秀外恵中
皆んなが気遣ってくれるのは嬉しいが過保護すぎると動きにくくなるから…
いつも以上にゆっくりエスコートし何度も私の様子を見ているリチャードさん。
そんなに私窶れてる?
そしてやっとダイニングルームに着いた。部屋に入ると王様仕様の陛下が待っていた。
「ゆっくり休めたか?」
「はい。ありがとうございます」
陛下は微笑み私の手を取って席まで案内してくれる。着席するとすぐに食事が運ばれて食事を始め
「今日は王様仕様なんですね」
「ラフな格好の方が貴女には好印象なのだが、午後はアルディアから客人が来るのでな。出来れば来訪は中止になるといいのだが…」
「そんな事したからルーク陛下が騎士団を派遣しちゃいますよ」
「冗談だ」
いや半分本気でしょ?
冗談を交わしながら今日も野菜たっぷりの美味しい食事をいただきます。陛下も穏やかな表情で居心地よく口元が緩む。
お約束のデザートの給仕が終わると人払いがされ
「昨日は同行させてもらい感謝する。家臣からある程度話は聞いていたが、正直あそこまで酷いとは思っていなかった。同行した者には箝口令を出してある。朝からどうやらエリアスが昨日の話を探っている様だ」
「陛下。お願いがあります。ジャスさんが雇われている貴族にはまだ何もしないで下さい」
「何故だ」
ジャスさんから聞いた中抜きしている貴族はほんの一部でまだまだいる筈だ。
今把握している貴族を捕まえても同じ様に中抜きしている他の貴族は逃げ隠れ、ほとぼりが覚めたらまたやるに決まっている。しっかり調べて証拠を押さえて一網打尽にしないと不正は無くならない。
私の説明が良かったのか陛下が頭がいいのか分からないがすんなり話はついた。
レックス様が指揮し貴族に雇われているバスグル人に接触し調書を取り、同日一斉に貴族邸宅に立ち入り調査をして帳簿を押さえる様に策をねる。
「今回は騎士団主体に動く。聖騎士は貴族の子息が多く忖度するやもしれんしやり辛かろう」
「流石です。同意見です」
やはり陛下は頭がいい。陛下の話では聖騎士は毒ドレッシングの調査に当たるそうだ。不正が判明したら処罰はどうするおつもりなんだろう⁈
私の表情で考えを読み取った陛下は笑いながら
「本当に貴女は賢く素敵で常に私を魅了する。不正の度合いにもよるが、バズグル人から詐取した金を差押え、不法入国し帰れずにいるバズグル人の帰国費用に充てるつもりだ」
「陛下…」
慈悲深い考えに感動していると陛下は片眉を上げて
「惚れたか?」
「はい!ご立派です!」
「ならば…」
「人としてですよ!人として!」
「男としてでは⁈」
「まだそこまでは…」
コントの様にオーバーアクションで落ち込む陛下。そんなお茶目な所も魅力的だ。
マジお互い相手がいなかったら恋愛対象として意識しただろう。
「まだ本題が終わっておらんかった。暫くは城内が騒つくだろう。エリアスはじめ貴族派の者には注意して下され。多恵殿には騒動後のバズグル人受け入れについて相談願いたい」
「あっ!その件ですが…」
ランティス領の受入条件では他の貴族が対応出来ない恐れがあり、また裏で不正が横行すること可能性がある為、貴族の要望の聞き取りと調査が必要だと進言した。
真剣に話を聞いてくれた陛下はまた後日話し合う事を約束して食事を終えた。
色々考えていたら目の前に手が…見上げると陛下が手を差し伸べている。
「部屋まで送ろう」
「いえ。陛下はお忙しいですから」
「送らせてくれ。貴女の婚約者が来れば暫くは嫉妬に耐えねばならんのだ。耐えるだけの糧が欲しい」
「えっと…」
少し困った顔をしたら強引に手を引かれ抱き締められた。
「王である身分がある故に望みのまま生きれん。分かってはいるが…」
「…」
なんて言ってあげればいいか分からない。心地いい陛下の腕の中で困っていると部屋の外から文官さんが声をかけてきた。陛下は次の予定がある様だ。
「陛下…時間みたいです」
「あぁ…多恵殿に頼みがある」
「何ですか⁈」
「嫉妬に狂わない様に頬でいい口付けてくれぬか⁉︎」
「!」
腕を解き間近で懇願する陛下。困った!どうしたらいい⁈頬なら親愛って事でセーフ?
悩んだ末に…
「陛下…屈んで下さい」
「?」
「私背が低く届きません」
「!」
陛下は見つめて破顔し少し屈んでくれた。陛下の頬を両手で包み頬に軽く口付けた。
緩んだ表情で再度抱きしめてきた陛下。
最近の陛下のデレ具合にどうしていいか分からなくなる。
再度声をかけられ陛下の腕から解放された。
こうして照れ汗をかいた私はまたリチャードさんに心配されながら部屋に戻ることとなった。
グラントが来るまでは部屋で労働条件の書き出しと王妃様へのお礼の手紙を書き、モリーナさんにグラントが帰った後に王妃様と面会出来る様に調整してもらう。
書物をしていたらあっという間に時間が過ぎ、モリーナさんがバタバタしだす。
「多恵様。湯浴みなさって下さい。婚約者様がお着きになられます」
「はぁ〜い」
湯浴みをしドレッサーの前でヘヤメイクを施してもらっていると
「多恵様のご婚約者のグラント様はアルディアで秀外恵中と聞き及んでおります。私お目にかかるのが楽しみで…」
「そんな噂があるんだ」
グラントはモーブルでも有名らしい。事実顔はいいし賢いけど…でも
『やきもち大魔王だけどね』
人は何かしら欠点はあるものだ。完璧なんて神ぐらい。妖精王のフィラですら俺様気質だし。笑って誤魔化し私のメイクに気合いが入っているモリーナさんに引き算をわすれない様にお願いする。ヘアメイクが終わる頃にゴードンさんが何故かきた。
モリーナさんが応対してくれる。ゴードンさんはグラントが来るのでドレスをリメイクしていた様で綺麗な淡い水色のドレスを持って来てくれた。
モリーナさんにお礼を伝えてもらい、リメイクしたドレスに着替える。
着替えたらモリーナさんの意味ありげな微笑みが気になったが、時間もなくスルーすることにした。
「多恵様。アルディアからの先触れが参りましたので謁見の間へ」
「はぁ〜い」
とうとうグラントが来る。お願いだから皆んなの前でイチャイチャはやめてほしいけど…
恐らく無理だろうなぁ…
嫌な予感しかしないが覚悟を決めて謁見の間に向かう。
謁見の間に向かっていると、心なしかすれ違う城内の女性の比率が高い気がする。するとリチャードさんが笑いながら
「グラント様は何度かモーブルにお越しになり、城内の女性を魅了し人気が高い。恐らく暫くは城内は騒しいでしょう」
「そっそうなんだ」
そう言えばイキっていたイライザ様が自分に釣り合う男性はグラントしかいないって言ってた。確かにこの世界は平民でも男前しかいないが、アルディアの貴族はずば抜けて男前だ。グラントも綺麗だがキースもかなりの美形だぞ!
リチャードさんと雑談をしていたら謁見の間に着き大きな扉が開く。緊張する!
「へ?」
キースの様に駆け寄って来ると思いきや…謁見の間は静まり返り険悪な空気に満ちている。陛下は鎮痛な顔をしてモーブル側が頭を下げている。一体何が起こっているの?
エスコートしてきたリチャードさんも戸惑っている。小声で
「リチャードさん何か起こってます!何か聞いてますか?」
「私も訳が分からず…」
扉の前で固まる私に気付いたグラントが眉間に皺を寄せて足早に歩いて来る。
『怖い怖い!』
思わず腰がひけるとリチャードさんが支えているから逃げれない。
目の前に来たグラントは無言で手を取り抱きしめた。
『うっわぁ!久しぶりのグラントの抱擁!やっぱり好き!』
でも…グラントの様子がおかしい!グラントは無言で私の頬を両手で包み上を向かせていきなり口付けた。
『!』
突然で固まると目線を合わせたグラントが顔を歪めて
「多恵。アルディアに帰りましょう!」
「はぁ?」
誰?時を止めたのは!謁見の間は更に空気が凍り寒気がして来た。
「グラントいきなり何⁈」
「今、モーブルから多恵の身に起きた事件をの報告を受けました。モーブルに多恵を任せておけない!陛下に早馬を送り騎士団の派遣を申請します」
「はぁ?」
どうやらグラントが到着し、モーブルで起きた落下事故と毒ドレッシングの報告があった様だ。ルーク陛下に報告が行くと親バカの陛下は騎士団の派遣をすぐ決めデュークさん達が押し寄せるだろう。想像しただけで寒気がする。
「待って!転落事故は私の不注意たし、毒ドレッシングは故意か事故かまだ調査中なの。それにまだモーブルの問題が解決してないから!」
怒り心頭のグラントを宥めるのにかなりの時間を要し、その間モーブルサイトは静まり返りグラントと一緒に来た公爵家の騎士は剣に手をかけ臨戦態勢だ。
すると陛下が玉座から降りてきてグラントに謝罪し、今後この様な事が無いように誓う。
「モーブルは多恵殿のお陰で問題解決の糸口にやっと辿り着き今から変わろうとしている。我々には多恵殿が必要だ!ルーク陛下には報告書を作成し包み隠さず報告する故、もう暫く静観してくれぬか⁉︎」
「…」
「グラント。私はリリスの役目を終えるまでモーブルを離れる気は無いよ!」
「多恵!私は心配で!」
「心配はわかってる!でも私を信じて!」
グラントに抱きつき見上げて懇願した。
問題もやっと動き出し今からなのに帰れる訳ない!暫くグラントと睨み合いをし…
「分かりました。多恵…次に何かあれば多恵が嫌がっても連れ帰ります。そうならない様に、ご自分の身を大切にして下さい」
「グラント!ありがとう!」
やっぱりグラントだ!苦言は呈するけど最後は私の意志を尊重してくれる。
嬉しくて私から口付けた。それが呼水になりグラントから人目を気にせず濃厚な口付けを受けることに!
陛下の重低音の咳払いにやっとグラントの口付けラッシュは止まった。
グラントの腕の中で恥ずかしくて顔を上げれない。見上げると満足気に微笑むグラント。
この場から消え去りたい私。
そして正式的な挨拶がやっと終わった。この後グラントが客間に移動するが、このままグラントに拉致られる様だ。
超ご機嫌のグランドにエスコートされ、リチャードさんに先導してもらい移動します。
グラントは私に密着しずっと私を見ていて、私は恥ずかしくて前を向けない!
そして四方から女性のため息が聞こえて来る。早く客間に着いてと願っていたら
「多恵様?」
呼ばれて顔を上げたらニコライ殿下とイライザ様だ。ご挨拶しお2人にグラントを紹介する。イライザ様はグラントと面識がある様で言葉を交わし、横で見ていたニコライ殿下が
「城内の女性の視線を独り占めしている美丈夫が誰かと思えば多恵様のご婚約者でしたか。こんな素晴らしい婚約者がいらしたら、私やモーブル男性のアプローチが届かない筈だ」
「アプローチね…」
途端にグラントの目か嫉妬に染まる。ニコライ殿下余計な事を言わないで!
彼はやきもち大魔王なんだから!
ニコライ殿下を睨むと察したのか早々に立ち去った。不気味な微笑みを湛えたグラントは足早に客間に向かう。私は売られる羊の気分だ。
結局。日が落ちるまでグラントの溺愛ならぬ激愛を受けHPは綺麗にゼロなりました。
でも久しぶりのグラントのキスと抱擁に心満たされ心地よい疲れ?となりました。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。
Twitter始めました。#神月いろは です。主にアップ情報だけですがよければ覗いて下さい。




