表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/442

キース - 回想 1 -

多恵に防御靴を渡す為にモーブルに来たキースの帰路で回想しているお話です

「はぁ…多恵…」


多恵が望んだ防御靴を届けにモーブルを訪問し、短い時を多恵と過ごし先程別れた。今手には多恵にもらった香水を染み込ませたハンカチがある。ハンカチから多恵の香りがしてモーブルに戻り多恵を連れ去りたくなる。

そんな想いを押し殺し宿まで1刻程の間、窓の外の景色を見ながら多恵に想いを馳せる。


『義務で愛されても嬉しく無いし寧ろ嫌です』


「あの時初めてだったなぁ…女性に拒否されたなのは」


多恵初めて会った時の事を思い出していた。


私はファーブス公爵家嫡男として生まれ、何の苦労もなく来た。自分で言うのもなんだが容姿も良く頭もまわる方だ。令嬢から秋波を送られる事も多かった。

しかしどんな身分の高い令嬢も美女でも心が動く事はなかった。

親父殿には早く妻を娶り後継を煩く言われていたが、全くその気は無く気がつくと適齢期を過ぎようとしていた。


女性が嫌いな訳ではない。男色を疑われたりもしたが女性は好きだし男しての欲も有る。しかし母の体が弱い上に妹が誘拐未遂事件から伏せてしまい自分の事を考える余裕が無かった。

やっと家族に平穏が訪れた頃に陛下から登城命令が出た。恐らく港でトラブルが多いチャイラの事だろう。頭が痛い話だと思うと足取りが重い。だが…


「乙女様の伴侶候補ですが⁈」

「あぁ…慣例通りヒューイを候補としておったが、あまり上手くいっておらん。乙女殿はここの女性と違い確固たる意志をもち意見をはっきり言う。そしてアルディアでは伴侶は選ばないかも知れないと言うのだ」

「王子の求婚を拒んだのですか!」


驚いた。誰もが憧れるヒューイ殿下をか!驚いていると、陛下は今までの乙女と違い、今回の乙女は箱庭全ての国を乙女は救うと言う。故にアルディアに留まらず他の国にも渡る事になるそうだ。


「故に乙女のお心をいただき、いずれアルディアに戻ってもらわねばならない。其方以外にオブルライト家のグラント、カクリー家のケニーも候補とした。誰でもよい!乙女との縁を結んで欲しい」

「畏まりました。誠心誠意乙女様を愛し国の為となりましょう」


しかし陛下は無理強いしない様に注意してくる。乙女様は意志が強く無理強いをするとアルディアを嫌う可能性があると言う。

この話を聞き乙女に興味が湧く。男性に意見する女性…好ましい。


「乙女様にご挨拶させていただいて、よろしいでしょうか?」

「恐らく部屋にいらっしゃる。面会するといい」


こうして陛下の執務室を後にし乙女様の部屋に向かう。長い廊下を歩きながら乙女様を想像し顔が綻ぶ。乙女様の話は色んな所から耳にしている。この箱庭女性と違い小柄で幼い印象で綺麗な黒髪が目を惹くそうだ。


期待に胸を躍らせ乙女様の部屋に着き護衛騎士に面会を申し出る。急な申しで故に叶わないかもしれない。ならば面会の申し込みの文の用意を考えて暫く扉前で待っていると、面会が受けていただけ入室する。


「!!」


目の前に今まで会った事も無い愛らしい女性?いや少女が立っている。見た目12、3歳ほどで未成年に見える。漆黒の艶やかな黒髪に黒曜石の様な輝く瞳。そして一番目を引いたのは真珠パール色の滑らかな肌だった。

体の芯が熱り今まで女性に感じた事の無い感覚に自分自身で驚いている。

じっと見つめると乙女様は戸惑っているのが分かり慌ててご挨拶をした。少しお話をして分かったが乙女様は人見知りされ男性慣れしておられない様だ。

初々しさに益々興味が湧く。陛下から伴侶候補を賜った事を伝えると、“義務で愛されても嬉しく無く寧ろ嫌”とはっきり拒否され驚く。


『これか…この感じならヒューイ殿下が苦戦なさるのが分かる』


乙女様にはこの箱庭女性の応対が通じない。

益々面白く興味が湧きこの日の面会を終えた。

帰りの馬車で彼女の事を思い出し口元が緩んでいる自分に気付き

「これが一目惚れというのだなぁ…」と呟く。


伴侶候補になったが他の候補と違い私は基本領地にいて港管理に忙しい。親父殿が乙女様との縁組に乗る気で王都からの情報を集めては聞きもしないのに色々言ってくる。その度に焦る自分がいて出来るならば毎日会いたいし愛でたい。彼女は小柄で黒目がちなせいか小動物の様な印象があり、腕の中に留めて可愛がりたい衝動に駆られる。


あの日もそうだった。他国との取引に必要な資料が欲しくて王城の書物庫に出向いた時の事。本棚の前で本を探していたら誰かが来た。この時間に書物庫に人が来るのが…いや書物庫に人が来るのが珍しく扉に目をやると…

『多恵様…』意中の彼女が護衛騎士を連れて入って来た。彼女は人見知りの為、あまり距離を詰めると逃げるので気付かないふりをしていた。

『何をしてらっしゃるのだろう…』私に気付いた彼女は騎士の後ろに隠れ、騎士を盾にして移動している。どうやら私から逃げるおつもりだ。

心が躍り彼女を出し抜き先回りする事にした。彼女は賊の様に足音を立てず本棚を移動している。まるで警戒する猫の様で捕まえたい衝動に駆られ彼女を待ち伏せし…

出会いがしら彼女を抱きしめた。


『なんて小さいんだ!その上軽すぎる!食事は足りてらっしゃるのか⁈』


抱きしめた彼女は小さく私の腕の中にすっぽり収まった。意地悪したくなって片腕で抱き上げたら彼女はジタバタと腕の中でもがく。


『愛らしく頭から食らってしまいたい』


そんな事を思いながら彼女の柔らかい肢体と芳しい香りに酔いしれる。すると護衛騎士が殺気だし離す様に言って来る。

仕方なく開放すると彼女は真っ赤な顔をして困り顔だ。その尖らせた唇に噛み付きたい。

その後立ち話をしていて禁書庫の話になると彼女は青い顔をして体調を崩す。禁書庫に何か思う所がある様だが、まだ信頼を得ていない私には話してくれない。何時かその輝く瞳を私だけに向け頼って欲しいと願う様になった。


「婚約しても未だに好意を向けられるのが苦手なようだ。もっと甘えて欲しいのに…」


そしてシャイな彼女に合わせ徐々に距離を詰めるが、他の候補者の横やりが入り中々進まない。特にどこでも行ける妖精王フィラや宰相補佐のグラント殿は彼女と距離が近く私は1歩も2歩も遅れている。焦るが他国から入船が増え仕事は益々増え登城する事が更に遠退く。

彼女に忘れて欲しくなくて手紙をしたため送り続ける。彼女は文字は読めるが書けない無いらしく、返事はいつも侍女が代筆している様だ。

それでもいい。彼女が私を気にかけてくれているだけで幸せだ。

そして親父殿の情報では妖精王フィラとグラント殿が彼女に心を受け取ってもらったと聞いた。いつも状況を正確に把握し対処する私が焦り冷静で居れない。

そしてバスグルからビビアン王女が連絡も無く来ることになり、彼女に忠告に行くと彼女は疲弊していて甘えてきた。

私を必要としてくれているだけで心が躍り、連日の徹夜も苦にならない。しかし元気を取り戻した彼女は反対に私の体の心配をし帰って休めと言う。


『嫌だ。少しでも長く貴女の元に居たい』


帰宅を拒否すると少し考えて彼女は頬を染め私から離れてソファーに座った。拒否された様でショックを受けていたら、彼女は膝を叩き寝る様に促す


「時間にちゃんと起こしますから、少しでも寝てください。明日は守ってくれるのでしょ?」


夢を見てるのか…彼女の膝枕で寝るなんて…恐る恐る彼女の膝に頭を置くと頬に口付けてくれ頭を撫でる。興奮し眠れないと思ったが、彼女の香り包まれるとすぐに眠りに落ちた。


夢の中でも彼女が出てきた。純白の花嫁姿で私の腕の中で微笑んでいる。誰もいない空間に2人…至福な時間だった。

しかし至福の時間はあっという間に終わり目覚めた。

目が覚めると目の前にか彼女が微笑んでいる。奥手な彼女に合わせていたが、もう自分を止めれず、心を受け取って欲しいと恋うた。彼女は戸惑っているが逃げない。

我慢できず彼女の頬を手で包むと、柔らかく手に吸いつく滑らかな彼女の肌に己の欲望が止まらない。

そっと口付ける…


彼女の唇は甘い…酔ってしまうそうだ。何度も口付けもっと欲しいと思うが…

従者が迎えに来てしまった。

それに奥ゆかしい彼女だからあまりがっつくと嫌われてしまう。手を引き立ち上がり抱きしめると、腕の中の彼女は真っ赤な顔をしていて、更に愛おしく思う。


この時やっと私の人生が始まった気がした。


お読みいただき、ありがとうございます。

続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。


『いいねで応援』もポチしてもらえると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ