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花茶

曲者のキーモス侯爵は一筋縄ではいかず、結局は侯爵邸に乗り込む事になってしまった

「多恵様はモーブルが終われば次はレックロッドですか?」

「はい。その予定です」

「レックロッドは穀物はほぼ輸入に頼っています。是非我々がレックロッドのお役に立ちたい」

『レックロッドの問題が解決したら、妖精の加護が戻り、多分農作物も育つから君達の出る幕ないと思うけど…今は機嫌よく居てもらわないといけないから、敢えて言わないけどね!』


肯定も否定もせずとりあえず微笑んておいた。馬車の中はなんとかアイリスさんが隣を死守してくれ、今のところキーモス親子の実害はない。しかし…リッキー様の視線が怖すぎる。もしかして視姦されている?

私の様子に気付いたアイリスさんが、冷えるからと大判のストールでリッキー様から隠す様にぐるぐる巻きにした。


2人は何かと取り入ろうとしてるのが分かり、言質を取られない様に答えにくい事は、リッキー様に微笑んで躱した。

窓の外で並走するジョエルさんとバートンさんは時折窓から様子を窺い、目が合うと微笑んでくれる。苦痛の馬車もあと少しらしく、侯爵が見えて来た屋敷を自慢げに紹介してくる。窓の外にギラッギラの屋敷が見えて来た。やっぱり持ち主に似て屋敷もギラついている。


馬車が着くとリッキー様のエスコートで降りる。使用人と執事らしき初老の男性が出迎えてくれる。キーモス侯爵は不機嫌に執事に夫人が出迎えない事を責め立てている。

すると汗を大量かいた執事さんが、ご夫人は体調を崩して休んでいると説明した。

恐らく夫人は嘘がつけないと判断したチェイス様が部屋に軟禁しているのだろう。


「侯爵様。私が我儘を言って急に訪問したんです。反対に体調がすぐれない時に伺い申し訳ないです。夫人を責めないで下さい」

「多恵様はお優しい。父上!多恵様の仰る通りです。未来の母を気遣う多恵様のお気持ちを汲んで頂きたい」

『『『『はぁ?』』』』


さり気に凄い事言ったよこのボンクラ!

デレたら恋人を飛び越えて私を嫁扱いしてくる!目が点になっていると、どさくさに紛れて抱き寄せてまた頬に口付けた!

寒気がしたが必死で我慢する。本当は直ぐに浴室に籠り全身洗い流したい気分だ!


「分かった。後でミリーの様子を見て来てくれ。それから食事の準備は?」

「そっそれが…急な事でまだ出来ておりません。先に応接室でお茶になさいますか?」

「何をしておる!乙女様を待たすなどと!」


また執事さんに当たる侯爵。そして私が急に来たからだとまた執事さんを庇う。執事さんの顔が青く恐らくチェイス様に真実を伝えられて協力をさせられているのが分かる。


『ご愁傷様…』


大狸が主人で同情をした。それに悠長に食事している場合ではない。早く例の部屋を開けてもらわないと!


「お茶会でお菓子を沢山食べてまだお腹は空いていません。それより温かいお茶をいただきたいです」

「愛しい人がお茶をご所望だ。貴賓室にお茶の準備をしてくれ」

「畏まりました」


こうしてお茶頂くことに。お茶を飲みながら例の部屋にどう誘導するか考える。実は作戦は私に託されていて、馬車でもずっと考えていて重圧プレッシャーに吐きそうになっている。

王城出発直前にアイリスさんがチェイス様から伝言を預かっていた。


『作戦を立てる時間もなく、これ以降は多恵様にお任せます。明日の帰城までに例の部屋に誘導して下さい』だって!


今日1日で絶対また痩せたよ。

やっと屋敷に入り貴賓室に案内してもらう。夜になり屋敷もひっそりしている。

案内された貴賓室は目がチカチカし豪華絢爛な部屋で、成金感半端なく座ると当たり前の様にリッキー様が隣に座り腰に腕を回す。帰ったら絶対湯浴みにいつもの倍時間をかけると決めた。


少しするとお茶が運ばれた。本当に温かいお茶が欲しかったので直ぐ頂く。


「あっ!」

「もしかしてこれでございますか⁈」

「はい!似てます」


実は馬車で烏龍茶の特徴を聞かれ2人に話していた。どうやら私の話から近い茶葉を入れてくれていた。本当に味は似ている。


「でしたらご用意しましょう」

『あ…上手くいったら…』


ここで閃き賭けにでる事にした。上手く行けば良いけど…

後ろに控える護衛の2人に合図を送る。これはキーモス邸に向かう前に、私が作戦決行を決めた時に待機しているシリウスさん達に知らせるための合図。

徐にイヤリングを取り、アイリスさんに渡した。ジョエルさんが合図に気付き退室していく。2人は私がお茶を気に入った事で興奮しお茶の説明に必死だ。


そして


「このお茶は私が言っていた烏龍茶に似てます。ただ…」

「「ただ?」」

「烏龍茶は香りに癖があり、煮出す前の茶葉の香りを確認すれば分かるんですが…」

「でしたらここに茶葉をお持ちしましょう!」


茶葉でだけここに持って来てもらっても、あの部屋にある茶葉が分からない。

やっぱり私が例の部屋に行くのが確実だ。

あと少しが攻め込めない!


困っていたらお茶請けにお花の砂糖漬けが目に入る。手に取り食べてみたらジャスミンの様な香りがした。


『これならイケかも⁉︎』


「あの…烏龍茶はアルディア王に献上するものですが、私が好きなジャスミン茶も探してるんです。元の世界ではよく飲んでいて、似たお茶があれば欲しくて、花の茶葉とかありますか?」

「勿論ございますが…匂いが繊細で特別な部屋で保管しておりまして…」



ここで一芝居うちます!鳥肌を隠してリッキー様の腕に抱きついて


「見てみたい…だめ?」

「多恵…」


リッキー様のギラついた綺麗なお顔が近付く!透かさずアイリスさんが


「リッキー様。近こうございます」

「ちっ!」


アイリスさんが阻止してくれリッキー様は舌打ちして離れた。ここでダメ押しして上目遣いで微笑んだ。


「父上。多恵様が気に入った茶葉ならこの箱庭で流行るでしょ!例の部屋に案内してよろしいか⁈」


少し悩む侯爵。私の心臓はバクバクして破裂しそうだ。そして


「分かりました。未来の娘にお見せましょう」

「ありがとうございます。私の好きな花茶があったら嬉しい!」

『うっわぁ!私こんなキャラじゃー無いし!』


48歳おばちゃんのぶりっ子に自分で鳥肌が立った。こうしてリッキー様に腰を抱かれ渡り廊下で繋がった別邸に移動して、3m近くある大きな鉄の扉の前に来た。侯爵は首にかけていたネックレスを引っ張り出すと鍵が付いている。緊張MAXで心拍が上がり苦しい。

ここが山場!頑張らないと…


私から離れたリッキー様が侯爵と2人で解錠し扉を開ける。また私の腰を抱いたリッキー様に誘導され侯爵に続いて部屋の中へ。

後ろでアイリスさんが屈んだのが見えた。恐らく閉まらない様に何か挟んだんだ。


例の部屋は中学校の教室位の広さで部屋の壁には天井まで棚があり、缶に入った茶葉が並んでいる。そして反対の棚には帳簿らしき書類が並んでいる。

こんな帳簿は普通は金庫に入れるが、扉が特殊だから心配無いのかそのまま保管されている。最終確認で


「あの棚は帳簿ですか?」

「はい。ここは重要書類と茶葉を保管しています」


『はい!確定!』


すると!重い扉が開き知ってる顔が見えた!

シリウスさんだ!


「モーブル王の命でここにある帳簿を調べる?動くな!」

「「!」」


直ぐにアイリスさんがリッキー様の手を払い、私を部屋から連れ出す。

扉から騎士さんがなだれ込んで来て、入れ違いに私は退室する。部屋を出る時にシリウスさんとすれ違い


「多恵様…貴女の勇気に敬意と感謝を!」


廊下を足早に歩くアイリスさんに必死について行くと、背後から侯爵の暴言とリッキー様が私を呼ぶ声が響き渡りなんとも言えない気分になる。


不正を働いた侯爵とリッキー様は悪い。でも2人を騙した罪悪感と責務を果たせた安堵感が押し寄せ気持ち悪くなって来た。歩くスピードが落ち顔色が悪くなった私に気付いたバートンさんが、私を抱き上げ足早に廊下を歩いていく。不安な気持ちMAXの私は呆然とし周りを気にする余裕はない。

気がつくと目の前に陛下専用の馬車があり、扉の前にレックス団長がいた。

レックス様は私何も言わずに頭を撫でて馬車の扉を開けてくれた。扉の前でバートンさんが下ろしてくれ手を貸してくれ馬車に乗った。すると急に誰かに手を引っ張られた。


「何?あっ…」


見上げると菫色の大好きな瞳が見つめていた。

グラントだ。途端に安心して涙が溢れ出て来た。もう涙腺崩壊…

この何とも言えない気持ちを慰めて欲しくて、子供の様にグラントの腕の中で号泣した。グラントは優しく抱きしめて至る所に口付けをくれ撫ででくれる。


リッキー様にキスされて体を触られ凝り固まった体と心が、グラントのキスと抱擁で解消されていく。一頻り泣いたら体力の限界が来て意識を手放し、大好きな匂いと温もりに包まれ深い眠りへと落ちていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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モーブル編もそろそろ終わりに近づきました。終わったらバスグル編向けて数日お休みします。(予定は未定)


Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。


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