ごめんなさい
公爵家の皆さんと晩餐。無難に終えたいが…
ランティス公爵様との食事は和やかに進み、話題が豊富でユーモアのある公爵様との話を楽しんで食事を終えた。公爵様の為人を知り心からこのモーブルを愛しているが分かる。
最後のお茶をいただいていた時に急にトーンを下げ話し出す公爵様。世間話ではない雰囲気に座り直し耳を傾ける。
「バスグルからの労働者の受け入れは王家からの依頼でした。妖精の加護で農作物の育ちが早まりうちの小作人だけで追いつかなくなった事も重なり受入れました。
先代の王からモーブルの者と同じ扱いをする様に言われ賃金も待遇も同じに受入れて来ました。バスグル人は勤勉で真面目な者が多く、よく働いてくれています。資料を見ていただければお分かりになると思いますが問題は無いかと思います。もし改善点や問題点があればご指摘頂きた…」
資料を見た限り理想的な雇用で特段問題はない。強いて言えば肉体労働なので午前と午後に短時間でいいので休憩を挟んだ方が、労働者もリフレッシュできて作業効率が上がるだろう。本当にその程度しか問題はなく理想モデルだ。
いい雇主で自信を持っていいと思うんだけど、何故か公爵様の表情は硬くそれを見ていたご子息のサイファ様が
「父上。乙女様にご相談なさっては?」
「しかし…これは…」
「私で力になれるならお聞きしますよ」
困った顔した公爵様は申し訳なさそうに話し出した。
「私共は真面目に働いてくれているバスグル人を身内に様に思っております。モーブルで暮らし幸せになって欲しいと思っているのですが…」
「??」
口籠る公爵様を見かねてサイファ様が続ける
「できうる限り賃金も上げ待遇も改善してきましたが、彼らは何故かいつも精気がない。時間を作り話を聞くのですが、すべてにおいて諦めている感じがするのです」
「あ…」
「ある長く務めるバスグル人の男性に一緒に働くモーブル人の女性が好意を寄せていたので、私が仲を取り持とうとしたのです。そうしたらバスグル人の男性はこう言ったんです『まだ許しを得ていないので私だけここで幸せになる事は出来ません』と。我々には理解できずどうしてやればいいのか分かりません」
王族や貴族だけかと思っていたが国民にもその意識が根付いていたなんて…闇深しバスグル!
『やっぱりモーブルだけで終わる話じゃないよ!これは別途依頼だよね⁈分かってます?リリス!』
「公爵家の皆さんが労働者の事を大切に思ってらっしゃる事が良く分かりました。これに関しても力になれる様に考えてみますから、少しお時間を頂きたい…」
驚いた顔をして私を見ているお2人。ここで公爵様に明日の農地の視察の時に代表者でいいのでバスグル人の労働者と話がしたいと申し出る。
この視察の後にモナちゃんと話をするから、正規と非合法で来た労働者の比較出来るかもしれない。
考え込む公爵様にご子息のサイファ様が
「父上。我々も打開策が見つからず困っていたではありませんか。多恵様がきっかけを作って下さるかもしれない。それに彼らは女神の乙女様になら心開いてくれるかもしれません。多恵様の予定もありお時間をあまり長く取れませんがよろしいでしょうか⁈」
「はい。ご無理を言いますがよろしくお願いします」
席を立ち頭を下げた。
「「「多恵様!!」」
私のお辞儀に公爵様、夫人、サイファ様が狼狽えている。私のお辞儀に慣れているレックス様や騎士さん優しい眼差しで見守ってくれている。
ここで先ほど兄認定されたレックス様が
「公爵様。多恵様は身分関係なくどんな方にも同じ対応をなさる。この“お辞儀”なるものも礼儀作法とお聞きしています。恐縮なさらなくていいかと…」
レックス様がそう言うとサイファ様が席を立ち私の元に来て右手を左胸に当て跪き頭をさげて
「お心遣いに感謝いたします。我がランティス公爵家は多恵様に協力を惜しみません。何なりとお申し付けください」
「立って下さい。そんな大したことでは無いですよ!」
焦っているとレックス様が笑いながら
「サイファ殿。多恵様は謙虚なのだ。あまり改まると困ってしまわれる。その辺で…」
こうしてやっと食事会が無事終わり部屋に戻る事になった。レックス様がエスコートしてくれるのかと思ったら何故かサイファ様がエスコートしてくれる。
部屋を出たらレックス様がサイファ様に何か耳打ちしている。
「分かっております。私はそんな軟派な男ではありません」
「紳士の振る舞いを!だぞ!」
2人の会話は聞かない事にした。聞かない方がいい事も沢山ある事を箱庭に来て知ったのだ。
サイファ様は騎士では無いががっしりして背が高く高位貴族だけあり中々の美丈夫だ。自ずと見上げながら観賞しちゃう。すると頬を染めたサイファ様が
「半年早く貴女が召喚されていればと何度思ったか…」
「半年?」
「はい。半年前に私妻を迎えました」
「おめでとうございます。新婚さんですね。奥様は?」
「…所要があり実家に戻っております」
私の後ろを歩くレックス様が笑っているが意味が分からない私。そして
「奥様がいらっしゃらないならお寂しいですね」
「あ…はぃ。しかし今は貴女がいる」
「ごめんなさい。私が急に農地視察を希望したから」
「・・・」
「ぷっ!ははは!」
背後のレックス様が笑い出した。そして
「俺の心配は杞憂だったようだ」
「レックス殿!」
「すみません。意味不明なんですが」
笑うレックス様に少し不機嫌なサイファ様は何の事が教えてくれない。もういいや…今日は疲れたし…
部屋に戻りアイリスさんに手伝ってもらい就寝準備をして早めに寝ると事にした。
翌朝てん君の軽めの前脚パンチで目が覚める。手が温かく見ると誰かが手を握っている。見上げるとベッドサイドに座ったフィラだ。あれ?視察中は来ないって拗ねていたのに⁈
「あれどうしたの?」
「体は辛くないか?」
「うん?」
いつもなら了承も無くベッドに入って来て抱きしめキスしてくるのに、今日は何故か距離があるし妙に余所余所しい。少し不安になって来たら
「まずは謝りたい」
「謝る?何かしたの?」
すると途端に私の周りに光の玉が無数に飛んできて私の周りを飛んでいる。
「??」
「俺から話すから落ち着け!」
「???」
光の玉(妖精達)の様子がおかしい。心で“妖精と話したい”と念じると光の玉は妖精になり一斉に話しかけて来て余計にカオスな状態になった。
「落ち着け!俺が話す!謝るのは後にしろ!」
『謝る?』
朝から意味不明だ。てん君は鼻息荒く妖精達を追い回しているし。とりあえず説明して!
「あ…なるほどね…」
『たえ こまらせた どうしたら ゆるして くれる!』
「えっとね…次からは気をつけようね…」
『『『『たえ だいすき!』』』』
「ありがとう…」
許してもらえた妖精達は嬉しそうに私の周りを飛び回っている。あまりグルグルしないで欲しい。目が回るから!
『ようせい グルグル やめる! たえ め グルグル する!』
てん君が妖精達を追いかけ出した。ずっとシュン太郎のフィラが愛おしくて抱きしめてあげる。顔を上げたらフィラは怒られ待ちの幼児の様な顔をしている。
「俺が嫌いになったんじゃないのか⁈」
「なんで?」
「妖精王の俺がちゃんと妖精達を見ていれば…」
「うん。だからちゃんと次は気を付けてね」
「多恵!愛してる!」
「!!」
想いが暴走したフィラは了承無く押し倒してキス魔と化した。朝からごっそり体力を持っていかれグロッキー寸前の私。
いつもの如くてん君がフィラを噛んでキスの嵐は止んだのである。
『もう つぎ したら て かみきる』
「「!」」
フィラはてん君から最終警告を受けて、妖精王なのに青い顔をしているフィラ。てん君はやっぱり最強なのを再認識する。
さて、何故フィラと妖精達が謝罪に来たかだ。実は甲板で足を滑らせた時に吹いた突風は実は風の妖精達の仕業だった。
この妖精達は生まれたばかりで、まだ妖力が安定していない。そこを手助けするのが妖精王であるフィラの仕事。
あの日港近くて飛び回っていた妖精達は私を見つけ、フィラに私に挨拶したいとお願いしたそうだ。
フィラは最近私をチェックし過ぎて、ストーカー&邪魔者扱いされて拗ねていた。
そんなフィラは私の状況も見ずに『行ってこい』と言ったわけ。
妖精達は喜んで私の元へ。そこで遊び好きの妖精は誰が一番早く私の元に着くか競走し…
競走→ダッシュ→風の妖精→突風
てな訳である。
『だからモーブルの騎士達を責めずお礼を言ったのね!納得』
とりあえずフィラを邪険にした私も非はある。婚約前から嫉妬深い&構ってちゃんなのは分かっていたんだよね…少し小さくなっちゃったフィラを抱きしめて
「好きだよ…」
「多恵…明日の朝も来ていいか?」
「キスが長く無いならいいよ」
「約束する!」
こうして転落事件も解決してすっきりしたフィラは帰っていて行った。
私は夕方位に疲れたけどね…
いいタイミングでアイリスさんが起こしに来て身支度を始める。朝からキラキラのアラン様が食卓までエスコートしてくれ、公爵家の皆さんと朝食をいただく。
何故かサイファ様が隣で私の世話を焼き、アラン様が何度か注意をしている。どうやら実年齢より幼く見えるらしいく妹のように感じるのだろう。あっ!実年齢ってのはここでの年齢ね!本当の年齢なら今ここでは一番年上ですから!
食後は一旦部屋に戻り視察のしやすい服に着替えてお迎えにを待つ。
どうやらレックス様が朝一に視察する畑とバスグル人と会う休憩室を確認に数名の騎士と行っているらしく、ジョエルさんが迎えに来るらしい。
絶賛警戒中のアイリスさんとジョエルさんが揉めない事を祈りつつジョエルさんを待つ。
アイリスさんと目が合うと微笑んでくれる。
やっぱりアイリスさんはとても綺麗だ。
凛々しく綺麗なのはサリナさんに似ている気がする。もう少し打ち解けられたらいいんだけど…
例の告白があるから難しいなぁ…
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