キース滞在1日目
婚約者が来てくれて嬉しいはずが、何か起こりそうで不安が増す
「多恵。また何か抱えていますね。食後にゆっくり聞きますからね」
「あ…うん」
やはり勘のいいキースに不安なのが早速バレた。なんだろう…久しぶりに会えたのにこの落ち着いた感じは?前に来た時は興奮気味だったのに。離れてる間に他のいい人が?
よく無い感情が頭を出したら目の前が暗くなり唇に柔らかい感触が
「!」
「多恵。大丈夫ですよ。貴女の不安はすぐ解消して差し上げますから」
キースにキスされた。前を歩くソフィアさんの視線が怖い。すると背後からアッシュさんが苦笑いしキースを窘める。
そしてやっとキースが滞在する部屋に着くとキースはソフィアさんに退室を命じた。何か言いかけたソフィアさんは私をひと睨みして退室する。
そしてキースは無言で抱きしめ荒々しい口付けをしてソファーに押し倒した。
首元から鎖骨にかけ口付けられ、首元にキースの荒い息遣いを感じ鼓動が跳ね上がる。
「ちょっと!キース!」
「これ以上はしない。だから乾いた私の心と体を満たしてくれ」
そう言い今度は耳を甘噛みしだして耳に色っぽいキースの息遣いが当たり、お臍の奥がムズムズしだす。そしてその状態が暫く続いてやっと落ち着いたキースに抱きしめられ、熱くなったキースの体に包まれている。
耳元で
「すまない…多恵不足は限界を超えていたんだ。無理強いをした事を許して欲しい」
「大丈夫…ちょっとびっくりはしたけど」
「愛してるんだ…謁見の間で多恵を見た時は暴走しそうになり、手の甲を抓り必死に我慢したんだよ。多恵は人前で愛されるのを嫌がるだろう⁈シャイだからね」
ビックリしてキースの手を確認すると、大きく綺麗な手の甲が青くなっている。
『何してんの!』と呆れる反面私の事を思ってくれている事が分かり、キースが愛おしく手の甲にキスをした。キースに癒され不安が消えてソフィアさんがキースに迫っても多分大丈夫だと思えてきた。
「ありがとう。私も…その…愛してる?」
“愛してる”なんて生まれて初めて言うから恥ずかしくてキースの胸に顔を埋める。するとキースは起き上がり、両手で頬を包み上に向かせようとする。
『ダメ!今は無理』
首を振り拒否すると…優しい声音で
「多恵…その愛らしい顔を見せて…」
「ごめん!今は無理。死ぬほど恥ずかしい」
「今の言葉は…私の聞き間違いだろうか?」
また首を振り恥ずかしさから多弁になり墓穴を掘ってしまう。
「生まれて初めて言ったから、私の人生で一番恥ずかしいの!穴を掘って埋まりたい気分だよ」
「そっか…私は多恵の初めてを得たんですね…私は今死んでも後悔はない」
変なことを言うから思わず顔を上げてしまい、すかさずキースに頬をホールドされ、目の前にクールビューティーなキースのお顔が!そして澄んだ臙脂色の瞳と目が合い
「会いえない時間が私達の愛を育んだ様だ…私の全ては多恵の為にある…」
「キース…あの…恥ずかしくて限界だよ。離して」
そう言うと優しく口付け耳元で何度も愛を囁かれ、見事にHP切れになりぐったりしてキースの腕の中。
“コンコン”ノック音がし、ソフィアさんが入室許可を求めて来た。まだキースの腕の中なのに許可を出すキース。
入室するなり眉間に皺を寄せあからさまに不機嫌になるソフィアさん。
「キース様。そろそろお食事のご準備させていただきたく…」
「あぁ。ありがとう。頼みます」
直ぐに数名の侍女さんが来てテキパキと昼食の準備を始め、あっという間に用意が出来てやっとキースから解放された。
着席し食事を始めるがキースがずっと見つめていて食べ辛いし、ふと見るとキースは全く食べていない。
「キース?お腹空いていないの?」
「胸がいっぱいで…」
長時間移動で疲れているのに食べなきゃだめじゃん!そう思ったらおばちゃん根性が芽を出し、隣に移動して気がつくとキースからフォークを取り上げ、キースの口元にべコンを運んでいた。そう所謂”あーん”である。
破顔したキースは一口食べ目尻を下げ、今度は自分からあーんと口を開けた。何度かキースの口に運んだら、今度はキースがフォークを私から取り上げて、私の口にお肉を運ぶ。戸惑いながら食べるとお肉のソースが唇から垂れキースが指で拭いそのまま舐めた。
部屋の隅に待機する侍女さんから小さい悲鳴が上がり、ソフィアさんは何故かこちらに向かってくる。そして私の手を掴み引き上げられ咄嗟に立ち上がる私。突然の事でキースも唖然としソフィアさんを見ている。
そして私をソフィアさんが引っ張られていき元の席に座らせた。
「ゆくゆくは王妃となられるのです。品のない事をなさらないよう。これはご忠告でございます」
「「はぁ?」」
見上げたらソフィアさんの顔は能面の様に表情は無く冷たい。そして寒気がして前を向くとそれ以上に冷たい表情のキース。
ここは北極?南極?部屋の気温が一気に下がり、誰かが慌てて部屋を出て行った。
そして低く怒りを含んだ声で
「ソフィア嬢。貴女の発言が理解できない。説明いただけますか」
明らかに怒ってるのに話しかけられたソフィアさんは頬を染めて胸の前で手を組み合わせて
「王妃様がご離縁され後添えに乙女様にお決めになられました。故に…」
そう言いモジモジするソフィアさん。どんどん部屋の気温が下がっているのに、隣に立つソフィアさんの周りはお花畑だ。
「残念ではございますが、乙女様とキース様のご婚約も無きものとなるでしょう。ですから…以前の縁で私が…」
「多恵!」
「へ?私何も知らないよ!」
ソフィアさんはキースしか眼中になく熱い視線を送り、キースは席を立ち私の元へ来て手を握って強い口調で説明を求めている。
カオスな状態に気が遠くなってきたら入室許可も無く誰かが入って来た。扉を注視すると新たに宰相補佐になられたエルビス様だった。
そして足早に来て同伴してきた文官さんにソフィアさんを連れて行くように言い、胸に手を当てて深々と頭を下げ謝罪される。
もう何が何だか分からず口を開けてその様子を見ていたが、いつも冷静なキースが怒りを露わにしてエルビス様に猛抗議している。
「謝罪はいい!事情説明を求める!」
「この件に関しては私からはご説明できる事柄では無く、お時間を頂き宰相よりさせていただきたく存じます」
すこし頭が回ってきてキースの手をぎゅっと握り見上げて
「キース。落ち着いて。きっと何か思い違いや勘違いが重なったんだよ。ちゃんと話せば分る事だから…」
「乙女様…ご慈悲に感謝致します」
やっといつもの冷静なキースに戻り屈んで私の頬に口付けてくれた。この後エルビス様が退室され、2人共食事する気が無くなりキースが部屋まで送ってくれる事になった。
“婚約破棄”の話が出たからかキースがやたらに密着して歩くから歩き難くて仕方ない。それを背後からアッシュさんが苦笑いして見ている。
城内を歩いているとグラントの時と同様にすれ違う女性たちの視線を独り占めするキース。ここモーブルの男性も負けず劣らず美丈夫ばかりだが、やっぱり見慣れて来るのか他国から男性が来るとこんなふうになる。
『アルディアでもそうだったよね…』
どこの世界でも女性はミーハーである。
やっと部屋に着いたらグラントの時と同様にモリーナさんとフィナさんが待ち構えていた。可愛らしくて思わず笑ってしまい、さっきの嫌な気持ちが少し和らいだ気がした。そして紹介しようとしたら腰から手を離したキースが一歩前に出て2人に手を差し出し
「貴女達が多恵の世話をしてくれているのですね。私の愛しい婚約者をよろしくお願いしますね」
「「はい。誠心誠意お仕えいたします」」
見事にハモリ練習したのかと思う位だった。
そして順番に握手し頬を染める2人。
するとキースは今日の担当のフィナさんにお茶と何故か茶菓子を沢山持ってくるように指示をした。
「?」
分からずキースを見上げると微笑んで
「多恵は私の食事の世話ばかりで食べていなかっただろう?少し食べないと痩せてしまうよ」
「あ…うん。ありがとう。でもそういう事は恥ずかしいから人前で言わないで…」
“あーん”していた事をばらされて一気に汗が噴き出る。グラントの時に“あーん”を見ていたフィナさんは真っ赤な顔をして給仕している。
うちの婚約者たちは時と場所を気にせずに恥ずかしい事をさらっと言うから困ってしまう。こうしてやっと落ち着きキースと話をしていたら誰か来たようだ。
フィナさんが応対しチェイス様がキースに面会を求めている。本来はキースの部屋か応接室で受けるべきだが、婚約者の部屋である事からこちらで説明を受ける事になった。
「まずは王城の者が不適切な発言をした事を陳謝いたします。あの者はキース殿の部屋付きから外し他の者を付けますのでご安心を」
「謝罪は受けましょう。私が怒っているのはそこではありません。多恵が陛下の妃になるとはどういう事なのか、納得いく説明を求めます」
「それは…今お話出来る状態では無く、只々ソフィア嬢の誤解だとしか申し上げられません」
「それでは納得いかない!」
両者の事情は分かるだけに困ってしまう。でも今はモーブルの事情は打ち明けられる状況にない。だから…
「キース。今モーブル側は言えない事情があるんだよ。アルディアでも外に言えない事があるでしょ⁈正にそれだよ。それに私はキースとも他の婚約者とも婚約を解消する気は無いよ。だって好きだもん。そこを信じてここは治めて!」
「多恵…」
汗をかいたチェイス様が深々と私に頭を下げ(恐らく)感謝され、私にも謝罪されます。
「今、調査に向かわせましたが王妃様が滞在していた離宮の関係者に聞き取りをしております。どうやら離宮内で有りもしない噂話が一人歩きしたようです。状況が分かれば全て隠さず報告いたしますので、暫しお時間を頂きたい。また、この件に関し陛下からも謝罪の為にお時間を頂きたと申されておりました」
「陛下の謝罪は必要ないですよ。誤解の発生源が分かれば教えて下さい。それでいいです」
するとキースが抱き寄せ頬に口付け甘すぎると溜息を吐いている。
折角元気になったチェイス様はまた顔色が悪くなっている。後でチェイス様の好物のポテチを差し入れしようと決めお見送りした。まだ怒り心頭のキースだったが、国営の港町を管理しているダバス伯爵様が面会にお見えになるらしく文官さんが迎えに来た。渋々席を立ちハグと口付けをして退室して行った。
キース退室後、王妃様の侍女さんの話を聞きたくて、フィナさんを呼んでソファーに座ってお茶をしながらそれとなく聞き出す。
すると戸惑いながら話してくれる。
「噂話は気にしないから知っている事を教えて」
「ですが…」
こうして半ば強制?で話を聞くと離宮の王妃様の侍女さん達の話は酷いもので、お仕えしている王妃様を蔑んでいるともとれる内容で怒りを覚える。
内容はこうだ。王妃様は乙女に心酔する陛下に愛想を尽かし、世継ぎを産み王妃の義務を果たしたので離縁を申し込んだ。そして乙女に王妃の座を譲り実家の領地で第2の人生(所謂再婚)を歩む事にした。そして乙女が陛下と婚姻する事により、アルディアの候補1人を解消すると推測し、解消するなら次期宰相のグラントより身分が劣るキースだろと勝手に予想し面白おかしく話していたそうだ。
汗を大量にかき困った顔をして話すフィナさんを見ながら開いた口が塞がらない。フィナさんは
「私は信用していませんでした。だって王妃様も多恵様もそんな不義な事をされるお方では無いのは、私共が良く知っていますから」
「ありがとうね。でも正直少しショックだわ」
ここでオフレコの話をしてくれるフィナさん。どうやら城内の侍女や女官さんの間で派閥があるらしい。
「母方がレックロッド出身の女性は気が強く苦手なんです。多恵様担当のモリーナ嬢やアイリス嬢はそちら側では無いのでご安心を。王妃様付の女官や侍女はそっちの方が多く、気位が高く…はい…苦手です」
明確には言わないが色々ある様だ。苦笑いして話しを終わりにした。これ以上突っ込むとフィナさん胃痛で倒れそうだしね。
この後HP回復の為に昼寝をし、8割ほど回復した私はゆっくり湯浴みをしてフルチャージ。キースが来るまでのんびり過ごす。
キースは忙しく夜遅くまで面会が続き、7刻過ぎにやっと部屋に来た。ソファーでいわくつきの膝掛けでぬくぬくになった私を抱きしめるキース。気分はぬいぐるみだ。
でもキースの癒しになるならぬいぐるみでもいいや。
ここで機嫌が良くなったキースに気になっている事を聞いてみた。
「噂に聞いたけど私が来る前にソフィアさんと縁組があり、仮で婚約までしたと…」
「あぁ…そう言えば親父殿に強制され何度か会いましたね。しかし全く興味無くお断りしましたよ」
「え?でも話が進んでいたと聞いたよ」
「すみません。全く覚えてないですね」
あっさり否定された。嘘を言っている風には見てない。後日アッシュさんに聞いたら、キースのお父様とソフィアさんのお父様は仕事上の取引があり、ソフィアさん側から申し込まれ致し方なく縁組をしたそうだ。
「キースはどんな家柄のいい女性も、他国の皇女や絶世の美女も興味が無く、変な噂もでるほどでした。その内ご当主がお決めになった女性と政略結婚をするものと思っておりました。それが…」
「すみません…私で」
そう言うとアッシュさんは楽しそうに笑っている。お世辞だろうけど私でよかったと言ってくれ、安心する現金な私です。
とりあえず王妃様関係の噂の報告を待ちだ。そしてタガが外れたキースに日が変わる時間までどろどろに愛され(してませんよ)、またHPをキレイにゼロされて就寝する事になりました。
キースか来ている間はフィラは来ないって言ってたけど、王妃様の件があるから来そうだ。悋気全開で来そうで怖い…
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