アリアの子
少女との出会いがモーブルの問題解決のカギになる?
「多恵様!」
レックス様が走って来たら少女は慌てて立ち上がり路地に逃げる。心配して駆け寄るレックス様を無視して少女を追いかけ路地に入る。そして彼女の手を取り
「待って!話を聞きたいの」
「私を捕まえるんでしょ!嫌」
少女は私が貴族令嬢でレックス様が護衛騎士で不敬で捕まると思っているようだ。
「大丈夫!そんな事私がさせないし、貴女を傷付ける気は無いの!」
「嘘よ!貴族令嬢は皆嘘つきよ!」
「多恵様!」
駄目だ!このまま少女と別れたら駄目な気がして必死に少女の手を握る。そして
「レックス様!私は大丈夫だから路地の入口で待機して下さい」
「いけません!貴女を護る責務があります」
流石”不屈の男”だ。女神の乙女にも屈しない。この調子なら女神リリスにも屈しないんだろうなぁ…って!悠長な事言ってられない!
「てん君!」
昨日MAXにもふりシェパードくらいのてん君が現れレックス様は剣に手を掛ける。
「レックス様。てん君は私を守ってくれる聖獣だから大丈夫です。お願い!離れて待機して下さい。私は彼女と話をしたいの!」
眉間の皺を深め少し考えて剣から手を離したレックス様は
「少しでも貴女の身が危ういと判断すれば…」
「ありがとう」
少女に向き合うと路地の反対側に分隊長のジョエルさんが待機している。もしかして…
見上げると建物の屋根の上にはもう1人の騎士のケイジさんが待機済みだ。ほんの少しの間に…凄い騎士団!
『さて!』
へたり込んだ少女の前に屈み目線を合わせる。少女は泣いていて綺麗なオレンジ色の瞳が濡れている。ハンカチを出し拭ってあげると驚いた表情をする少女。
『たえ このこ アリアのこ』
『へ?』
『アリア においする』
てん君に言われてよく少女の顔を見るとラテン系の顔立ちで確かにバスグル人の様な顔立ちをしている。
怯えている少女に優しく話しかける
「私はタエ。貴女は?」
「・・・」
「私は貴女を捕まえたりいじめる気は無いわ」
「…うそ…」
「だっていじめは誰も幸せにしないから嫌いよ。それより貴女のこの綺麗な生地に興味があるわ」
やっと目を合わせてくれた少女は戸惑いながら
「モナ…です」
「よろしくね」
話が出来る状態になったモナちゃんにまた警戒されない様に世間話しつつ確信にせまる。モナちゃんはてん君が気になる様でずっとチラ見している。
警戒心を解いてもらうには“最強の癒し”てん君のもふもふを体感してもらおう。
本来は気を許していない人にもふられるのは嫌いなてん君。でも私がモナちゃんとの繋ぎを取りたいのを理解した様で了承してくれた。
「てん君が気になる?」
「えっ!うん…こんな綺麗なワンちゃん初めて見たから…」
「少しなら触っていいって」
てん君はモナちゃんの前に行き頭を出した。恐る恐る手を出すが怖い様で躊躇するモナちゃん。中々もふらないからてん君がイラつきだした。私がモナちゃんの手を取り一緒にもふってあげると…
「うわぁ!こんな柔らかい毛は初めて!大きいけど凄く可愛い!!」
目をキラキラさせながらもふるモナちゃん。てん君は我慢の子です。でもてん君のもふもふに魅了されたモナちゃんの手は止まらず限界がきたてん君小さく唸る。
「ごめんねワンちゃん!ありがとう」
『てん ワンちゃん ない』
『ありがとうね 今晩はいっぱいもふもふするね!』
『たえ やくそく』
落ち着いて来たモナちゃんをじっと見据えて本題を切り出す。
「モナちゃんはバスグルから来たの?」
「…」
また表情が無くなったモナちゃん。ここが正念場!警戒させない様にまた事実確認は正確に!
「私ねバスグルに知り合いがいて、バスグルの内情は聞いているわ。それにモーブルに沢山の人が出稼ぎに来ていることも聞いてる。その知り合いにモーブルでバスグル人に会ったら困ってないか聞いて欲しいって言われているの。私はバスグルの人は好きよ。だからモナちゃんとも仲良くなりたいし、困っているなら手助けしたい」
「・・・」
困惑しているのが分かる。恐らく身なりや脅え方からここモーブルで苦労している事は一目瞭然だから。あまり追い詰めると頑なになるから少し話を変えた。
「ねぇ、もしかしてこの生地の織り方はバスグル伝統のもの?」
「うん。ここリリスの箱庭にはないもの。珍しいからここモーブルの令嬢が買ってくれるの」
「そっか!凄いね。私もアルディアで機織りした事があるけど単純な柄でも苦労したわ。こんな凄い技術がバスグルにあるなんて知らなかったわ」
「凄い?」
何故か目を見開き驚くモナちゃん。そしてまた急に涙ぐみ
「モーブルに来ていじめられてばかりだった。この生地も貴族令嬢は『みすぼらしいけど可哀想だから買ってあげるわ』と嫌そうにいつも買ってくれた。こんなに褒められて事なんてない」
「モーブルの貴族令嬢は目が悪いみたいね。こんなに綺麗なのに…私も欲しいわ!今あるの譲ってくれる?」
「これは色見本でこの中から欲しい色合いを決めてもらい、希望される大きさを聞いてから織って後日渡すの」
「じゃあ…この深緑から薄黄色のこの色合いで、ワンピースが1枚縫える大きさの生地をお願いできる?」
「はい!ありがとうタエちゃん!」
布を織りあがるのに7日かかるそうだ。今日は買い物する気は無かったが、バスグルとモーブルの内情を平民目線から知り得るチャンスだから買います。
レックス様を呼んでお金を貰いモナちゃんに前金として銀貨1枚を渡した。
「タエちゃん多いです!」
「いいの!そのくらいの価値はあるわ。楽しみにしてるわね」
「タエちゃんに気に入って貰えるように頑張るわ!」
「期待してる〜」
足取り軽くモナちゃんは街の外れの方へ走って行った。モナちゃんとは7日後のお昼にここで会う約束をし、いい出会いが出来た事に大満足。気がつくとレックス様が後ろに居て私の肩を抱き
「無茶な事なさる…」
「ごめんなさい…でも後々彼女の話はモーブルの問題解決に役立ちますから。あの…陛下からモーブルの困り事って何か聞いてますか?」
「正式には…しかしモーブルの貴族や騎士なら皆知っています。特に我ら騎士団の者は直接トラブルを見聞きするので」
「私は今まで陛下や貴族からの話しか聞いてません。きっと平民やバスグル人の立場では話が違うはずです。片方の意見だけで問題を解決したら当面は良くても、また歪がでて来て新たな問題を生みます。だから両方の言い分を聞かないと解決しない」
「「「・・・」」」
レックス様はじめ騎士の皆さんが固まっている。すると3人は急に目の前で跪いて右手を左胸にあて頭を垂れそして
「貴女を遣わした女神リリスの感謝を。我々騎士団は貴女の手となり足となりましょう」
「大した事してません。あの…目立つので立って下さい」
慌てて3人の手を引っ張り立ってもらう。
こうして休暇を利用した城下散策を終えて王城に戻る事になった。帰るためにてん君に戻ってもらったが…現れた時は大型犬くらいあったのに、今は豆柴くらいになっているてん君。君に何があったんだ?
後で聞いた話だが好きな人にもふられると大きくなり、そうで無い人にもふられると小さくなるそうだ。約束通り夜は腕が攣るまでてん君を撫で倒したのは言うまでもない。
城下からの帰り道は何故かレックス様ではなく分隊長のジョエルさんの馬に乗る事になり、王城に着くまでずっと褒めちぎられ嫌な汗がでた。
色々と世間話をしていたらジョエルさんは騎士団に珍しく貴族だという事が判明した。ジョエルさん曰く
「貴族ですが性格的に聖騎士は性に合いません」
本人が言うように貴族令息らしくなく、気取ってなくてふざけた話もできるから気が楽でいい。馬を走らすと途中で警邏に行っていた騎士さんと合流した。レックス様は警邏の報告を受けている。するとジョエルさんがぐっと私を引き寄せ
「すみません。俺は貴女に惚れました…」
「はぁ?社交辞令ですよね?」
「こんないい女は初めてです。近々行く港の視察も俺が必ずお供します。その時に全力で口説きますのでよろしく!」
「・・・」
騎士団の隊員は平民だと聞いたから、言い寄られること無いと油断していた。唖然としてたら耳元で
「かわいい…」
囁かれて身震いする。誰か私に魅了の呪いかけました?
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