キース滞在3日目-2
キースとの城下散策は楽しく上機嫌で部屋で過ごしていたら…
キースは相変わらず忙しくて、城下から戻ると直ぐに商談相手と昼食に向かった。滞在中は商談や陛下からの命で面会が立て込んでいる。馬車から降りると抱きしめ、触れるだけの口付けをくれ、遅くなっても夜部屋に行くと告げ足早に去って行った。
私はこの後は特にやる事も無くて部屋で巣ごもり中。
「キース様は夕食も商談のお相手と召し上がると、部屋付きの侍女から連絡がございました」
「うん聞いたよ。だから今晩は一人だね」
意味なくそう言うと私の様子を窺うアイリスさん。なんだろう?
「?」
「いえ…午前中多恵様がキース様とお出かけ中にフィラ陛下がお見えになり、その…」
「へ?何か無理難題を言ったの?」
すると微妙な顔をしたアイリスさんが
「キース様が夕食を共にしないなら呼んで欲しいと…」
「フィラが一緒に夕食を食べたいって事?」
「左様でございます」
「ふぅ…ん。いいよ。断る理由ないし婚約者だしね」
一瞬驚いた顔したアイリスさんは何か言いかけて言葉をのみ、調理場に伝えに退室して行った。アイリスさんの反応に一抹の不安を感じたが、食事するだけだしキースが訪れるまでに帰って貰えばいいし問題無いよね。
『あ…数時間前の自分を殴って止めたい』
今の状況に焦り安易に返事した自分を呪い中だ。何故かと言うと今寝室のベッドの上でフィラと攻防中なのだ。
フィラはキースがお揃いのナイトガウンをプレゼントした事に嫉妬し、凄くイヤらしいスケスケの夜着をプレゼントし着る様に強要している。
「こんなエロい夜着なんて着れる訳ないじゃん!」
「キースのガウンはOKで俺のプレゼントは着てくれないのか!」
「こんなの着たら丸見えじゃん!」
「お前は何も着ても可愛いんだ!気にせず着てくれ!」
やらしい感じは無いが何故か必死に夜着を手に迫って来るフィラ。断る理由を必死に考えて
「私肌が弱いからこんなの肌に直に着たら気触れる!」
「大丈夫、妖精の森の特別な繊維から作ったから肌に優しいんだ。心配ない」
「い・や・だ!」
するとベッドの縁に座り項垂れて全身で寂しさを訴えるフィラ。一瞬情に流されそうになったが意を決して
「気持ちは嬉しいけど、まだこれを着て全てを見せる心づもりは無いの」
「キースのガウンは着たではないか」
「あのガウンは透けてないもん」
そう言うと顔を上げ私をじっと見て思案中のフィラ。その綺麗な顔を見ていたら頭の上に【!】マークが見えた気がした。
「そうか!俺のプレゼントが嫌な訳ではないのだな!」
「贈ってくれたのは嬉しいけど、このスケスケが嫌のなの!よく見てキースのガウンは透けてないでしょ!」
「恋人にはこのような物を用意するものだと思っていた。以前アーサーの妃の部屋に多恵が宿泊した時、アーサーが用意した夜着がこんな感じだっただろう」
「はぃ?」
そうだベイグリー公国のレオン皇太子が訪問した時に一時避難したアーサー殿下の妃の部屋に用意されていた夜着が確かスケスケの夜着だった。どうやらそれを参考に準備をした様だ。とんでもないモノを参考にしたものだ!
「それ間違って…いや間違いではないか…好みの問題で…」
「多恵は嫌か?」
「うん。自分の容姿に自信が無いのにこんな露わになるのは無理」
また大きな体を丸めて落ち込むフィラ。どうやら負けず嫌いのフィラはガウンより肌に近い物を贈りたかった様で夜着に辿り着いた訳だ。単純な思考に思わず”可愛い”と思ってしまった。
『アイリスさんの可愛い推しがうつったかなぁ?』
苦笑いしていると夜着を後ろに隠し真面目な顔をして
「再挑戦させて欲しい」
「うん?いいけど…」
すると私を置き去りにして部屋に向かい、アイリスさんを引っ張って衣装部屋に行き、アイリスさんと話をしている。
どうらや私の好みとどんな夜着がいいかアドバイスを受けているようだ。
俺様のフィラは人の機微に疎く、知らない事も多い。だから偶に大真面目な顔をしてやらかす。
『それが堪らなく愛おしいんだけどね…』
そんな事面と向かって言ったら、またHP削られるから言わないけど。
部屋に行きてん君とソファーでまったりしていたら、衣装部屋からアイリスさんだけ戻ってきた。
「フィラは?」
「多恵様の好みが分かり大急ぎで夜着の準備に妖精城に戻られましたわ。夕食には間に合わせると」
そう言いながら半笑いのアイリスさん。きっと【妖精王可愛い!】と脳内で叫んでいるに違い無い。だって私も可愛いと思うもん。無言で2人でニヤニヤしていたら、てん君が呆れた顔をしている。
こうして日が暮れアイリスさんが夕食の準備を始めたら前触れもなくフィラが来た。そして嬉しそうに私を抱き上げ寝室へ。
見送るアイリスさんの眼差しは、弟子を見守る師匠だ。
そしてフィラはベッドに私を下ろして、どこからともなく綺麗な箱を出して渡してきた。
キラキラした目で見ていて『早く開けて!』と語っている。笑うのを我慢しながら開けると…
「うわぁ!」
琥珀色に淡い緑色で刺繍された綺麗な夜着が入っていた。出して広げるとゆったりとしているけど、野暮ったくなく綺麗なシルエット。触れるとシルクに似ているけど、それより肌触りが良くいつまでも触れたくなる生地だ。思わず頬擦りしていたら満足気に私を見て
「着てみてくれ」
「うん。じゃー部屋で待ってて」
「大丈夫だ」
「はぁ?」
ベッドに腰掛け楽しそうに私を見ている。変な空気に寝室が包まれたら、てん君がフィラのローブの裾を噛み部屋の方へ引っ張って行ってくれた。
『流石!鉄壁の護り』
こうしてフィラがくれた夜着に袖を通すと、多幸感に思わず頬が緩む。この夜着で寝たら絶対いい夢を見れるぞ!悪夢なんて皆無だ。
待ちきれないのか扉をノックするフィラ。返事をすると入室して抱き着き荒々しいく口付けでくる。そして耳元で愛を囁かれ、やっぱりHPをごっそり削られた。
「多恵は何を着ても愛らしくて困る。俺もそろそろ我慢の限界が…」
「お仕事頑張るから待っていてね」
『フィラ しつこい たえ おなか ぐー ごはん』
てん君が諌めてくれ一旦着替えてアイリスさんを呼び、夜着を衣装部屋に直してもらう。
衣装部屋に行くときにアイリスさんがフィラに親指を立てていて、それを見たフィラは嬉しそうだ。この後フィラとの食事は最高に美味しかったのは言うまでも無い。
食後のソファーでお茶しながら他愛もない話をしていたら
「そろそろ俺は帰る。キースが来るだろう?」
「そうだね」
「奴は今日かなり疲れているから労ってやれ」
「あっうん」
私以外に興味がないフィラが他の婚約者を労わるなんて!驚いた顔をしていたら
「お前が受け入れた婚約者に何かあればお前は泣くだろう⁈それが嫌なだけだ。彼奴が心配な訳ではない」
「嬉しい。そんなフィラが大好き」
「まだ俺は”好き”止まりか?」
恐らく昼間にキース言ったらあの言葉を知っているんだ。
さっきまで巫山戯ていたのに真面目な顔をして見つめてくる。フィラに対する想いはとっくに好きを超えている。キースには勢いで言ったけど…
「ずっと前から愛してるよ」
「あぁ知っている。が改めて言われると嬉しいなぁ…」
てっきりそんな事言ったら暴走すると思ったけど、実際は優しく微笑み愛に満ちた口付けをくれた。フィラと少しずつだけど気持ちの温度が近くなってきているのかもしれない。
更に一歩気持ちが近づいた気がした。
フィラが帰った後は幸せな気分で湯浴みをし、フィラの夜着を着てその上にキースのガウンを羽織る。大好きな人に守られている様で幸せだ。
超ご機嫌で待っていたら7刻過ぎにキースが来た。立ち上がり駆け寄り自分からキースに抱き付く。結構勢いよく抱き付いたが、余裕で受け止めてくれるキース。キースに抱っこされソファーに並んで座り、昼間にあった事を話す。すると
「その妖精王が贈った夜着を見せて下さい」
「えっと…」
ガウンを脱いで見せると目尻を下げてよく似合うと褒めてくれる。てっきりやきもちを妬くと思ったのに拍子抜けだ。微妙な顔をしている私に気付いたキースが
「本心を言えば妖精王に嫉妬しています。多恵の肌に直接触れるものを贈り、あなたの愛を受けたのですから。しかし私は今愛に満ち幸せそうな多恵を見ていたら、嫉妬は治りました」
「そうなの?」
「私が全てのものから貴女を護り幸せにして差し上げたい。しかし現実は難しく私1人では無理で他の婚約者が不可欠。私は多恵が幸せに微笑んでくれればそれでいいんです。そこに私のプライドや独占欲は要らない」
キースは心から愛し私の幸せを願ってくれているんだ。そう思うとさらにキースへの想いが溢れてきて
「今の言葉でもっと頑張ろうと思えたよ!早く問題解決してキースの元へ行きたい」
「多恵!」
勢いって怖い…知らぬ間に人払いがされ、ソファーで濃厚な愛を頂き、初めて意識が飛び気がつくとベッドに寝かされ、隣にはキースのクールビューティーなお顔が近くにある。
「無理をさせました。想いを止めれなかった」
「私飛びました?」
「はぃ。いきなり意識を無くして焦りましたよ。もう大丈夫そうですね。ゆっくり休んで下さい」
「うん。ありがとう」
「いい夢を…」
口付けたキースは寝室を後にした。
眠くなりぼんやりとしながらいろんな事を考えている。モーブルの問題も後少しだし、フィラとキースとの仲も深ったし絶好調。いい感じに回っていて気分がいい。すると布団から顔を出したてん君が
『たえ きぶん いい いいこと』
『ありがとう。凄く気分がいいわ』
『また あした いいこと いっぱい はやく ねる』
『はぁ〜い』
てん君にお休みのキスをして深い眠り就いた。
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アーサーの夜着が気になる方はアルディア編の【夜着】をお読み下さいね!
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