説教
今からイライザ様に説教をします。
平身低頭に謝るニコライ殿下の謝罪を受けずに苦言を呈する。
ニコライ殿下に下の者の謝罪や尻拭いをするだけが上の責務では無く、下の者の間違いを正すべきだ苦言を言い、そして次はイライザ様に矛先を向ける
「今のニコライ殿下を見ていましたか?ニコライ殿下ご自身の失態では無いのに謝罪されたのですよ。これが上に立つ者の役目です。
身分や地位があるという事はそれ相応の義務や責任が生じます。下の者の失態でも責任を負い謝罪や尻拭いをしなければなりません。
貴女は地位や身分に相当する行いをしてきましたか?地位が高い事で好き勝手に振舞い、相手が傷付こうとも自分の感情で言いたい事を言ってませんか?
それで生じた問題は全てニコライ殿下や貴女の周り方々が謝罪し対応しているんですよ。その地位や身分も貴女ご自分が功績をあげ得たものではない」
“しーーん”
謁見の間は時が止まった様に静まりかえった。すみません…今のは私が止めました。
周りは引いているけど徹底的にやっちゃいます。イライザ様に追い打ちを今からかけます
「人は言葉を使いコミニケションを取ります。言葉は相手に意志や感情を伝える素晴らしいものです。しかしその言葉は使い方を間違うと刃となり相手の心や尊厳を切りつけるんです。しかし言葉は相手を思いやれば癒しにもなる。要は使い方です。貴女の様に自分の感情まま言葉を発せば相手を傷つける。それはまだ自分をコントロールできない幼子と同じです。地位も教養のある大人ならそれ相応の振舞をせねばなりません。国を背負うダラス陛下やニコライ殿下は責務と義務を弁えておいでです。勿論他の貴族の方々も。それが上に立つ者なのです。失礼だが貴女には微塵もない」
すみません…まだ時を止めています。誰もこんな空気の中で発言は出来ないだろう。言いたいことは沢山あり、上手く伝えられたか心配だけど彼女に注意は出来た。侯爵令嬢で高度な教育やマナーを学んでいる筈だから理解できてると思う。妖精王の何げ無い一言に調子に乗っただけで、理解出来れば後は彼女次第です。
アルディアでもそうだったけどこの世界の人々は基本性根が悪い人はいない。間違っていても話せば理解できる人ばかりだ。
まぁ…若干どうしようも無い人もいる。誰とは言いませんが…
イライザ様は今まで高位貴族ゆえに誰も注意してこなかっただけ。ある意味裸の王様で可哀想なのだ。
フィラのホールドから抜けてイライザ様の元に行き、膝を折りの茫然自失のイライザ様と目線と合わせた。少しして私が目の前に居るのに気付き、イライザ様は体を反らし
「馬鹿な女の顔をみに来たの!…ですか…」
「そんな事は思ってない…いや少し思ってます」
「皆に笑われ…私はもう…
でも確かに妖精王にお会いした時、心も姿も綺麗だと言われ番になって欲しいと言われたの…です…」
「うん。その時はそうなんでしょうね」
「!」
勝ち気でケバかった彼女は一回り小さくみえる。
『ん?』
急に雲行き気が怪しくなったイライザ様を覗き込むと目に涙をいっぱい貯めている。詳しくは知らないけど自国では侯爵家ながら名門で国内で力があり、蝶よ花よと育ったそうだ。もしかしたら人生初めての挫折なのかもしれない。
これを期にいい女になって欲しい。涙を拭う為にポケットからハンカチを出そうとしたらこのドレスにポケットは無かったのを忘れていた。困っていたらバートンさんがハンカチを貸してくれる。すみません女子力が低くて…
お借りしたハンカチでイライザ様の涙を拭うと驚いた顔をして私を見て
「私が嫌いではないのですか?」
「うーん。少し嫌いだったけど目の前で泣いているのをほっておけないから。
イライザ様…優しくしてもらったら自分も人にやさしくなれるもんです。これは私の信念というか心がけている事なんですが、自分がされて(言われて)嫌な事は人にしない。自分が嫌な接し方をするとそれは自分に跳ね返って来るんです。自分が嫌な事は人はもっと嫌なんですよ。貴女が他者にしてきた事は自分がされていい事ですか?」
呆然とし少し考えイライザ様は急に頬を両手で押さえ顔を青くして小さな声で
「あんな事されたり言われたら絶望して立ち直れない…」
「今までそれをして来たんですよ周りの方に。身分あり誰も貴女に意見できなかった。私は言える立場だからあえてはっきり言います。イライザ様は嫌な奴で嫌われます。そして容姿だけ美しくしても心がアレだから表情も美しくありません。心の醜さは顔に出ると言います。元はこんなにも美しいのだから勿体ない。ご自分を見直して心身共に磨かれた方がいい」
令嬢とは思えない程に顔を歪め号泣するイライザ様。平和主義者で人にキツイ事を言うのが苦手な私は結構辛かった。でも年長者としてあえて言いにくい事を言いました。
ちゃんと泣かせましたよ!頑張ったと自分を褒めてすぐにイライザ様のフォローをします。再度涙を拭ってイライザ様を抱きしめて背中をさすってあげる。
「イライザ様…その涙は屈辱?悔し泣き?それとも自己嫌悪?どれですか?」
「じぶ…んがイヤ…だし…はずか…しい」
更に小さくなてイライザ様は震えている。私の言わんとする事がちゃんと伝わっている様だ。胸をなでおろし諭す様に
「人は神じゃないから完璧では無いんです。間違えたり失敗するんです。そんな時は正してやり直せばいい。貴女だけでは無くみんな自分の嫌な所はあります。時に嫌な所が出て落ち込み悩み改めて成長するんです。だからイライザ様は今から変わればいい。出来ますよ!ご自分の非を理解できているんですから。自分が悪いと思ったらこうするんです」
イライザ様から離れて頭を下げて「ごめんなさい」と謝って見せた。
エリアス様やニコライ殿下が私を止めようとしたが、それをフィラとダラス陛下が止めた。
「私謝った事が無いわ」
「じゃこれからは自分の非を認めた時はする様にしましょう。謝罪や感謝に身分は無いんです。
そして”ごめんね”と”ありがとう”は人間関係の潤滑油です」
少し照れながら立ちあがったイライザ様は私の様に頭を下げて
「失礼な発言申し訳ございません。寛大なお心でお許しを」
私は自分より背の高いイライザ様を抱きしめて「いいよ!」と許した。
“パチパチパチパチ”
「へ?」
何故か謁見の間に拍手が起こり涙している人もいる。フィラが足早に来て抱きしめ至る所に口付けて来る。
「何?」
「流石俺の番だ」
「??」
ニコライ殿下をはじめヴァスラ皇国の皆さんが目の前で跪いている。
『何!怖い怖い!』
逃げ腰な私をがっちりフィラがホールドし動けない。
「乙女様の寛大なお心に感謝申し上げます。是非その寛大なお心に何か贈らせていただきたい」
「いや。必要な物はモーブルでご用意いただいていて要りませんから。お気持ちだけいただきます」
“おぉ!!”またどよめきが起こり怖くなって来て。フィラに小声で「何とかして!」とお願いするとフィラは楽しそうに
「謝罪は終わったな。後は仲直りだ。多恵は争いは好まん。後日茶会でもして”がーるずとうく”なるものをすればいい」
フィラは珍しく上手くまとめてくれた。優しく微笑むフィラだが、目は獲物を狙う野獣だ。また妖精城に拉致られてしまうのだろうか⁈今日は疲れたので正直勘弁して欲しい。
すると静観していたダラス陛下が
「ニコライ殿、イライザ嬢。後少し留学期間がある。多恵殿に教えを乞いしっかり学ぶといい」
「モーブルにも感謝申し上げます。祖国に報告し正式にお礼させて頂きます」
こうしてやっと!謝罪は終わった。
ダラス陛下が退室し皆解散となった…が!四方から人が駆け寄ってくる。怖い!
思わずフィラにしがみ付くと口付け
「今日も来るか?」
といやらしい顔をしている。当然誘いは断るがフォローしてくれた礼は言う。
いつもに増してフィラの表情は甘い。きっと今計ったら糖度計は振り切っているだろう。
「感謝はしているけど今日は行かないからね!」
「何故だ!俺は頑張ったぞ。褒美が欲しい。長くはならんから…」
甘えた表情のフィラはズルい…そんな顔されたら断り難いじゃん!悩んでいたらイライザ様が侍女に支えられて来た。そして侍女さんがカーテシーをし発言許可を乞われOKすると涙目で…
「女神の乙女様に感謝を。私はイライザ様が幼い頃からお仕えし、成長を側で見て参りました。妖精王様の話は私も聞いており本当でございます。あの日からイライザ様は自信が違う方に行ってしまわれたのです」
侍女さんの話によると側に仕える者はその都度注意して来たそうだ。しかし仕える身故に強く言えず家臣の皆さんも困っていたらしい。侍女さんはこちらが困る位に感謝するので困り最後は強制終了した。
やっと泣き止んだイライザ様は戸惑いながら私に質問してくる
「多恵様もご自分の嫌なところがあるのですか?」
「あるよ」
「信じられません」
あるに決まっている。だって普通のおばさんだからね。この世界では知識や技術を持った凄い人かもしれないけど、それはあっちの世界では誰でも知っている事。モテはやされても所詮普通なのである。
「私は人に頼るのが苦手で、何でも一人で抱え込む所があるんです。こちらに来て皆さんに甘えて下さいって言っていただくけど中々出来なくてね…」
「一人で頑張れるのは凄い事ですわ!」
「やり切れればね…結局途中で潰れたりするの…“女神の乙女”なんて言われるけど、大した事ないんですよ」
するとフィラは背後から抱きしめて
「それはお前の長所でもあるぞ。物事は表裏一体だ。多恵はそのままでいい…側が頼れと言うのは、かわいいお前に甘えて欲しいだけた。俺は意地っ張りなお前も愛している」
「フィラ…やめて…それ羞恥プレーだから」
と悪態をつくが正直嬉しい。フィラはありのままの私を受け止めてくれる。
「多恵様を差し置き妖精王の伴侶に慣れると思っていた私は恥ずかしいですわ」
「イライザ様を理解し愛してくれる人が現れますよ」
「だといいのですか…次は身分や容姿では無く、真の私を愛してくださる方を探しますわ」
この後イライザ様にエールを送り謁見の間を後にする。フィラは帰るのかと思ったが、そのまま部屋に着いて来た。いつもに増して激甘なフィラに翻弄され疲労困憊だ。
部屋に着くと沢山のお茶菓子をフィナさんが用意してくれていた。
「疲れた時は甘いものよねー。フィラも食べる?」
「そうか…疲れた時は甘いものか…」
「そうよ!いっし…わぁ!」
またまたフィラに抱きかかえられた。
フィラは悪い顔をしている。嫌な予感…そして
「侍女よ。夕食の時間には帰す」
「ちょい!待って!お菓子食べてない!」
するとお菓子が並ぶテーブルにフィラが手をかざすとお菓子が消えた!
「妖精城に菓子を転送した。あちらで食え」
「まって!」
危惧していた通り妖精城に拉致られ、結局…糖分補給はフィラの溺愛で補充する事となった…
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