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汚れ役

転覆事故も何も物証が出ず、ダンテ邸に期待が集まるが…


疲れたので早めに夕食を一人で食べて寝室に籠り、キースに手紙の返事を書いている。


『早くキースに会いたい。でもね…無理はしないでね』


と書きモーブルのお役目は大方片付いた事を書く。前回来てくれた時は1泊2日だったけど、次は2,3日位は居れるのかなぁ…あまり我儘言えないけど、楽しみにしていると書き、便箋に愛用の香水をふって封をした。膝の上で丸まるてん君に届て貰う様にお願いすると


『いま いく キース ねれない あす いく』

『難しい事書いて無いよ。早い方がいいと思うんだけど?』

『いや キース ねれない あす いく』


明日行くと言うてん君と直ぐ行って欲しい私との言い合いが続き、最後はてん君が折れて届けに行ってくれた。

満足してベッドに入りてん君が帰って来るのを待つが…


「遅いなぁ…キースが返事を書いているのかなぁ?」


やっと帰って来たてん君は疲れている。何があったのか聞いたが


『おとこ やくそく』と言い教えてくれない。てん君の意志は固く無駄だと感じた私はてん君を抱きしめ寝る事にした。


翌朝、いつも通り目が覚めるとフィラが背後から抱きしめている。また寝返りをしフィラの胸に顔を埋める。優しく頭を撫でてくれ心地いい。見上げていたら困った顔をしたフィラと目が合う。フィラは


「昨日ダンテの屋敷から出た薬草と種子はチャイラで人が意図的に作った物ばかりで禍々しく不快な物。あれが出てから妖精達の調子が悪い。調べ終わりモーブルに元々無い物は早めに焼き灰は海に撒いた方がいい。長くモーブルにおくと妖精たちが疲弊し妖力が落ちる」

「そうなの?分かった!朝食を陛下と食べるから言っておくね」


どうやらフィラのお疲れはバランスを崩した妖精達をサポートしているからだ。

昨日ダンテ屋敷で見つけた薬草や種子は異様な妖力を纏っているらしく、一度に大量に出たために対応に追われているフィラと妖精達。隠し部屋から荷物を出されて後にレックス団長が隠し部屋の内部を確認した所、部屋の壁一面が鉄布で覆われていて、妖精やフィラ達には察知できない様になっていたそうだ。


「モーブルの問題は多すぎだ。早く多恵を開放してやりたいがなぁ…」

「私も解放されたい!全部解決したらリリスに小言一つでも言いたい気分だよ」

「報酬はいい物をもらえよ」

「うん!今からしっかり考えとく」


こうしてフィラは少しお疲れ気味で戻って行った。ベッドから起き上がり起こされる前に部屋に行きアイリスさんに手伝ってもらい身支度を始める。

用意が出来た頃にアラン団長が部屋に来て、また何かあったのかと身構えるが、単に人で不足なだけで特に意味は無かったようだ。

陛下の元に向かう道すがらアラン団長からバートンさんの話を聞く。どうやら今回の事でお咎めが下る前に、バートンさんのお父様が当主を退くことが決まり、バートンさんが聖騎士を辞めて後を継ぐ事になったそうだ。


「本人は騎士を続けたかったようですが、後を継ぐ者がおらず仕方なかったようです。責任感が強い男ですから領地は大丈夫でしょう」

「そうですか…領地に戻られる前にお会い出来ればいいのですが」

「最後の勤務時に多恵様の元へご挨拶に伺うと言っておりましたよ」

「良かった…」


ケイスさんからバートンさんの事を聞いて気にしていたのだ。ほっとしてアラン団長と目が合ったらアラン様も穏やかな表情をしているが少し寂しそうだ。

上司アラン部下バートンと強い絆があるのが窺えほっこりする。

雑談をしているうちに陛下の部屋に着く。許可を得て入室すると足早に来た陛下が抱き付いてくる。無言で頬に額に口付けてくる陛下。目が合うと熱を帯びていて少し怖い。


「陛下!ちょっと圧が…」


そう言うと我に返り腕を緩めていつもの陛下に戻った。何かあったのかなぁ?

猛烈に触れない方がいい気がしてお腹が空いたと話を逸らした。

こうして陛下が手を取り席に案内してくれ着席したら食事が運ばれてくる。食事をとりながら昨日にダンテ邸の捜索協力のお礼を言われる。そして表情を曇らせて


「あの毒ドレッシング事件はやはりダンテが企てものだった。エリアスの指示書には多恵殿をバスグルの少女と会わない様に、睡眠薬等で一時的に体調を崩させるように書かれていた。しかし…」


陛下の説明ではダンテはチャイラ出身で、チャイラでは傭兵をしていて粗暴で残忍な性格。エリアスさんは生粋の貴族で荒々しい事は好まない、しかしエリアスさんの指示対してダンテの行動は何時も行き過ぎ、エリアスさんからお叱りの手紙が沢山見つかった。


「だからあの時のエリアスは様子が変だったんですね」

「そうだ。エリアスは妖精王フィラに“一歩間違えれば死んでいた”と言われ愕然としていた」


噂になっていたエリアスさんに歯向かうと危ない目に遭うと云うのはダンテの独断で行き過ぎたものだったようだ。


「何であんなにチャイラの人は粗暴な人が多いんですかね?」

「恐らく神の加護が無く己しか信じる事が出来ないのだろう」

「何かそれって悲しいですね」


私がそう言うと目を見開き驚いた顔をした後に、蕩ける様な微笑みを向けて陛下が


「リリスが召喚した乙女が多恵殿で良かった。敬愛するリリスに感謝を」

「持ち上げても何も出ませんよ」


この後、まだ今回の一連の捜査とガサ入れで押収した証拠は調べるのにまだまだ時間がかかる。仕方ないよね通常の業務もあるからね。何か手伝えないか後でチェイス様に聞いてみよう。元の世界では事務職で書類整理は手慣れているもん!


「多恵殿はバスグルとの労働協定の方をお願いしたい」


やっと重苦しい案件から解放され心が軽くなる。事件より労働協定の方が危険はないし嫌な気分にもならないだろう。

事件の報告が終わり丁度食事も終わった。退室しよとしたらシリウスさんが来て部屋までエスコートしてくれるそうだ。

陛下が名残惜しそうに抱きしめて離してくれない。後ろに控えている文官さんが困った顔をしている。


「陛下。また労働協定の相談に伺います。文官さんがお待ちですよ」

「分かっているのだがな…腕がいう事を聞いてくれん」

「知ってます?女性は働く男性を魅力的に感じるんですよ!」


そう言うと部屋にいる男性たちが気のせいかビシッとした様に感じた。そして陛下は頬に口付け文官さんと颯爽と退室していった。


『男の人って案外チョロい?』


すこし悪女になり男の人を手玉に取った気分でシリウスさんと部屋に戻る。

シリウスさんも忙しかった様で少し窶れていて心配で思わず頬に手を置き


「ちゃんと休んでますか?お痩せになって心配です」

「心配して下さるのか?」

「当たり前です。皆さん頑張り過ぎていて心配なんですよ」


すると目を細めて溜息を吐いて


「そこは嘘でも俺だけ心配だと言って欲しかった…」

「えっと…でもめっちゃ心配ですよ」


曖昧に答えると困った顔をしながらも抱きしめて来るシリウスさん。そしてこの混乱が落ち着いたら1日向き合う時間を与えて欲しい言われ返事に困る。でもよくよく考えたらモーブルに来て直ぐに問題に取り掛かり、シリウスさんと向き合う時間は無かったし、予定外ダークホースのダラス陛下にアプローチされ、モーブルでの伴侶候補のシリウスさんと向き合う時間なんてなかった。何か言わないとと口を開いたら


「また貴女のですの!婚約者もいらっしゃるのに他の殿方にも秋波を送って節操の無い女性です事!」

「あっ台風少女!」

「何ですの台風とは!」

「えっと…」


台風の意味を言える訳ないです。だって怒るから…でもね

『貴女も大概失礼だよ』と心の中でイラつく。


「ディアナ…其方はまだ登城許可が出ていない筈だ。帰りなさい!それに多恵様は俺の大切な女性ひとだ。ディアナといえども失礼な態度は許さんと先日忠告した筈だ」

「でも!」


見上げたシリウスさんの表情は険しく、ディアナさんは固まる。ディアナさんの後ろに付添いの侍女さんが焦っている。

雲行きが怪しいディアナさんをその場に残し、シリウスさんは私を抱き上げ部屋へ向けて歩き出した。


「ちょ!シリウスさん⁈」

「身内の者の失言、後日正式に家から謝罪致します」

「いえ!相手はまだ子供だから…」

「…ディアナは元々は素直で愛らしいでした。しかし社交の場に出る様になり、レックロッドの大公爵令嬢のエミリア嬢に感化され高慢な態度をとる様に。心配したディアナのご両親がモーブルの親類に行儀見習いに預ける事を決心し、その親類に会うためにモーブルに来たようです。そしてまだ決まってはおりませんが、ディアナはモーブルの伯爵家令息との縁談があり、早目にモーブルに慣れる為でもあるのです」


珍しく饒舌なシリウさんに驚きながら話を聞いていた。シリウスさんの話しの感じから身内(兄貴分)としてディアナさんを心配しているのが分かる。情の深い人だと感心しながらシリウスさんを見ていたら


「あまり見つめないで下さい。今己の欲と闘っているんですから…」

「闘う?」


溜息を吐いて


「間近でそんな可愛い顔をされて我慢できる男は男色の者だけだ!口付けますよ!」

「えっ!なんで普通なのに!」


恥ずかしくてなりシリウスさんの胸に顔を埋める。そうしている間にどんどん進んでいくシリウスさん。恥ずかしいから早く部屋に戻りたい!

少しの沈黙の後にシリウスさんは独り言?を言い


「貴女がレックロッドに行く前に改善させるので安心して下さい。もし改善しなければアルディアに協力を仰ぎ貴女を護りますから」

「はぃ?」


何についてか聞いても答えてくれないシリウスさん。また私の知らない所で問題が起きているのだと思うとブルーになる。

するとシリウスさんは足を止めて何か考えて、いきなり踵を返し部屋と反対方向へ歩き出した。他の護衛騎士さんが慌てだす。私はシリウスさんの腕の中で逃げようがない。するとシリウさんは従僕さんを呼び止め何か耳打ちして、また説明もせず歩き出す。


「シリウスさん!どこに行くんですか⁈」

「…」


見上げたらシリウスさんの表情は強張り何を考えているのか分からず、ただ温かくいい匂いの腕の中でじっとする事しか出来ない。

少し行くと廊下を抜け広場に出た。そこには馬が5頭いて従僕さんと騎士さんが待機している。そして


「多恵様!」


アイリスさん手に荷物を持ち走ってくる。

『アイリスさん助けて!』


アイリスさんが目の前に来たらやっとシリウスさんが下に降ろしてくれた。やっと部屋に戻れると思ったら、アイリスさんが私に外套を着せ例のシリウスさんの勝負マントをシリウスさんに手渡した。

シリウスさんはマント広げて私を包み込み、シリウスさんの愛馬に私を乗せた。

そして騎士の皆さんが一斉に騎乗し馬が走り出す。

アイリスさん到着から出発まで数分の事で、待ったをかけれる状況に無かった。


アイリスさんが綺麗な礼をして


「多恵様行ってらっしゃいませ」

「えっ!誰か説明して!」


説明なく馬は駆け出し喋ると舌を噛む程のスピードで怖い!必死にシリウスさんに抱き着き気分はコワラだ。どの位走っただろう?周りが薄暗い事に気付き周りを見渡すと森の中を走っている。そして明るくなり顔を上げると…


「森の中?」

「はい。王都の外れにある森の中です。貴女に貴女が守った物を見てもらいたくて…すみません。説明もなくお連れして」


着いた先は木々に囲まれた広場の様な所で、緑の絨毯が目に優しい。妖精が沢山飛び花が咲き誇り鳥の囀りが聞こえて来た。


「マイナスイオン出まくりですね〜落ち着きます」


そう言うと馬から降りたシリウスさんが両手を広げいる。腕を差し出すと抱き下ろしてくれる。

すると光の玉(妖精)が沢山集まり話しかけてくる。妖精達は口々に森が豊かで幸せだと言っている。その中でも黄色い光の玉が私に擦り寄り

 

『たえ ありがとう これで よごれた つち もどる』

『貴方は土の妖精?』

『そう きもちわるい つち なくなる』

『そっか…ごめんね』

『たえ わるく ない たえ いいこ』


妖精達が喜んでいて私も嬉しい。


「多恵様?」

「どこに連れて行かれるのか不安だったけど、今回の件が解決してモーブルの自然が守られたのを見せてくれようとしたのね⁈」

「はい。説明なく連れ出し申し訳ございません。貴女はこの箱庭に幸運を齎す女神だ。前乙女レベッカより偉大なのです。だから誇って欲しい」


そう言い後ろから抱きしめるシリウスさん。楽しそうに歌い飛び回る妖精達を見て、ここ数日の体の疲労も疲弊した心も和らいでいく。

でも…


「私は知っている事を皆さんに教えただけ、考えて実行したのはこの世界の皆さんです。私が偉い訳ではないんですよ」

「だから貴女はあの女と違い愛される。それがレックロッドの女共は何も見えていない!腹立たしい事をこの上ない!」

「レックロッドの歴史や事情を知らないから何とも言えないけど、大きな問題を解決してくれたんですから、尊敬されて当然だと思いますよ」

「はぁ…貴女は優しすぎる。悪意のある者に傷付けられないか心配で、レックロッドに遣りたくない!叶うなら俺が貴女だけの騎士になりずっと側に居たい」


そう言い頬に口付けた。


ディアナさんが来てからちょこちょこレックロッドの話が出てくる。薄々レックロッドがアウェーなのは分かっているけど、シリウスさんがここまで心配するなんてよっぽどなのか?


目の前の美しい景色に反して心の中で不安が芽吹いた気がした。

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