本音
労働者側からの本音を聞きたいが、気を許してくれるか心配…
「何もなく殺風景な場所で申し訳ございません」
「お忙しいのにすみません。失礼します」
バスグル人の代表らしい男性に挨拶し小屋に入る。こじんまりした部屋には大きなテーブルと背もたれの無い椅子が20脚ほど置いてあった。その中に立派な椅子が1脚…
『もしかして私の為に持って来たの?』
場違いな椅子が微妙であれには座りたくない。公爵様が着席を促すと足早に下座の小さい椅子に座る。すると途端に皆が慌てだす。
でもこの中で私が一番小さいからこの椅子が一番合っている。部屋の隅のいるバスグルの人々はポカン状態で見ているが、あんなゴウジャスな椅子は勘弁して欲しい。
「多恵様こちらの椅子を…」
「ありがとうございます。でも皆さんと対等に話したいんです。だから皆さんと同じで」
アラン団長もアイリスさんもゴウジャスな椅子を横に持ってくるが正直この椅子の方が座り心地いい。この椅子妙に懐かしいく感じ、どこで遭遇したのか思い出していたら
「思い出した!」
「多恵様⁈」
「理科室の丸椅子!」
背もたれが無い丸い木の小さい椅子。こんなところで再会するとは…学生の思い出かむばっく!
すると私の気持を察したレックス様が
「多恵様がこれがいいと仰るのだ。このまま話を始めましょう」
「はい。サクッといきましょう」
こうしてやっと皆さん着席し話を始めます。
バスグル側は男女4名。勤務年数が長い二人と今年来た新人さん2人。色々比較できるように公爵様にお願いしてあった。そしてもう一つのお願いは…
「では皆乙女様に失礼の無い様に…」
公爵様とサイファ様が退室していく。驚き慌てているアイリスさん。
雇主がいたら本音は言えない。だから事前に公爵様に話が始まったら退室をお願いしていたのだ。両団長も初めは難色を示したが
「騎士さんがいらっしゃり護って下さるし、バスグルの方々に悪い方はいないでしょう?」
と騎士さんに信頼を示すとレックス様は苦笑いして
「多恵様は我ら騎士の心情を良く把握してらっしゃる。何があっても我らがお護りいたします」
「はい。心配何て微塵もありません。よろしくお願いします」
こうして代表の方と向き合い聞きとりというお喋りを始める。
「お仕事の中、お時間いただいてありがとうございます。気楽にお話してください」
「乙女様は我々に何を聞きたいのでしょうか?」
明らかに警戒しているバスグルの人達に打ち解ける為にまず雑談から始める。
「私リリスの箱庭しか知らないんです。何か特色や名産品とかありますか?いずれ行ってみたくて」
「バスグルにですか?」
「はい。出来れば美味しいものと可愛い物や綺麗なもの、絶景ポイントとか紹介いただけると…」
バスグルの皆さんは戸惑っている。そして少ししたら今年来たばかりの10代の女の子が恥ずかしそうに手を上げる
「そちらのお嬢さん。お名前は?」
「えっ?私の名前ですか?」
「えっと…ミワといいます」
答えてくれ嬉しくてテンション高めに
「ミワさん何か紹介してください」
「あ…はい…バスグルは土地が痩せていてあまり作物は豊ではありませんが、北部の山林に“アニン”という灰色の実がなります。実は苦く食べれませんが、種の殻をむき数日乾燥させ煮込み冷やし固めると、甘く柔らかい“プル”というお菓子が出来ます。どの家庭でも作る庶民のおやつです」
ミワさんが発言すると皆んな懐かしそうに話し出す。
「“プル”は家で味が違うからまさに母の味だよ!」
「ウチの母さんは長めに煮詰めて甘みが強く硬めのプルだったよ」
4人はバスグルの代表的なお菓子の話で盛り上がる。良かった…緊張が解けたみたいだ。
実の形状や作り方味などを聞いていると、元の世界でいう杏仁豆腐なのだろうか?さっき沢山お菓子をいただいたが、また食べたくなって来た。
「そのアニンの種は輸入出来ないの?」
「実は温度変化に弱く直ぐ腐ってしまうんです。バスグルでも食べる分だけ採り直ぐに食べないと腐ってしまうのでバスグルでしか食べれません」
「じゃぁプルを食べにバスグルに行こうかしら」
そういうと皆和やかに笑ってくれる。冗談を言ったと思っているんだろうなぁ…ビルス殿下との約束で本当に行くんだけど…
やっと打ち解けてくれたのでここから本題に入ります。
「今日お集まり頂いたのは労働環境とバスグルから出稼ぎに来る方法で、問題が無いか聞きたいの。モーブル側からは話は聞いているけど、実際バスグルから来た方々の本音を聞きたいんです。公爵様がいたら言いたい事言えないでしょう⁈だから退室いただいたわ。ここでの話は公爵様にはしないから遠慮なく話してほしいの」
「「「「…」」」」
やっぱり警戒するよね。信じてもらえるか分からないけど…
「モーブルとバスグル互いに発展し合える対等な関係性を作りたいんです。モーブル側は労働力を、バスグル側は働き口を欲しています。互いに要望を出し合いすり合わせ、いい関係を築きたいんです。その為に現在の状況を正確に把握したいわけ」
「対等…」
また沈黙が続き…
リーダー格の男性が意を決して話し出す。
「分かりました。私が代表でお話ししましょう。私はこの畑で一番の長く勤めるベンです。一通り話しますので疑問質問は何でも仰って下さい」
そう言うと静かに話し出した。所々『?』って所はあるけど最後まで聞き、纏めて質問しよう。
ベンさんの話をまとめると…
・モーブルに出稼ぎに行けるのは、15歳から25歳までの持病がない健康な男女。
・バスグルの家族に稼ぎがあり、納税しバスグルの初等部(元の世界なら中学生)を出て教養のあるもの。
・国を出る際に支度金を納めれる者。
この条件を満たし者はバスグル国有の船の乗船申請をし、乗船許可を得てモーブルに渡りモーブルが斡旋する職場で働ける。
モーブルではランティス公爵様に聞いた通りモーブル王家が決めた労働条件で働け、モーブル人と同等に扱いを受ける。
望めは手数料は取られるが、バスグルに送金もしてくれるそうだ。
聞いた感じそんな難しい事では無さそうだ。しかし密入国している人が多いという事は、出稼ぎの条件を満たせない人が多いのだろう。
「正規で出稼に来るのは難しいのですか?」
「はぃ…。ここでお世話になる我々はバスグルでは中流以上の家庭です。なんとか支度金を用意でき申請して年単位で許可待ちした者ばかりです。我々は恵まれています」
ベンさんに話を任せていたベテランの女性が顔を歪ませ訴える
「祖国を悪く言いたく無いのですが、バスグルは貧しい。貧困層はその日し暮らしです。なんとか貧困から脱する為に正規では無く非合法でモーブルに来ています。
出稼ぎを斡旋する船主は安い料金でモーブルの小さい港に連れて行き悪い畑主に同朋を売るんです。そして低賃金で働かせます。そして同朋は少しのお給金を貯金しバスグルに送金するのですが、ブローカは法外な手数料を取り祖国の家族に少ししか仕送り出来ないんです」
2人の必死な訴えに一番若い男性が立ち上がった。咄嗟にアラン団長が私の前に立ち警戒する。アラン団長を手で制し男性の話に耳を傾ける。
「正規で来た私達は帰国もバスグルの船で帰る事が約束されていて好きな時に帰れますが、非合法で来た者達は闇ブローカに法外な代金を払わないと帰れません。だからモーブルに来たが帰れない者が沢山いるんです」
もしかしたら街で会ったモナちゃんも…
悲壮感半端なかったもん。
するとベンさんが私に歩み寄り私に手を伸ばした。咄嗟にアラン団長が私を抱え後方へ下がり、レックス団長がベンさんを取り押さえた。
びっくりしたけど悪意は感じなかったし、てん君もフィラも反応してしていない。
アラン団長が私を抱き上げ退室しようとする
「待って!ベンさんが何か言いたい事が!」
「ダメです。許可もなく多恵様に触れようとした。まずは貴女の身の安全を!」
するとベンさんが押さえつけられ苦しそうにしながら
「私は乙女様にお願いがあるのです。決して乙女様を傷つけようとした訳ではありません!」
ベンさんはレックス様に押えられながら必死で訴えている。話をしている時から思いつめた顔をしていて気にはなっていたけど、まさかの行動に騒然となり他のバルグルの人も動揺している。
「アラン様大丈夫です。ベンさんの話を聞きたい」
「多恵様なりません。女神の乙女である多恵様に無体を働いた者の話など!」
部屋の端で待機していたアイリスさんが駆け寄り吠えている。両団長も反対の様で話し合いの場を終わらせようとしている。でもベンさんの表情に引っかかる。ここで話を聞かないと後悔する気がして…
「いえ。ベンさんの話を聞きます。ただし安全のためにベンさんごめんなさい。話が終わるまで騎士さんに拘束してもらいますがそれでもいいですか?先ほどの行動で我々は貴方を信頼できないので」
「驚かせた事を謝罪します。身動きできない様にロープで縛っていただいていい!話を!」
私を抱え込むアラン団長を見上げ可愛く?お願いをする。
アラン団長とレックス様は目線で意思疎通を図り頷いてくれた。
「ベン。話が終わるまで両手両足を縛る。少しでも妙な事がすれば命は無いと思え」
「はい」
こうして拘束されたベンさんから話を聞く事になった。
「我々正規で来たバスクル人は非合法で来て劣悪な環境に身を置いている同朋を助け、本国へ帰れるように働きかけています。バスクル国王へ陳情書を送ったり、モーブルで困っている同朋をお金を出し合いサポートしています。しかし中々改善されず故郷の帰れずモーブルで亡くなる者も多い。不遇なバスクル人に助けて欲しいのです」
「バスクル王もモーブル王もこの問題に心を痛めてらっしゃいます。解決するために今回私が力添えさせていただく事になりました。今回の聞き取りはそのためにお願いした事なんですよ。近々バスクルから来た機織りの少女から話を聞く予定です」
「機織り…多恵様…その織物は生地が徐々に色変わりする織物ではありませんか?」
「そうです!やはりあの織り方はバスグルの特有のものなんですね。綺麗なので織ってもらう様にお願いしているんですよ。あれ?ベンさん?」
さっきまでの悲壮な顔をしていたベンさんが今度はポカンとなっているさん。この数分で何があった?
そしてベンさんは縛られているのに這うように近づいて来て、アラン団長がまた私を抱え込んで更に後ろに下がった。そしてレックス様が再度ベンさんを押える。
「多恵様。その少女は栗色の髪にオレンジの瞳の女性で名はヒラリといいませんか?」
「えっと…多分別人だと。その少女はオレンジの瞳に薄茶の髪です。名も違ってモナち…」
「モナ!ですか!」
レックス様に押えられているのに更に近付こうとするベンさん。モナちゃんと知り合い?
騎士の皆さんが臨戦態勢に入り、他のバスグルの人は青い顔をしている。
「ベンさん。モナちゃんと知合いですか?」
「はい!ずっと探していたんです。モナは元婚約者の妹なんです」
「へ?何ですと?」
思わぬところで繋がりを知り、変な声が出て自分でびっくりする。そしてこの後あまりに辛い現実に心を痛める事になるのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。




