弓
情緒不安定なグレン殿下に寄り添い、王妃の為になる事を一所懸命考えて
「では講義の調整を致しますので弓の訓練は数日後からとなります。でずが…」
そう言うとシリウスさんは私の前に跪き手をとって心配そうに
「本当に貴女も一緒に訓練する気ですか?」
「はい!女に二言はありません!」
「弓の弦は硬く当たり方が悪いと切れます。貴女の綺麗な手や体に傷を付けたくない」
確かに非力で体力のない今の私に弓が引けると思えないが、今はグレン殿下に寄り添う方が大切だから
「出来の悪い生徒で申し訳ないのですが、ご指導のほどよろしくお願いします」
そう言いシリウスさんの手を握り頭を下げた。少し困った顔をして溜息を吐いて微笑み手の甲に口付けるシリウスさん。
「必ず私の指示に従ってくださいね」
「はい先生」
なんとか殿下と弓を習えるようなり、少し落ち着いたグレン殿下と今学ばれている事を教えてもらっていた。そうしているうちにお昼になり、侍女さんや従僕さんが昼食の準備を始めると、文官さんが昼食は陛下もご一緒さる事を伝えに来た。陛下も殿下を気にかけてらっしゃる。殿下とソファーで陛下を待っていたら、騎士の交代の時間になりシリウスさんから退勤の挨拶をいただき手の甲にキスをもらう。勿論私の護衛騎士さんも交代でケイスさんが来てくれた。挨拶いただき部屋の外で待機される。
1日色々あり疲れたのか殿下は眠そうだ。お昼寝させた方がいいかもしれない。そんな事を考えていたら陛下がお見えになった。殿下の手を引いて立ち上がりお迎えすると手を広げ私に向かってくるが、視線を殿下に誘導すると察しのいい陛下は理解してくれる。
陛下はグレン殿下を抱きしめ頭を撫でている。やはりまだ幼い殿下は嬉しそうだ。
そして今度は私を抱きしめ耳元で感謝を述べられる。そして腕を解き私の腰を抱き右手で殿下の手を取り食卓へエスコートしてくれる。椅子を引いてもらい座ると給仕が始まり美味しそうな料理が運ばれてくる。陛下が手をつけられ私たちも食べ始める。会話を楽しみながら食べていたらある事に気付く。
グレン殿下は野菜をほとんど食べない。上座に座る陛下も殆ど手を付けていない。
『この世界の野菜は凄く美味しいのに…これも克服しないとね!』
そして陛下に断りグレン殿下の横に従僕さんに1脚椅子を用意してもらい横に座り
「殿下。もう一つ克服するものがありましたね。野菜を食べれるようになりましょう」
「…他のものはちゃんと食べているぞ」
そう言い訳し目線をそらす殿下。殿下と食事を共にした事が無かったから好き嫌いが有るのを知らなかった。ここで母親目線になり克服させたいと強く思い殿下に分かるように話す。
「野菜は他の食材と同じで人の体を作り維持する為に必要です。不足すると怪我をしたり病気に罹りやすくなります。殿下は今丁度大人の殿方なるために沢山の栄養が必要な時期です。ひ弱な体では愛する人や国民を守れませんよ」
「…」
「それにこの野菜はこのモーブルで作られた野菜。それを王族か食さないのはどうかと…汗水かいて作ってくれている民に申し訳ないですよ」
「だって苦い…」
よく分かっている。子供の味覚には野菜の味は苦く感じる事も。でも…なんて声がけしようか…上手く持っていかないと
「この苦さは大人味。その野菜が食べれたら、これも王妃様に成長したと報告できサプライズになりますよ。それに…」
「「それに?」」
殿下の話をしているのに何故か陛下も食いついてきた。陛下も食べてもらいましょか!
「私は何でもしっかり食べる殿方が好きです。そんな殿方には作ってあげだくなります」
「「!」」
そう言うと2人は徐にサラダを食べ出した。味を誤魔化す為かちょっとドレッシングが多い気がするが、食べようと思ってくれた事を喜ぶ。こうして用意された昼食は完食した。
食後のお茶を飲みながら午前中の会議の話を陛下からを聞いていたら、殿下がコップ片手に船を漕いでいる。眠いようだ。殿下の元に行き手を差し伸べたら抱きついてくる。
大きくなったとはいえまだ子供で母性MAXの私は殿下を抱っこし、陛下に一時退室を願い殿下の寝室へ向かう。子供とはいえ男の子で重い。従僕さんが追いかけて来て代わると言ってくれたがお礼をいい大丈夫だと告げる。こんな時の子供は母親の人肌と香りで安心するものだ。
『母ではないけどね』
少しでも心穏やかになって欲しくて頑張る。ほんの少しの距離なのにバテている。やっぱり体力つけるために運動が必要だと感じ、やっぱり弓の練習は必要だと感じた。
ベッドに殿下を寝かせると腕が痺れていて再度運動不足を痛感する。殿下の寝息に安心し寝室を出ると不意に体が浮いた。見上げると優しい眼差しの陛下に抱き上げられている。
下ろしてとお願いしたがそのままソファーまで運ばれて陛下の膝の上に座らされる。そして陛下は私の肩に顔を埋め、陛下もお疲れのようで拒まず頭を撫でてあげる。
「其方はやはり優しい。我々男はそんな貴女の優しさに心癒されるのだ」
「う…ん普通のことしかしてませんよ」
「ふっ。モーブルの女性を貶す訳ではないが、モーブルでは自分に気をかけて欲しい女性が多い。だから貴女のその優しさを欲しくなる」
なんか口説きモードになって来たので、話題を変え会議の話を再度振ると私の意図が分かったようで苦笑いする陛下。でも察してくれて
「午前中の会議は砂時計製作の途中経過と、基準賃金や入国に関する決まりの話し合いになった。やはり受け入れ側の職種と懐事情で意見が纏まらない。もうしばらく話し合いが必要だ」
おおかた予想通りだった。午後からは出稼ぎ労働者の送金について話し合いがされる。
殿下が昼寝中会議に顔を出そうとしたが、陛下が休むように言い参加させてもらえなかった。
確かに疲れているから私も昼寝する事にした。今書記さんが午前の会議の記録を纏めてくれているので、出来次第殿下の部屋に持って来てくれるらしい。
気がつくと陛下が間近て見つめてくる。少し甘い雰囲気になり身構えたところでチェイス様が陛下を迎えに来た。ナイスタイミングに思わずチェイス様に親指を立ててしまう。腰の重い陛下をチェイス様が引っ張って行ってくれ、私も殿下の部屋の近くの客間で昼寝をする事になった。移動中のケイスさんが凄い心配して、まるで介護を受けるおばあちゃん気分だ。
こうして殿下のお目覚めまで半刻ほど休み少し体力も回復したのでした。
「やっぱりね…」
半刻弱昼寝をし殿下の部屋に戻ると殿下はまだ眠ってらっしゃり、侍女さんから会議の記録をもらい殿下が起きるまで読んでいる。
下位貴族と高位貴族との賃金希望に差があり過ぎる。入国し公的機関から斡旋され仕事に着くが、働く先でこんなに違うも不公平が生じてしまう。入国後の仕事の斡旋は多分今の形態とあまり変わらないはず。つまりバスグル人は勤め先を自分で選べないから、賃金は基準値を決めないと。
そんな事を考えながら読んでいたら殿下が起きて来た。寝てスッキリしたようで、私に抱き着き
「立派な男になるために、午後からの講義を受けます。でも…今晩だけでいいので、夜眠る時に傍に居てくれますか?」
「ご立派です。勿論です。夜伺いますね」
「はい。貴女の隣に立てる男になります!」
「えっと…ちょっと意味が?」
困惑していると殿下は跪き私の手にキスをして護衛騎士さんと講義に行ってしまった。
今日は一日殿下に付き合うつもりだったから予定外だ。殿下が居ないのにここ(殿下の部屋)に居るわけに行かず、ケイスさん達と部屋に戻る事にした。
アルディアもそうだったが王城は広い。殿下の部屋から自室までかなり歩く。半分くらい来たところで文官さんがケイスさんを呼び止める。業務連絡らしく邪魔にならないように廊下横に設置されているベンチで待つと言い移動する。もう1人の騎士さんは少し離れて見守ってくれる。私が1人になりたいと言ったからだ。ケイスさん達の位置から数メートルしか離れていないし王城内だから大丈夫っしょ!
座って廊下を行き交う人をウォッチングしていたら、数人の令嬢が通り過ぎ不意に立ち止まり何故か引き返して来た。そして座る私の前に並びカラフルな壁ができた。
「あの?何か?」
「乙女様でいらっしゃいますか?」
「えっと、はい」
すると1人女性が一歩前に出でいきなり手を振り上げ振り下ろす。
「あっ叩かれる!」
そう思った瞬間!強い風が吹き令嬢達が倒れる。そして目の前がモスグリーンに染まり
「お前俺の婚約者に何をしょうとした!」
「フィラ⁈」
「多恵様!」
ケイスさん達が走ってくる。
近くにいた男性が駆け寄り倒れた令嬢達を起こし、私を殴ろうとした令嬢はケイスさんが取り押さえている。ケイスさんがあまりにも強く押さえるから令嬢は苦しそうにうめき声をあげる。
「やめて!彼女怪我してしまう」
「否!乙女様を害する者に手加減は不要にございます」
「私が嫌なの!か弱い女性だからの腕を抑えるだけで十分ですよ!」
するとフィラが私の頭を抱え込み
「多恵を害するそんな女の腕などへし折ってしまえ!」
「フィラ!」
殴ろうとした令嬢の取り巻きの令嬢は顔面蒼白で文官さんに押さえれている。事情を聞きつけたレックス様が走って来て、令嬢達は騎士棟に連行され尋問される事になった。
そして護衛についていたケイスさんも交代になり、急遽聖騎士棟から別の騎士さんが来て先導しフィラのエスコートで部屋に急ぐ。何が何だか全く分からない状態で部屋に着くとフィナさんが心配そうに待っていて直ぐにハーブティーを入れてくれる。
『驚いたけど私自身そんなにダメージ無いんだけど…』
既にフィナさんもに話が通っていてフィナさんの顔色が悪い。付き添うフィラが凄いオーラを醸し出し部屋に控える皆さんの顔色が悪い。理由もなく令嬢が手上げるなんて考えられない。まずは理由を知りたいし、私が(間接的にでも)何かしたのなら話し合いたい。
でもそんな事を言える雰囲気ではなく、今はお口チャックした方が良さそうだ。
お茶を飲み大好きなフィナンシェを取ろうとしたら、私の腰を抱いていたフィラが腰を引き寄せフィナンシェを甲斐甲斐しく私の口に運ぶ。
そろそろ居心地悪くなって来て
「フィラ…助けくれてありがとう。でももう大丈夫たがら…」
「ダラスから説明を受けお前の身の安全が分からねば警戒は解けん!」
「大丈夫たがら…」
「お前の心情を考え最大級な譲歩だ。本当なら…」
「あ…」
そっかフィラの気質なら有無も言わさず妖精城に連れていくだろう。しかし私がよしとしないし、真相を知りたいと思っている事を分かっているんだ。
ちゃんと私の意思を尊重してくれる婚約者に心が温かくなりフィラが愛おしい。眉間に皺を寄せたフィラを見上げると自分から触れるだけのキスをしてお礼を言う。
目を見開いたフィラは蕩けそうな微笑みをくれる。
「失礼致します。レックス団長がご報告にお見えでございます。お通しいたします?」
「はい。お願いします」
許可を出すとレックス様が神妙な顔をして入室し深々も頭を下げられ、護れなかった事を謝罪される。そして驚く報告をされる。
「多恵様に殴りかかったのはジョスター伯爵家のアンジェリク嬢。本来は本日は王妃様主催のお茶会がある筈でした。しかし王妃様のご都合が悪くなり中止になりましたが、何ぶん急な事で知らされておらず登城していたようです。そして退場途中に多恵様をお見かけし…」
何故か口籠るレックス様。そして意を決した様にアンジェリク嬢の動機を話し出す。
「あ…」
思わぬところで恨まれていた事にショックを受け眩暈がする。
『うっわぁ…これ落ち込むやつだわ』
遠い目をしこころの旅に出るか悩んでいると、私を抱え立ち上がりフィラが
「ダラスに多恵は連れ帰ると伝えろ」
「ちょ!」
こうして理由が分かり我慢の限界が来たフィラに妖精城にお持ち帰りされる事になりました。
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