狸寝入り
アイリスさんの発言と行動に困惑して…
ビックリして完全に目が覚めた。が…この状況で起きる勇気は持ち合わせておらず狸寝入りを決め込む。
アイリスさんはずっと私の頭や背中を撫でている。まだ出発して間もないからまだまだ着きそうもない。
ずっと眠っていたら反対に心配されるから、適当なタイミングで起きなければならない。
『何⁈この罰ゲーム』
さっきの発言と行動はそうゆう事だよね⁈
私はLGBTに偏見は無い方だと思う…現に職場にもいて同僚として仲良くしているし、恋愛話とかも普通にする。でも恋愛対象とされたのは初めてで、正直なところ困惑している。私の恋愛対象は異性だ。アイリスさんは嫌いでは無いが対象としては見れない。
頭で必死に色々考えていたら馬車の小窓がノックされ御者さんが小声で
「アイリス様。この先少し道が悪く揺れます。乙女様にご注意を」
「大丈夫です。多恵様はお眠りになられ、私がお支えしてますから…」
馬車が弾んだ時に目覚めた様にすれば自然でいいタイミングになんじゃねぇ⁈
よしそうしよう!さぁ!悪路かもーん!
しかし…陛下の馬車は懸架装置がよく全く振動が無い!
あぁ…起きるタイミングが…
次の手を考えようとした時
“どん”小さいが馬車が弾んだ!
『今だ!』
「うぅ…ん。もぅ着きました?アイリスさん」
「お目覚めですか?申し訳ございません。この辺りは悪路が続き少し揺れまして」
「大丈夫。起きかけてたから起きます。
休憩地点はまだですか?」
「あと少しですわ」
結構自然に起きれたと満足し、アイリスさんの対面に移動し座り直した。向かいに座るアイリスさんは心なしかガッカリしている様に見える。『気のせい気のせい!』と自己暗示をかける。
暫く沈黙が続き気まずくなった私はアイリスさんの了解を貰い窓のカーテンを開け外を見る。窓のすぐ横には並走するレックス様、ジョエルさんがいて目が合った。手を振るとレックス様は微笑んでくれ、ジョエルさんは手を振り返してくれる。二人の美しいお顔で癒されていたらジョエルさんはアラン団長から何かお小言を貰っている。
どうやらアラン団長にはジョエルさんの行動が馴れ馴れしく感じた様だ。私自身細かい事は気にしないし気楽に接して欲しいんだけど。苦笑いしていたらジョエルさんはアラン団長が前に行ったのを確認してへぺろしておどけて見せた。
やはり騎士団の方々は気さくな方が多く、聖騎士の方が生真面目だ。
微笑ましくジョエルさんを見ていたら、ジョエルさんは指で自分の唇を指差した。
「?」
気になり見ていたら
『愛しています』
「えっ!」
「多恵様どうかなさいましたか⁈」
横からアイリスさんが窓の外を覗き込む。
ジョエルさんを見て眉を顰める。
こっちを見ているジョエルさんの表情も強張り窓越しに2人が険悪になり…
“シャ!”
無言でアイリスさんはカーテンを閉めてしまった。
『閉めちゃたよ…』
「失礼ですがジョエル殿は品位に欠けます。あまりお相手なさいません様に」
「アイリスさん。忘れていませんか?私は元々平民です。品位なんて気にしませんし、親しくするかは為人をみて自分で判断します。他人が口出しする事では無いですよ」
お世話になっているアイリスさんだけど、その考えは私は嫌だ。そこは曲げません。
綺麗なお顔が固まり驚いているアイリスさん。少しの沈黙の後に跪き謝罪をされる。
『もしかして今のは悋気なのかなぁ…』
アイリスさんの謝罪を受けながら複雑な気持ちでいたら、また御者の小窓がノックされ
「多恵様。もうすぐ森を抜け王都端の農園が見えて参ります。よろしければカーテンを開けて景色をお楽しみください」
「ありがとう」
カーテンを開けると一面緑が広がり目に優しい。ずっと見ていたら近眼老眼の私の視力は回復するだろうか⁈
アイリスさんの許可を得て窓を開けると緑の匂いがして癒される。窓枠にかじりついて景色を見ていたら、聖騎士のマルロさんが並走しながら一面の緑は“テンサン”という甘味が強い蕪だと教えてくれた。この箱庭の甘味料はテンサンをすりおろし、絞り汁を煮詰めて作るそうだ。元の世界でいうサトウキビなのだろう。
「我が領地でも栽培しており、もう少ししたらテンサンは白色の綺麗な花を咲かせます。緑と白のコントラストがキレイで、多恵様に是非見ていただきたい」
「へ~見てみたいですね~」
すると騎士団のリースさんも近くに来て
「実家の地域ではテンサンを使った菓子が有名です。美味しい店があるので是非ご一緒していただきたい」
「お菓子ですか!甘い誘惑ですね~」
騎士団の皆さんもいっぱい話しかけてくれ嬉しい。おばちゃんは一応女子だから甘い物には目がありません。
「こら!隊列を乱すな!」
レックス様が一喝しマルロさんもリースさんも馬車から離れる。レックス様は苦笑しながら
「騎士は貴女に就ける事を喜んでおり、隙あらば交流を持ちたい様だ。不快な時は遠慮なく仰って下さい」
「不快だなんて…人見知りし自分から話すの苦手なので、話しかけてくれて嬉しいですよ」
レックス様曰く騎士団は平民出で無骨な人が多いらしく、実力と礼儀作法が出来ている人を選んだそうだ。
「実力があっても素行が悪かったり、貴族並みに品が有っても腕がからっきしで、選ぶのに苦労しましたよ」
「お疲れさまでした。そんなお気遣い頂かなくていいのに」
どこの世界でも上に立つ者には気苦労が伴う様だ。レックス様と話していたら、先行し休憩地点の確認に行っていた騎士さんが報告来た。報告を受けたアラン団長とレックス団長が顔を顰める。休憩する宿に貴族が待ち構えているそうだ。団長2人は相談しレックス団長と騎士2名が先行して宿に向かう事になった。
少し不安な顔をしていた様でアラン団長が想定内で対処出来るので問題ないと言ってくれる。アイリスさんも色々対策してあるから心配ないと言う。皆さんを信頼し馬車の中で大人しくする事にした。
どの位経っただろう…御者さんが小窓をノックし
「アイリス様…間も無く街に入ります。カーテンを閉めて下さい」
アイリスさんは全てのカーテンを閉めた。街並みを見たかったが、どこに貴族がいるか分からないから不要な接触をしない為に仕方ない。
少しし馬車は止まった。外からアラン団長の声がしアイリスさんが中の鍵を開け先に降りる。降りる為に扉に行くと目の前に可愛らしい小さな宿がある。
アラン団長の手を借り馬車から降りる。
入口には男性が立っている。宿のオーナーだろうか?
「乙女様にお目にかかれ光栄にございます。短い時間ではございますがお休み下さいませ」
ご挨拶いただいたのはスグリム男爵。すみません…恐らくお茶会でご挨拶いただいていると思いますが、全く覚えていません。
笑ごまする私に領地の説明をしてくれる男爵様。ここは王都に隣接するスグリム領の一番大きな街だそうだ。男爵様の案内で宿に入り部屋に通された。
「我が領地は特産品や産業はありませんが、王都と港の間にあり、宿場を生業にし豊かでございます」
食事が用意されるまで男爵様の話を聞く。領地が豊かな上に御令息がまだ5歳と幼く、流石に私の相手になんて思っていない様だ。だからか男爵様はがっついていない。
食事が用意出来たら男爵様は退室していった。1人の食事は寂しいからアラン団長とレックス団長にご一緒いただく。
さすが体が資本の騎士様!用意されたランチは私の3倍だ。すごい量に目が点になっていたら、反対にお2人は私の食事の少なさを心配している。レックス様なんて娘さんより少ないと心配し、ご自分のパンを一つをこっそり私の皿に置いていた。
お2人に過保護に困っていたらアイリスさんが助け舟を出してくれ無事に食事を終えた。
さぁ!ここからノンストップで港町に向かいます。無事に着けばいいけど…
それよりアイリスさん…どうしよう…
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