休暇
お茶会が終わりモーブル救済にむけて始動!
「休暇?」
「はい。陛下から今日は1日お休み下さいとの事です」
何となくお休みって事があったが、ちゃんと休暇を貰うのは初めてかも…
でもいきなり休みと言われても、まだこちらの生活に慣れてなくて何をしてもいいか分からない。
どうしようか考えていたら宰相のエリアス様が表情を明るくして
「多恵様。城下を散策されては?」
「城下!いいんですか?」
「はい。確か今日の城下の警邏はレックス団長の筈。彼が一緒なら貴族も近寄りませんから安心下さい」
「はい!行きたいです!」
実は陛下がアルディアでの私の報告書を読み、王城から出る事が少なかったのを見て提案してくれたそうだ。
『相変わらず男前だなぁ…』
感心していたら少し疑問が…
「でも私が外出すると護衛が大変なんじゃ…」
「レックスが一緒なら問題ございません」
「?」
どうやらレックス団長は実力もさる事ながら、”不屈の男”として有名で信念を曲げ無い男だそうだ。高位貴族や陛下にすら苦言を呈する。
それにこれまた陛下のお心遣いで専属聖騎士さん達も休ませる目的もあるそうだ。昨日のお茶会で妖精王であるフィラの登場で疲弊していたもんなぁ…
豊かなモーブルの城下…目新しい物に出会えそうで楽しみでならない!
侍女のフィナさんが楽しそうに準備をはじめた。外にいる今日の当番のバートンさんが入室してきたが様子がおかしい。
「バートンさん?」
「申し訳ございません。陛下のお心は嬉しいのですが、多恵様を騎士団に預けるに不安がございまして…」
「不安?」
『あぁ…バートンさんって生粋の貴族様なんだ…』
バートンさん曰く騎士団長のレックス様は貴族で礼節がしっかりしているが、他の団員は平民出が多く無骨ものが多いという。つまり私に対して無礼な事をしないか心配な様だ。いやいや…元々私も平民ですから!
「心配ないですよバートンさん。私は元々平民出だし騎士になられる方々は騎士の精神をお持ちのはずです。私は全く心配していませんよ」
「…。回りくどい言い方をしました。私がずっと多恵様をお守りしたいのです」
「ありがとう?でもいくら屈強な騎士様でも休暇は必要ですよ。ゆっくりお休みして下さいね」
視線を感じその先を辿るとキラキラした眼差しを向けているフィナさん。着替えの準備だと分かりフィナさんと一緒に衣裳部屋に移動すると…
「発言許可いただけますか?」
「もーフィナさん堅苦しい事は嫌いだって言いましたよ。気にせずなんでも話してね」
「ありがとうございます。お会いした時から多恵様はご自分の意見を仰り、かっこいいと思っておりました。バートン様のような高位貴族様にも臆することなく意見され感激いたしました」
「そう?私の世界では普通なのよ。それに私もどこにでもいる平民だったし」
あまりにも褒めちぎるフィナさんに「恥ずかしいからやめて!」と言い、やっと平民風の服装に着替えた。
モーブルの平民女性はスカートの丈がひざ下10㎝程のワンピースが多いらしく、ゴードンさんが街の散策用に数枚仕立ててくれていた。流石ですゴードンさん!
反対に貴族令嬢は足首が隠れる長さを着るので、服の丈の長さで貴族か平民か分かるそうだ。着用したワンピースの丈は短いが、その分ロングの編み上げブーツを履くので肌は出ない。
私の髪色は目立つので髪をまとめて帽子を被る。
「多恵様!商家のお嬢さんの様で愛らしいですわ!」
「あっありがとう…」
褒められ慣れていない私はお礼を言うのが精一杯だ。身支度ができて居間に行くとレックス団長がお見えになっていた。
駆け寄りご挨拶するとレックス団長は目を細めて
「今日は町娘の装いですね。愛らしく眩しい…」
「平民の私はこっちの方がしっくりきます」
微笑んだレックス団長は手を差し伸べてくれ、エスコートしてくれるようだ。手を出すとレックス団長の手はグローブの様に大きく分厚い手で安心感半端ない。
部屋を出て廊下を歩きながらこれからの予定を聞く。城下へは馬車では無く馬での移動になり、レックス団長が乗せてくれるそうだ。
「今日は城下の警邏も兼ねておりますので馬での移動になります。散策中に気になる処がございましたら遠慮なく申しつけ下さい」
「ありがとうございます」
こうして馬の待機場まで歩いて移動していたら前から陛下が歩いて来た。陛下に駆け寄りご挨拶と配慮頂いたお礼を述べる。
すると手の取り手の甲の口付ける陛下。相変らず時間問わず深夜臭がしますね。
「ゴードンが貴女の服を作りたくなる気持ちがわかる。平民の装いもよく似合っている。私も一緒に行きたいものだ」
「お世辞ありがとうございます。ダメですよ!陛下が城下に行くと騒動になっちゃいますから!」
「お忍びで出掛けれるように手配しよう。多恵殿。私は貴女に本心しか言わない。私の言葉は素直に受け取って欲しい」
「あ…はい」
陛下と甘いやりとりをしていると、付近にいる人々が立ち止まりガン見してくる。陛下がこんな人が多い所でデレないで欲しい。気恥ずかしくて”行ってきます”をして陛下と別れた。
その後、移動中に沢山の貴族から声をかけられたがレックス団長が全て断ってくれてた。
そしてやっと馬が待機している場に着いたら騎士団の皆さんが待ち構えていた。
騎士の皆さんはワイルド系及びチョイ悪系の男前集団で福眼です!騎士さんの注目を浴びる中、レックス団長が紹介をしてくれた。
いつも通りお辞儀をして“よろしく”をすると皆さん気さくに声をかけてくれる。
聖騎士の皆さんは品行方正で優等生タイプで、騎士団の皆さんは不良系。他愛も無い話をするなら騎士団の皆さんの方が気が楽そうだ。
出発の時間が近づきレックス様が騎乗し手を差し伸べてくれる。手を重ねると一気に馬上へ。久しぶりの感覚に思わず小さく悲鳴を上げてしまい、騎士の皆さんから温かい視線を送られる。
「これより城下の警邏及び多恵様の城下散策に向かう。」
「はっ!」
こうして裏門からこっそり城下散策へ出かけまーす!
乗馬慣れしていない私の為にゆっくり走ってくれる騎士団のみなさん。ゆっくりだから街並みが良く見えて目が楽しい!
騎士団の馬に女性が乗っているのが不思議な様で、すれ違う人々はガン見している。恥ずかしくなって俯くと並走する分隊長のジョエルさんが、行きたい所が無いか聞いてくれた。
「出来ればウインドウショッピングしたいです」
「ういんどう?」
「あっ…買わないけど屋台やお店を見て周りたいです」
私の意図が分かるとレックス様が
「エリアス様から多恵様が望まれるものは全て購入するように言われています。見るだけでなく欲しい物があれば購入しますので仰って下さい」
「ありがとうございます。でも見るだけでも楽しいですから」
唖然としているジョエルさん。見た目は17歳の女子だが中身は節約が身に染みたおばちゃんだから無駄遣いはしません。
少し走ると街が見えて来た。街の外れの馬車の停車場の着いた。半分の騎士さんは騎乗したまま警邏に向かい、残りの騎士さんと私は馬を預けて歩いて散策に向かいます。レックス様と私に付き添ってくれる騎士さんがマントを脱ぐと皆さん騎士服では無く平民の装いをしている。平民の女性が騎士に護衛されていたら悪目立ちするからだ。皆さん平民の装いだけどしっかり帯剣している。
『うわぁ!レックス様の剣は大きい!』
口に出しそうになり慌てて手で口を覆い言葉を飲み込む。確かマナーを習った時に男性に大きい的な発言はセクハラになると言っていた。良かった…また後で反省するところだった。
大きなレックス様なら大きな剣も軽々と振るうんだろうなぁ…そんな事を思いながら準備する皆さんを眺めていた。
準備が終わりレックス様が手を繋いでくれ、街の中心部へ歩いて移動する。
色んなお店があって楽しい!足取りが軽くきょろきょろしていると、レックス様がポツリと
「娘と買い物しているようで楽しいです。任務中に不謹慎ですね」
「娘さんがいらっしゃるんですか?」
「はい。8つです。背丈がちょうど多恵様と同じくらいなので、娘と勘違いしそうです」
「じゃ!今日レックス様の事はパパで!」
「光栄でございます」
こうして今日限定だがパパが出来ました。
この後、声をかけてくる男性達を撃退してくれるレックス様。娘さんが嫁ぐ時は大変だろうなぁ…
騎士の皆んなが欲しいものを頻繁に聞いてくるが今日は買う気は無い!
「み〜てるだ〜け♪」と鼻歌で返すと皆んな笑ってくれる。楽しくて仕方ない!
街の中心から少し外れに来た。
「わぁ!」
「うぇ!」
薄暗い路地から女の子が低い姿勢で飛び出して来た。足に何か当たり見るとハンカチ?
「キレイ!」
拾いその布を凝視する。ハンカチより一回り小さい。それより色鮮やかで目を引く。この世界に来て初めて見た。その生地はグラデーションになっていて濃紺からキレイなエメラルドグリーンに色が変化している。
飛び出して来た少女は怯えている。少女は私の手にあるグラデーションの生地を見ている。
「これは貴女の?」
「はい…申し訳ございません…貴族様の足元に…このような…」
「これは貴女が織ったの?」
「はぃ…」
この少女との出会いが行く行く私の手助けになるなんて、この時は思いもしなかった。
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