ポテチパーティー
視察が終わり一息吐きたいがまだまだゆっくりできないようだ
陛下の意志は固く明日の同行は確定の様だ。
陛下にバスグル人の生の声を聞いてもらうのはとてもいいことだけど、当の陛下は口説く気満々なのが困る。正直今は恋愛は遠慮したいんですが…
こうして食事を終え部屋に戻るけど部屋の外には専属騎士ではなくシリウスさんが難しい顔をして待ち構えていた。とても嫌な予感がして来た…
部屋に戻る道すがらシリウスさんが
「明日は私も同行します」
「はぁ?」
思わず見上げてシリウスさんの顔をまじまじと見る。
「でもグレン殿下の護衛が…」
「明日は非番ですのでご心配なく」
「非番なら体を休められた方が…」
「恋敵が一歩先を行こうとしているのに、悠長に休んでいれません。それに明後日はアルディアからグラント殿が来られるのでしょう⁉︎」
『そうゆう事か…』陛下だけでなくグラントの訪問もシリウスさんの悋気を刺激している様だ。
シリウスさんも頑固そうで説得しても無理だろう。取りあえずモナちゃんとの接触の邪魔をしなければ良しとしあまり深く考えな事にした。
部屋に戻りランティス公爵様から頂いた資料を見ながらモーブルの労働基準を考える。
ランティス領の雇用は理想的で労働者に優しい。しかしこれを基準にすると余裕のない貴族に無理が来てしまい、また陰で不正が起こるだろう。
「だから…もう少し緩めのラインを基準にしないとね」
労働基準を書きだしてたたき台を作っていく。お茶を入れてくれたフィナさんが書き出した労働基準じっと見ている。何か思う事が有るのだろうか?
「それは多恵様の世界の文字ですか?」
「そうだよ。正確には私の国の言葉。私の世界は国によって文化も言語も文字も違うの」
「凄い!では他国に行くと言葉が通じないのですか?」
大きなおめ目が落ちそうなくらい驚くフィナさん。この後好奇心旺盛なフィナさんから沢山質問を受け、久しぶりに元の世界の事を話せて懐かしくほっこりした。
話しが盛り上がっていたら部屋の外の騎士さんが来客を知らせてくれた。
直ぐにフィナさんが応対の為に部屋の外へ。私の話が楽しかったのかフィナさんの足取りは軽い。その足取りはポップなBGMが聞こえて来そうだ。フィナさんが応対してくれている間に思いついた労働基準を追加で書きだしていたら、テンションダダ下がりしたフィナさんが戻って来て
「宰相様が面会をご希望されておられます。如何なさいますか?」
「えっと…」
「大切な話しがあると仰り、断り辛い雰囲気でして…」
「まさか文官さんではなくご本人?」
「はい…」
後で聞いたがどうやらフィナさんとモリーナさんはエリアス様が苦手らしい。理由は…ご実家に関わる事らしく話してくれなかった。
(面会を)断るとフィナさんにも迷惑かけるし後々面倒なので、サクッと会って終わらせる事に…
書き物をテーブルに残しソファーに移動しエリアス様をお迎えする。
眉間に皺を寄せ難しい顔をして入室して来たエリアス様。悪役認定したからか時代劇の悪代官に見えてきて笑えた。
『エリアス様の頭上に“ちょうんまげ”が!』
心の中で悪ノリをしながら平然とお迎えし着席しお話を聞く。
「お疲れの所申し訳ございません。先ほど陛下とシリウス殿から明日のバスグル人との接触に同行すると聞き、危険を伴う為辞めるように説得したのですが、お聞き入れいただけず困っております」
「はぁ…」
「多恵様からお辞めになる様に説得いただきたい」
「朝食の席でお止めしたんですがね…ご意志が固くて…」
大きな溜息を吐いてこめかみを抑えながら…
「あんな危険な王都の端の貧民街に陛下を行かせるわけに行きません。多恵様が明日のバスグル人との面会を辞めればすべて穏便に済むのです」
『キタコレ!』
結局は私とバスグル人とを会わせたくないんだ。きっとランティス領に雇われているバスグル人との面会の話もエリアス様の耳に入っているだろう。
ランティス領のバスグルの人々は比較的ゆとりのある生活をしているからそんなに酷い話は出ていない。しかし不法入国しているモナちゃんからの話はきっと酷く涙ものだろう。だからこそ聞かないといけない。
「陛下に関しては宰相であるエリアス様にお任せします。でも私は予定通り行きますから」
「何度も申し上げておりますが、バスグル人は粗暴で危険です。女神の乙女を危険な所へ行かす訳には!」
真っ赤な顔をして語義を強め威圧的に言って来るエリアス様。
でーもぉ!ぜってぇ折れないもん!
「アルディアの騎士さん達はどんな状況でも護って下さるし、私の意見を尊重してくださいました。こちらでお世話になりモーブルの騎士さんを見て来ましたが、同じく素晴らしい方ばかりです。そんな方々が護れないと言うのは騎士さん達を侮辱する事になりませんか?」
「っう!」
騎士さんの誇りに訴えかけると口籠るエリアス様。うだうだ言われたくないから畳み掛けてやります。
「前にも言いましたが私には妖精王の加護があります。エリアス様は妖精王も信じられないと言う事なんですかね!」
「否!そのような事は決して!」
和かにかつ感情無くエリアス様を見て
「でしたら予定通りで!」
「…陛下は私が説得いたします。明日の護衛騎士の選任は騎士団のレックスに任せますので」
「はぃ。ありがとうございます」
立ち上がり帰りを促すと渋々帰って行った。エリアス様が帰ると目を輝かせてフィナさんが来て感動している。
「多恵様!私…今感動しております」
「そぉ?」
フィナさんの話の感じでは王城でエリアス様は絶対で、意見し反抗すると必ず不幸に見舞われるそうだ。だから皆怖がって意見出来ないらしい。
『非社会勢力か!』
「多恵様は妖精王と妖精の加護があるとお聞きしています。ですから大丈夫だと思いますがお気をつけ下さい」
「ありがとう。大丈夫でしょ⁈そうそう、明日焼き菓子を持って行きたいから、調理場の仕事が終わるタイミングで行ける様に調整お願いできますか?」
「畏まりました」
こうして悪役の事など気せず書物を続けた。
そして昼食後しばらくして調理場に向かう。焼き菓子を頼むくらいで直接調理場に赴く事に貴族派のバートンさんはいい顔をしていない。
でも気にしないのだ。料理長にポテチの調理方法を伝授して作ってもらう事が目的だし寧ろポテチが大本命である。
「多恵様楽しそうですね」
「はい!ランティス領で掘った芋を調理してもらうのが嬉しくて!」
「芋ですが⁈」
「はい!」
「多恵様がご自分で掘ったのですか?」
「はい…?」
そりゃ貴族令嬢では考えられないよね。でも私は一般人ですから。
『美味しいもの正義です』心の中で唱えた。
調理場に着くと料理長が出迎えてくれる。料理長はアラフィフで言うまでも無く美形で顎髭がダンディなイケおじだ。
「乙女様にお目にかかれ光栄にございます」
「いつも美味しい食事をありがとうございます。今日は2つお願いがありまして…」
焼き菓子は貴族が食べる様な物ではなく庶民的なクッキーやマドレーヌと日持ちするパンを頼んだ。
そして…念願のポテチ調理法を料理長に伝え作ってもらう。
料理長は直ぐに私が収穫した芋を持って来てくれ、私の説明を聞きながら調理してくれる。皮を剥き薄くスライスし水分を取って、油で揚げて油をきって塩をまぶして…
あっという間にポテチは出来た。
「乙女様これでいいのでしょうか⁈」
「はい!嬉しい!これ大好きなんです」
行儀が悪いけど手でつまみ一つ食べた。これこれ!シンプルな塩味はジャガイモの味を引き立ててくれ最高だ。私の反応を確認した料理長は恐る恐る試食し目を輝かせる。
「こんな調理法があるとは!乙女様の世界の調理法ですか⁈」
「はい。おやつや軽食でよく食べました。再現できて嬉しい!また作って欲しいです」
「いや今から作りましょう」
料理長は休憩中の他の料理人さんを呼ん来てポテチ作りに取り掛かった。休憩中の料理人さん達は初め困り顔で調理を始めたが、出来上がりを食べて目を輝かせて追加で貯蔵庫からジャガイモを沢山持って来ていた。
調理場にいた皆が楽しそうにポテチパーティを楽しんでいるが、ポテチの大先輩である私は皆に注意喚起をしておかないといけない。
ポテチは最高に美味しいが高カロリーな上に塩分も高い。生活習慣病まっしぐらの食べ物である。それに古い油を使うと胃にも悪い。ここでしっかり注意点を料理長に伝えポテチパーティーを終えた。
初めはあれだけ怪しそうにポテチを見ていたバートンさんが、こっそり料理長にレシピをご実家に送る様に頼んでいる姿が妙に可愛らしかった。
こうしてまた私の好物が食卓に上がる事になり、モーブルでの楽しみが増え働く意欲が湧いて来る。楽しみが出来た私は足取り軽く部屋に戻り、労働基準の書き出しの続きに手を付けた。
しかし…その楽しい食卓で事件が起こるなんてこの時は思ってもいなくて、単純にこれからポテチを堪能できる事を喜んでいたのだった。
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ポテチの話を書いていたら無性に食べたくなり、買いに行きました。ちなみに私の好きな味はのり塩です!




