推定200人
やっとモナちゃんから話を聞ける事になり、酷い扱いを聞く事に
簡素な宿の2階の一番大きな部屋にモナちゃんとジャスさん、モーブル側は陛下とシリウスさん。内側の扉前にマルロさんとマクルスさん。扉の外に騎士さんが2名。他の騎士さんは外でいつでも馬を出せる様に警戒してくれている。
モナちゃんとジャスさんにお昼を用意してもらい、陛下とシリウスさんにはお茶で私には頼んで無いのにケーキがついて来た。
初めは警戒していたモナちゃんとジャスさんも、目の前に食事が用意されると食欲が勝ち気持ちいい位に食べている。
私も負けじとケーキを頬張ると視線を感じる。ふと顔を上げると陛下とシリウスさんが孫を見る様な眼差しをしている。
「見られると食べれません」
「気にせず食べればいい」
多分何言っても止めないだろうからもう無視します。モナちゃんとジャスさんはお腹いっぱいになった様で表情が柔らかくなって来た。
食事も終わりお茶を飲みながら話を始める。
まずは…
「私は女神リリスの命でこの箱庭のお手伝いをしています。アルディアのお手伝いを終え、今はモーブルでお世話になりながらこちらのお手伝いをしています」
「それなら俺らバスグル人には関係ないだろ」
「いえ。関係あるわ」
ジャスさんとモナちゃんにモーブル王家が問題としている不法入国と納税しない事を話すと、テーブルを叩き立ち上がり
「納税しないだって⁈俺らは雇主の貴族に税を引かれてお給金をもらっている。雇主がバスグル人の税を代わりに納めると!」
「その話は真か?」
陛下が表情が厳しくなり地を這うような低い声で聞いた。
その声に気圧され震えながら座り込んだジャスさんは静かに頷いた。
どうやら貴族が中抜きをしていたようだ。
更にジャスさんにモーブルに入国手段と、入国してからの事を聞いた。
「「「酷い…」」」
モーブル側は言葉を無くした。あまりに酷い扱いに、ジャスさんやモナちゃんが警戒するのは仕方ないと思った。
入国までの経緯はこうだ。
モーブル行きの申請が通るのが平均1,2年かかり、その上で手数料が法外だ。バスグル人の年収に匹敵する。
お金を用意できない者や待って無い者は、チャイラ人ブローカーに頼み小さい漁船でモーブルに渡る。
手続も無く早い上に手数料も安い。チャイラ人に払う手数料は約1ヶ月分の生活費ほど。
家族みんなで頑張れば直ぐ用意できる額だ。
だから苦しく早く出稼ぎに出たいバスグルでも貧困層がチャイラ人ブローカーに頼む。
「漁港に着くとチャイラ人ブローカーから農地を持つ貴族を紹介されて、夜間に馬車に乗せられ農地に送られます。そして…」
口籠るジャスさん。席を立ち横に行き手を握り
「辛かったら話さなくていいですよ」
と背中をさすった。少しの沈黙の後、ジャスさんは話を続けた。
日の出から日没まで働き食事は簡素な物で狭い部屋に3段ベットがあり1部屋6人。
正直貴族様の馬の方がいい暮らしをしていると言う。
同じ農園で働くモーブル人より賃金は安い上に、キツく汚れ仕事をさせられている。
そんな中でもお給金を貯めてバスグルにいる家族に送金しようと雇主の貴族に懇願すると、拒否され仕方なくチャイラ人ブローカーに依頼。送金額の3割も手数料として引かれ、バスグルで待つ家族も中々貧困から抜け出せないそうだ。
「ならば一度帰り正規で再度来ればいいでは無いか⁉︎」
「帰れないんですよ…」
言葉を詰まらせたジャスさんの代わりにモナちゃんが話を続ける。
「正規で来ていない私達はチャイラ人ブローカーにしか頼めない。行きは安い船代も帰りは5倍の金額を請求されるのです。最低限の生活をし賃金の殆どを送金額している私達に用意出来るわけない…死ぬまでここを出れないんです」
モナちゃんの悲痛な告白に陛下とシリウスさんは顔を歪める。ジャスさんはモナちゃんに続けて話す。
「正規で来たモーブル人が協力し、助けてくれ帰れた者もいると聞きます。しかしモーブルは広く中々同胞に会える機会がない。そうしているうちに病で亡くなる者も…」
「不法入国しているバスグルの人はどの位いるの?」
「俺もはっきりしりませんが、知り合いをたどると200人はいると思います」
「そんなに!」
確かランティス公爵様からは正規で来ているバスグル人は100人弱だって…倍じゃん!
「モナが居るからあまり言いたくないが、未婚で若い女性は貴族の夜伽の相手をさせられたり、子供を産まされたりしていると聞いた事があります。モナも何度も連れ去られそうになってますよ」
モナちゃんは青い顔をして震えている。思い出させてしまったようだ。モナちゃんを後ろから抱き締める。
恐らくモナちゃんは娘の雪と同じくらいだ。大人の男に好き勝手されていい訳ない!
「ジャスとモナよ。辛い話を勇気を持って話してくれた。モーブル国王の名にかけて、この問題は必ず解決する。だから協力して欲しい」
「本当ですか⁉︎」
ジャスさんは表情は期待と不安を孕んでいる。だからこそはっきり言ってあげないと
「モーブル国王のダラス陛下は必ずバスグルの皆さんの声を聞いて下さるわ。もし聞いてくださらなかったら、私が陛下に鉄槌を下します!」
「「「「「「!」」」」」」
あれ?意図せず時を止めてしまった私。
いち早く再起動した陛下が
「多恵殿のパンチは可愛いから受けたいが、嫌われたく無いのでなぁ!この問題に尽力すると女神リリスに誓おう」
やっとモナちゃんとジャスさんの表情がやわらかくなった。更に安心させる為に
「この問題はモーブルだけで無く、バスグルからも聞いています。ビルス殿下とも連絡を取り、バスグルの方も問題解決に向けて動いているから安心して」
「「多恵様」」
「タエちゃんでいいよ!」
こうして心を開いてくれた二人から、不正を働いている貴族の名を聞き、後日他のバスグル人とも話せるようにジャスさんにお願いした。
最後にモナちゃんに
「ベンさんはモナちゃんをとっても心配していたわ。会いたいらしいけど、会うかの判断はモナちゃんの意思を尊重するわ」
「私…」
意外だった。即答すると思ってたけど、何かありそう。無理強いはダメだから
「5日後の同じ時間、同じ場所に来るからそれまでにどうするか決めておいて。いい?」
「分かった…」
そして話し合いは終わり帰る時間になる。席を立った陛下はジャスさんとモナちゃんを抱きしめ
「事実を知らずに辛い思いをさせた。直ぐには無理だから信じて待っていてくれ。そしてこの国を嫌わないで欲しい…」
びっくりしていた2人だが、陛下の誠意を感じたのか小さく返事をしていた。
その光景にモーブルの未来が明るくなるのを感じて自然に涙が出ていた。
そして急に背中が温かくなり頬に口付けされる。見上げるとシリウスさんだ。
優しい頬笑みにやっと緊張から解放される。
こうして宿前で2人とハグをして5日後に会う約束をして別れた。
帰りはいつも以上に陛下とシリウスさんの溺愛ぶりが加速して、蜂蜜漬けにされている気分だ。陛下は約束通り城下で有名なケーキ屋に寄ってくれ、モーブルで有名なブルーベリーに似た実を使ったチーズケーキを買ってもらう。沢山要らないのに店ごと買いそうな勢いの陛下を止める苦労しやっと王城に帰る。
お疲れMAXだが明日はグラントが来る。グラントの極甘に私の体力が心配になって来た。でも…やっぱり会えるのは嬉しい!
グラントの香りと体温を堪能できると思うと、胸の奥がくすぐったい…
早く休んで明日に備えようとしていたが…
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