仕掛け
急展開に心身ともにヘトヘト…なのにダンテの屋敷に連れて行かれ…
「多恵様。無理なさらないで下さいね」
「ありがとう。でもね…」
皆さん疲弊困憊でも頑張っているのに、私だけ楽する訳にいかない。作り笑いしていたら不安気に私を見ているフィナさん。
城を出て半刻程でダンテの屋敷に着いた。使用人は居らず先行していた騎士さんが迎えてくれる。レックス様のエスコートで馬車を降りると、付近に聞き込みをしていた騎士さんがレックス様に報告をする。
「パルス伯爵邸捜索に入った同日に使用人達が荷物を持ち出しているのが目撃されております」
「証拠隠滅か?」
「否。使用人達はお暇を出され屋敷を出た様です」
という事は屋敷はもぬけのからって事?
騎士さんが先行してくれ一部屋ずつ見てまわる。何か気づく事がないか聞かれ注意深く部屋を見るが特段気になる所はない。
「あの…天井裏とか床下とかは見ました?」
すると責任者で分隊長のユージン様が全ての部屋の天井裏と床下は確認済みだと報告してくれる。騎士さん達は期待した目で見てくるが、そんな期待しないでほしい。
腕組みをして隠し場所を考えてみる。推理モノや探偵モノの小説を思い出してみる。そして書類が沢山あるダンテの書斎に移動し部屋の中を見渡す。書斎にだけに四方の壁一面に本棚があり、他にはデスクと応接セットが有るだけだ。本を適当に1冊引出してみる。仕掛けとかあって開くかなぁ〜って思ったけど、そんな簡単では無かった。各本棚の本を引き出してみるが何も起きない。
そして部屋の1番奥の本棚の前に来た時に違和感を感じる。書斎の他の本棚は天井まであり壁一面びっしり並んでるのに、この本棚は縦にも横にも小さく動かせそうだ。
『もしかして…後ろの壁に隠し部屋とかあるの?』
その背の低い本棚をじっくり見て、全部の本を引出してみるが何も起きない。本棚の側面も上部もチェックするが何も無い。後は…屈み本棚の足元を見ると一箇所色の違う所を見つけて
『ここ!』思わず押してみると?
“パッキン”と変な音共に本棚が少し動いた。
「皆さん!ここ何かありそうです!手伝って!」
そう言うと屈強な騎士さんが数人で本棚を持ち上げようとしたが上がらず、思い付きで横にスライドする様にお願いしたら!本棚は簡単に横に動いた。
すると壁に大人が1人通れるほどの穴が空いていて、灯りを向けると壁の向こうに空間がある。一番小柄って言っても十分大きい騎士さんが入ろうとして、嫌か予感がして止めた。
『確か探検モノや冒険モノは洞窟などに入る時に鳥を連れて行っていた様な…』
「すみません!小動物や鳥はいませんか?」
「何故です?」
理解できないレックス様に質問され、空気が薄がったり何かを隠したい為に有毒な物が撒かれている可能性が有ると説明した。する騎士さんが屋敷で飼われていたニワトリがいると言い探して来てくれた。ニワトリ待ちをしている間に書斎の窓を全て開けて隠し部屋入口より風上に待機し、ニワトリが来たら鳥籠に入れて箒を使い例の部屋に入れてみる。すると!
“バサッバサッ コゥッ!”
入れて直ぐにニワトリは暴れ出した。やっぱ何か有る!直ぐにニワトリの籠を箒の柄で引っ張り出すと、ニワトリは籠の中で痙攣している。
それを見た騎士の皆さんが青い顔をして押し黙る。
『危なかった…あまり好きなジャンルでは無いけど、冒険モノやミステリー系の小説も読んでおいて良かった…』
こうして本棚奥の入口は諦めて、外から壁を壊す事になり、屋敷近くの大工や鍛冶屋から応援呼び壁を壊し始める。
どの位危険な物が撒かれているか分からないから、バンダナやタオル等の布地で鼻と口をガードして作業してもらう。
作業中は安全のためにフィナさんと馬車から見守る私。作業から半刻経ちやっと壁に穴が空いた。私の指示で壁に穴が開いたら一旦全員風上に移動し様子を見て、可哀想だが再度別のニワトリを入れて安全確認をしてもらう。
因みに一番初めに入ってもらったニワトリは少しすると意識を取り戻し元気になった。
急遽王都の薬師さんに来てもらいニワトリの件を話したら、恐らく神経に作用する植物や薬草が置かれている可能性があるそうだ。
2度目のニワトリは暴れる事なく大丈夫そうで騎士さん2名が中に入り、隠し部屋の中のものを外に出す。
中から書類が入った木箱2箱分と見た事もない薬草と植物の種が入った瓶が沢山、そしてチャイラの動植物図鑑が出て来た。後薬草が入っている瓶が2つほど口が開いていたそうだ。恐らくその薬草は神経に作用する物と推測され直ぐに封をしてから外に出される。薬草の判別は薬師さんに任せて木箱の書類を文官さんが調べ出す。
馬車から見ていたらレックス様が馬車に向かって歩いてくる。そして
「多恵様の知識に感謝を!我々では探し得なかった。後は我々が調べます故、応援の騎士が来ましたらお戻り下さい」
「はい。あっ!薬師さんがいらっしゃるから大丈夫だと思いますが、見たことない薬草や植物は素手で触らないのと、必ず鼻と口を布でガードして取扱って下さいね」
こうしてレックス様に礼を言われ、王城から来た応援の騎士さんに付き添われ戻る事になった。念のため帰城し直ぐに湯浴みをして衣類は直ぐに洗いに出してもらう。勿論同行したフィナさんも他の次女さんに交代してもらい同様に湯浴みをしてもらう。
迎えくれた文官さんにも今捜索中の皆さんが帰城してたら同様にしてもらう様に伝えておく。
着替えも湯あみも終わり部屋で美味しいケーキで糖分チャージ中。珍しく頭を使ったから脳がお疲れである。
おやつの後はアイリスさんがハンドマッサージをしてくれて、気持ち良くてうつらうつらしていたら誰かが来た。直ぐにアイリスさんが応対してくれる。
「多恵様。チェイス様がお見えでございます。どういたしますか?」
「あ…えっとお通しして下さい」
そう言いソファーの横に立つ。入室したチェイス様はダンテ邸捜索協力の礼を述べて着席された。そして早速転覆した小舟の捜索報告を始め聞く。
「…夫人と子息は大丈夫ですか?」
「夫人は倒れられ今寝込まれております」
「侍女さんに就いてもらい、よく見てあげて下さい…心配です」
夫人が自殺しそうで気が気じゃない!今エリアス様が目の前にいたらぐーで殴ってやりたい。
「チェイス様。夫人宛の手紙の他は見つかって無いんですか?」
「はい。転覆していた海域は潮の流れが早く、あったとしてもチャイラの方へ流れ着いているかと…」
「狙った転覆ですかね?」
「恐らく」
造船の専門家によると船首船底の傷が不自然で、故意に穴を開けて転覆させた可能性が高いそうだ。事故に見せかけて船を乗り捨て別の船でチャイラに向かった可能性がある。
夫人宛の手紙は瓶に入れられて、マストにロープで結ばれていたそうだ。確実に夫人に渡る様に細工され夫人への愛?を感じた。
手紙の内容は文官さんが検閲しており内容は、夫人と子息への謝罪と家族への愛が紡がれてあり、最後にモーブルに帰らない事と出来れば夫人と子息にチャイラに来て欲しいと書いてあったそうだ。
「夫人は何と?」
「夫を愛しているが祖国を裏切ったのは許せないと言い決別されるそうです」
「悲しいですね…」
「はい。後味の悪い結末です」
こうして本当に今回の一連の事件は首謀者逃亡で終わった。チャイラとモーブルは正式な国交は無く、エリアスさんかチャイラに渡った証拠もなく、恐らく身柄引き渡しなんて応じてくれないだろう。だからこれ以上は見込めない。後は押収した証拠品を元に罪を犯した者を裁き今後の対策を決めていく事になるだろう。
報告が終わりチェイス様が退室したら代わりに文官さんが来て、陛下が夕食を共にと仰っているそうだ。心身共に疲弊しているので申し訳ないと思いながら断り、明日の朝食ならお付き合いしますと返事をした。
『私頑張りました!だから今日は閉店です!』
と心で宣言して1日を終えた。まだ続くモーブルの問題に遠い目をして、いつになったらバスグルに行けるんだろうと不安になり盛大にブルーな気持ちになったのでした。
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