お茶会 - モーブル -
お茶会と言う名目のお披露目が始まります。
キースがアルディアに帰りあっという間にお茶会の日がきた。先日から城内は慌ただしく準備が始まり、貴族から引っ切りなしに手紙が届く。その中に待っていた返事があった。差出人はモービルの中でも広大な農地を有するランティス公爵様。ランティス公爵領で作られる麦はリリスの箱庭の大半を占めている。
そしてバスグルからの出稼ぎの人を多く受け入れているそうだ。
バスグルからの出稼ぎの人の実態を聞きたいと思い、お茶会でご挨拶させて欲しいと手紙を出していたのだ。すぐ開封し読むと丁寧な時候の挨拶から始まり、お時間をいただけるようだ。
アイリスさんは陛下と同等な私から挨拶を願うのはおかしい!と手紙を出すこと自体を反対して大変だった。結局宰相のエリアス様が賛同してくれ出す事が出来た。
エリアス様に聞けばランティス公爵の御子息は結婚しており、私との縁組を願ってはいない様で安心して面会出来ると言っていた。
それにランティス公爵令嬢のフィリア様は、トーイ殿下と婚約しており来年婚姻予定だ。
ランティス公爵家は特段問題がない様だ。
『ランティス公爵家は無害と認定!』
少し安心しながらエリアス様からモーブル貴族について事前に話を聞いていた。
「今、モーブル貴族で年頃で婚約していない子息がいるのは、公爵家、侯爵家、伯爵家が各1家、子爵家が2家、男爵家が3家になります。恐らく多恵様との縁を望み当日面会を申し出て来るでしょう」
「うわぁ…遠慮したい…」
私が嫌な顔をしたらエリアス様が察した様で
「サザライス公爵家はシリウス殿の実家で味方です。それにシリウス殿がエスコートするので、強引な事をする者はいないでしょう」
「はぁ〜だといいんですがね…私強引な人は苦手なんです」
するとエリアス様はシリウスさん以外に専属騎士の3名も付いてくれるから大丈夫だと言ってくれた。
『お仕事!お仕事!』と自分に言い聞かせていたら、ゴードンさんがリメイクしたドレスを届けに来てくれた。
ゴードンさんと入れ替わりエリアス様が退室しドレスに着替える。衣装部屋で着替えたらシンデレラフィト!着心地バッチリ!
居間で待っていたゴードンさんの前に行くと、両手を広げて近付いて来てアイリスさんが退ける。
「あぁ…私が想像していた以上に美しく感動しています!」
「ゴードンさんのドレスがいいからですよ!」
そうドレスは深緑で光沢のある黒の刺繍糸で裾と襟ぐりに刺繍がされ装飾は少ない。しかし生地がベルベットで重厚感があり上品だ。
箱庭の女性はシルクの明るい色の装飾ゴテゴテのドレスを好み、そういうドレスばかり作られて来た。
私が暗い色とシンプルなデザインを好み、アルディアのデザイナーも驚いていたなぁ…
今やアルディアでも私仕様のドレスは貴族夫人が好んで着用する様になった。
「ドレスも良くお似合いですが、髪結が素晴らしい!この様な髪結は初めて見ました」
ゴードンさんがまじまじと私の髪を見て、胸元から手帳を出しメモしている。
そう!ドレスが重厚感があるから髪は同じ深緑の細いリボンと一緒に総編み込みしてアップにした。
『そっか!アルディアでは普通になりつつある編み込みもモーブルでは目新しいんだ』
さっきも髪結士さんが感動し、凄い勢いで教えてくれてと言われたなぁ…今日は時間無いから後日にしてもらった。
アルディアで伝授した夜会巻きとフィシュボーンも教えてあげよう。
さっきまで髪を凝視していたゴードンさんの視線が下に下がり表情が曇った。
そして
「全て完璧ですが…その…不敬ですが、デザイナーとして意見させていただきますが…」
「あっ!虫除けが装いに合ってないですよね!」
「虫除け?ですか?」
効果がないと言われている婚約者からの虫除けを気やすめに着けている。虫除け効果は無いが私的には精神的に支えになっている。
ゴードンさんに虫除けの説明をしたが、やっぱり私には意味は無いとはっきり言われてしまった。ゴードンさんは外して欲しそうだったが、でも外す気は無いのでこのままにした。
入場の時間が近付きシリウスさんと専属騎士さんが迎えに来てくれる。
ゴードンさんにお礼を言いお別れしていたら凄い視線を感じ、視線の先を辿るとシリウスさんと騎士の御三方だ。
「あの…似合いませんか?」
シリウスさんは目の前に来て跪き手の甲に口付けて微笑む。
『めっ目が!』いつもの聖騎士の隊服では無く正装で眩しい!見慣れない正装姿を見たが破壊力が半端ない!婚約者達に負けてないぜ!
「美しく過ぎてこのまま攫い何処かに隠してしまいたい…」
「お世辞ありがとうございます」
「俺は貴女に本当の事しか言わない!」
甘い雰囲気に困っていたらアイリスさんが横槍を入れてくれ開放してもらった。
やっと会場に向かう事になり、専属騎士の御三方にも”よろしく”すると、皆さんからお褒めの言葉をもらう。もう社交辞令は慣れて来て軽くお礼を言う。
御三方もいつもの隊服では無く式典用の華やかな隊服でいつも以上に男前だ!
『っん?』
騎士のマントが目についた。マントに刺繍が入っている。確か”勝負マント”だ。
意中の女性が参加しているのかもしれない!
他人の恋愛事情は胸ドキでワクワクする。
私の機嫌が良くなり皆さんの表情も緩んでいる。その中でアイリスさんだけ表情が厳しい。そんな混成チームで会場に移動する。
会場は大広間で学校体育館の倍はある。そして庭に面した大きな掃き出し窓は開き放たれ庭にもテーブルと椅子がセットされ、開放的な空間が用意されている。
舞踏会の様に入場の名呼びがなく、しれっと入場出来て気楽でいい。”ほっ”としていたらシリウスさんが
「この入場も陛下が多恵様が気負わない様に配慮されたのです」
「そうなんですか!陛下は気遣いの人ですね〜」
「それは多恵様に対してだけですよ」
「!」
そう言いシリウスさんは私の手をぎゅっと握った。見上げると眉間に皺を寄せている。
悋気?もしかしてグラント並の悋気なら正直面倒臭いかも…
「多恵様。まずは陛下と王族の皆様にご挨拶を」
「はい」
リチャードさんに促され陛下の元へ。移動中にすごい視線が刺さり、陛下の前に着く頃には血塗れになっていた。
カーテシーをし陛下にご挨拶して顔を上げたら陛下は笑っている。
「貴族の視線にもうぐったりした顔をしているな。疲れたらいつでも退室してよいぞ」
「お気遣いありがとうございます。倒れない程度に頑張ります。今日はダンスはないので…陛下のお気遣いに感謝しております」
するとビスクドールの様に表情が無く綺麗な笑みを浮かべた王妃様が
「陛下は多恵様と踊れなくて残念なのですよ。次の舞踏会では踊って差し上げてね」
「えっと…機会があれば…」
気がつくと会場は静まりかえり空気が微妙な感じに…意図が全く分からない王妃様。
私は心の中で『雰囲気破壊者』と勝手に二つ名を付けた。
陛下、シリウスさんと護衛騎士さんは困惑している。焦りながらエリアス様が仕切ってくれ挨拶を終え、控えのソファーに移動し少しの間お茶をいただき会場内を観察して過ごす。
『話には聞いていたけどこれ程くっきり派閥が出来てるとは…』
会場は『王族派』『貴族派』『中立派』の3グループに分かれている。アルディアは陛下と3大公爵家が貴族を纏めていて、争いはあまり感じなかったなぁ…
陛下が明言しなかったが多かれ少なかれバスグル人の出稼ぎ労働者がこの対立に関わっているって言っていた。
正直アルディアの問題より厄介で時間かかるかも知れない…
溜息を吐いていたらアイリスさんが大好きなチーズスフレを持って来てくれた。甘いものチャージして今から始まる挨拶のラッシュに備える。それにしても着席してからずっとシリウスさんに見つめられて居心地悪い。
それに護衛騎士さんが後ろと左右に立たれて、まるで監視されている様だ。
「シリウスさん。あまり見ないで下さい!居心地悪いです」
「着飾った貴女をこの目に焼きつけたいのです」
「なっ!」
遠巻きにシリウスさんに熱い視線を送る令嬢が溜息を吐いている。シリウスさんてこんな激甘だったけ?
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