若き神
やっと不正貴族の摘発が終わり気が抜け…
「あれ?ここ…」
目が覚めたら真っ暗で足元に羽が敷き詰められている部屋。そうここは女神の台座のこっち側だ。いつ移動したの?
するといきなり背中が温かくなった。この香りは…見上げて
「フィラ」
「多恵…」
何故かフィラまでいる。状況が分からずただフィラのキスの嵐にのまれる。
『いい加減にしなさい』
「俺にしては珍しく我慢してるんだ。ちょっとくらいいいだろう⁈」
声のする方を見たらリリスの聖獣ボリスが立っていた。ボリスか羽を広げたのでフィラの腕から離れてボリスに飛びつく。温かい羽毛に包まれ癒され安心する。やっぱりボリスはお母さん。
『今回もよく頑張りましたね。リリスが感謝してましたよ』
「リリスが?何で?」
『あの者達は禁忌を犯していた。しかし私達は危険がない限り人に手は出せない。手立てが無く困っていたのよ』
ボリスが静かに話し出した。話を聞きリリスの感謝する理由がわかる。
どうやらキーモス侯爵と一部の貴族は自然に手を出し所謂の品種改良をしようとしていたそうだ。この世界の植物は妖精の力で芽吹き育つ。
そこにもっと収穫量を増やしたい者達が早く成長する様に品種改良を試み、近い品種を交配に人工肥料を足し、接ぎ木等もして箱庭にない新たな品種を作ろとしていたそうだ。
『かなり前から妖精達が困っていたの。妖精達の妖力を受けた植物は枯れたり虫に食われることはない。しかし一度でも人の手が入ると妖精の加護から外れ、何かあっても助けられない。あの者達は自分達に都合のいい農作物を収穫する為に、植物を実験し命を粗末にして来た。妖精達はなんとかしようとして来たわ。しかし制約があり妖精達は人に手を出せず、指を咥えて見てるだけだったわ』
「フィラ本当?そんな話聞いて…」
「これは妖精国の問題で、今多恵はモーブルの問題に着手している。言える訳ないだろう」
驚き思わず口を開け固まる。もしかして…
「ボリス…もしかしてこの箱庭で一番深刻だったのはモーブルなの?」
『えぇ…モーブルは人と妖精、更に自然との均衡が崩れているわ。正直なところリリスは多恵に一番にモーブルを選んで欲しかったの』
そんな事になっているなんて…箱庭は問題だらけじゃん!
リリスの気持も分かるけど一番はじめにモーブルに召還されても、何も分からない私がこんなヘビーな問題を対応できる訳ない。今思うもあまり難しく無いアルディアが1番でよかったんだ。
アルディアでこの世界を学び慣れたお陰で、今モーブルで対応できている。
心でアルディアの皆さんに感謝した。
「私の世界なら品種改良はよくある事で、詳しくは知らなくても一般人でも何となく知っている知識だよ。妖精の加護があるこの箱庭にそんな知識あるなんてびっくりだよ」
『リリスの箱庭の知識では無いわ…チャイラから入って来たのよ』
「げっ!またチャイラ⁈良くない事は全部チャイラ発信だね」
ボリスもフィラも苦々しい顔をしている。チャイラに何か思う所でもあるだろうか?いやあるな!あの表情は…
するとボリスが天を仰いで、そして
『リリスから了解を貰ったから話すわ。でもこの話はここだけの話にしてね』
「はい!私案外口堅いです」
こうしてボリスは驚きの事実を明かした。アルディアに居る時にチャイラ島は神や女神の加護を受けていないと聞いていたが、実は遥か昔に神によって創られその神の加護を受けていたそうだ。5人の女神が箱庭を創り出す前の話でこの事は女神しか知らない。
「何で加護が無くなったんですか?」
『それは…』
チャイラ島を創造した神は若く力が弱く、創造出来たのは小さな島。動植物を創り豊かな島を創った。それに満足した若き神はもっと自分の力を誇示しょうとした。そして神に姿形が近い人を創造した。
『動物と違い人は複雑で若い神が制御できるものでは無かった。どんどん欲深い人によって島の自然は破壊されて行き、力を使い果たした若き神は最後は島を存続させ消えてしまったわ。そして加護を失くした島は人が独自に文明を生み人によって繁栄してきたの』
チャイラは独自で発展し色んな知恵を持って、ずる賢く生きて来たんだ。私の世界ではより便利により快適に生活する為に開発や研究するのは当たり前の事だが、加護のあるこの世界では異質なら考えらしい。
「先日捕まえて者たちは主犯格。しかしチャイラと直接つながっている者がまだいる。賢い多恵なら分かるな」
「あ…うん」
「あれを何とかせねばモーブルは変わらん。妖精たちの不満も大きくなる前に対処せねば」
「分かった…頑張るよ」
やっぱり来た時からチャイラには何かあると思ったが、やっぱりね…
例の人の対策を早速考えていたらフィラが抱き寄せて
「落ち着いたか?」
「うん?何で?」
「キーモス侯爵を捕まえたら後、泣いていただろう」
「あ…」
そうだ…相手は悪人とは言え騙した事に罪悪感を感じ苦しかったんだ。また気分が落ち込んで来たら
「多恵は何一つ悪くない。寧ろ嫌な男に取り入り苦痛だっただろう⁈どこを触られた?俺が上書きしてやる!」
「ありがとう。でも迎えに来てくれたグラントがしてくれたから大丈夫」
するといきなり両手で私の頬を包んだフィラは上を向かせて激しいキスをして来た。苦しくてフィラの胸元を叩く。
『やめなさい!多恵が苦しがっているわ!』
ボリスがフィラの頭を叩きやっと解放された。明らかに拗ねているフィラ。そして…
「俺はモーブルの邪魔にならない様に我慢している。それなのにグラントが来て多恵はグラントばかりだ。俺が一番に婚約したのに!」
『嫉妬?みっともない。多恵が複数の夫を迎えるのは分かっていた事でしょ!』
「…」
母親に怒られる子供の様に不貞腐れて黙ってしまった。その姿が愛おしくて私から抱き付いてキスをし
「婚約者は皆同じくらい大好き。今はお仕事の関係上グラントが近いだけ。妖精国に行けばフィラだけだよ」
「多恵…俺の番が可愛すぎる…」
フィラは抱きしめて私の頭の上に頬を乗せブツブツ独り言を言っている。その様をみて呆れるボリス。そして暫してボリスが
『今、多恵の肉体はモーブルの自室で眠っているわ。早く戻りなさい。婚約者のグラントがアルディアに戻るから。せめて一目会って暫しのお別れをして来てあげなさい』
「えっ!もう帰るの?って言うか私どのくらい眠っているの?」
「2日だ」
「うそ!」
こうしてリリス(代理ボリス)の報告も終わり戻る事になった。ボリスにハグしお礼を言い、フィラに抱き付きキスをした。すると体が浮く感じがして…
「多恵!」
「あ…おはよう?わっ!」
目が覚め起きる上がると同時にグラントに抱き付かれた。ボリスの言った通り2日眠り続けていたようだ。見つめて来るグラントの目元が窪んでいる。
どうやら私が馬車で泣きつかれて眠ってしまいそのまま長寝している間に、キーモス侯爵とその他の捕まった貴族は取調べを受け、罪状が確定するまで貴族専用の牢に入れられているそうだ。
こらから大変になる。恐らく当主の交代は免れないだろう。
不正貴族の摘発に協力し任務を終えたグラントは帰国するようだ。眠り姫の私が目覚めるギリギリまで帰国を延ばしていたようだ。
『なんかごめんなさい…』
「良かった。帰る前に目覚めて!病気かと思い…」
「ごめんなさい。でも帰る前に一目会えて良かった」
強く抱きしめて来るグラントに身を委ねていて…我に返り
「グラント!離して!2日も湯浴みしていない」
「そんな事!」
「やだ気になる」
「直ぐに帰るんだ。多恵の体温と香りで満たしてくれ…」
「湯浴み後ならウェルカムだけど今は嫌だ!」
っと訴えたが離してくれず結局、時間ギリギリまでグラントは私を離してくれなかった。グラントは私が眠っている間に起きた事を色々話してくれた。
また暫く会えない。寂しさと心細さで胸が苦しい…でも早く役目を終えてグラントやキース、フィラ達と平凡な毎日を送りたいなぁ…
暫くしたらグラントの部下の文官さんが申し訳無さそうな部屋に来て出発を急かす。
身支度出来ていない私はお見送り出来ず、ここでグラントと別れる。涙目のグラントに精一杯微笑んで口付けた。
こうして半月ほどモーブルに滞在していたグラントはアルディアに帰って行った。
寂しさを紛らわす様に時間をかけて湯浴みをする。少し浴室で泣いたのは内緒ね。
着替えて部屋に行くと食事が用意されていた。2日ぶりの食事だから胃に優しいメニューだ。くたくたに煮たポタージュと柔らかいパンをゆっくり食べていたら、モリーナさんとフィナさんが温かい視線で見守る。
何かこそばゆい…
食べ終わりかけたら誰か部屋に来た。モリーナさんが応対してくれる。
どうらやシリウス様が来ている。入ってもらうと蕩けるような微笑みを向けてくれる。
「お体は辛くありませんか?」
「はい。ありがとうございます」
「ゆっくりお休みいただきたいのですが、そうも言ってはおれず、また貴女の知恵をお貸しいただきたい」
「えっと…大丈夫です。それより知恵って?」
「明日夕刻に宰相が帰国します。それまでに対策を講じなければ」
はぁ…終わりまだまだ先のようです。
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