正体
正式に陛下に謁見しますが波乱の予感が…
『めっちゃ研究してきてるな…』
朝食を前にして苦笑する。私の好きなものが見事に揃っているのだ。皆さんに感謝して美味しくいただいた。食後は身支度をしアイリスさんから今日のスケジュールを教えてもらう。今日は昼前に王家の皆さんにご挨拶し、昼食後に騎士団及び各所の責任者と顔合わせするそうだ。初めが肝心だなぁ…ちゃんとご挨拶しないと。
食後はソファーに座り本を読んで時間までのんびりする。そろそろ時間になり王妃様と王子にご挨拶する為に着替える。アイリスさんと衣裳部屋で着るドレスを選ぶけど…
「これ何人分?」学校の教室位の大きさの部屋にぎっしり衣類が詰まっている。靴は靴屋レベルに揃っていて引く。
「まだ増える予定ですので」
「要りません!ここにある服も全部に袖を通すとなるとどれだけかかるか…」
アイリスさんは聞こえないふりをして色んなドレスを勧めて来る。これはゴードンさんに会って直談判する必要があるな…
結局、濃紺の飾りが少ないドレスを選び着替えた。軽く化粧をしてもらい髪はハーフアップにしてもらう。
時間になり護衛騎士さんとアイリスさんに付き添われ謁見の間に移動する。
謁見の間に着くとシリウスさんが待っていた。まだ知り合いが少ないから、知っている人の顔を見ると安心する。
シリウスさんのエスコートで謁見の間に入ります。アルディアに負けず劣らず豪華な広間に腰が引けて来た。
上座にはダラス陛下と王妃様がいらっしゃり…
「あっ!!」
思わず声を上げ隣のシリウスさんが驚き私を見ている。
「シリウスさん!街で助けてくれた貴族のご婦人です!」
「人違いでは?」
ダラス陛下も驚いた顔をしていて王妃様を見ている。王妃様は微笑み
「昨日は名乗らずに失礼いたしました。この話は後ほど…陛下ご挨拶なさるのでしょう」
こうして形式的な挨拶が終わると直ぐに眉を顰め陛下が王妃様に
「どうゆう事だ?私は聞いていないぞ。どこで会ったのだ」
「昨日はランデンに散策に向かいそこでお会いしたのですよ。陛下から伺っていた美しい黒髪が目にとまり、すぐ乙女様だと分かりましたわ」
「…」
「私が乙女様にお会いするのに陛下に許可が必要なのですか?」
珍しく陛下は歯切れが悪い。まだ話し足り無さそうな王妃様を手で制し、陛下は王妃様の横にいる王子を紹介してくれた。
2人共かわいい!ダメだ…子供を見ると一気に48歳に戻ってしまう。
第1王子はグレン様で陛下…もといグリード殿下に似ている。はにかみながらご挨拶いただいた。第2王子はフィル様で王妃様に似ている。お昼寝中で乳母の腕の中ですやすやよく寝ている。
『あぁ…乳児だ…抱っこしたいなぁ…』
食い入るように見ていたら王妃様が
「多恵様はお子は好きなのですか?」
「はい。かわいいですよね!」
王妃様は微笑み陛下に
「陛下。良かったですね。多恵様に姫を産んでいただいては⁈」
「シャーロット!このような公式の場で何を言い出すのだ!弁えろ」
いつも男前で大人な陛下が王妃様にタジタジになっている。夫婦仲悪いの⁈巻き添いは遠慮したい…
「多恵殿失礼した」
「いえ…」
「多恵様。色々お話ししたいので、お茶会に参加いただけるかしら?」
「申し訳ありません。リリスの仕事が有り早くモーブルの事を知りたいので、こちらに慣れ落ち着いてからでよろしいでしょうか?」
「まぁ…」
空気が冷えていくのが分かる。王妃様付きの女官や文官があからさまに嫌な顔をする。
王妃様は私の事を側室候補として見ているようだ。王妃様の対応は慎重にしないと変な誤解を生みそうだ。
沈黙を破ったのは陛下だった。
「シャーロット。多恵殿は遊びに来ているのではない。困らせてはならない」
「嫌ですわ陛下。純粋に多恵様と仲良くしたいだけですわ。多恵様。落ち着かれたらご参加いただけるかしら?」
「はい。その時はぜひ!」
なんとか無難に挨拶を終えて思わず溜息を吐く
「はぁ…」
「多恵様お部屋に戻りましょうか」
「はい」
やっと謁見が終わり部屋に戻ろうとしたらシリウスさんが知らない男性を連れて来た。
この男性は騎士服を着ていてこれまた美丈夫だ。私の前に来ると騎士の礼をしてくれ、隣のシリウスさんが紹介してくれる
「多恵様。専属騎士のリチャードです。本当は私が付きたかったのですが、王子が私以外の者では嫌だと仰りまして…リチャードは聖騎士の中でもかなりの実力者ですのでご安心下さい。後2名程つきますが今選定中で、専属騎士ともう一名日替わりで護衛いたします。リチャードご挨拶を」
「聖騎士団第2小隊長を務めますリチャード・ボルダーと申します。女神の乙女であらせられる多恵様にお仕え出来、光栄でございます」
「多恵です。よろしくお願いします」
「多恵様。そのような!」
「へ?なに?」
アイリスさんが後ろから引っ張った。意味が分からない!目の前のリチャードさんも目が点だ。するとシリウスさんが苦笑しながら
「アイリス嬢。多恵様の世界では身分が無く誰に対しても平等に接せられる。傅かれる事に慣れておられない。陛下より多恵様が気負わない対応をする様にて言われていたであろう」
「・・・」
「多恵様。ご挨拶頂き光栄にございます。出来るだけ貴女にお心に添う様に心がけますので、思う所がございましたら小さなことでもお申し付け下さい」
「ありがとうございます。王族の方々の様な対応は必要ないので、気楽に接していただけると嬉しいです」
アイリスさんは腑に落ちないようだ。シリウスさんが入ってくれ丸く?収まりリチャードさんも理解してくれた。アイリスさんに分かってもらうのに少し時間がかかりそうだ。でもよく考えたらケイティさんも真面目で親しくなって仲良くなったけどし主従関係は最後まで崩さなかったなぁ…そういう所は似ているのかもしれない。
シリウスさんは任務の為ここでお別れします。一瞬躊躇しハグをして額にキスをして立ち去って行った。
こうして新しく付いてくれるリチャードさんのエスコートで部屋に戻ります。
リチャードさんはちょいゴリマッチョ。少しタレ目の甘いマスクにオレンジに近い金色の短髪のハンサムさん。
『モテるだろうなぁ…』と見上げていたら
「多恵様。誤解を生むのでその様な視線は…」
「誤解?いやただ単にリチャードさん男前だなぁ…て思っていて、女性にモテるだろうなぁ…って」
「いえ!私など想いを寄せていただける程の者では無く、シリウス様の足元にも及びません」
ここでもシリウスさんの尊敬する人が。そんなに凄い人なんだ。その人からマントを貰って言ったら皆驚くんだろうなぁ…
『あれ?』
ある事に気が付く。昨日から貴族の方々を見ない。アルディアに居る時は誰かしらいて話しかけられていたのに…
「あの?貴族の方々は登城はあまりしないんですか?」
「いえ、昨日と今日は多恵様が入城されるので貴族は登城禁止とされています。多恵様に群がるのが目に見えているので陛下が禁止とされました。明日からは登城しますので面会申し込みが増えるでしょう」
陛下は相変わらず男前だ。そんなところまで気にかけてくれていたんだ。これをきっかけに色々リチャードさんに話を聞き少し打ち解ける事が出来た。部屋に戻り昼食をいただいた後に楽な服装に着替え各所に挨拶に向かいます。
まずは騎士棟に。アルディアでは第1から第3騎士団がありそれぞれに騎士団長がいたが、モーブルは騎士団は1つで騎士団長は1人。後は管轄別に小隊に分かれ隊長が隊を纏めているそうだ。王族を護る聖騎士は騎士団と別に組織され建物も別になる。この次に挨拶に行く。騎士団の団長さんの執務室に着き入室すると…熊?
縦にも横にも大きい男性が待ち構えていた。
「お目にかかり光栄でございます。騎士団団長レックス・ウィグスと申します。ようこそモーブルへ歓迎いたします」
「初めまして。多恵と申します。よろしくお願いします」
お辞儀するとレックス団長は一瞬驚いた顔をしたけどすぐに微笑んでくれた。リチャードさんに誘導されソファーに座ると直ぐにお茶が出て来た。
向えに座るレックス団長は大きいから一人用のソファーが子供の椅子に見えて少し笑えた。
「我々は基本王都と地方への巡回がメインで、直接多恵様を護衛する事は無いと思いますが、地方への赴く際は我々が護衛する事になります。聖騎士は基本王族護衛が任務で、地方は我々の方が熟知しておりますので」
「多分地方へ視察する事も多いと思いますので、その際はよろしくお願いします。えっと…今ここで聞いていいか分からないですが…質問していいですか?」
「私で良ければ伺います」
何を質問したかと言うと入国に付いて聞いた。入国って言ってもこの箱庭外からのだ。つまりバスグルからの入国に付いて。
モーブルの海の玄関口はマティッサという港しかなく、後は小さい港があるがそこは漁業を営む人々の小さな港で国内に数ヶ所点在する。そしてアルディアでもそうだが入管なんて無く入国出国記録はない。つまりバスグルは出入り自由だ。これでは労働者管理なんて出来なだろうなぁ…
腕組みをして少し考え事をしていたらアイリスさんが慌てだす。そして後ろから小声で
「多恵様。その様な男性を誘うような格好はお止め下さい」
「へ?何?」
ふと目の前のレックス団長は顔を赤らめ横を向いていて、リチャードさんに至っては後ろを向いている。
「箱庭では腕組みしないんですか?」
やっと反応したレックス団長が
「そのポーズはその…誘惑では…」
「そんな訳ないじゃないですか!考え事していたんです!」
「はぁ…よかった…私には妻がおりますから…どうしようかと考えてしまいました」
「いや!こんな場で誘惑とかしないですから!私ビッチじゃ無いし!」
「びっち?」
「今のは良くない言葉です。忘れて下さい」
こうして誤解を招いたが無事に?挨拶は終わり騎士団棟を後にした。
この後は聖騎士団にご挨拶に行きます。騎士団棟の隣ですぐ着いた。ここでも団長室に案内される。すれ違う聖騎士さんはスマートで品の良い方が多い。後でアイリスさんか教えてくれたが、聖騎士団は貴族の子息が多いそうだ。反対に騎士団は平民出身者が多く、ワイルドな方が多かった。
執務室に着き入室すると、ダンディな団長が騎士の礼をとり迎えてくれる。
「お目もじ叶い光栄でございます。聖騎士団アラン・クルーズと申します」
「初めてまして。多恵と申します。よろしくお願いします」
お辞儀して直ると温かい視線を送られ…
「シリウスが恋うのが理解できます。こんなに愛らしいお方なら…」
「えっと…」
「失礼ながらモーブルでの伴侶はまだお決めでないと聞き及んでおります。我が聖騎士団は素行も良く実力のある者が多い。シリウス以外で気にいる者がおりましたら、縁を持っていただきたい」
「はぃ?」
いきなり縁組を申し込まれた!シリウスさんだけでも大変なのに、これ以上縁は要りませんから!
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