ラスボス
ヴァスラ皇国から正式な謝罪を受ける…が…
「ありがとう。お疲れ様でした」
「今日もよろしくお願いします」
部屋に戻ると侍女さんと騎士さん達の交代時間でご挨拶する。今日の侍女はフィナさんで、騎士はバートンさんとジョンさんだ。
ジョンさんは初めましてで、お辞儀をしご挨拶したら目を見開き驚いていた。
「多恵様。昼から謁見の間でヴァスラ皇国からの公式謝罪がございます。食事を用意しております。お早めにお召し上がり下さいませ」
「はぁ〜い」
テーブルには美味しそうなランチが用意されていた。公爵様との面会の緊張から解放されたらお腹が空いて来た。すぐ食べようとしたらフィナさんが先に着替えるように言うが、謁見の間に行くのにどうせ湯浴み&着替えするんでしょ⁈ならこのままでよくなぃ?
渋りに渋った私が勝ちそのまま食事をする。
謝罪は公式な場になる為、ドレスを着用するのでランチは軽いものをいただく。その代わりおやつは少し多目をお願いしておいた。
食後のお茶を頂いていたらフィナさんが何か言いたげだ。何だろう?
「フィナさん?」
「多恵様に感謝いたします」
「ん?」
どうやら王城のお仕えの人達は何かしらイライザ様に迷惑をかけられている。身分が下になる皆さんは泣き寝入りしている人が多い。
「ニコライ殿下がアイリス様に謝罪されたとお聞きしました。私共使用人は嬉しかったのです。本来目上の者が目下の者に謝罪する事はございません。謝罪して下さるのは多恵様だけでございます」
「迷惑かけたら謝るのは普通の事だよ」
フィナさんの表情からイライザ様に何かされたのが窺い知れる。いくら身分社会とは言えイライザ様の態度は目に余るものがある。
ちょい泣いてもらいましょうか!
“黒多恵”を召喚する事にした。
この”黒多恵”の二つ名は夫の大輔が付けた。娘の雪は思春期のピーク時に口調が荒い時期がありよくバトったものだ。一度酷い暴言を吐いた時にぐうの音も出ない程言い負かした事がある。
それ以降私が毒づくと大輔は私の事を”黒多恵”と呼ぶ様になった。
悪い顔して不気味に微笑む私にフィナさんは微妙な顔をして湯浴みを促す。さぁ!戦の準備をしましょうか!
すっかり戦前気分の私が選んだドレスは黒に近い臙脂色のドレス。フィナさんは綺麗な黄緑色のドレスを勧めたが悪役気分の私は、悪女風の装いをし鼻息荒く部屋を後にした。
「あ…」
何かしただろうか?今日のバートンさんはキラキラ王子でいつもに増し熱い眼差しを送って来る。
『いっ居た堪れない…』
バートンさんと目が合うと破顔し
「城に仕える者は多恵様に感謝しております」
「?」
「ヴァスラ皇国に色々思う所があり苦々しく思う者が多い。城の皆は晴ればれしい気持ちです」
「あはは…」
フィナさんとバートンさんといい色々ストレス抱えていた様だ。やっぱり言える立場の私が鉄槌を下すべき?
そう言えばすれ違う皆さんがキラキラした眼差しを向けてくる。またまた居た堪れない…
こんだけ期待を向けられたら魔王になっちゃう?
やっと謁見の間に着いた。何度来てもこの重厚感に慣れない。大きな扉が開くと既に役者は揃っていて私が最後だった。
到着が遅れた私をイライザ様が睨みを入れてくる。横でニコライ殿下が困った顔をしている。バートンさんのエスコートで定位置に着くと宰相様の進行で公式謝罪が始まる。
難しい言葉が並ぶが簡単に言えば
『ヴァスラ皇国の失言を陳謝し、今後は気をつける』て感じだ。
ヴァスラ皇国サイドは深々と頭を下げて謝罪される。形式だけなのですぐ終わった。
ダラス陛下は険しい顔をしてイライザ様に苦言を呈する。
「イライザ嬢。いくらヴァスラ皇国に我がモーブルが恩義があると言えども、其方の物言いは目に余る。この度の女神リリスが召喚し乙女に対しては酷い。この次は無いと思われよ」
「お言葉ですが私は分を弁えておりますわ」
「「「ん?」」」
陛下もニコライ殿下も私も頭の上に疑問符を浮かべて意味が分からない。変な雰囲気の中イライザ様は続ける。
「私は第5女神カノの箱庭の妖精王が恋し女。残念な事に妖精王はまだ番を迎えられる時期ではなく伴侶となり得なかったのですが、私はそれだけ高貴な存在なのです。その私が伴侶に認めたのはこの箱庭の妖精王のフィラ陛下。近い将来に妖精王の伴侶になる私は、謂わば多恵様と同等か上になりますわ」
「はぁ?」
「きっと陛下は私と出会えず、番を選ぶ時期になり仕方なく乙女様をお選びになったのでしょう。しかし先日出逢えたので、私をお召し上げなさる筈ですわ」
謁見の間は不思議に覆われて皆んなキョトンだ。ヴァスラ皇国側も戸惑い困惑している。誰?時を止めたのは!饒舌になったイライザ様は更に続ける
「妖精王が恋う私に釣り合う殿方が見つからず、以前お会いした中で一番の美丈夫で好ましいアルディアのグラント様を伴侶にと思っていたのに、留学が叶わず伴侶を誰にするか迷っていたのです。モーブルで私に釣り合うのはシリウス様くらい。ですが少しお年が上で微妙に感じておりました。しかしやはり私は妖精王の様な高貴なお方と縁があったのです」
恍惚とした表情で独演会状態のイライザ様に誰もが口出し出来ずにいると、ご自身の頬に一発入れたニコライ殿下が呆れた顔をして
「イライザ嬢。妖精王は番を決めておられる。何度も言ってあったであろう!」
「えぇ…聞いておりますわ。そちらの乙女様でございましょう⁉︎しかしそれは私と出逢えてなかったが故に仕方な…」
“ドン!バリバリバリ!”
凄い音と共に近くに雷が落ちて窓ガラスが響き床が揺れた。後ろに控えていたバートンさんが咄嗟に私を抱え込みマントで包み込んだ。騒然とする謁見の間。すると…
『たえ いまの フィラ』
『そうだと思ったよ』
『フィラ いかりしんとう』
『てん君また難しい言葉覚えたね〜偉い×2』
『フィラ くる』
突風が吹き体が浮いたら大好きな香りに包まれる。風が止み見上げたら怖い顔のフィラがいる。
謁見の間に居る全ての人が一斉にフィラ礼をする。礼も忘れフィラに熱い視線を送るイライザ様に冷たい目で見下ろすフィラ。修羅場突入です!
「フィラ陛下。お会いできるのを楽しみにしておりました。私はいつでもあなたの元に…」
「何だコイツは。ダラスつまらんもんを多恵に近付けさすな。多恵が穢れる」
フィラの中々の毒舌に側が焦る。イライザ様はフィラの言葉が聞こえてない様で、フィラに擦り寄っていく。ここまでくるとイライザ様はある意味最恐だ。
「話を聞き先程アルク(第5女神の箱庭の妖精王)に聞いたが、記憶に無いと言っているぞ。今より前ならアルクのガキの頃の話だろう。其奴はガキの戯言を真に受けた勘違い女だ」
「ねぇ〜フィラ。アルク様はお幾つなの?」
「人の歳で言えば8つ程だ。妖精王になったばかりでひよっこだ。グレンが多恵に淡い恋心を持つのと変わらん」
フィラの反論にさっきまでの勢いがなくなるイライザ様。泣かしてやろうと思ったけど、私の出番はなさそう?
「アルク様がお忘れでも確かに私は番にと望まれたのです。ですから妖精王に相応しい…」
「つまらん。お前の魂はざらつき不気味で触れたくも無い。容姿が自慢の様だが正直並みだ。バスグルのビビアンの方が綺麗だ。まぁ一番は俺の多恵だがな」
「フィラ…それは無い。瞽すぎるわ」
呆れていたら何故かダラス陛下は頷きフィラに賛同している。やめて反対にイジメだよ。
「妖精王は女神の乙女だから、その様にお感じになるのですわ!乙女でなければ多恵様は道端の雑草…」
「黙れ…」
フィラから凄い圧を感じイライザ様は青ざめ崩れ落ち膝を着いた。他の人たちもみな跪き首を垂れる。室温がどんどん下がり寒気がして来た。どうやら今日の魔王はフィラだった様です。
「フィラ止めて!寒いよ!」
「多恵は俺の唯一無二の存在。お前を害す奴は国王と言えども許さん!」
「いや…イライザ様の評価は妥当だよ。私は道端のたんぽぽだよ。でも流石に雑草は嫌かなぁ…」
「本人と言え多恵を愚弄する者は許さん。どうやら我が番は俺の愛をまだ分かっていない様だ。昨日の逢瀬では足りん様だ」
フィラの意識が私に来た事で会場の皆さんは圧から解放されてやっと息をつけた。
でも私が犠牲になり恐らくこの後に妖精城に拉致られるのが確定した。連チャンのイチャイチャは勘弁して下さい!
額に大粒の汗をかいたニコライ殿下がフィラの前に歩み出て深々と頭を下げ謝罪される。
フィラは私を撫で回していて謝罪するニコライ殿下やイライザ様を見ようともしない。少し可哀想になってフィラに謝罪を受ける様に促すと
「お前はそもそも何故俺に謝罪したのだ。貶され蔑まれたのは多恵だろう。お前ら本当に悪いと思っているのか⁈諂うための謝罪は意味がない」
ちゃんとした事を言うフィラに感心して見上げていたら、口付けてとろける様な微笑みを向けて
「惚れたか?」
「うん。見直した」
「なら今から…」
慌ててフィラの口元を両手抑え言葉を遮る。言う事は分かっている。きっとエッチしようって言うつもりだ。
フィラの目は笑い私の手の平に口付ける。
『やめて!人が沢山いるから!恥ずか死ぬ!』
フィラの言葉を聞きニコライ殿下が私を見据え謝罪される。けどね殿下…根本的に間違っているよ。
私はニコライ殿下に謝罪されるような事はされていない。殿下の謝罪で矛を収めたらイライザ様は嫌な人で終わってしまう。
やっぱり私…魔王やります!頑張ります。だって勘違いしてある意味イライザ様は可哀想だ。周りの人は忠告してあげなかったの?
あまり好きなタイプじゃ無いけど、このまま放置も後味悪いからお節介します。
頑張れ”黒多恵”!心を鬼にするんだ!フィラの手を握り気合いを入れる。私の気持ちを察したフィラが背中を支えてくれた。
さぁ…第2ラウンドです
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