彼女の気持ち
知らないと思っていた王妃の病を陛下は知っていて…
「王妃様は陛下に伝えていないって」
「フィルを産み夜の渡りを拒否されるようになり、産後の肥立ちが悪いのかと様子を見ていたらますます距離を取られ致し方なく医師に相談した。すると医師も少し長すぎると言い、他に何かあるのかと周辺を調べさせたのだ」
そう陛下は王妃様を常に気にかけていた。そうしている内に王妃様から“離縁”を申し込まれ困惑し王妃の周辺を探る事に。てっきり想う人でも出来たのかと思ったが。男の影も無くグリード殿下とも会っている気配はない。あと考え得るのは…そう病気だ。宮廷医に確認すると出産後から王妃様は宮廷医の診察を拒み、実家の公爵家専属医師の診察を受けている事が分かった。二人の子も同じ公爵家の医師が取り上げていた。やはり産後の肥立ちが悪いのかと思ったが
「肥立ちが悪いだけなら私を避けたりせんだろ。愛し合って婚姻した訳では無いが愛情はちゃんと有り、それなりいい夫婦関係を築いてきた。王妃の変わりようにどうしていいか分からず、王妃の父のデスラート公爵を呼び問い詰め王妃様の病を知った。正直ショックだったよ。政略結婚とはいえ愛情はあるし添い遂げるつもりだった。しかし公爵からシャーロットの心中を聞き、彼女の願い…意思を尊重してやりたいと思ったのだ。だから知らないふりをし公爵には私に打ち明けた事は口止めしている」
「王妃様の意思?」
遠い目をして陛下は話し出す。
「私の贖罪と慈悲が反対にシャーロットを追い詰めた様だ。彼女は私と国に負い目から必死で国に尽くして来た。そこに彼女の望みや意思は無かったのだ」
「っという事は…」
「はぁ…やはり貴女は察しが良く頭の回りがいい。その通りだよ。彼女はグレンを授かった時点で王妃候補から退き、グリードの子と共にグリードを想い慎ましく過ごしたかったんだ。しかし私が国の安泰を優先し王妃に望んだために、彼女の望みや想いを抑え込んでしまった。だから最後はシャーロットの好きな様にさせてやりたい」
陛下の【知らないふり】は王妃様の意思を尊重しての事だったんだ。
「でも!」
ちゃんと向き合って欲しくて発言しようとしたら陛下に強く抱きしめられた。そして
「皆まで言わんでくれ分かっている。このままにする気はない。しかし先ほども言った通り私は王だ。優先するは国益で己の事は一番最後なのだ」
「でも、“王妃”は国母でしょ!なら国と同レベでしょ⁈なら優先すべきで!」
「それはシャーロットは望んでいない」
分かっているけど心が追い付かず涙が出てきた。すると陛下がハンカチで涙を拭い頬に口付けてさらに強く抱きしめる。
「其方は優しい。だから皆惹かれる。私もそうだ…生まれて初めて心から欲しいと思った女性なのだ。妻が居るのにな…」
そう言い視線を合わせてくる。色んな感情が混ざった瞳の陛下をほって置けなくて庇護欲…じゃないおばちゃんの母性が出て思わず陛下の頭を撫でてしまった。不敬だと慌てて手を離そうとすると陛下に手を取られ、陛下が自分の頬に当て自分の手で重ねた。
そして
「シャーロットも大切だが、私は其方を諦める気はないぞ。こんなに心から人を愛した事はない。悪いが其方の婚約者以上に独占欲が強い。暴走しないように必死で己を抑えている。そうしないと貴女を何処かに閉じ込めてしまいそうなのでな」
「!」
ここに来て陛下の“ヤンデレ疑惑”が出て来た。他の婚約者も独占欲の塊だが、陛下はプラスで闇深さがある。でも…
『嫌に思えない自分が居るのよね…』
この後ゆっくり陛下と話をしたが、王妃様の国と人に迷惑を掛けたくない気持ちを汲み、陛下は今の問題が解決するまで会いに行かないそうだ。私はお王妃様が望んでいる事もあり、合間を見つけて会いに行く予定。陛下はその時に王妃様に手紙を書くと約束してくれ話は終わった。
泣いて驚いてとぐったりした私を陛下は膝に乗せてずっと抱きしめ背や頭を撫でている。(精神的に)疲れすぎてされるがままの私。
全部放棄してもう寝たい…
陛下は外に控えるリチャードさんを呼び私を預けて頬を撫でて
「今日は疲れただろう…またゆっくり話をしよう。休んでくれ」
「はい。陛下も休んでくださいね。指揮官が倒れたら皆困りますから」
「“みんな”の中に貴女も入っているのか?」
「もぉ!当たり前の事聞かないで下さい。意地悪ですね」
そう言い頬を膨らませて拗ねてみた。リチャードさんが口元を緩め陛下は笑ってくれた。こうしてジェットコースターの様な1日は終わりリチャードさんに抱っこされて部屋に戻る事になった。何度も自分で歩くと言ったが聞いてくれない。理由は今日1日で痩せているからしい。そんな簡単に痩せるものなの?
部屋に戻ると7刻近くお腹は空き過ぎてもう何も感じない。部屋にはアイリスさんがいて顔色の悪い私を心配し部屋中を駆け回りお世話をしてくれる。
食事を終えて湯浴みをするがアイリスさんが絶対寝落ちすると一人でしてくれず諦めて介助してもらう事にした。湯舟には血行を良くするハーブが入れられていて、温もるとアイリスさんがマッサージを施してくれ少しは回復したと思う。湯上り水分補給をして直ぐにでベッドに潜り込み、最上級の癒しのてん君を抱きしめ眠った。
朝いつも通り起きて最近の日課になっているフィラの訪問を受け、また甘えてフィラに癒してもらう。
疲れが抜けきっていないのに今日もまた会議がありゆっくりできない。部屋に行くとアイリスさんの表情が厳しい。そして申し訳なさそうに
「ご報告がございます。昨晩王妃様が領地に静養に向われました」
「はい」
「そしてグレン殿下が不安になられ朝一にシリウス様がお見えなって面会を願われております。如何なさいますか?」
「では応じると伝えて下さい」
そう返事をし少ししたら神妙な顔をしたシリウスさんがお見えになり開口一番に
「お願いがございます。出来るだけ早くグレン殿下にお会い頂きた」
「はい。いつでも伺います。殿下は朝を召し上がってらっしゃいますか?」
「いえ、ご用意しましたが食欲が無いと仰り…」
「アイリスさん!グレン殿下の元に行きます。殿下に先触れを!そして是非!一緒に朝食をとお伝えください」
「畏まりました」
足早にアイリスさんは退室しグレン殿下の元へ。私もシリウスさんと一緒に殿下の元へ向かう事になった。
長い廊下を歩きながら城内の様子をシリウスさんから聞き、城内が動揺し色んな憶測がとんでいて皆困惑しているそうだ。やはり王城には王妃様がいないと…
10分弱歩きやっと殿下の部屋の前、癇癪を起しているのが外からでも分かる。ノックして
「グレン殿下⁈多恵です。入室許可を頂けますか?」
「多恵殿!」
勢いよく扉が開き勢いのまま抱き付かれて、よろめいたが何とか殿下を抱き留められた。
顔を上げた殿下は目に涙をいっぱいためて見つめて来る。しっかりしているがまだ母が必要なお年だ。寂しいだろう…不安だろ…殿下を抱きしめ
「おはようございます。私まだ朝ご飯まだなんです。殿下ご一緒してください」
「多恵殿…」
大きな瞳は涙で濡れその瞳は寂しさであふれている。高速で胸の奥から母性が溢れ出て来て殿下を抱きしめ背を撫で落ち着かせる。
暫くすると殿下は泣き止みやっと話せる状態になり食卓へ。席を隣にしてもらい殿下に食べさせ、ゆっくりだがしっかり食べてくれ安心していると殿下が
「多恵殿が私を食べさせていたせいで、多恵殿が食べていない。私が口に運んであげよう!」
「ありがとうございます。でも大人だから大丈夫です」
しかし殿下はフォークを持ち食べさせよとした時、文官さんが来て陛下がグレン殿下を呼んでいると迎えに来た。残念な顔して殿下は文官さんと騎士さんと陛下の部屋へ。取り残された私は部屋に戻ろうとしたが、朝食を用意されている事も有りこちらでいただく事になった。
そして何故か隣にシリウスさんが座り一緒に朝食を食べる事になった。そして羞恥プレイが再び!
シリウスさんが甲斐甲斐しく私の口に食事を運んでくる。何度も自分で食べると言っても笑顔で運んでくるので無下に出来ない。
このままじゃダメだと思い意を決して
「シリウスさんが食べれ無いじゃないですか!私は子供ではありません。自分で食べます」
するとフォークを置いて私を見て徐に口を開けて
「あーん」
「!!」
餌を待つ雛鳥状態のシリウスさんに全身の汗が噴き出す。給仕する侍女さんや従僕さんの視線が痛い!
「今デレている状況ではないでしょ⁈」
「分かっています。でも俺にも愛情を向けて欲しい」
シリウスさんってこんな甘えたなタイプだった⁈。折れないシリウスさんに溜息を吐きながら少し可愛いと思ってしまって
「一口だけですよ!」
「はい!」
そしてベコンをカットし手を添えて綺麗なシリウスさんに口元に差し出すと食べてくれた。そして咀嚼して色っぽく唇を舐めて見つめてくる。
早朝なのに部屋の雰囲気が深夜になった所で、フォークとナイフをシリウスさんに渡し、早く食べようと促し食事を再開する。
何故かいつも以上にデレるシリウスさんに戸惑いながら食事を終えた。終わった頃にグレン殿下が戻り、ずっと私のドレスの裾を持ち離してくれない。この後会議があり困っていたら文官さんが陛下から伝言を預かってきて
「今日は1日グレン殿下に付き添って頂きたいと。会議の報告は逐一報告いたしますし、分からない事がございました聞きに参りますので、今日はどうか殿下の元に」
「分かりました。私の資料が分からなかったら、いつでも聞きに来てください」
こうしてこのまま殿下の部屋で殿下に付き添う事になった。勿論殿下専属のシリウスさんも部屋にいる。
殿下はずっと私の腰に抱きつて離れる気配はない。不安で心細いのだろう。
それより陛下はグレン殿下に何と説明したんだろう。知っておかないと違うこと言ったら殿下が困惑するじゃん。不安になっていたら文官さんが陛下からの手紙を届けてくれた。
殿下に断りを入れて直ぐに読む。
『愛しい多恵殿。
予想はしていたがグレンが情緒不安定で、しばらく誰か傍に居てやらないといけない。乳母やシリウスではダメで、グレンは其方を頼っている。すまぬが落ち着くまで傍に居てやってほしい。グレンにはシャーロットは体調を崩し暫く実家の公爵邸で療養すると言ってある。そして近々多恵殿がシャーロットの見舞い行く故、グレンに同行を認めてある。其方が傍に居てくれれば落ち着くだろう。
よろしく頼む』
公爵邸で療養にびっくりしたんだな。子供は親は強くいつも元気だと思っている。だからびっくりしたんだ。娘の雪も同じことがあった。今のグレン殿下位の時に自宅で私が体調が悪くなり、大輔に連れられて病気に行きそのまま入院になった事がある。盲腸で手術して10日ほどで完全復活したけど、雪は私が死んでしまうかもとパニックになり、担当の看護婦さんが優しくわかる様に説明してくれやっと落ち着いた事があった。
意味が分からない子供がそう思うのは仕方ない。
『でも本当に王妃様は…』
頬を自分で叩き自分を鼓舞する。私が動揺したら殿下が更に不安になる。王妃様が安心できる様に殿下には強く優しい男性になってもらわないと!その為に私が出来る事を
「殿下。王妃様が帰って来た時にサプライズしませんか?」
「サプライズとはなんなのだ?」
「驚かせるんです」
少し落ち着いて来た殿下は私の提案に興味を示してきた。いい感じと話をつづける。
「今殿下が苦手な事を克服しましょう。そして強くなって王妃様をお迎えしましょう」
「母上は喜んでくださる?」
「勿論ですよ!私もカッコよくなった殿下を見たいですし」
「なら…が苦手だ」
「はぃ?」
恥ずかしそうに顔を寄せ耳打ちしてくれる殿下。もぅかわいい!今日は母性全開の私である。
「じゃぁ!私も一緒にやりますね!シリウスさんご指導よろしくお願いしますね」
「お任せを」
こうして殿下の気を紛らす目的と、近い将来やって来る悲しみに向き合う準備を始める。という訳で私とグレン殿下は、殿下の苦手な弓をシリウスさんから習います。非力な私に出来るか甚だ疑問であるが…
私も殿下の為に頑張るぞ!
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