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エリアス

報告会が終わり休憩を挟み夕方からはオーギス侯爵家の方々が登城され事情聴取が行われる。そして夫人から話を聞く事になり…

「あの…そろそろ下ろして下さい」

「否。このままお部屋の中まで。こうしているのも私を癒してくれているのですよ」

「嘘だ。こんな重い荷物わたしを運んだら疲れるに決まってますよ」

「はぁ…何故多恵様はご自分が重いと認識されているのでしょう⁈失礼だが他の令嬢やご婦人に比べて軽すぎる。まるで少女こどもを抱いている様だ」


そう言うシリウスさんの後ろに控えるリチャードが頷いている。この箱庭には体重計が無い。だから今自分が何㎏なのか分からないけど、鏡で見た体型から推測するに50㎏位か?

でも50kgは十分重いと思うぞ!


結局何を言ってもシリウスさんは下ろしてくれず部屋に着いた。部屋に入るとモリーナさんが沢山のお茶菓子を用意して待っていてくれた。好きなものばかりで顔が綻ぶ。やっとシリウスさんが椅子に下してくれ、頬に手を当てて反対の頬に口付けて戻って行った。

横でお茶を入れながら悶えているモリーナさん。

この世界の男性の極甘に未だ慣れず心臓に悪い。落ち着くためにいい香りのお茶を頂き深呼吸する。

お茶菓子を頂いているとモリーナさんが着替えるか聞いてくる。会議があるから一応デイドレスを着ていたが、侯爵夫人との面会は応接室で行われ畏まる必要が無いそうだ。

勿論!楽な格好一択で!

お茶の後に寝室で着替えをするが…


「多恵様!またお痩せになっておいでです。もう少し召し上がって頂かないとドレスを全てお直しになりますわ」

「そうなったらゴードンさんが喜びそうだね」


真面目な顔をしていたモリーナさんは口元を隠して横を向いて笑っている。モリーナさんも同じ事を思っていたみたい。

取りあえずウエストを太目のリボンで結ぶロングワンピースに着替えてウエストをきつめに結び調整した。

お迎えが来るまでソファーで本を読んでいたらリチャードさんがオーギス侯爵夫人が登城したと伝えに来て応接室への移動を促す。


『あのエリアス様の奥様だ。狡猾な方かもしれない』


言いくるめられない様に気合を入れて応接室へ向かう。城内はオーギス侯爵家の方々の登城で慌ただしく、文官さんと騎士さんが走り回っている。

すこし不安が顔を出したら察したリチャードさんが手を握り微笑んでくれる。こういう心遣いは聖騎士らしくてありがたい。

夫人が待っている応接室が見えて来た。入室前にリチャードさんから説明がされる。


「応接室には夫人の侍女が同席し、こちら側は護衛の私と記録を取る為に文官が1名同席します。家門取り潰しを避けるために情に訴えるかもしれません。大丈夫かと思いますが、事実確認のみとし冷静にお聞きください」

「はい。リチャードさんが居てくれるなら安心です」

「お護りいたします。我々にお任せを…」


頷き緊張しながら応接室に入るとアラフォーの可愛らしい面立ちの女性が俯き気味に座っていた。私に気付いて慌てて立ち上がるとバランス崩し侍女さんに支えられ、その様子から心労の濃さが窺える。


「無理なさらずお座りください。私は元々平民なので礼儀作法を気にしませんから…」

「そういう訳には…」


震えながらカーテシーをしてご挨拶頂くが痛々しく見てられない。直ぐに座ってもらいお茶とお菓子を出してもらう。


「お体は大丈夫ですか?馬車移動は体に負担がかかりますから」

「お気遣いありがとうございます。しかし我が家門が犯した罪を考えるとそうも言ってられません故」


付添う侍女さんに夫人が調子が悪くなったら止める様に言い本題に入る。


「ではエリアスさんが逃亡した時の事を話してもらえますか?」

「はい…あれは突然の事でした。側近のダンテが手紙を持ち夫の元へ駆け込んで来たのです。手紙を読んだ夫は青い顔をして船室へ走って行きました。そして私も何が入っているか分からないトランク1つだけ持って来て私を強く抱きしめて


“いつか迎えに来るから今は我慢してくれ”


とだけ言い聞く間も無く出て行きました。唖然とし暫く動けなかった。そして下僕達に夫の向かった先を聞くと甲板だと言い慌てて向かいました」


そこまで話すと震えながら嗚咽を漏らす夫人。夫人の隣に移り背中を撫でて落ち着くのを待つ。少し落ち着いた夫人は話を続けて


「甲板に着くと夫の姿はなく、船員が下を見ていたんです。私も覗き込むと小船に乗っている夫がいました。大声で呼んでも声は届かず、ただ見ているだけでした。そして夫はトランクから書類を取り出しそれを海に投げ捨ててしまったんです。そして私を見る事もなく行ってしまった」


そう言いまた泣き出す夫人。ハンカチを差し出すと受け取る夫人の手は冷たくギョッとした。


「エリアスさんがチャイラと何をしていたか分かりますか?」

「詳しくは…ただあの人はチャイラに恩があると常々言っていました。恐らく妹のアナスタシアが影響していると思います」

「妹君?て確か…チャライ島に嫁いだという方ですか?」


夫人の話によると妹のアナスタシアさんは生まれつき右耳から鎖骨にかけて色の濃い痣があるらしく、嫁ぎ先が無く本人は引きこもり自暴自棄になり何度も自殺未遂を起こしていたそうだ。そこにチャイラから島主の嫡男から縁組の話が舞い込む。


「アナには痣は有りますがスタイルも良くキレイな顔立ちをしていました。私も仲良くしており心根の優しいいい子です。痣が気にしない殿方でしたら魅力的なです。そしてその嫡男はアナを気に入り直ぐにチャイラに嫁いだのです。しかし…」

「しかし?」


この縁組は単純に縁談では無くチャイラ側には思惑があった。豊かなモーブルに潜り込む為に入口になる人物が必要でそれがエリアスさんだ。この時エリアスさんは宰相補佐を有力視されていて、出世頭で期待されていたそうだ。そんなエリアスさんに恩を売った訳だ。

そして次期島主の妻となり後継ぎを生んだアナスタシアさんはチャイラ島で幸せに暮らし、チャイラ島の人々を助けたいと思う様になり、エリアスさんに色々お願いをする様になっていった。そうして妹が可愛いエリアスさんは応じて行くうちに、気がつくとチャイラの手先になっていた。

神の加護の無いチャイラは天災や不作に流行病が多く困る事が多い。そこで神の加護がある各国とのコネクトをつくるに必死で、手っ取り早い婚姻による縁組を勧めて来た。

キースの妹さんの求婚もアルディアの港を自由に使いたい意図があったのがわかる。


「あまりにもチャイラに加担する夫に何度も苦言を呈しました。勿論息子も…」


また夫人の表情が曇る。どうやら息子さんと夫人が注意をしてからエリアスさんは隠れて行動することが増え、夫人は把握出来なくなったそうだ。そして実弟のパルス伯爵との付き合いが増え、更に実態が掴めなくなり


「社交の場で夫の噂は耳に入り不安で堪りませんでした。そこへ乙女様がモーブルにお越しになられ、エリアスは更にイラつく事が増え屋敷に戻らない事も多く、この辺りからあの優しく真面目だったエリアスは消えてしまいました」


そう言うと遠い目をする夫人。夫人の話の感じでは本当に何も知らされていない様だ。

夫婦で大切な事を話してもらえないのは悲しい。そりゃ多少の秘密ごとはどの夫婦にもある。私だって大輔に内緒にしている事は多少…あれは多少か?少しはある。


「他に思い当たる事は有りませんか?」


少し考えて”無い”と言った婦人が何か思い出し


「そう言えば乙女様がモーブルにお越しになる事が決まり暫くしてから夫は、側近のダンテに王都に家を用意したです。夫は王都の町屋敷でなくダンテの家に行く事が増え不満に思っておりました。その件について聞いても”ダンテに仕事の指示や報告のため”と言い、てっきりダンテをダシに愛人を囲っているのだと疑っていました」


夫人がそう言うと文官さんが私を見て首を振っている。もしかして新証言か?

夫人に場所を聞くと文官さんが足早に部屋から出て行った。溜息を吐き夫人は


「エリアスはバレて無いと思っていますが、ここ最近側に置いているのはチャイラと関係あるものばかり。それも傭兵のような者もいると執事から聞き心配していたのです。噂ではエリアスに意見すると危険な目に合うと聞きます。そしてその怪しい者達を束ねるのがダンテのようです」


すると急に立ち上がった夫人は両膝をつき頭を下げ両手を胸元で手を組み涙目で


「恐らく多恵様にスイマンを盛ったのはダンテ。多恵様に毒ドレッシングが出された夜に、珍しく屋敷に来たエリアスは顔色が悪く遅れて来たダンテを執務室に呼び付け、遅くまでダンテを怒鳴りつけていたのを覚えています。何事かと執務室の様子を伺うと…」

「!」


話を聞いていたリチャードさんは急に退室して代わりに外に控えていた騎士さんが入室してきた。私は話を聞き”やっぱりね”って感じだった。

毒ドレッシング事件の首謀者で実行犯はダンテ率いる傭兵達。エリアスさんは何度止めてもバスグル人に会いに行こうとする私を止めさせる為に、当日体調を壊す様に食事に細工する様に指示。エリアスさんは睡眠薬位で考えていたのに殺人未遂になり焦った様だ。


「私と息子は夫を止めれず同罪でございます。家のお取潰しと身分剥奪は覚悟しております…しかし!屋敷に使えるもの達は何も知らず、真面目に仕えて来ました。罪なき様お願いいたします」


そう言い土下座する夫人。慌てて駆け寄り夫人を起こし侍女さんと支えソファーに座ってもらう。


「お体が辛いのにお話下さってありがとうございます。今お聞きした話を陛下に報告し、処遇は後に決まるでしょう。まずはお体を休めていただき、モーブル貴族として責務を全う下さい」

「はい。最後までモーブル貴族の誇りを忘れず罪は償いいたしますわ」


最後は侯爵夫人らしく凛とした表情で返事をいただき少し安心する。

いいタイミングでリチャードさんが騎士さんと戻った。夫人は暫く王城の貴族用の牢に収監されるそうだ。別れる前に夫人をハグした。


騎士に連行される夫人を見送りソファーに沈み込む。夫人の話でエリアスさんの動機は分かったけど許されることでは無い。妹の為に自国を裏切っているのだ。


「これでモーブルの問題は解決?…じゃ無かった!バスグルとの労働協定と(王妃様の件)…」


危なっ!リチャードさんと文官さんがまだ居たんだった。王妃様の話はしちゃダメじゃん!少し冷や汗が出たところでリチャードさんが戻りを促す。

今日の予定は一応これで終わり。今日は早く寝もう…だって明日からも大変なのは目に見えているからね…

こうして後味悪いオーギス侯爵夫人どの面会終えたのでした。

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