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非力

シリウスさんから弓を習う当日。期待半分不安半分で…

『たえ あさ おきる』

『うん…』

『いや!寝てていいぞ』

『?』


寝てていい?ってなんで?振り返るといつも通り後ろから抱き締めているフィラ。

布団をかけ直し抱き込み背中をトントンして寝かせようとする。


「いや今日は弓の練習があって…」

「シリウスだろ?」

『たえ フィラ やきもち』

「あ…」


どうやらシリウスさんと練習中に密着するのが嫌な様だ。でもグレン殿下に寄り添うために必要だから、自分から口付け頑張るから応援してとフィラを宥める。

何度目かのキスでやっと落ち着いた?諦めた?フィラは、我慢の限界がきたてん君に牙を剥かれ慌て距離を取り、両手を上げて帰ると言いあっさり帰って行った。

呆れた顔をするてん君が娘の男友達を牽制する父親みたいで笑ってしまった。

やっとフィラが帰り支度を始める。3刻半前に訓練場に向かわないと。

ガウンを羽織り部屋に行くとダイニングに朝食の準備ができている。心なしが肉が多い気がするけど?


「多恵様。ゴードン様が訓練着を届けて下さり準備は出来ております」

「ありがとう」

「お気をつけ下さいね。多恵様の綺麗なお体に傷が着いたら大変でございます」

「はぁ〜い」


食後はゴードンさんの力作の訓練着に袖を通す。当たり前だが昨晩の試着より更に着心地良くなっていて感動もの!


「多恵様!良くお似合いでございますわ!」

「ありがとう!これだけ足が自由になるなら、乗馬も習おうかなぁ〜」


そう言うと青い顔をして止めるフィナさん。この訓練着なら運動は何でも出来そうだ。

準備ができた頃にアッシュさんが声をかけてくれエスコートしてもらい訓練場に向かう。

廊下を歩いていると皆んなの視線を感じる。昨日の様な視線ではなく好奇な視線だ。恐らくこの訓練着が目新しいのだろう。女性もこれを着て運動したらいいのに。

そんな事を考えていたらアッシュさんが


「よくお似合いでございます。今日の訓練はシリウス殿のご指導ですから大丈夫だと思いますがお気をつけ下さい」

「はい。頑張ります」


アッシュさんに褒められて少し気分良くなっていたら


「多恵殿!」

「グレン殿下!おはようございます」


正面からシリウスさんとグレン殿下が歩いてくる。朝から熱い視線をシリウスさんからいただいて愛想笑の私。そして走って来たグレン殿下に抱きつかれふらつくが、後ろからアッシュさんに支えられて何とか殿下を受け止められた。


「多恵殿今日も凄く綺麗だ」

「ありがとうございます。一緒に頑張りましょうね」

「うん。母上を驚かせるのだ」

「はい!」


ここからグレン殿下と手を繋いで訓練場に向かうと、そこにはサポートの騎士が8名ほど準備をし待機していた。


「整列!」一番年長者の騎士さんが声をかけ皆さんからご挨拶いただく。やはり女性のワイドパンツが珍しいのか騎士さんの視線を集めると、アッシュさんが咳払いとひと睨みで皆さん慌てて視線を逸らす。結構イケてると思うんだけど滑稽なのかなぁ?

挨拶が終わると騎士さん達がテキパキと準備を始め目の前のデーブルに弓と矢が準備される。そして何故か女官さんが1名やって来て、少し離れたテントに連れて行かれた。


「あ…これ」

「はい。女性物は無いので急遽皮職人に作らせました」

「ありがとうございます。急かせた職人さんにお礼を伝えて下さい」


そう胸当て?を着けてもらった。弦をひいた時に胸に当たるから必要らしい。そういえばさっき集合していた騎士さんもみんな付けていた。女性で弓を習う人はおらず特注で作ってくれた様だ。胸当てを付けて戻ると苦笑いのアッシュさんに視線が泳ぐ騎士の皆さん。何か粗相しただろうか?

すると足早に目の前に来たシリウスさんがハグをして耳元で


「やはり既婚者のみにしておいてよかった」

「?」


弓を習う前から意味がわからない。やっと練習できる様になり弓を使ってシリウスさんから弓の仕組みや手順を聞きく。弓を習っているグレン殿下が試しに射ってくれるので見学します。的の真ん中では無いがちゃんと矢は命中した。


「わぁ!当たった!」


と手を叩き感動していると、少し自信がついた様で表情を明るくする殿下。でも真ん中に命中するのが当たり前でまだまだらしい。

そして私の番になり教わった通り構えて弦をひく!


「あれ?動かない!」


弦を引くがほとんど動かない!焦る私に唖然とする皆さん。自分の非力さにテンションは急降下し泣きたくなって来た。すると傍にいたアッシュさんが席を外した。とうとう見放されたと思い悲しくなって来た。離れた場所で殿下を見ているシリウスさんが心配そうにこちらを見ている。他の騎士さん色々助言してくれるけど、運動不足の私には無理なんだと更に落ち込む。すると騎士棟から走ってくるアッシュさんが見え、手に何か持っている様で…あれは弓?


「多恵様。こちらに変えてみて下さい」

「うん…へ?」


手渡された弓はどう見ても子供の玩具。でも弦の張りは弱くこれならひけそうだ。顔を上げるとアッシュさんの優しい表情で見ている。そして私の背後に立ち後ろから腕を回し補助してくれる。

背中にアッシュさんの温もりを感じ恥ずかしくなり、更に頭上から聞こえる優しい低音ボイスに癒されながらアッシュさんの指示に従い構えて弦をひく。さっきとは違いしっかり弦を引けそれなりの格好になった。そして補助の手を放したアッシュさんが


「的をよく見て放って下さい」

「はぃ!」


“シュッ!”


初めて放った矢は一応真っ直ぐとび的に当たった!

その場の皆さんが拍手してくれる。嬉しくて思わず飛び跳ねながら後ろのアッシュさんを見ると微笑んでくれる。まるで子を見守る父親の様だ。


「ありがとう!私でも出来ました!」

「お上手ですよ。続けられますか?」

「はぃ!」


そう言い補助の騎士さんから矢を貰い的を見て違和感を感じ、じっくり目の前の的を見ていたら…


「あ…」

『的が近い!異常に近い!』


殿下が練習している的の半分の距離しかない。そして騎士さんが的を持ち少し前に移動させた。そう子供用の弓でも正規の距離に届かずの私。

さっきまでの喜びは無くなり悲しくなって来た。離れた場所から矢を放ち練習する殿下をも見ると勇ましく次々に矢を放つ。そしてその矢はどんどん的の真ん中に近づいている。私の視線も気にせず集中しシリウスさんの指導を受け上達しているグレン殿下に母性が溢れ出す。気分は授業参観の母親気分だ。

1本矢を放っただけで二の腕がぱんぱんで痛い。私の様子に気付いたアッシュさんが騎士さんに指示してパラソルと椅子を用意してくれた。


『あ…もう止めておけって事ね…』


これ以上迷惑を掛けないように素直に弓と矢をお礼を言いアッシュさんに返し、大人しく椅子に座り殿下の練習を見ていた。

こうしてあっという間に午前の訓練が終わり、一旦部屋に戻る事になり立ち上がると殿下が額に汗を滲ませて駆けて来た。そして嬉しそうに弓が楽しいと無邪気に話す。

どうやらもう苦手意識は無くなった様だ。シリウスさんの指導がいいんだなぁって感心していたら、シリウスさんが殿下の後に来て目の間で跪いて私の手を取り


「多恵様のお陰で殿下の意識が向上しこの短い時間でかなり上達なさいました。もう心配はいりません」

「私何もしてませんけど⁈」


そう言うと何故か周りの騎士さん達から温かい視線を送られる。玩具の弓で半分の距離でやっと当たり(それもギリギリ的の端)喜んでいるおばちゃんに、殿下を鼓舞させる要素は無いと思うんだけど?

意味が分からず固まっていたら立ち上がったシリウスさんに抱きしめられて頬に口付けされる。そしてシリウスさんを押しのけ間に入ってきた殿下にも頬に口付けを貰う。殿下の成長に母親を超えて孫を見る気分の私である。

この訓練からグレン殿下は弓も剣術も精力的に励まれ、成人する頃には騎士団長をも凌ぐ実力者となり、陛下を支えモーブルの繁栄を築く立派な王子になられたのでした。


この後グレン殿下は昼休憩を挟み午後からも武術の訓練をされるが、私はもう体が限界なので午後からはお部屋で休む事になりました。4刻の鐘の音が聞こえお腹も虫も盛大に鳴り響き顔が赤くなっていると


「多恵様。戻りは私がお送りいたします」


振り返るとリチャードさんが来てくれていてアッシュさんと交代です。

こうして部屋に戻ろうとしたら訓練場の隅に存在感のある御仁が立っているのに気付いた。すごく気になりリチャードさんに誰か聞いたら…


「あ…リチャードさんご挨拶して失礼になりませんか?」


リチャードさんのOKをもらいに御仁の元へ向かうと気付いてくれ会釈される。

そう王妃様のお父様のデスラート公爵様だ。午後からの会議に出席されるのだろう。公爵様は背も高くゴリマッチョなのでとても大きく少し怖く見えるが瞳はとても優しい。


「こんにちは。今日は会議にご出席ですか?」

「乙女様におかれては…」

「あの…畏まられると緊張するので、そのフランクにしていただけたらありがたいです。元々平民なので」


こうして簡単な挨拶を終えると殿下が練習していた的を見ながら


「王妃様はグレン殿下が弓や剣術を苦手にしておられ危惧されておられました。それがあの様に真剣に取り組まれ、乙女様のお陰でございます」

「私は何もしてませんよ。私が殿下の練習に便乗しただけです。でも半分の距離がやっとな上に1回射ただけで腕がパンパンという情けなさです」

「一矢だけでも放てただけでも凄いことですぞ」

「そう思って自分を慰めておきます」


すると目を見開き楽しそうに笑う公爵様。厳ついけど笑うと少し愛嬌がある。そして笑いながら胸ポケットから手紙を取り出し渡してくる。


「会議の後に面会を申し込もうと思っておりました。王妃様からでございます」

「ありがとうございます。(王妃様の)お加減はいかがですか?」

「領地の別荘でゆったりと過ごして落ち着いてらっしゃいます」


その言葉に少し安心しチェイス様にお願いし近々お見舞いに行く事を告げると感謝された。もっとお話ししたかったけど会議の時間が近付きお別れする。部屋に戻りながら王妃様の元にいつ行けるのか頭の中で考えるが、やる事が多すぎて私の頭では調整出来ない。やっぱり頭脳明晰なチェイス様にお任せする事にした。


やっと部屋に戻り先に湯浴みをしてマッサージをしてもらい、ゆっくり遅めの昼食をいただく。本当は1日弓の訓練の予定が半日になり暇になってしまった。

モリーナさんのマッサージで腕の痛みもましになり何をしようか悩む。

とりあえず…キースとオーランド殿下が来るから金融機関の話を少し纏めておこう。

そう思いテーブルで書き物をして午後を過ごす。そして5刻半を過ぎた頃にランティス公爵家御嫡男のサイファ様がお見えになり面会を求められた。暇だったから了承しお迎えをする。入室されたサイファ様は相変わらず穏やかなイケメンだ。丁寧なご挨拶をいただき、着席しお茶をモリーナさんに用意してもらう。

そして今回の色々起こった事件について謝罪される。サイファ様は関係無いのに同じモーブルの貴族として責任を感じている様だ。


『ゔ…んtheいい人』


一頻り謝罪が終わると胸ポケットから手紙を1通取り出し私の前に置いた。少し癖の強い字で私の名が書いてあり、裏返し差出人を見たらバスグル人のベンさんからだ。


思わずサイファ様を見ると頷き読んで下さいと促す。開封し読むとモナちゃんの事のお礼と、気持ちを切り替え前を向いて歩んでいくと書いてあった。


「多恵様がベンが気に掛けていた娘と会い、手紙を送っていただいたお陰で、ベンは気持ちを切り替えれた様です。前にお話ししたウチの使用人と夫婦になる事を決め、近々婚姻予定です」

「本当ですか⁈それはおめでたいですね!ぜひお祝いを送らせて欲しい」

「乙女様が小作人にお祝いですか?」

「?」


忘れていた。ここでは結婚祝いの習慣が無かったのだ。サイファ様に元の世界では親しい人に祝いを贈る習慣があると説明し、後日公爵家に贈るから渡してもらう様にお願いする。theいい人のサイファ様は快諾してくれ、この後和やかにお茶をいただき、少しお話ししてから帰られて行った。


私が間に入り手紙ではあるが二人は思っている事を伝えて合い、誤解を解消して一応仲直りした。しかしやはり簡単に昔の様には無理で、会える時が来たら…という事になり今日はそのお礼のお手紙だった。

ベンさんもお嫁さんを迎え益々頑張ると意気込んでいて、心がぽかぽかして来た。

いい気持ちで1日を終えて、ベッドの中でてん君を抱きしめている。


『たえ キース くる うれしい?』

『当たり前じゃん!』

『てん おなじ キース ておおきい きもちいい』

『じゃーいっぱいもふもふしてもらってね』

『うん たえも いっぱい いいこ してもらう』


てん君にそう言われてキースの温かく大きな手を思い出し、早く抱きしめて欲しいと思いてん君を抱きしめて眠りについた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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