解散
お茶会の後半戦に挑む多恵。護衛騎士と侍女さんに頼り乗り切りたいが…
「この所作に意味があるのですか?」
「何となく頑張れそうなので…ごめんなさい。明確な意味はありません」
シリウスさんと護衛騎士さん3名そしてアイリスさんとモリーナさんに私。円陣を組み手を重ねています。所謂昭和のスポコンものです。
「私が“ファイト!”っと言ったら“おー!”って言って下さい」
「「「「「・・・?」」」」」
完全に困惑しているチーム『乙女』。無理やりでもやる気出さないとやり切れそうにないから…お願い付き合って…
「多恵様の世界では出立の掛け声でしょうか⁈」
「うん!」
「ならば皆さん。多恵様の為にやりましょう!」
アイリスさんとモリーナさんは乗ってくれた。
「ファイト!」
「「「「「おー!」」」」」
戸惑いながらなんとかやってくれた皆さんとお茶会会場に戻ります。
会場の扉見えてきました。チーム『乙女』の皆さんの表情が引締まり臨戦態勢です。
従僕さん大きな扉を開けてくれ中に入ります。
『あれ?』
皆さん普通に歓談し一瞬こっちを見ただけで寄って来ません。てっきり公園の鳩の様に寄って来ると思っていたから拍子抜けです。
すると向こうからタバス伯爵様が手を振りながらこちらへ向かって来ます。
「多恵様ごきげんよう。お疲れではありませんか?」
「ありがとうございます。休憩を頂いて復活しました」
伯爵様は防御靴の実物を手に取りえらく感動したようで、その感動を熱く語ります。直ぐに数名の靴職人に開発を命じ製作に入ったようです。伯爵様は他にも相談したい事があるらしく領地に訪問する約束をし別れた。
次に声をかけて来たのは…ニコライ殿下だ。殿下はビビアン王女に負けない位に綺麗な女性をエスコートしている。お胸が弾けそうだ!誰か分からず?な私にアイリスさんが小声で
「令嬢はイライザ様で、同じヴァスラ皇国のシジリー侯爵家令嬢でございます。ニコライ殿下と同じく短期留学をされております」
ふと今気付いた!挨拶の時女性が全くいなかった!何で?
後日アイリスさんにモーブルの女性の挨拶の作法を教えてもらった。公式な場で女性は挨拶出来ない。各家で開かれるお茶会や夜会でのみ挨拶が許されるそうだ。王族と高位貴族がお茶会や夜会を開き、家門の女性の挨拶場を設けるのが慣しらしい。
『だから、王妃様に初めてご挨拶した時にお茶会に誘われたんだ。他の女性の紹介目的か…なら初めに教えて欲しかった。知ってたらお茶会受けたのに!』
そんな事をぼんやり考えていたらニコライ殿下が微笑み話しかけてくる。
「乙女様。先程エリアス殿に面会を申し込みました。我らカノの箱庭は聖人様しかお見えになった事しか無く、女性の文化があまり発展しておりません。是非異界の文化をご教授していただきたい」
「私は女神リリスが箱庭を救う為に召喚されました。ですのでここリリスの箱庭が優先です。よってニコラス殿下の意に添えません」
はっきり断った事に皆固まる。アイリスさんだけは嬉しそうに?見つめてくる。
そんな中でイライザ様が強烈な視線を送り、そして彼女が何か言おうとしたらニコライ殿下が制し嬉しそうに
「気持ちいいですね!皇子である私がこれ程キッパリ断られるのは。益々興味深い」
「ですがこれもご縁ですので、お茶くらいは…わぁ!」
いきなり手を取られハグされた。突然の事で誰も反応出来ずニコライ殿下の腕の中!
「何をしている!」
『この声は…ヤバイ!』
ニコライ殿下の腕の中から必死に声をする方を見たら…
「フィラ⁉︎」
会場の人が皆一斉にフィラに礼をする。カノの箱庭住人であるニコライ殿下とヴァスラ皇国の人は唖然としています。そっか!他の箱庭の妖精王なんて知らないんだ。
「お前!我が番を離せ」
「番?」
やっとニコライ殿下の腕が緩んだらフィラに引っ張られて今度はフィラの腕の中だ。
慌てて来たエリアス様がニコライ殿下に耳打ちし、やっとフィラが妖精王だと知り慌て挨拶をし陳謝するニコライ殿下。
フィラは真顔で怖い。完全に怒っている…
緊張が走るそんなこの場に頬を染め恋する乙女な面持ちをしているのがイライザ嬢。
明らかにフィラに惚れたようだ。
場が凍りつく中一歩出て優雅にフィラに挨拶をしている。フィラはイライザ様を見ずに私の額に口付けを落とす。
「シリウス。何の為にお前がエスコートし護衛がついている。我が番に他の男が触れるのは我慢ならん」
「申し訳ございません」
「フィラ!皆さん良くしてくれているよ!怒らないで!」
「お前は優しすぎる」
リチャードさん、バートンさん、ケイスさんは顔色が悪い。フィラの真顔は怖いんだよ!
「言い訳になりますが乙女様が陛下の番様である事を知っておりませんでした。乙女様にも陳謝いたします」
「ニコライ殿下。謝罪お受けしましたから、もう気にしないで下さい」
「多恵は優し過ぎる」
何とか場が収まりダラス陛下がフィラに挨拶に来た。まだフィラは険しい表情だ。
「多恵は我が番だ。心せよ」
「御意」
「フィラ!やきもちが酷いと怒るよ」
「お前は俺の番だ。当然だろう」
ダラス陛下とシリウスさんの表情は険しい。
そんな微妙な空気を読めてないイライザ様が体をクネクネしながらフィラに擦り寄りアピり出した。とりあえずフィラがいたらお茶会がわちゃわちゃするからお帰りいただこう。
「フィラ!ありがとう。まだモーブルの方々とご挨拶あるから…」
察して!フィラは私の顔を覗き込み、溜息を吐いてぎゅっとして帰っていった。
ホッとしたのも束の間、イライザ様が私を高い目線から見下ろし、勝ち誇った様に私を見て鼻で笑った。
チーム『乙女』の皆さんが殺気出すと、直ぐにニコライ殿下が側近に指示してイライザ様を下がらせた。
ニコライ殿下はまだ空気が読める様だ。私贔屓なダラス陛下からお叱言を貰ったニコライ殿下は下がって行った。
ダラス陛下は私の手を取り手の甲に口付けて
「嫌な思いをさせた。イライザ嬢はかなりの自信家の様だ。我が国と取引があり留学を受け入れたが、まぁ色々あってな…」
「はぁ…別になんとも思ってないので、気にしないで下さい」
やっと柔らかい表情になった陛下は席に戻っていった。この後お年頃の美丈夫から夜会のお誘いを大量に受ける。皆さん顔面偏差値が高いが婚約者達で目が肥えあまり動じないが人見知りが発動した。とりあえず宰相様と相談しますと返答し無難にお相手する。
一息つこうとしたら見るからに高位貴族のダンディな男性がこちらに向かって来る。
『えっと…誰だっけ?初めの方にご挨拶いただいた…』
首を傾げていたらシリウスさんが
「多恵様。王妃様のご実家のデスラート公爵様です」
「!」
目の前に来た公爵様は微笑みかけてくれる。
威厳があり近寄り難そうな方だが目はとても優しい。見つめられて沈黙が続きどうしていいか分からない!すると
「先程グレン殿下が乙女様に数を教わり、”勉強が好きになった”と喜んでおられた。陛下はじめ側近がなかなか殿下の学習が進まず困っておられました。家臣としても祖父としても感謝いたします」
「いえ…大した事はしていません。あのくらいの子は理由が分かり、学ぶ事が必要と分かれば意欲が湧くものです。素直で快活な殿下ですからいい王子になられますよ」
「失礼だが…乙女様は未婚でございますよね⁈」
公爵様だけでなくそれなりのお年の方は私の中身がおばさんなのがわかる様だ。
何度目だろうかこの質問。
「はい。40代に見えますか?」
すると眉間に皺を寄せたシリウスさんが、公爵様に苦言を呈する。まさかシリウスさんも他の男性も私の中身がアラフィフなんて思ってないんだろうなぁ…
『なんかすみません…』と心の中で謝った。
謝罪された公爵様は今度は王妃様のお話を聞いてほしいと言うが何かあるのだろうか?
視線を感じ振り向くと王妃様が見ている。
目の前の公爵様は慈愛に満ちた眼差しを王妃様に送っている。やっぱり王妃様は何かありそうだ。公爵様のこの願いに一抹の不安を感じた。後にこの時の直感は当たっていて、大変な騒動に巻き込まれる事となるとはこの時は思いもよらなかった。
デスラート公爵様と別れ控えの席に戻る。
少しすると聖騎士団長のアラン様がお茶会終了を知らせてくれた。
「多恵様。お疲れ様でした。そろそろ…」
「あ!はい。アラン様もお疲れ様です」
最後に陛下にご挨拶し退室許可をいただき会場を後にした。一旦控室に戻りお茶をいただき休憩してから部屋に戻る事にした。
アイリスさんが楽な服に着替えるか聞いてくれ、控室で着替えてから戻る事にした。
シンプルなワンピースに着替え髪を解き、シリウスさんが待つ控室へ。
「多恵様…」
シリウスさんが破顔し駆け寄り抱きしめた。
「?」
モリーナさんが瞳を輝かせて私をガン見してくる。他の護衛騎士の3人も同じ反応。
顔面偏差値が低い私はドレスより質素な普段着の方が似合うという事だろう。少しいじけながら納得していたらモリーナさんが
「多恵様!その波打つ美しい御髪は”編み込み”なる髪型をなさったからでしょうか⁉︎」
「髪?」
するとアイリスさんが鏡を持って来てくれた。見ると編み込みを解いた事で、髪が緩やかなウェーブヘアーになっていた。
『そっか!こちらにはパーマなんて技術無かったんだ』
当たり前だがくせ毛でない限りウェーブヘアーには出来ないんだ。ウェーブヘアーに感動しているモリーナさんに編み込みを教える約束をした。どこでも女性は美に関して貪欲だ。
やっと控室を出て部屋に戻るとフィナさんが待っていてくれ、チーム『乙女』の皆さんにお礼を言い解散となった。
はぁ…早くモーブルの問題に取り掛かりサッとお解決したい!
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