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薔薇

港町まであと半分…車が欲しい…



「目的地までかなりあります。お休みいただいても大丈夫ですよ」

「寝てしまうと夜寝れなくなるから起きてます」


お昼休憩から港町のタバス伯爵の屋敷まで1刻半はある。一応、途中にお手洗い休憩はあるがあまり時間が取れない。

港町は酒場や色街があり治安が良くないらしい。それに酔っぱらいの喧嘩が絶えないそうだ。精鋭の騎士が10人いれば問題は無いが、絡まれないに越したことはない。だから日が落ちるまでに伯爵の屋敷に着きたいのだ。

さて馬車の中で暇になるのが分かっていたので本を数冊持って来ている。昼からは本を読んで過ごそう。私が本を読み出すとアイリスさんも書類に目を通しだした。


『良かった…気まずくならなくて』


半刻ほど本に集中していたら小窓を御者さんがノックして


「乙女様。外に花畑が見えます。宜しければカーテンを開けてお楽しみください」

「ありがとう。アイリスさん開けていい?」


許可を貰いカーテンを開けたら一面薔薇が咲きほこっている。


「わぁ!すっごーい!アイリスさん窓を開けていい?」


窓を開けると薔薇のいい香りがして気分テンションが上がる。身を乗り出して見ていたらアラン団長が


「ここはミグナス伯爵領で花の栽培で有名です。今の時期は薔薇ですね」

「元々は花を愛でる方では無いんですが、この景色は圧巻で感動しました」


すると何故か横を並走していたアラン団長が前の方に行ってしまった。気にも留めずにひたすら薔薇を眺めていたら目の前に紅色の薔薇が…


「へ?」


差し出していたのはジョエルさん。


「貴女の漆黒の美しい髪にはこの赤い薔薇が良く似合う」

「えっと…ありがとうございます?」


何処から取って来たの?

並走する他の騎士が苦笑いしている。もしかして持ち主に断わり無く勝手に摘んできてない?


「ジョエルさん…薔薇は嬉しいんですが、畑の持ち主に了解を得ました?」

「勿論!丁度畑に農民が居たので相応の対価を払ってきてますよ」

「良かった…」

「やはり貴女は真面目で素敵だ」

「あはは…」


するとアラン団長が下がって来て慌ててジョエルさんが隊列に戻って行く。


「多恵様。ほんの少しですが薔薇を見ながら休憩とします。この先に馬車を駐車できるスペースがあるので、そこでゆっくり薔薇を愛でてください」

「ありがとうございます。嬉しいのですが港町に到着が遅れてしまいませんか?」

「大丈夫です。予定より少し早く進めているので」


アラン団長の配慮で薔薇を愛でながらお茶おいただける事になった。少し広い空き地に馬車を停め木陰に騎士さんがシートを敷いてくれそこに座る。

木漏れ日の下は気持よくて誰も居なかったらシートにゴロンしたいところだ。

シートに座り一面の薔薇を眺めていたらレックス様が来て


畑主オーナーがご挨拶したいと申しておりますが、いかがいたしましょうか?」

「急に来てご迷惑おかけしているので挨拶したいです」

「畏まりました」


そう言ってレックス様は離れて行くと、直ぐにわらわらと騎士さん達が寄って来て声をかけてくれる。声をかけてくるのは殆ど騎士団の皆さんで、聖騎士の方々は持ち場から離れずこちらを伺っている。ここでも団の色が出たなぁ…とぼんやり見ていたら戻って来たアラン様が団員を一睨みし、騎士さんは慌てて持ち場に戻って行った。

アイリスさんがお茶を入れてくれ飲んでほっこりしていたら、レックス様が中年男性を伴って歩いてくる。

もう何度も言ったが箱庭はリリスの趣味で美形しか生存できない。平民の中年男性も加齢異臭も無くいい匂いのするイケおじしかいないのだ。歩いてくる畑主オーナーの男性もイケおじで顎髭がワイルドだ。シート前まで来られたので立ち上がりご挨拶する。


「急に訪問してすみません。あまりにも綺麗な薔薇だったので、こちらで休憩させて頂いています。お仕事の邪魔にならない様にしますのでご容赦下さい」


畑主オーナーのイケおじは乙女から挨拶されると思っていなかったようで明らかに焦っている。

畑主オーナーが喋ろうとしたら背後からアイリスさんが出てきて機嫌悪そうに


「多恵様が畏まられる事ございません!」


私から挨拶した事がアイリスさんは気に入らない様だ。するとレックス様が


「アイリス嬢。貴女は乙女様の侍女であろう。お仕えする主の気持に添うべきだ。この様に身分に関係無く礼を尽くされる乙女様だ。お心をお察ししなさい」

「うっ!」

「レックス様もアイリスさんもこんな話は後で裏でしてください。畑主オーナーがお困りです」


2人に注意をし畑主オーナーの男性に向き謝罪する


「ごめんなさい気にしないで下さいね。私は多恵と言います。お名前をお伺いしてもいいですか?」


畑主オーナーのイケおじは帽子を取り頭を下げて、にこやかにご挨拶してくれる。日焼けした肌に白い歯が爽やかだ。


「ここ一体の薔薇畑の主のモーフィスと言います。乙女様の目にウチの薔薇がとまり光栄でございます。よろしければ薔薇をお持ちになりませんか?」

「えっ!いいんですか?」

「はい、是非お持ちください。うちの薔薇は香りが強く花びらを湯に入れて湯浴みすると香りが長く続きます」

「嬉しい!レックス様いいですか⁈」


レックス様の許可を貰いモーフィスさんの案内で薔薇畑へ。元の世界と違い色の種類が多くアニメの世界だ。どれも綺麗で選べない!

ふとある薔薇が目に留まる。じっと見ていたらモーフィスさんが珍しい品種で数が少なくモーブル国内しか流通していないと教えてくれた。

その薔薇を中心に10本ほど頂いた。やはりこちらの薔薇にも棘があり専用の手袋と鋏をお借りして自分で切ると、モーフィスさん綺麗な紙で包みリボンで纏めてくれた。

お礼を言いシートに戻ると出発の準備が出来ていて、何処かに行っていたアラン団長も戻っていた。

馬車に乗り再度港町に向かいます。馬車からモーフィスさんや、いつの間にか集まっていた作業の皆さんに手を振りお別れを言う。

さっきレックス様に叱責されたアイリスさんが普通で少し安心した。


こういう場で私から挨拶をしたり、謙ると必ずアイリスさんは機嫌が悪くなる。陛下からもあまり畏まらないでって言っているのに、ダメで毎回キレられる。


『どうしたものか…』

アイリスさんと打ち解けるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


少し気落ちしていたが、頂いた薔薇のいい香りで落ち着いて来た。アイリスさん普通になったし、このまま何も無いことを祈る。

そしてこの後1度だけお手洗い休憩をとり、日没寸前にタバス伯爵の屋敷に到着した。本当は馬車の中からでも港の様子を見たかったが、もう日が暮れるので港町に寄るのは諦めた。

屋敷前にはタバス伯爵様と奥様がお出迎えしてくださる。

馬車から降り伯爵様にご挨拶する。何度かお会いして面識があるから人見知りは出なかった。奥様はライラ様とおっしゃりモーブルには珍しく小柄で可愛らしい面立ちの女性だ。


「ようこそ!お待ちしておりました。お疲れでございましょう。まずはお部屋にご案内いたしましょう」

「ありがとうございます。お世話になります」


そして騎士の皆さんの元に行きお礼を言う


「お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね〜」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


練習したかのように声が揃う騎士さん達に失笑し、執事さんに客間に案内してもらう。

アイリスさんに湯浴みを勧められたが、基本的に寝る前に入浴したい方なので断り晩餐の為に着替えだけする。

少しして立派なダイニングに案内いただくと、伯爵家の皆様がお揃いだ。

お子さんは娘さん2人で9歳と6歳らしい。お人形さんのように可愛く、素のおばちゃんが出そうになる。


伯爵様に促され着席するとシャンパンが振舞われ伯爵様の音頭で乾杯し晩餐が始まる。


流石海が近いだけあり料理は魚介類がふんだんに使われていて美味しい。特に大好きなクラムチャウダーは絶品だ。魚も豊富でお寿司にしたら最高だろうなぁ…と魚と睨めっこしていたら、伯爵様は料理が口に合わないのかと心配してきた。


「いえとっても美味しいです。たた元の世界では魚は火を通さず生で食べる習慣があって、その味が懐かしくて…」

「「生ですか!」」


伯爵様と奥様が驚愕している。元の世界でも生で食べる国は多く無いと思う。美味しいのになぁ…

確かこちらの世界ではワインビネガーらしきものがありお酢的な物はある。これだけ農産物が多いモーブルならお米もあるかもしれない。あっても食べたことが無く自生していて放置とかされているかも。見つけたら絶対米にして、いつかこの魚たちをお寿司に…

そんな野望を抱き目の前の美味しい料理をいただいた。料理が一通り終われば奥様とお子さんたちが退席しお茶が入れられ、ここからお仕事の話に入ります。


タバス伯爵様はお願いしてあった資料をまとめてくれ、それを見ながら話を進めていきます。

まずは入船と入国について。現状モーブルの港の利用率を知る為に1ヶ月を集計してもらい、1日平均を出してもらった。

ここでまた箱庭には平均値の概念がなく、またまたダラス陛下に教えることになる。

そうして出してもらった利用率を見ながら話を進める。

港の利用割合は出船7割で入船が3割。

モーブルは他国にも穀物を輸出しているので、出船の8割が貨物船で残りが旅客船で、入船の9割が旅客船で1割が貨物船とはっきりしている。

物や食べ物の輸出入は妖精の加護があり問題はない。問題があるとすると人の出入国だ。アルディアでもそうだが女神、妖精王、妖精では病を癒す事は出来ない。病が入って来ると直ぐ流行し沢山の人が患ってしまう。


「アルディアでも実践し始めたのですが、モーブル入国時に下船前に乗客の健康状態の告知を義務化した方がいいでしょう」

「健康状態の告知ですか?」


入国管理という概念が無い箱庭の人たちは戸惑う。人の行き来がある限り出入国の検疫は絶対必要だ。

入国管理の必要性を説明し、健康状態に問題がある乗客が出た時の対処法を話した。伯爵様は手帳に必死にメモを取り真剣に話を聞いてくれた。


「多恵様に言われるまで考えも付きませんでした。数年に一度港町では原因不明の胃腸炎が流行る事があります。もしかしたら…他国からの入国者が…」

「可能性はありますね。ウィルス性の病なら嘔吐物や排泄物などから感染しますからね」


顔を青くした伯爵様は思い当る節がある様だ。


「近日中に資料を纏めて陛下に報告し、対策を取るようにいたします」

「そうしてください」


話がひと段落したら給仕長がお茶を入れ直してくれ、ふと部屋の端に控えるアイリスさんとアラン団長と目が合う。


『何あのキラキラした目は…』


2人共凄いキラキラした目で私を見ている。あの…そんな目で見られたら居た堪れないんですが…


お茶とクッキーを出してもらい、糖分補給チャージして話は第2ラウンドへ


お読みいただき、ありがとうございます。

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