芋堀り
やっとランティス領の畑の視察に向かいます。お仕事しなきゃだけど密かに楽しみがあって…
「おはようございます。お迎えに上がりました」
「今日もよろしくお願いします」
朝から眩しいジョエルさんが迎えに来てくれた。畑の視察とバスグル人との面会が終われば王都へ戻る。結構タイトなスケジュールで疲れてきているが、後少しだから頑張らないとね…
ジョエルさんが手を差し出してくれ重ねるとジョエルさんは両手で私の手を包み
「咄嗟の事とは言え申し訳ございませんでした」
「?」
わたしの手首を見つめるジョエルさん。意味が分からず手首を見ると少し鬱血している。恐らく船から落ちた時に…
「ジョエルさんが助けてくれなかったら私ここに居ません。見た目酷そうですが痛みも無いので問題なしです」
「貴女を守れてよかった…」
「ジョエル殿…お時間がございません。そろそろ馬車へ」
いつもなら敵意丸出しのアイリスさんはジョエルさんに対する態度を軟化させている。恐らく私を助けたから強く言えないのだろう。このまま王都に帰るまで揉めないで欲しいなぁ…
部屋を出て馬車に着くとアラン団長とサイファ様が話をしている。歩み寄りご挨拶をするとサイファ様はとてもいい笑顔で手を取り口付けた。
すると背後から…
「旦那様。私にも乙女様にご挨拶させていただけませんか⁈」
「イザベラ!其方いつ戻ったのだ」
振返るとすっごい美人が立っていて冷たい微笑みを向けてくる。あれ?敵視されています私?紹介されなくても分かるサイファ様の奥様だ。
スレンダーでこの箱庭には珍しく一重の塩顔美女だ。背が高くめっちゃ見下ろされている私。あたふたするサイファ様にアラン団長が
「この後の予定もございます。サイファ殿!奥方の紹介をされるのでしたらお早く」
「あっはい。多恵様妻のイザベラにございます」
「お目文字叶い光栄にございます。お見知りおきを…。ご存じの通り婚姻しまだ妻として未熟故に、夫の繋ぎ留め方が甘くご容赦いただきたく…」
「繋ぎ留め方?」
「イザベラ!多恵様に失礼な事を!」
意味が分からずポカンな私に後ろで失笑するアラン団長。冷気を発しているイザベラ様に青い顔のサイファ様。
この不思議な雰囲気を変えてくれたのは公爵様で出発を促してくれた。私一人意味が分からず困惑する中、馬車は畑に向け出発した。
馬車の中でアイリスさんがイザベラ様の意図を教えてくれる。
「奥様の悋気ですか」
「はい。サイファ様が多恵様に心を向けられていたので妻としては面白くないのでしょう」
「心を向ける?私サイファ様に口説かれていませんけど⁈」
「はぁ…お気付きになられていなかったのですね。傍が分かるくらい心を向けておられましたよ」
「…(思い出してみたが)心当たりがありません」
箱庭の男性は皆さんはっきり分る様に口説いてくる。サイファ様が口説く様な会話は無かったと思う。すると苦笑したアイリスさんは
「まぁ奥様がいらっしゃるサイファ様が多恵様との縁は到底無理な話しです。本気になる前に奥方に釘をさされて良かったと思いますわ」
「はぁ…」
今回の事で夫婦喧嘩にならないといいけど…とばっちりは遠慮したい。
馬車で雑談をしていたら直ぐに畑に着いた。アラン団長の手を借り降りると目の前に一面の緑!ホンと視力が回復しそうだ。
作業服の男性が深々と頭を下げてご挨拶頂く。
「乙女様におかれましては…えっと…」
「お仕事中お邪魔いたします。畏まるのは苦手なので、気楽にして下さい」
「えっあっ…」
男性は領主の公爵様を見ている。公爵様は頷き…
「乙女様の望まれるよう…ではご案内致しましょう。多恵様お手をどうぞ」
公爵様が手を引いてくれ畑を案内してくれる。と言っても今は特殊な物を植えてないようで主食になる麦の栽培を見学し、この世界の農具を見せてもらう。
元の世界でも農業についてはあまり知識が無いので“ふ~ん”って感じだ。
ふらふら公爵様の後をついて歩いていると、農道を挟み反対の畑が目に入るが麦ではなさそうだ。気になり
「公爵様。あっちは何を植えているのですか?」
「あちらはイモ類を…」
「芋ですか!収穫は未だですか?」
芋に食いつく私に引き気味な公爵様は隣の畑の芋は丁度収穫時期だと教えてくれた。羨望の眼差しで公爵様を見詰めると…
「恐らくそろそろ収穫作業を始めますが見学なさいますか?」
「はい!是非」
私の魂胆を知っているアイリスさんは微笑み片や公爵様とサイファ様は困惑気味だ。
歩いて隣の畑に移動する。足取りが軽い私を見てジョエルさんが優しい眼差しを向けている。
ちなみに昔何度か芋ほりをした事がある。でもサツマイモだからじゃがいもだと収穫方法は少し違うのだろうか?
といろんなことを考えながら歩き、どうやって収穫体験できる様に話をもっていくか考える。
「こちらが芋畑です。(収穫)作業をお近くで見学なさいますか?」
「はい。お願します」
こうしてサイファ様の手を借り畑に入る。汚れてもいい靴を履いているから大丈夫!ずんずん入って行きます。
畑の真ん中で男女10名弱が芋を掘り起こしていた。作業をしているのは恐らくバスグル人だ。近くに行き作業を見ていると掘り起こされる芋はどうやら“ジャガイモ”だ。一気に気分が上がる
「ジャガイモだ!ポテチが作れる♪」
「「「「「ポテチ?」」」」」
聞きなれない言葉に固まる皆さん。変な子扱いされない様に説明をする。
目を輝かせて作り方を聞いてくるサイファ様。簡単に説明すると必死で手帳に書き残している。
「もしご迷惑で無ければ芋堀させてもらえませんか⁈」
「どうぞ。グルタ。乙女様が収穫出来る様に準備なさい」
「はい。若旦那様」
こうして責任者のグルタさんが手袋とスコップに似た道具を貸してれ、隣で掘り方を教えてくれる。スコップもどきでジャガイモを傷付けない様にゆっくり掘り起こすと、こぶし大のジャガイモがごろごろ出て来た。私の目はジャガイモがポテチにしか見えない。
ふと視線を感じ顔を上げると皆が温かい目をしている。そしてアラン団長が横に来て胸元らハンカチを取り出し私の頬に手を当てて頬を拭いてくれる。
「ありがとうございます」
「如何ですか多恵様」
「めっちゃ楽しいです!あの…図々しいですが掘ったジャガイモですが…」
公爵様は目尻を下げて
「どうぞお持ち帰り下さい」
「はい!ありがとうございます!嬉しい…」
すると私が掘ったジャガイモを麻袋に入れているグルタさんは不思議に
「身分のあるご令嬢が芋がうれしいのですか?」
「はい。こんな掘りたてのお芋美味しいに決まってんじゃないですか!」
「確かに美味しいですが、宝石やドレスは…」
「興味ありません。美味しい物は正義です!」
鼻息荒くそう豪語する私を皆さんは微笑ましく見ているけど気にしません。
こうして密かにやりたかった芋掘りができて満足したのでした。
「ではバスグル人との面会の前にお茶休憩を致しましょう」
公爵様はそう言い畑隅に張ったタープへ案内してくれた。使用人さん大変だったろうな…畑にタープを張りテーブルと椅子がセットされていて、ミニガーデンパーティーの様だ。本当に私事にすみませんと心の中で謝る。
着席するといい香りのお茶と甘いお菓子が並ぶ。ここで畑について話をしながらお茶を頂くが、ランティス領は優良で全く問題が無い。公爵様は問題点が無いか気にしていたので、午前(3刻半)と午後(5刻)頃に少しでいいので休憩を入れると、作業員がリフレッシュし作業効率が上がり怪我やミスが減るので取り入れて欲しいと提案する。すると
「我々も長時間書類を書いていると間違えが多くなり、お茶を飲んだりして休憩を挟みます。確かに途中の休憩は有効ですね。多恵様に指摘頂き気付きました。これからも模範となる領主でありたいと思います」
「もう十分素晴らしい領主様ですわ。ご立派です」
優しく微笑む公爵様と私の話を一生懸命書き留めるサイファ様。代替わりしても大丈夫そうですね…
さて、後はバスグル人と面会です。どんな話がきけるのだろう…正直怖いなぁ…
お茶終えて作業員の休憩室へ向かう。遠くに見える小屋がそうらしい。歩いたら10分位かなぁ?
お菓子をいっぱい食べたから運動がてら歩き出したらアラン団長が
「多恵様。馬車で…」
「いいよー。すぐそこだし運動になるし」
「なりません。これ以上痩せられると消えてしまいます!」
「んな訳…ある…わけ…」
そう言いながら振り返るとみんなの表情が厳しい。たった10分歩くだけじゃん!
「多恵様の綺麗な御御足が!」
『見たことあんの?』
「もっと膨よかにならないと病気に」
『もう太りたくありません!』
「そんなに歩くと倒れます」
『そんな柔ではないよ!』
もういいや…エスコートなくても見えているから歩いていたら着くだろう。反論するのも面倒臭くなり皆んなを無視して歩き出す。
すると誰か横に来て手を差し伸べて来た。
「皆過保護です。散歩はいい運動になりますわ。私がお供いたします」
「ありがとう!アイリスさん」
キラキラの騎士に負けないくらい男前のアイリスさんにエスコートされ小屋に向かいます。道すがらジャガイモの美味しい調理法を話しながら歩く。どうやらアイリスさんは芋が好物のようだ。女子は栗・芋・南瓜大好きよね〜
恨めしそうに後ろをついてくる殿方を無視してガールズトークを楽しむのだった。
そしてやっと小山前に来るとバスグル人の男性と先に来ていたレックス様がお迎えしてくれる。このバスグルの男性は緊張しているのが分かる。
でもね…私も人見知り発動してて緊張してますから!
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