足止め
エリアス様の足止め方法を思い付きイリアの箱庭の妖精王にお願いする事になり…
私がいきなり大声を出したものだから陛下がフリーズし鳩豆状態だ。まずは説明しないと!
「多恵殿。どうしたのだ?何があったのだ?」
「陛下。エリアス様の引き止めるいい案を思いつきました」
「真か!」
表情を明るくした陛下に説明をすると驚き感動している。
「貴女の素晴らしさを痛感する。貴女を召喚したリリスに感謝を…」
「違いますよ。この案はてん君が思いついたんです。賞賛は私ではなくてん君に」
「てん殿が!」
てん君は私の膝の上で胸をはり誇らしげだ。陛下はてん君の前で跪いて最上級のお礼を述べ、てん君は神々しく前脚を差し出した。その姿が最強に可愛らしく後ろからてん君を抱きしめる。
作戦は決まった後は妖精王にお願いするだけ。えっと…フィラを経由したらいいのかなぁ?
『たえ フィラ うるさい いらない』
『え?でもロイドに伝手ないし』
『ロイド いちばんつよい おう たえ ねんじる ロイド わかる』
『ホンと⁈』
『てん うそ いわない』
私とてん君が見つめ合い思念で話しているのを不思議そうに見守る陛下。ふと目が合うと陛下が困惑しているようなので、てん君との思念の内容をはなす。
そして!いよいよ妖精王と交信します。船で3日の距離があるのに本当に思念で分かるのか半信半疑だ。
てん君がドヤ顔で見て来る。てん君を信じていっちょやってみますか!
『イリアの箱庭の妖精王ロイド様…私の声が聞こえますか?』
『・・・』
「あれ?無反応…」
思わずてん君を見たらまだドヤ顔。その表情はもう一度やれって事ね。
『妖精王ロイド様。私は女神リリスが召喚した異世界人の多恵です。聞こえたならお応えを…』
やっぱりフィラ経由した方が早いのでは…と思った矢先に
『多恵か?』
『はぃ!多恵です!ロイド様ですか⁈』
『あぁ…久しいな。敬称は要らん。我らは友であろう』
この後、形式的な挨拶をしてリズ様のご懐妊のお祝いを述べ、経過などを聞き暫く世間話をする。そして
『我に話しかけて来たという事は何かあったのだな?』
『はい。是非ロイドのお力をお借りしたのです』
『我は友の助けはいくらでもしよう。それに其方には礼が未だであったしな。フィラに何度聞いても“多恵が望んでいない”しか返事せん。やっと礼ができるのだ久々に張り切ろう』
『いえ、張り切らなくていいですから』
妖精王が張り切ったらエリアス様の船を沈めてしまいそうだ。妖精王はまだ人に近いが妖精の気質も持つ。だから“察して”とか“分かるだろう”は通用しない。明確に伝えないと大変な目に遭う。3日ほどベイグリーの港で宰相のエリアス様の船を港で足止めして欲しいとお願いする。
『但し船も人も傷つく事の無い様にお願いします』
『任せてろ。しかしそうなると他の国の船も入出港出来んな』
「あ・・・」
妖精王に言われて気付いた。確かにモーブルのエリアス様の船だけ出港できない何てあり得ず、余計にエリアス様が不審がる。どうしたらいい?悩んでいたら陛下が
「モーブルとベイグリーの航路のみ嵐にすればいい。ベイグリーと他国の航路は今まで通りとすれば他国に迷惑はかけない。確認はするが明日朝出港のベイグリー行の後は嵐を理由に出航を止めればいい」
「陛下!それ!いただきます!」
こうして妖精王にモーブルとベイグリーの航路のみ嵐&高波を起こしてもらい航行不可能にしてもらう。
『多恵。お前に願いだから聞くがこれは礼にはならんぞ』
『へ?』
『俺はお前に礼がしたいんだ。他人の助けを礼とする気はないぞ』
『えっと…本当にリリスの箱庭の皆さんに良くしていただいて、満たされていて望む物が無くて…強いて言えば婚約者の激しい愛情表現と嫉妬かなぁ…』
『なんだ惚気か?』
『じゃなくてマジに悩んでいるんです!』
妖精王は大笑いして
『それは流石に俺や女神でもどうする事も出来ん。慣れろ』
『だったらやっぱり望みは無いです』
『其方の時間はたっぷりある。ゆっくり考えればいい。礼は無期限だからな』
こうしてエリアス様の足止めする事が出来た。陛下はチェイス様を呼びこの後に港を入出港する船舶の調整を行うらしく、私はここでお役御免となり退室する事になった。
てん君は興奮冷めやらず一緒に部屋まで歩いて戻る。廊下では初めて聖獣をみた人々がてん君をガン見し、その視線を受け楽しいそうにしているてん君。そうだね。アルディアでは結構城内では自由にしていたもんね。
てん君が駆け回っていて注意をしていたら、前から女性の集団がやって来た。珍しくてん君は警戒して私の元に帰って来た。そして私に
『たえ なかの おんなのひと かわいそう びょうき』
「へ?」
思わずてん君を見るとなんとも言えない表情をし静かにその女性を見ている。恐る恐るてん君の視線の先を追うと…
「!!」
まさかの人にフリーズしてしまう。
「あら多恵様。陛下と逢引きされていたのかしら?」
そう視線の先は王妃様だった。衝撃を受けたが我に返り慌ててご挨拶する。そして聖獣を初めて見た王妃様はご機嫌でてん君をガン見しながら私に話しかけて来る。今日の王妃様は機嫌がいいのかてん君を見たからなのか饒舌で人当たりがいい。てん君が言うみたいに病気を患っている様に見えない。顔で笑い心は動揺したままの私は少しの立ち話の後に王妃様と別れた。パニくっていて何を話したか全く覚えていない。
王妃様と別れて少ししてからてん君に間違いないか聞くと
『ほんと おなか くろい たぶん なおらない』
『リリスでも?』
『ひと からだ かみ なにも できない』
『妖精の薬草は?』
『あれは むり』
「・・・」
てん君とは思念で話しているからケイスさんには何の事か分からない。でも私の顔色が悪くなっていくのに気付いたケイスさんが心配し声をかけてくれる。
部屋まで後の少し所まで来たが、体調が急降下し気持ち悪くなって来た。すると前から仕事を終えたグラントが歩いてくる。私と目が合うと凄い勢いで走ってくる。恐らく私の顔色が悪いのに気付いたんだ。傍に来ると無言で私を抱き上げ部屋に駆け込みベッドへ直行し
「何があった!」
グラントが心配し色々聞いてくる。ほんの少し前までエリアス様の帰国延期の打開策を見つけ超ご機嫌だったのに、気分か一気に急降下して体かついて行かず気持ち悪くなった。グラントは護衛に騎士に食ってかかる。
「グラント違うの。彼らは悪くない。急に疲れが…」
そう言い終わると眩暈がし意識を手放した。てん君の鳴き声とグラントの呼ぶ声だけが耳に残った。
目が覚めると自分のベッドで眠っていた。てん君が起き上がり腕の中に来る。
『私どのくらい寝ていたの?』
『すこしだけ グラント しんぱい まだ いる』
『そっか心配かけちゃったね』
そう言うとてん君はベッドから降りて部屋に続く扉を前脚で叩く。すると凄い勢いでグラントとモリーナさんが入って来た。あまりにも2人が心配するから反対にこっちは冷静になっていく。
連絡を受けた宮廷医が来て診察して帰った。疲労からくる貧血らしい。グラントが何か言いたげだが心労の理由を言える訳ない。
『今貴族派の摘発が山場なのに…それより王妃様と陛下は病気の事を知っているのだろうか?』
デリケートな話だけに簡単に話せる事ではないけど、治療の為に早く話さないといけない。やっと問題が一つ片付きそうなのにまた新たな問題にどんどん気分が下がって行く。
グラントはまだ仕事が残っているらしく、渋々戻っていった。私はベッドでまどろんでいる。すると部屋の方が騒がしくなってきて。どうやら誰か来たようだ。耳を澄ますけど誰か分からない。聞き耳を立てているとてん君が
『ダラス チェイス きてる』
『そうなの?』
『みんな たえ しんぱい』
『ありがたいね…でも今は陛下に会うのは精神的に負担なのよね…』
『なら やめとく むり だめ』
『そうだね…』
この後モリーナさんが2人に会うか聞きに来る。休みたいので断り明日の朝に話を聞く事にしてお帰り頂いた。食事も少しでも食べる様に医師に言われ、仕方なくベッドでスープとサンドイッチだけ食べて直ぐ横になる。
うつらうつらしていたらてん君が布団から出て来て
『たえ フィラ くる』
そう言うと風が吹き目の前にフィラが現れた。眉間に皺を寄せて抱きしめて来る。
「倒れたんだな。無理し過ぎだ。また痩せているぞ…このままいけば消えてしま…」
「消えませんから!今回はどちらかと言うと体より精神的にやられました」
「王妃の事か⁈」
「そう…ん?なんで知ってるの?」
「あぁ…俺らは見れば分かるからなぁ」
「(王妃様を)治せないの?」
首を振るフィラ。答えはてん君と同じだった。自然には干渉できるが生物には出来ない。
「世界を創世した女神でも無理だ。出来ても妖力を帯びた薬草で傷を治したりするぐらだ」
てん君は”お腹が黒い”と言っていた。ガン?それとも女性だから女性疾患?私みたいな一般人では治療どころか予防法すら分からない。情緒不安定になり心細くなってきたら、フィラが寝付くまで添い寝すると言う。悩んだけど鉄壁の守りのてん君もいるし、正直一人で寝れる気がしない。
「今日は何も考えず寝ろ。ひどい顔をしている」
「うん…ありがとう。でも私いびきするかも…幻滅する?」
「何度言えば分かる!お前の全てに惚れていると言ったぞ俺は!」
真顔を言うフィラ。今日はその言葉が嬉しい。こうしてフィラに抱えられ眠りについた。
朝起きたら全て解決してて欲しいなぁ…無理だろうなぁ
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