キース - 回想 2 -
多恵に想いを受け入れられて幸せに満ちていたが…
多恵様に想いを受け取ってもらっいグランド殿に同じく想いを受け取ってもらった旨を伝えた。
彼は”眼鏡の貴公子”と呼ばれ令嬢の憧れの的だ。しかし令嬢に対し冷たく相手にもしてこなかった。が…この男の意外な一面を見た。彼は嫉妬心が強く私を敵視してきた。私は競う気は無い。本心は多恵様を独り占めしたいが、彼女の事情を理解している。付き合いは短いが彼女は争いを嫌い謙虚で照れ屋だ。
強い嫉妬や束縛は望まないだろう。
己の欲を優先して大切な彼女を失うより、己の欲を押し殺してでも彼女と共に居たい。
彼女は照れながら
『伴侶候補が2人(私とグランド殿)で良かった』
と、俯き真っ赤な耳をして呟く。もう嬉しくて仕方ない!叫びながらアルディス中を走り回りたい位だ。
多恵様に想いを受け取ってもらい幸せを感じていたが、ビビアン王女いや正しくはバスグルの公爵家のエルバスが私の愛しいあの人を狙いまたもや彼女は危険な目に合う。
妖精王と多恵様の機転で拉致は未然に防げた。彼女の身の安全にほっとしつつ、彼女の知識と聡さに改めて惚れ直す。
そんな幸せな日々が続き順調に進んでいると思っていたある日。アーサー殿下が無理やり多恵様に口付け迫った。聖獣殿と妖精王か介入し多恵様を助け出した。
この後、伴侶候補達か集められ話し合いとなり皆本音で話をする。
皆彼女にぞっこんで誰も候補を降りる気が無い。そこで彼女に受け入れてもらう為に話し合い、皆が幸せになる方法を画策する。そしてそれを多恵様に提案したら…
「提案です。伴侶候補を一旦解消し関係をフラットにしましょう」
青天の霹靂だった。候補者みな顔色を無くし言葉も出ない。例外だと思っていた妖精王も同じく解消となった。
私は気力なく重い体を引きずり馬車に乗り領地に帰った。何もする気力もなく部屋で伏せる。眠れないし食欲もない…全て終わったと思った。
心配した親父殿が多恵様の近況を知らせてくれるが全く意欲が湧かない。すると側近が
「多恵様はそんな弱々しいキース様を見たら何と思われるのでしょう⁈そんなままでいいのですか?嫌われた訳では無いでしょう!」
側近に叱咤され目が覚めた。多恵様は窶れた私を見たら心配する。徹夜で寝不足の私を心配して膝枕までしてくれたのだ。そうだ拒否はされていない。候補を解消されただけ…心は受け取ってもらっている。
直ぐに湯浴みをし食べたくも無いが、食事を摂り酒を飲み眠った。
まだ本調子では無いが仕事は出来ている。窶れたと思われたくなく、公爵家騎士団の訓練に混じり己を心身共に鍛え直す。多恵様に再度振り向いてもらえるように日々すごす。
ある朝…側近が慌てて執務室に飛び込んで来た。
「キース様!乙女様の専属侍女が我が領地を通過してバース領に向かうそうです。乙女様の様子が聞けるのでは?」
バース領…サリナ嬢か⁈彼女は召喚の儀からずっと多恵様に仕えていて良く知っている筈だ。
「王都を朝発ちバース領に向かうならテントンの街で休息する筈だ。騎士団から4名ほど選び私に着いてこい」
こうしてサリナ嬢に会うべく領地を出た。
1刻程走ると馬車が見えた!恐らくあの馬車だ。スピードを上げ馬車に近くと、何故か馬車はスピードを上げ逃げる何故だ⁈近づき御者を見ると見覚えがある。あの者は王宮騎士団の騎士だ。
「我らファーブス公爵家の者だ!バース家のサリナ嬢とお見受けする。是非面会を!」
我らに気付いた御者か手綱を引き馬車が止まる。馬車からサリナ嬢と付き添いの者が降りてきた。
私を見て驚くサリナ嬢。何故か表情を緩め馬車の中を見ろと言う。疑問に思いながら馬車の扉を開けると…
床に大きな布の塊があるが…この香りは!
「多恵様?」
すると塊の中から愛おしい多恵様が顔を出した。顔を赤くし涙目だ。
「も!怖かった!キース様のバカ!」
多恵様が泣き出しどうしていいか分からない。後ろにいたサリナ嬢が駆け寄り多恵様を抱き寄せ、付き添いの女性に預け私に向き合い。
「多恵様が王都を離れているのは極秘事項です。この先のテントンで宿を押さえてあります。お話はそこで…」
「わかった。ありがとう」
サリナ嬢の馬車の後についてテントンの街に向かう。宿に着き馬車を降りる多恵様を見守ると、へたってその場中しゃがみ込む多恵様。駆け寄ると彼女は付き添いの騎士に手助けを頼み、騎士が彼女を嬉しそうに抱き上げ宿に入る。
彼女が他の男の腕にいるのが悔しくて仕方ない。羨望の眼差しで騎士の背中を見ていた。予約した部屋は2階で古びた階段を上がる。その時に階段が大きな音で軋み驚いた多恵様は騎士の首にしがみ付いた。
「はっ!」
しがみ付いた多恵様の左手首に私が渡した臙脂色のリボンが結ばれていた。
歓喜に体が震える。まだ彼女との縁は切れては無い。
部屋に入ると護衛の騎士は隣の部屋に待機し、サリナ嬢は水を取りに部屋を出た。泣いた多恵様の目は赤い。
どうやら私達を賊だと思っていたらしく、怖い思いをさせてしまった。これについてはサリナ嬢に叱責された。確かに黒づくめ騎馬が猛スピードで近づけば誤解されても仕方ない。
それより彼女の左手のリボンを確認さなければ!許可をもらい手に触れる。彼女は右手を差し出したが、反対の左手を取り袖をたくし上げる。彼女の細い手首に私が送った臙脂色のリボンがあった。
一気にテンションが上がり抱きしめ口付けそうになる。
リボンの存在を思い出した彼女は、慌てて説明しだす。どうやら旅に出るにあたり妖精王とグランド殿から虫除け(男除け)を贈られ、心を受け取った私を気遣いリボンを身に付けてくれたそうだ。
『嬉しい…彼女の中にちゃんと私は居る』
そう思いながら妖精王が贈ったチョーカーを眺めていた。だが…
「虫除けの意味もありますが、私の半身を貴女の側に置いて下さい」
と袖口のカフスを取り彼女の袖にそれを着けた。カフスはガーネットがはめられており私色だ。妖精王やグランド殿同様に私も嫉妬の塊だ。
本当は付いて行き近づく者を排除したいが拒否された。多恵様が身につけた念の籠った虫除けは全く機能しなかった事を後日知る事になる。
もっと彼女の側に居たかったが、サリナ嬢に追い帰らされテントン街を後にした。
すると側近が
「おモテになるキース様が夢中になるのが理解出来ました。乙女様は愛らしく男心を揺らす。良かったですね!乙女様の中にはまだ若はいらっしゃいますよ!」
「あぁ…また候補に戻れる様に精進せねば…」
こうして領地に戻り今まで以上に執務をこなした。
日々忙しく過ごしていたある日。執務室で書類整理をしていたら親父殿が来た。眉間に皺を寄せ厳つい顔が更に厳つくなっている。来るなりソファーに座り私に話があると言う。
「今、王都から連絡が来た。一部の貴族が王家と公爵家が乙女を囲い不満が出ているそうだ。そして伴侶候補無き今、乙女様との面会を熱望しているそうだ。陛下はこの不満は後々歪みに繋がると判断し、乙女様に貴族とのお茶会を願ったそうだ。これが参加する貴族の一覧だ。全ての家に年頃の嫡男がおり、乙女様の伴侶を狙っておる」
慌ててリストに目を通すと身分、容姿申し分ない者達ばかりだ。その中でも女癖の悪いイーサンが入っていて頭に血が上った。
「親父殿!私も当日…」
「ならん!陛下から(元)候補者の参加は禁じられている」
「…」
彼女の心に私が居ると安心していた矢先に、また不安要素が!苛立ち直ぐにでも彼女の元に行きたい!しかしビルス殿下とビビアン王女の帰国が有り、港を空けることが出来ない。親父殿も腕組みをして何か考え事をしている。暫く沈黙が続いていたら入室許可なく執事が入って来た。よほど急ぎの用事か?
「許可なくの入室、責は後でお受けいたします。今王都より連絡がはいり乙女様が我が領地に訪問される事が決まりました!」
「「真か!」」
歓喜に体が震える。親父殿は執事から詳細を聞く中、私は身支度を整えて王都に向かう準備をする。馬を走らせれば仕事に支障はない筈だ。従僕を呼び騎士団から3名王都への護衛準備をさせ
「親父殿!多恵様に会って参ります。詳細はイザーク様に聞いて参ります。後の書類はお願いします」
「分かった!乙女様の心を掴んで来い!」
「お任せを!」
こうして馬を走らせ愛おしい彼女に会いに向かった。
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キースの回想は2話の予定が収まらず次話に続きます。
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