事故
港の検疫について話が終わり、国外からの入国について聞くと…
一息吐きこの後は入国について聞く。モーブルに来る時に国境を通過する際に身分証証の提示があったから、何かしらあるのだと思い聞いてみる。
「下船する際に身分証の確認は行ないのですか?」
「した事がありません」
「へ?何で?」
どうやら入港した船の出港元や船の所有者の確認はしているが、乗船している人まではしていない。何故と聞いたら基本船が出港した国の者という認識だそうだ。
『これだけ船が行き来するなら国を渡り歩いている人もいるでしょう⁈』
出入国の記録をしていないので、現状国外から来ている人の数と国外に出たモーブル人は把握できていない。
『ここも改善が必要だなぁ…』
イマイチ出入国管理が必要な事が理解できないタバス伯爵は困惑している。これに関しては今回の訪問で解決できそうにない。私自身も一度資料を持ち帰り調べ直し、また私自身も勉強し直す必要がありそうだ。
移動による疲れで目がショボショボしてきた。すると部屋の隅に控えていたアイリスさんが発言も求めて来たので許可すると
「失礼ながら多恵様はかなりお疲れの様で、話し合いはここで終了とさせていただきく存じます。伯爵様、宜しいでしょうか?」
「あぁ…気が利かず申し訳ございません。明日の船の入港は早朝の為お早くお休み下さい」
「あっはい。お疲れ様でした」
アラン団長がエスコートしてくれ部屋まで戻り、皆さん“お疲れ様”を言い早々休む事にした。
『たえ てん よぶ』
『あ…ごめんね…忙しくて…』
てん君を呼ぶと小さい。最近忙しくてもふなで不足なのが分かる。あまり体力が残っていないけど、いざという時に護って貰うので、眠いけど頑張ってもふもふする。てん君の毛玉は最古級で撫でると直ぐに大睡魔を呼んで来て直ぐに寝落ちをした。
翌朝はてん君の前脚パンチで目覚める。昨晩頑張ったから豆柴程になったてん君のパンチは目覚めるには十分だった。
起き上がると光の玉が目の前に来て手紙を1枚置いて行った。妖精さんが持って来たという事は…
「フィラか…」
妖精さんにお礼を言い手紙を読む。
“俺は邪魔者だから暫く行かない。多恵が早くモーブルの問題を解決できるように俺も協力するよ。落ち着いたらまた行くし、俺の元に泊りに来るんだろ?ならば数日会えないのは致し方ないな。俺も寂しいのを我慢するさ”
「ん?泊り…て何?」
手紙を片手に固まっていたらアイリスさんが起こしに来た。
「多恵様ご起床ですか?本日は2刻半前には出発しますのでお急ぎを」
「はぁい!」
ここから急ピッチで身支度をし朝食をいただく。朝入港するのはベイグリー公国の貨物船。事前に見学したいと申し込みをしたら、元レオン皇太子の事も有り、ベイクリー側が快諾して下さり船内も見学させてもらえる。歩き回るので足首までのロングワンピースを着て髪もポニテールにしてエントランスに向かう。
エントランスには朝から眩しい騎士団の皆さんが待ち構えていて目が痛い…
「皆さんおはようございます。今日もよろしくお願いします」
皆さん一斉に騎士の礼をしてくれ恐縮してしまう。港町は道幅が狭い為、陛下の馬車ではなくタバス伯爵様の馬車に乗せていただき港に向かう。
タバス伯爵様は準備がある為に既に出発されていて、馬車には私とアイリスさんが乗車し、騎士さん達は馬車に並走し護衛してくれる。
街並みを見たくてアイリスさんの許可を貰いカーテンを開けると真横にジョエルさんが並走している
目が合うと破顔して手を振って来る。軽くお辞儀すると彼はまた自分の唇を指さして何か言おうとしている。すると
“シャ!”
「へ?」
後ろからアイリスさんが勢いよくカーテンを閉めてしまった。
「任務中に愛を囁くなんて不埒な。あの者は要注意です」
「そっそうだね…」
あまりの剣幕にそれ以上何も言えなかった。
そうだバタバタしてすっかり忘れていたが、アイリスさんの告白もあったんだ。あれからそんな気配はなくいつも通り完璧にお仕事してくれている。前にフィラがアイリスさんがやらかすって言っていたのを思い出した。
私から『私のこと好きなの?』なんて聞けるわけないし…
「困ったなぁ…」
“がばっ!”
「ひっ!」
アイリスが急に隣に来て手を握り見つめて来て
「あのジョエル殿ですか⁈私が排除致しましょうか!」
「違うから!えっとね…思ったより港の問題に時間がかかるなぁ…て?」
「そうでございますか…しかしジョエル殿は…」
「大丈夫だから」
「…」
もしかしてヤキモチだろうか…困ったなぁ…
ここから港まで沈黙が続き居心地悪く神経をすり減らす事になる。
『いっ胃が痛い…』とお腹をさすっていたら御者さんが
「乙女様。船が見えてまいりました。カーテンをお開け下さい」
「はぁ〜い」
カーテンを開けると目の前に大きな船が見えてきた。丁度着岸するところだ。
「大きい…」
昔見た世界一周する豪華客船みたいだ!感動して見ていたら馬車が止まった。
外からレックス様が声をかけてくれ、アイリスさんが鍵を開け先に降りる。
続いて扉に行きレックス様の手をお借りし降りるとタバス伯爵様がお迎えしてくれた。
「ようこそモーブル国営の港へ」
「今日はよろしくお願いします」
伯爵様にエスコートされ船の近くへ。着岸したベイグリーの船にタラップが接続され、船から入港手続きの為に船の責任者が降りてきた。
伯爵様と責任者がご挨拶され管理事務所に移動し手続きをするそうだ。手続きの間に伯爵様の部下の方と船長が船内を案内してくれる。
今日入港したのは貨物船で客船の様に広くなく通路も狭い。だから大人数は動きにくく、付き添いはアラン団長と聖騎士のマルロさんと騎士団はジョエルさんが同行してくれる。最後までアイリスさんも同行すると食い下がったが、狭く入り組んでいる事から船側から5名までにしてほしいと言われ留守番してもらう事に…
あからさまに不機嫌なアイリスさんに困りながら、大丈夫だと何度も告げ乗船する事になった。
船内の通路は聞いていた通り狭くて、すれ違うのもやっとだ。
船長は入港手続きが終われば直ぐに荷を積み込むので先に倉庫から案内するといい、船内の階段を降りて船底にある貯蔵庫から見せてくれた。階段は急でワンピースの裾を持ち階段落ちしない様に注意しながら降りていたら…
「失礼」
「へっ?」
体が浮きアラン団長が抱き上げだ。
「すみません。遅いですよね」
「そうではありません。船長に聞けばまだかなり降るそうなので」
『大丈夫だから下ろして』と言える雰囲気ではなく、お礼を言い大人しくしている事にした。ここで”自分で降りる”って言ったらアラン団長を半人前扱いした事になる。団長にそんな事言える訳もない。”郷に入っては郷に従え”だ。
長い階段が終わり目の前に大きな引戸があり、作業員さんが4人がかりで開けてくれる。中は広く野球出来るくらい広い。
「船長。今日は何を積み込むんですか?」
「主に麦とテンサンです。後は日持ちする野菜類をですかね」
「積み込みにはどのくらいかかりますか?」
「丸一日かかり出港は明日の朝一になります」
その位はかかるだろうなぁ…全て人力だから。クレーンやリフトなどないから仕方ない。ふと思い出し
「船長。船員で体調不良の方はいませんか?」
「体調不良ですか?今回はいませんが…」
「いる時はどうしていますか?」
「下船させ薬を買いに行かせ、後は船内で休ませています」
この後、体調管理について聞いたが、やはり嘔吐下痢症の人や風邪の症状が船員から出ているし、出港はしてから体調を崩して寝込む場合もある事がわかった。
『やはり検疫は必要だわ』と改めて感じた。
この後操舵室を見せてくれるらしく、今度は階段をひたすら上がる。モーブルの食事が美味しくて最近太ってきたから、ダイエットになると気合を入れたら…
「マルロさん…あの…自分で…」
「ここの階段は急ですので危険です。お任せを」
「あ…すみません…ありがとうございます」
上りも結局抱っこされる事に。暫く上がると何故かジョエルさんに交代した。
「やっぱり重かったですよね!マルロさんごめんなさい!」
「いえ私が最後までお運びしたかったのですが、ジョエル殿も乙女様のお役に立ちたいと強く志願されまして…泣く泣く代わった次第です」
肩を落としてそう呟くマルロさん。苦笑いしながら今度はジョエルさんに抱っこしてもらう。心無しが顎を上げ誇らしげに見えるジョエルさん。私なんか抱っこしても重くしんどいだけでしょう⁈
ジョエルさんは楽しげに色々話しかけてくる。流石鍛えた騎士だけあり私を抱っこして何段もある階段を上がっても息が上がらない。やっぱり鍛え方が違うのだろう。
やっと階段か終わり操舵室にやってきた。
抱っこからも解放され自分で歩き操舵室へ。
想像していたより広く高校の教室位あり、全面ガラス張りで海が一望でき良い眺めだ。操舵室の前方窓真ん中に舵がある。大きく直径1m程ある。興味津々で見ていたら船長が
「触って見ますか?」
「いいんですか?」
「碇泊していて問題ないございません」
「じゃー!」
腕の短い私は両手で持ちとあまり余裕が無く長時間は持てそうにない。背後から船長が一緒に持ってくれ舵のきり方を教えてくれる。
ハンドルに似ているから車を運転している気分だ。後は難しくて半分も分からなかったが計器類の説明を受けた。
「乙女様。良ければ甲板を見学なさいませんか?」
「?」
どうやら船長は第2女神イリアの船首像を見せたく、それは船長のご自慢らしい。
一瞬難色を示したアラン団長だが、今日は風もなく危険が無いと判断し許可してくれた。
甲板に着いて船首の船首像を見るが、甲板端の柵からし少し身を乗り出さないと見えない。アラン団長が柵を掴み背後から私を抱えてくれ、私も柵を握り少し乗り出し覗き込んだ。
「見えました!綺麗…」
「港に碇泊すると必ず船員がロープを使い手で綺麗に汚れを取り磨いているのです」
船長はまるで娘を自慢しているかのように、優しい眼差しを船首像に向けている。イリアの船首像は少しリリスに似ていた。やっぱり姉妹だから似ているのかなぁ…
そんな事を考えながら支えてくれたアラン団長にお礼を言い、柵から離れて甲板を散歩する。眺めはいいし潮風は気持ちいいし最高!
さてそろそろ帰ろうと思い、最後に船首像を再度見たくて船首の方に歩いて行くと
“ぐきっ!”「へ?」
何か踏みバランスを崩し体が右に傾き…
「わぁ!」
「多恵様!」
運悪く突風が吹き柵に体が激突し、その拍子に体が柵の外に!
「きゃぁ!」”ばっ!”
「多恵様!落ちついて!何があってもこの手離さない!」
「へ?」
目を開けると眼下に海が見え、見上げるとジョエルさんの悲壮なお顔が見えた。
私の体は宙に浮きジョエルさんが柵に捕まり、私の腕を掴んでくれている。
『落ちたの?マジでヤバイ!』
「「「多恵様!」」」
「ジョエル!死んでも離すな!多恵様早く手を!」
直ぐマルロさんが手を差し出してくれ必死で掴んだら、2人が一気に引き上げてくれる。
やっと甲板に戻り膝から崩れ落ちた。
恐怖に体の震え鼓動が煩くて周りの声が聞こえない…
血の気が引き体が冷えていくのが分かる。
すると急に温もりに包まれ安心する香りがする。見上げるとフィラがいた。そうフィラに抱きしめられていた。
フィラの優しい琥珀色の瞳を見ていたら安心して震えは止まった。
「今は俺は邪魔者じゃ無いよな」
「うん。ありがとう…で心配かけてごめんなさい」
「お前が無事ならいい」
フィラは私を抱き上げ唖然と見ているジョエルさんとマルロさんに向かい
「我が番を助けてくれ礼を言う」
状況が分からない2人に駆け付けたアラン団長が跪きフィラに丁寧な挨拶と謝罪をされる。
ここでやっと妖精王だと分かった2人も同様に跪く。同じく船長や手続きを終えたタバス伯爵様や船の責任者も同じく膝を着いている。
『あ…やらかした…』
フィラに下ろしてもらい
「皆さん立って下さい!私の不注意で大事になりすみませんでした。助けてくれたジョエルさんとマルロさんに感謝を…」
2人の前に行き手招きすると立ち上がり屈んでくれたので、2人の頬に口付け再度お礼を言う。お礼を言い終わると直ぐフィラが抱きしめ離してくれない。恐らくヤキモチだ。でも私を助けてくれたから文句を言えず微妙な顔をしている。そんなフィラを宥めていたら、離れた所で船長が船員を怒鳴りつけていた。
「何故こんな所にロープが!」
先程までの紳士な船長はなく、顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。反対に船員さんは真っ青な顔をして事情の説明をしている。
どうやら私の見学が終わったら直ぐに、船長自慢の船首像を磨く予定で船首の柵近くにロープの束を準備してあったそうだ。足元を見ていなかった私がまさか踏んで転けるなんて思ってもいなかっただろうし、まさか船首像を再度見に行くなんて予想出来なかった筈だ。
『私の不注意だ完全に…昔からここ一番何かやらかすんだよなぁ…私』
怒り狂う船長の元に行き頭を下げて謝罪し、船員さんを責めないでとお願いする。
「しかし女神の乙女様を危険な目に合わしてしまい…」
「いえ!私が危険な船首に了解得ずに近付いたのが事故の原因です。船員さんはいつも通りのお仕事をしただけ。私の行動が予定外なんです…船員さんごめんなさい」
再度頭を下げ謝ると皆んなががあたふたしだす。そらを聞いていたアラン団長が柔らかく微笑んで
「多恵様のお気持ちはわかりました。ですが我らは貴女の身を守る責務が有ります。故に我々に非はある。そこはご理解いただきたい」
「分かりました」
こうして転落事故は内緒にしてくれる訳もなく、馬車に戻るとアイリスさんは騎士と船長に激怒し、宥めるのに体力を使う事になった。事態はこれだけで済まず、ちゃっかりダラス陛下と何とベイグリー公国まで話が行き、後日ベイグリーから特使が来て謝罪とお詫びの品を持ってきたのだ。
大事になりまた落ち込む事になる。
事後処理でバタバタして気付かなかったがフィラの様子がおかしい…いつもなら私が危険な目に遭うと必ず任せておけないと怒り、妖精城に拉致ろうとするのに今回は何も言わない。それに助けてくれた騎士さんに丁寧にお礼を言っていたし…
『怪しい…何か裏があるなぁ!』
私の勘は当たっていて後日真実を知る事になる。
お読みいただき、ありがとうございます。
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