人恋しい
侯爵夫人との面会が終わり、ヘトヘトで部屋に戻り…
『疲れた…』
陽も落ち静かになった廊下を歩いている。何度もリチャードさんが私の様子を窺っている。ここ最近皆んなに痩せたと言われ過保護中で、少しでも疲れたそぶりを見せると歩くことすらさせてもらえない。
でも今日は正直なところ疲れている。体より精神的に…
愛し信頼している夫に裏切られた上に置いて行かれ、更にお家取潰しがほぼ決まっている夫人の心中を思うと心が痛い。エリアスさんがそこまでチャイラに肩入れするのが理解できない。重い足取りでいつもの倍掛かったがやっと部屋にたどり着いた。
部屋に入ると食事が用意されていて、交代していたフィナさんが待っていて、挨拶もそこそこに手紙を渡してくれる。
受取り裏返し差出人を見るとキースからだった。キースの直筆を見た瞬間何故か涙が出た。今無性にキースに抱きしめて欲しい…
キースだけじゃ無くグラントにもフィラにも…
侯爵夫人の事があったからか、無性に人恋しい…泣き出した私に慌て出すフィナさん。
「多恵様!何処か調子の悪い所がお有りですか⁈すぐ医師を!」
「ごめん違うの…大丈夫だか…」
すると風が吹き目の前が若草色に染まり体が温かさに包まれる。
「フィラ陛下!」
「多恵…我慢するな。辛い時は呼べ」
「ごめん…」
フィラの胸に顔を埋めて一生懸命落ち着こうとするが、フィラが私を抱き上げフィナさんに
「多恵が弱っている。少しの間妖精城で預かる。7刻迄に帰すとダラスに伝えろ」
「かっ畏まりました」
顔を上げてフィナさんに謝ろうとしたら、フィラが頭を抱えこんで妖精城へと転移した。
少し気持ち悪い感覚が有り目を開けると、妖精城の私が泊まる部屋だ。ベッドの縁に座り私を膝の上に乗せ、口付け背中を撫でて慰めてくれる。少し落ち着いたら話したくなり大きい独り言を言う私。
「夫人の話を聞いて夫婦って所詮他人なのかなぁ…って思ったら寂しく?悲しく?なって来た所にキースから手紙を貰い、猛烈に泣きたくなって」
「夫婦の形は色々だ。初めは愛していても変わる事もあれば、愛さず夫婦になり後に心の底から愛すこともある。しかしすれ違っても愛は有るもんだ」
フィラの言葉と温もりが心細かった私の心を和らげてくれる。自分から抱き着き顔を上にあげて口付けをねだった。
フィラは嬉しそうに口付け愛を沢山囁いてくれ、私の心を満たしてくれる。
やっと落ち着き部屋に戻る事に
「ありがとう」
「礼は言うな…他人行儀だろ。俺とお前の魂は常に寄り添っているんだから」
こそばゆい気持ちでフィラに部屋に送ってもらい、待っていたフィナさんに謝る。
フィナさんは頬を染め慰めに来たフィラに興奮している。その様子を複雑な気持ちで見ていたらお腹が鳴った。我に帰りフィナさんは食事の用意を始める。
食事を取り湯浴みをして早目に寝室に行きキースの手紙を読む。封筒を開封するとキースの香りに包まれる。
「もぅ!会いたくなるじゃん!」
キースの手紙は冒頭から愛が炸裂している。そしてもう少しで仕事が落ち着くので会いに来てくれるらしい。途端にテンションが上がる。そしてグラントの長期滞在に嫉妬心MAXなキース。長期休暇を勝ち取るべく仕事をこなしているそうだ。
嬉しい反面無理しないで欲しい。そして吉報。先日婚約中の妹さんが婚姻し式が行われたと書かれている。以前領地に訪問した際は時間がなく、妹さんに会えていない。ちゃんと会ってみたい。お母様がすごい美人だったから美人なんだろうなぁ…
ふとガラスに薄っすら映る自分を見て悲しくなって来る。
『ほんと…女神の乙女じゃなければ、この箱庭の生存条件を満たさないなぁ…私』
一人落ち込んでいたら
『たえ いちばん かわいい!』
『ありがとう…そう言ってくれるのてん君だけだよ』
『みんな いう!』
てん君をもふり慰められて少し気分は浮上した。手紙を直し返事は明日書く事にして早めに休む。明日は少しゆっくり出来るかなぁ?
しかし私が休んでいる間に事態は動いていて、翌朝からまた厄介な話が舞い込むなんてこの時は思ってもみなかった。
翌朝てん君の肉球パンチで目覚める。相変わらず背中は温かく守られている。後ろを振り返り”おはよう”と言おうとしたら挨拶代わりにキスをいただく。
寝返りをしてフィラの胸元に顔を埋めて朝からエネルギーチャージ!
ここ数日甘えたの私である。そして機嫌が良くなって思わずもう直ぐキースが来ることを話してしまう。
『やっちゃった!朝からフィラがやきもちやくじゃん!』
そう思ったけど以外に冷静なフィラは
「俺自身は面白く無いが、多恵が心穏やかになるならいい。あいつらは多恵が寂しい時に駆けつけられないからな。こうやって朝来るのは俺だけだから他は許す」
ビックリしてまじまじと顔を見ていたら
「惚れたか?」
「うん!」
そう答えるとフィラは襟元のリボンを解き出した!すると
「痛っ!」
「へ?」
てん君がフィラの手を噛んでいる。
『止めて!早朝流血!』
そう思っていたらてん君が
『つよい あまがみ ち でてない』
自慢げな顔で私を見ている。噛む加減も覚えて様だ。フィラは噛まれた手を撫でながら
『あんな可愛い事言われて雄が我慢出来るわけないだろう!俺は悪くない』
『フィラ わるい まだ つがい ない』
何だろう…2人が揃うと必ず言い合いになる。
でも最近てん君が大人になったから前ほど心配していない。それに今日は噛む加減を覚えたしね。
“コンコン”
控えめに扉をノックするフィナさん。起こしに来た様だ。てん君に追い帰られフィラが帰り、フィナさんに入室してもらう。
顔色が悪いフィナさん。一晩の間に何があったの?
すると申し訳なさそうに
「ご起床になられた所申し訳ございません。朝一から陛下とチェイス様がお見えで、多恵様ご起床をお待ちになっておられ…」
「マジ!」
今猛烈に嫌な予感がして来た!
もぅ!ご機嫌な朝を返してくれ〜
直ぐに着替えを用意してもらい身支度してお2人の元へ。ソファーに座り書類を見ながら話をしている2人は声をかけ辛い。
『回れ右して部屋に戻ろっかな…』
そう思い後退りしたら陛下が気付いた。破顔し足早に来て抱きしめて来る陛下。
「陛下!力加減間違ってます!苦しい!」
謝るが腕を解いてくれない陛下。お疲れなのか見上げると少し目元が窪んでいる。
チェイス様に声をかけられやっと解放され、手を取られて隣に座る。するとチェイス様が
「早朝、港から早馬が来てエリアス殿が乗っていたであろう小船が沖合で転覆しているのが確認されて、今調査団を送りました」
「へ?」
「あと、多恵様がオーギス侯爵夫人から聞き出していただいた、側近ダンテの屋敷を調査しましたが何も出ず難航しております。多恵様にお気付きになる事が無いかお知恵をお借りしたい」
思わず遠い目をしてしまう。昨日で私の役目は終わったと思っていたよ…
『もー!マジモーブル問題多すぎ!リリス!聞いてないよー』
心でリリスに悪態を吐き、ほんの少し心の旅に出てしまう…
心の旅はチェイス様の一言で一瞬で連れ戻され、ダイニングで朝食を目の前に私の仕事の説明を受けていた。
転覆事故に関しては詳細報告が未だなので、食後にダンテの屋敷に向かい捜索隊に合流する事になった。
朝食を食べていても味がしない。これじゃあ痩せても仕方ないよねー。痩せたって文句言わないでね!
食べ終わると陛下とチェイス様はそれぞれ忙しそうに退室して行った。フィナさんに急かされ着替え同行する騎士さんが迎えるのを待つ。少ししたらお迎えが…
「多恵様。私が同行致します…お疲れの所申し訳ございません」
「えっと…レックス団長自ら護衛いただいて光栄です。でも大丈夫ですか?お疲れの様です」
屈強な騎士の皆さんも疲れが見て取れる。しかしレックス団長は”今が頑張り時です”と眉間にシワを寄せる。その姿を見て私も気合いを入れ直す。
こうしてレックス団長他騎士団の皆さんとダンテの町屋敷に向かった。
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