罪状
大捕物はエリアス逃亡で幕を閉じた。膿を出し切りれたのか?
「多恵様。到着は恐らく1刻を過ぎると思われます。お疲れでしょう⁈お休み下さい」
「ありがとう。でも興奮しているのかなぁ…乗り物に乗ると高確率で寝てしまうのに全く眠くないの。何か“燃え尽き症候群”って感じ?」
微妙な顔をして微笑むアイリスさん。そして一言だけ
「私は詳細を知らされておりませんが、皆さんよく頑張られましたわ。そして誰の責任でもない」
「…ありがとう。でもね良くても悪くても後で“こうしておけば”って思うものなんだよ。その思いが自分の経験値になり、次何か困難にあった時に自分を助けてくれるの。だから人は後悔する事はとても大切な時間なんだよ」
そう言うとアイリスさんは隣に来て優しく抱きしめて背を撫でてくれる。
「流石私が認めた女性…敬意を」
「買い被りすぎだよ。元の世界では只のおばちゃんなんだから…」
「おばちゃん?」
そう言うと少し眠気が来た。遠くで8刻を告げる鐘が鳴り響く。眠れないと思ったけど睡魔に誘導され目を閉じた。
ゆっくり意識が浮上したら大好きな香りに包まれ目が覚めた。目の前には逞しい胸が…見上げるとフィラが抱きしめている。
「目が覚めたか?」
「うん。おはよう…て私の部屋?」
「あぁ…もう昼だがな」
ベッドサイドの時計を見るともうすぐ4刻だ。馬車で寝てしまい誰かが運んでくれたのだろう。
「大変だったな」
「うん…でも残念な結果に」
「お前が気に病むことは無い。良くやったよ」
「本当に?」
そう言うと優しく口付けをくれるフィラ。眠って体力は回復したが心が疲れ癒して欲しくて自分からフィラに強く抱きつく。頭や背中を優しく撫でてくれ思いっきり甘やかしてくれるフィラ。心がポカポカして来た。するとてん君が
『たえ とびら そと みんな まってる』
『そうなの?』
『フィラ しってる でも むし わるいやつ』
『待っているなんて知らなかった。起きなきゃ!』
『フィラ かえる』
いつも通り帰りを促すてん君とフィラの小競り合いがあったが、私が珍しく甘えたのでフィラはご機嫌で帰って行った。
てん君を呼ぶと私の手の下に頭を持って来てなでもふを要求し、めいいっぱいもふってあげる。満足したてん君はベッドから飛び降り走って扉まで行き前脚で扉を叩く。するとモリーナさんが入室し身支度を手伝ってくれる。
「寝落ちしちゃったけど、何方が運んでくれたの?」
「陛下が…」
「えっ!マジ?」
「はい…リチャード様がお出迎えに行かれたのですが、陛下が率先して…」
「あっ…もうそれ以上はいいです」
溜息を吐いて部屋に行くと食事が用意されていた。1食抜いているからお腹がペコペコだ。
着席すると目の前にもう一人前用意がされているのに気付く。モリーナさんを思わず見ると困った顔をして陛下がこの後来ると言うのだ。
目が点になっていたらモリーナさんが報告会が1刻半から大会議室で行われると教えてくれる。
集められた貴族達に不正貴族摘発からエリアス逮捕失敗の報告がされるそうだ。時間があまり無いから早く食べないといけないけど、陛下が来るなら待たないといけないなぁ…
『お腹すいた…』
仕方なく陛下が来るまでソファーに寝転がっていたらまた睡魔が…てん君の肉球が頬に当たる気がするけど…今日の睡魔は強力で…
「?」
頬が温かい気がする…目を開けると間近に私の頬を撫でる陛下が!
「!!」
思わず息の飲むと陛下は私の背中に腕を廻し起こしてくれた。後でモリーナさんに聞くとうたた寝していたのはほんの数分だったらしく安心する。モリーナさんは陛下がお越しになった時に起こそうとしたが、陛下が寝ている私の顔を眺めだし起こせなかったそうだ。
『寝顔を見られるなんて恥ずかしい…何処かに隠れたい』
そう思っていたら陛下は私を抱き上げダイニングまで運んでくれる。
「陛下…過保護だと思うんですが」
「貴女には無理をさせている。これ位させてくれ。なんなら私を下僕扱いしてくれればいい」
「やめて下さい!一国の王を下僕扱い何て出来る訳ない!下して!」
陛下は楽しそうに笑い椅子まで運び下してくれ一緒に食事をとる。食事中は他愛もない話をして美味しい食事を味わい、デザートが出されると人払いがされた。
『重要な話があるのね…』
すると座り直した陛下が…
「この後に今回の一連の報告が行われる。貴女も出席してもらいたい。そして夕刻にはエリアスの側近と夫人が港から戻り登城する。ここで貴女には夫人から証言を取ってもらいたい」
「私に務まるとは思えません。どなたか文官さんや他の方が…」
「いや。同じ女性の方が話しやすいだろう。それに女性でも女官では政の話は出来んしな」
「分かりました。あまり期待しないで下さいね」
こうして陛下との食事を終えて一緒に大会議室い向かう。そのまま陛下にエスコートされ廊下を歩いていると前方から女性の集団が…私の手を持つ陛下の手に力が入る。
「?」
よく見ると王妃様御一行だ。思わず手を離そうとしたら反対に陛下に手を強く握られ、腰を引き寄せられた。こちらに気付いた先頭の女官が険しい顔をしてこちらを見ている。そして
「あら、まだ日が高い内から密会かしら?」
「其方は何時になったら私と話し合いをする気だ?」
「私に話す事はございませんわ。早く離縁してくださいませ。早くせねば陛下が口説かれる前に、乙女様はレックロッド帝国に向われてしまいますわよ」
『誰か~助けて!ツンドラの様に冷え切っている!』
心でヒーローを呼んでみたが来てくれるわけも無く、どうしていいか分からない。そこにグレン殿下が午後の講義の為に通りかかった。王妃様は綺麗な礼をしてグレン殿下の元へ行ってしまい、そして陛下は難しい顔をしたまま移動を再開する。
そして一言
「すまん…こちらの方も早く解決する故、待って欲しい」
「いえ…」
『って言うか夫婦の問題だから私関係なくなぃ?』
て言葉を発する直前に必死に飲み込んだ。陛下の機嫌が悪いく気まずいまま大会議室にやっと着いた。
入室すると高位貴族の面々が揃っている。
陛下の元へチェイス様が来て何か報告している。陛下のホールドが緩み私は目立ちたく無く、こっそり下座の席に気配を消して移動する。一番端の席に若い文官さんがいて私を見て驚いている。
「仲間に入れて下さいね〜」
と告げ席に着こうと椅子を引いたら誰かに手を取られ、振り返るとシリウスさんだった。そのまま手を引かれ上座に連れて行かれ一番前に座らされた。勿論隣はチェイス様とシリウスさん。
途端に高位貴族のイケおじ様が立ち上がり胸に手を当ててお辞儀をされる。陛下にかと思ったらどうやら私の様で慌てて立ち上がりお辞儀をする。
そしてチェイス様進行のもと報告会議は始まった。挨拶をするチェイス様は窶れていて倒れないか心配。
「本日お集まり頂いたのは、誇り高きモーブル貴族が王国を裏切り敬愛するリリスの自然を穢した。罪を犯した者達を裁きたくお呼び致しました。既にお耳に入りご存知かと思いますが、最後までお聞きいただきご意見賜りたい」
そして文官さん達が資料を配る。その資料には不正をしていた貴族の名と罪が書かれていた。
一番上に書かれているのはエリアス様のオーギス侯爵家。チャイラから人の手を加えた種子や肥料でモーブルの土地を汚した事と、チャイラ人ブローカーに利権を与え非人道的な扱いでバスグル人を貴族に斡旋した事。
そしてキーモス侯爵とシジラー伯爵はオーギス侯爵家からチャイラからの肥料や種子を買い領内で内密に育て土地を自然を壊し、またバスグル人を劣悪な環境で不法に雇い入れ、徴収した税を着服していた。
捜査協力したチーキス子爵はバスグル人不法雇用と徴収税の着服。
あとの貴族はオーギス侯爵家やキーモス侯爵家に逆らえず、バスグル人を斡旋され雇い入れていたのか殆どで、後は何か知らされずチャイラからの荷物を預かっていただけだ。
公爵家の皆さんの表情は厳しく赤ちゃんがこの場にいたらギャン泣きのレベル。
真前で見ている私も正直泣きたいくらい…
だってあの穏やかだったランティス公爵様なんて顳顬に血管が浮いているもん!
そしてシリウスさんのご実家のサザライス公爵様が陛下に発言許可を得て
「歴史のある誇り高きモーブル貴族の堕落は嘆かわしい。不正を犯した家門は取り潰すべきだ」
強い口調でサザライス公爵様が言うと、他の公爵家の当主の皆さんは賛同する。しかし貴族派の力は強く取引がある家門は複雑な顔をしている。実際これだけ家門が取り潰しになれば、貴族が減り政に影響が出るし領地の分配にも困り納めされないだろう。正直現実的では無く腕組みをして考えていたら陛下が私を見ている。そして微笑み
「多恵殿。思う所はあるか?」
「はい…でも言っていいんですか?」
「構わない。私は貴女の意見が聞きたい」
「では…」
お家の取り潰しは簡単だが、残った領地の領民の生活を考えると現実厳しい。代わりに王家が担うには負担が大き過ぎる旨を伝え、今回の不正に関わっていない子息又は縁者の者に管理させて正しい領地運営の基盤を作る。
そして2度と不正を働かない様に王城から2年任期で文官を定期的に送り監査を入れる事を提案した。
「何故2年なのです?」
「私の世界では長く共にすると情や忖度がどうしても起こり、便宜を図ったり融通を利かすようになるものです。だから金融機関や公的機関は職員と顧客の仲が深くならない様に定期的に配置転換するんです」
この箱庭には無い考えらしく皆さん口を開けて驚いている。そして私の案取り入れられ今回捕まった貴族達は当面の間は文官さんの監査を受け家を立て直す事になった。
もちろん爵位の降格もあるだろう。
不正に関与した当主と子息は各家が責任を持ち領地に軟禁。罪が重いキーモス侯爵と嫡男、シジラー伯爵と嫡男、パルス伯爵は暫く収監され後に身分を剥奪され、国の監視の元労働にて罪を償う事になるそうだ。
そして当事者で逃亡したオーギス侯爵家についてはこの後到着する側近と夫人とこの後登城する子息から事情聴取の後に処分を決める事として今日の報告会を終えた。
会議が終わると同時にサザライス公爵様が来て処分が甘すぎると訴えてくる。
貴族としてのプライドが高い公爵様は許せないのは分かる。でも処罰しその領地や領民を直ぐに救済出来るのなら問題ないが、正直これだけの事があり今王家に処理できるキャパが有ると思えない。
「お気持ちわかります。しかし国は国民あってのもの。貴族だけで成り立つものではありません。まず今回裁かれる家門の領地をしっかり守る必要がある。罪人達を裁くのはいつでも出来るんです。先ずは国民(領民)です」
「しかし…労働などと生ぬるい」
そっかサザライス家は騎士を多く輩出してるんだった。規律を重んじるのね。
「高貴な貴族が身分剥奪の上、平民と同様の扱いを受けるのは心身ともに苦痛のはずです。長く続く贖罪の方が辛いと思うますが」
眉間に皺を寄せて何か言おうとした公爵。すると
「閣下。多恵様は貴族の誇りやプライドよりこの国や国民を優先でお考えでございます。我々貴族は領民無く存在はできない」
「っつ!」
シリウスさんの援護射撃が効いたのか公爵は引き下がり退室していった。
「申し訳ない。父はモーブル貴族としてのプライドが高く、今回の家門の者達が許せないのでしょう」
「それだけモーブルを愛しておいでなんですよ。ご立派なお方です」
そう言うと蕩けそうな瞳で見つめていたシリウスさんは
「多恵様…抱きしめていいですか?」
「えっと…はい…」
ゆっくり私を抱き込んだシリウスさんを見上げ、やっぱり窶れているお顔を見て心配になる。また妖精に頼んで滋養強壮剤を差し入れしよう。
「昨晩は少しでも眠れましたか?ちゃんと休める時は寝てくださいね」
「私はそんなに柔ではありません。ただこうして貴女を抱きしめていれば疲れは取れますから」
「いや!そんなんじゃ元気になりせんから!」
「なら即効性がある口付けを与えて下さい」
「なっ!」
いきなりのお願いに顔が熱くなる。そうすると嬉しそうに笑いながら
「唇にいただければ最高でしょうが、そればまた無理なのは俺が一番よくわかっています。だから頬でいいんです。ダメですか?」
「!」
ダメだシリウスさんの頭にケモ耳が生えた!
まるで大型犬…ハスキーだ!そんな可愛い事言われたら拒否できないじゃん!
期待した目で見ているシリウスさん。
悩んだが癒してあげたい気持ちもあり、意決して首に抱き着き頬に口付けた!シリウスさんは破顔して反対の頬も差し出す。
「今日は特別ですからね!」
「はい!」
そして反対の頬にも口付けた。この後一旦部屋に戻るがシリウスさんに抱っこされ下ろしてもらえなかったのは言うまでも無い。
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