デイドレス
フィラが帰りどっと疲れ…
「多恵様。もう少し召し上がって下さい。お痩せになったと皆心配しております」
「頑張ってるけどもう無理…お腹いっぱい!」
ここ最近痩せたと皆んなに心配されている。しっかり食べてるんだけど、グラントの溺愛で心身共に消耗が激しい。1日1回はHPがゼロになるから痩せもするわ!
食後お腹いっぱいでソファーで横になる。
グラントが戻って来るまで少しある。また砂糖漬けにされるから今は休んどこ…
少しうとうとしていたら誰か来た。誰か聞いたらゴードンさんだ。頑張って起きて応対する。
「多恵様!夜分遅くに申し訳ありません。ご依頼のドレスが仕上りました。是非試着いただきたい」
「ありがとうございます。嬉しいけど無理されてませんか?」
「私の創作意欲が止まりません!」
もう7刻を過ぎたのにギラギラしているゴードンさんに引きながら、モリーナさんに手伝ってもらい出来上がったデイドレスを試着する。
「ゴードンさん!流石です!めっちゃ好きですこれ!」
「あぁ…多恵様は俺の女神だ!」
デイドレスはボリュームのないAラインのロングワンピース。生地の質がいいから飾りが少なく露出の少ない定番のデザインで清楚で感じがいい。特長はスカート丈がイレギュラーで前が短い。
そして!ロングブーツがかわいい!普通のブーツは紐が革紐だが光沢のある幅広のリボンで編み上げている。履く時にモリーナさんが目を輝かせていた。
ゴードンさんがいろんな角度から仕上りのチェックする。そして眉間に皺を寄せて無言で近づいて来て両手で私ウエストを掴み
「多恵様!お体大丈夫ですか⁈かなり痩せられている!こんなに痩せたら消えてなくなります!」
「そうなんです!先程お着替えをお手伝いさせていただいた時に腰回りがブカブカで…」
モリーナさんがゴードンさんに直しを頼んでいる。そんなにぶかぶかでは無いと思うけど、箱庭ではウエストを強調する衣類が主流でタイトな物が多い。だからほんのちょっとのぶかぶかも気になるのだろう。
ゴードンさんが間近で私の腰を持ち生地の調整をしていた時…
「何をしている!」
目の前にゴードンさんがいて見えないがこの声は…グラントだ。
「イテっ!」
目の前のゴードンさんが視界から消えた!
目線を下ろすと床に腕をねじり上げられ床に押し倒されているゴードンさん。押し倒しているのは勿論グラントだ。
アルディアでもモーブルでも騎士で無くても男性は武術や剣術を学んでいて、文官さんや下人さんもみな強い。グラントは宰相補佐でバリバリデスクワークなのにその辺の隊長クラス騎士より強い。
「グラントやめて!」
「私の婚約者に狼藉を働いた者に容赦はしない」
「勘違いだよ!ゴードンさんは王城の専属デザイナーで、私が依頼したドレスを持って来てくれ、試着して調整してもらっていたの!」
「っ!にしても腰に手を当て顔を寄せていたではないか!」
すると押さえられて苦しそうなゴードンさんが
「閣下!失礼承知で言わせていただきます!多恵様は最近お忙しくかなりお痩せになっておいでです。ウエストも細くなり過ぎて調整が必要なくらい。元々華奢なのにこのままだと倒れてしまいますぞ!婚約者でしたら…」
「すまなかった…」
グラントは手を離しゴードンさんを起き上がら胸に手を当てて正式な謝罪をする。
高位貴族が目下の者に正式な謝罪をする事は殆どない。軽く”すまん”と言う程度だ。
目の前で陳謝するグラントを鳩豆状態のゴードンさん。
「グラント…」
グラントは自分の非を認めた時は相手の身分関係なく謝る。彼のこういうところが好き。婚約者に惚れ直していたら目の前で2人は和解し安心する。そして改めて私のデイドレスを見たグラントが抱き寄せ耳元で…
「悔しいが私が贈ったドレスよりよく似合う。ゴードン氏に嫉妬しそうだ」
「ありがとう」
グラントは振り返りゴードンさんにデイドレスの感想を述べて、あまりもグラントが賞賛するのでゴードンさんは恐縮している。
こうして一悶着あった衣装合わせは終わり、明日のモナちゃんとに会いに行く昼前までにお直しを頼みゴードンさんは退室して行った。グラントはモリーナさんにお茶を頼みその後退室を指示した。
そうこの後私は砂糖漬けされるのです。
…のはずがゴードンさんの説教?が聞いたのか抱きかかえられているが、いつものキスの嵐は起きなかった。ほっとしてお茶を飲みながらお互い今日あった事を話し合い、日付が変わる前にグラントは部屋に戻って行った。
明日は忙しい。同時進行で作戦が決行され気が抜けない。モリーナさんにも促され眠るとにした。
3作戦決行の朝。朝食は陛下とシリウスさん、チェイス様とグラントでとるらしく珍しく1人だ。痩せた私を心配したグラントがブブ豆パンを料理長に依頼していたようで、焼きたてのパンが沢山でた。
ブブ豆パンは何個でもいけて反対に食べ過ぎて苦しい…ドレスはお直ししない方がよかったかも…
苦しいお腹を労わりソファーで横になっていたらハワード様が来て、何故か決意表明をして直ぐに退室して行った。本当に真面目だなぁ…
そしてお昼まで部屋でのんびりし、昼前に料理長とジョエルさんが来てモナちゃんの手土産を届けてくれた。
ジョエルさんは今日の王都の護衛に就けない事を愚痴り、料理長はスイマンの毒で伏せっていたマイクさんが全快し厨房に戻った事を教えてくれた。朝からいい報告を受け気分がいい私。
『幸先が良いからきっと上手くいくよね!』
根拠のない自信を持ち出かける準備を始める。程なくゴードンさんがお直ししたデイドレスを持っきてくれ着替える。お腹を心配したがシンデレラフィットしゴードンさんの腕を称賛した。
4刻が近づいた頃に今日の護衛をしてくれるバートンさんとケイスさんが迎えに来てくれる。今日は乙女として目立つ様に行動する為に城下に行くが騎士服だ。
2人ともドレスを褒めまくり少しいい女になった気がして気分が上がる。
確か4刻半から葉巻の会とチーキス子爵家の家宅捜索が始まる。
皆んなの安全と成功を祈りそして『私も頑張ろ!』とファイティングポーズで気合を入れる。
こうして王城を出発しモナちゃんとの待ち合わせ場所に着いた。表立っての護衛はバートンさん、ケイスさん、マルロさんの3名。しかし待ち合わせ場所が見え直ぐ動ける位置に騎士団から5名就いてくれている。
暫くするとモナちゃんとジャスさんが来た。2人共元気そうで安心する。私に気付いたモナちゃんが走って来て両手を広げて抱き着こうしたが、目の前で止まり怯えた顔をする。
「?」
不思議に思いモナちゃんの視線を追うとバートンさんだ。鋭い視線をモナちゃんに送り威嚇している。
「バートンさん。任務上相手を警戒するのは分かりますが、モナちゃんは私の友達です。怖がらせないで下さい」
「タエちゃん…」
バートンさんは騎士の礼をし謝ってくれた。やっと警戒を解いたモナちゃんが一歩下がって私をジロジロと見て
「嬉しい!私が織った生地だ!女神様みたいに綺麗だ」
「はぃ!モナちゃん言い過ぎ。リリスが怒ってくるよ」
「本当だって!ねぇジャス兄!」
「あぁ…俺もそう思う…」
「はぃ!2人共目が悪いみたい気を付けてね」
こうして冗談を言いながら立ち話をしていてら、ケイスさんが宿に移動を促す。
前回と同じ宿を取ってくれていて、宿で昼食をいただきながら話をする事になった。
「?」
前ほどがっついていない2人に驚いていたらジャスさんが
「俺とモナが乙女に会った事を領主様が知ったみたいで、乙女に知られたく無いのかあれから食事が増えたんだ。仕事や待遇は変わらないが食べる様になり、倒れる者が減ったよ」
その場しのぎだろうけど、皆んなが食べる様になり安心する。そして食事が終わり本題に入る。
「モナちゃん。ベンさんと会う?」
「心遣い頂いたけどやめておきます」
「理由を聞いていい?」
伏し目がちに話出すモナちゃん。口を挟まず最後まで聞く。
「分かったそのままベンさんに伝えていい?きっと理由が分からないと、ベンさん踏ん切りつかないから」
「はい。そして伝えて下さい。今は恨んでないから、ベン兄も想ってくれる人と幸せになって欲しいって」
「分かった。いつの日かバスグルで笑って会えたらいいね」
「うん」
内容を聞いて説得しようと思ったけど、多分モナちゃんの心にもベンさんの想いも変わらないと思った。私ができる事は過去では無くこれからのバスグルに希望を持てる様にリリスのお仕事を頑張るだけだ。
話がひと段落着いたところでジャスさんが
「モナは俺が守るから大丈夫。心配しないで下さい」
「?」
2人は見つめ合っている。
『あれあれ?』2人に新しい希望が見えて口元が緩み幸せなら気持ちになれた。
今この時もモーブルとバスグルを救うために皆んな頑張ってくれている。”女神の乙女”なんて言われているけど、私が出来る事なんて知ってる事を助言するだけ。結局はこの箱庭の住人が変わろうとする力が大切だ。
モーブルに来て暫くの間は不安だったけどなんとかやれそう!目の前の新しい希望に私の心も更に前向きになった。
「あっ忘れる所だった!モナちゃんの織物をみた王城の専属デザイナーが、王室御用達の工房で働いて欲しいって」
「へ?わっ私が」
「うん。こんな素晴らしい織物見だ事ないって。高待遇で今より安定すると思うよ」
喜んでくれると思っていたのに表情を曇らすモナちゃん。すると横に居るジャスさんがモナちゃんの背を叩いて私に向かって
「よろしくお願いします。モナ!王室御用達の工房なんてバスグルに居ても縁がないんだ!幸せになるチャンスだよ」
「いやよジャス兄と離れるのは」
「バカ今の生活から抜けれるんだぞ!」
「あ…」
良かれと思って提案した事が若い2人の恋の邪魔になっている。ジャスさん一緒に工房へ行く方法はないかなぁ⁈ジャスさんに織物のスキルが有れば…
「ジャスさんは何か織物に関するスキルはあ…」
「そうよ!ジャス兄は染色が上手いわ!実家が染色していたって」
「いや俺の腕なんて御用達のレベルじゃ」
いやまて!知識があるなら何とかなるんじゃない?あまり個人に肩入すべきでは無いけど…
「分かった!2人共工房で働ける様に話をするわ。どぉ?」
「ジャス兄が一緒なら是非!」
「モナ…」
「1人でモーブルに来てからずっと守ってくれたジャス兄を今度は私が守りたいの」
話は纏まり目の前で2人は高糖度でイチャつきだした。他人のラブラブは居場所が無くなる。侍女さんや護衛の騎士さんはいつもこんな思いをしているんだと反省しつつも、婚約者達に早く会いたいと思ってしまった。
こうしてモナちゃんには工房への受け入れが整ったら連絡すると話し今日は別れる事に。
恐らく今日の作戦が成功すれば、近いうちに不正貴族の一斉摘発する事になり、不法に入国したバスグル人が解放される。そうすれは大手を振ってモナちゃんと会えるから。
そして宿前でお別れするがモナちゃんの目線が下に?
「あっ忘れてた!これ前と同じパンと焼き菓子。皆んなで食べてね」
「ごめん…催促しちゃった。仲間が楽しみにしているから」
「今日はね私の大好物なブブ豆パンが入っているからね!美味しいから驚かないでね!」
「「ブブ豆パン?」」
この後ブブ豆パンを熱く語り、半笑いのケイスさんに時間だと急かされ、2人とハグをして別れた。
手を繋いで帰っていく若い2人を見ていたら、涙腺が中年のままの私は泣いてしまいマルロさんが涙を拭ってくれた。
ぽっかぽかに温まった気持ちで帰城する馬車の中。”葉巻の会”と”チーキス家の家宅捜索”が成功する事を願いながら城下の街並みを眺めてグラントに抱きしめて欲しいと願っていた。
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