラさんが人払いをされ4人になったら


「あ…やっと心から乙女様にお礼が言えるわ」

「私に?何もしていませんけど?」

「ご謙遜を!不幸な殿方を二人も救ったではありませんか!」

「??」


興奮気味に話すエラさんの話が見えなくて困惑する私にアッシュさんも同調する。困ってキースを見上げると


「エラは興奮すると主語がよく抜けるんですよ。アッシュ!エラのフォローはお前の役目だろ」

「すまない。では通訳を…」


そう言いエラさんの意図を丁寧にアッシュさんから解説いただく。エラさんは第一印象と違い快活な様でお喋りで明るい気質の様だ。


「あ…そうなるんですね。でも感謝される事では無いし、寧ろ私が2人に感謝してるんですよ」

「まぁ!ご謙遜を。愛情深くまるで女神リリスですわ!」

「あ…」


終始エラさんに圧倒され困る。エラさんの感謝とは中々妻を迎えないキースと婚約した事と、後ここが驚きなんだけどエラさんはグラントとも繋がりがあり、妻を娶らない2人に親戚からエラさんに縁組の話があったそうだ。


『まじで…』


2人と縁組があったのに何故私にありがとうになるんだろう?ソフィアさんみたいに完璧パーフェクトな2人なら喜んで縁組を受けるんじゃないの?それに相手が私で不満で敵意を向けてくるんじゃないの?

エラさんの考えが分からずグラス片手に固まる私。意味が分からず戸惑う私を後目にエラさんは昔のキースやグラントの話をしてくれるが、二人との仲の良さに嫉妬心がむくむくと心の奥から湧いてきて気分が急降下。目の前のエラさんは今まで会った箱庭女性の中でも上位に入る美しさ。それにスタイル抜群で何等身なんだろう⁈箱庭の女性に珍しくはっきりとご自分の意見を言われるし、まさに2人の理想の女性じゃないの?

そう思い自分なんかで良いのか自信が無くなってきた。それに普段は女性には距離を取り敬語で話すキースがエラさんには気取らない話し方をし冗談もいい、エラさんに気を許しているがよくわかる。


『駄目だ…自己嫌悪と嫉妬が大津波でやって来た。恐らくグラントも(エラさんは)好きなタイプだよね…』

「多恵?どうかしましたか?」

「あ…ごめんなさい。ぼっとしてました。なんの話でしたっけ?」


慌てて誤魔化していると少しほろ酔いのエラさんのお口は更に滑らかになり


「キースは気持ち悪くらい妹が大切でグラントは呆れるほど女性に興味がなく、2人は一生独身だろうと心配していたのです。お相手が見つからないなら私が嫁がないと仕方ないと思っており、嫁ぐつもりでおりましたの。2人は性格も容姿も良く夫として申し分ないですしね」

「あはは…そうなんですか」


バレないように一生懸命笑顔で話を合わす。楽しいそうに話すエラさんが輝いて見えて更に自信が無くなって来た。するとアッシュさんが席を立ち扉前に行きエラさんを呼び


「キース。すまん。後は頼む」

「あぁ…」

「「?」」


戸惑うエラさんと私。何か急用が出来たのだろと退室するアッシュさんとエラさんを見送っていたら、無言で席を立ったキースが私を抱き上げて椅子に座り、私を膝の上に乗せ抱きかかえた。


「?」


そして至る所に口付けて


「何が貴女を悲しくさせたのか教えてくれませんか?」

「へ?」

「私はいつも貴女だけ見ているから貴女の感情が分かる。今は悲しく辛い気持ちのはず。その痛みを共に分かち合いたい」

「あ…」


ブルーになっているのがキースにバレている。王城に戻るまで我慢しようと思っていたのに…何て言っていいか分からず。


「どちらかと言うと自身の問題で誰も悪く無いから。皆さんに悪いから先に帰っていいかなぁ⁈」

「では一緒に戻ります。馬車を用意させましょう」

「えっと…キースは折角親戚に会ったのだからゆっくりしてきて。でも夕食はキースと一緒に食べたいな」

「いえ、多恵と戻ります」

「いいよ」


するとキースは何も言わず立ち上がりそのまま扉の外へ、廊下の向こうからアッシュさんが走って来て、私を覗き込んでエラさんが失礼な事をしたと謝罪する。


「エラさんは関係なくて、自分の問題で…私のせいで場の雰囲気を悪くして申し訳ないです。本当にキース1人でいいよ」


そう言ったけどキースはアッシュさんに簡単に挨拶だけして、無言で馬車まで歩いて行く。


『めっちゃ気まずい。中身いい年のおばちゃんなのに取り繕う事が出来なかった…』


そう思うと坂道を転げ落ちる様に気分が落ちていく。外に出ると急遽戻る事になったのに何故か馬車と護衛の騎士が騎乗し帰り支度が出来ていて、ここにも無線あるのかと思ってしまう。キースは私を抱いたまま馬車に乗り込みシートに私を下ろし、ひざ掛けを掛けて扉を閉めて窓からアッシュさんに


「後で文を送る」


と言い御者に出発を命じた。心配そうに窓から私を見るアッシュさんに、微笑んで手を振りごめんなさいと呟いた。

こうして折角のお出かけを私のせいで気まずいものにしてしまい王城に戻る事になってしまった。

お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。


『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。


Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ