国境
車内が気不味く早く街に着いて欲しい多恵です。
キラス村を出て半刻ほど走るとアルディアとモーブルの国境の砦がある。
ここでは身分関係なく身元の確認があるそうだ。異世界人の私は身分証が無い。そこでアルディアで身分証を発行してもらっている。
馬車がスピードを落とし止まった。扉がノックされシリウスさんが返事をすると扉が開いた。
シリウスさん、アイリスさんと降りて続いて降りる。
そこはレンガ造りの砦があり、モーブル騎士が甲冑をきて身分証の確認をしている。
1人1人身分証を提示し名と出身の確認し行く先を聞かれている。平和な箱庭とは言え国境だ。騎士たちはゴリマッチョの体の大きな騎士さんが揃いい少し怖い。幼児が居たら確実に泣くだろう。
シリウスさんにエスコートされ順番が来た。イザーク様から貰った身分証を検問官に渡す。検問官は中年男性で顎髭が似合うイケおじだ。
「お嬢さん名は?」
「タエ・カワハラです。」
「出身は?」
「えっと…」確か異世界とは言えないから、イザーク様が陛下からいただいた領地のカワハラ領にしたと言っていた。
「アルディア王国のカワハラ領です」
「ん?アルディアにカワハラ領なんてあったか?」
するとシリウスさんが口添えしてくれる。
「このお方は女神の乙女の多恵様だ。アルディアで功績を認められ、先日アルディア王から領地を頂いたので、まだアルディア以外では知られていない」
「これは!シリウス様。シリウス様が仰るなら間違いございませんね。多恵様失礼いたしました」
「いえ…お仕事ですから気になさらないで下さい。今日からモーブルでお世話になりますので、よろしくお願いします」
「・・・」
検問官と後ろに控える騎士達は“ぽかーん”としている。するとシリウスさんが
「多恵様がご挨拶なさっているのに、いつからモーブルの気高い騎士は無作法者になったのだ!」
「しっ失礼いたしました。ようこそおいで下さいました。心から歓迎いたします」
「あの…そんな大した者では無いので畏まらないで下さい。普通の旅行者と同じ扱いで…」
「いつまで乙女様を立たせておくおつもりですか!」
アイリスさんが横から検問官を窘める。
「アイリスさん。私まだ足腰弱ってないから大丈夫ですよ。それより問題無ければモーブルに入国したいのですが…」
「はぃ!お通り下さい!」
こうして検問を通過できることになった。再度馬車に乗り休憩地点のランデンを目指す。朝早かったからそろそろお腹が空いて来た。
後少しで町に着く様だ。ほんの少しだけど街ぶらする時間を貰った。嬉しい!アルディアでも街ぶらあまりできなかったから、モーブルでは色んな所に行きたい。
馬車の中は相変わらず甘い雰囲気のシリウスさんとイマイチ感情が読めないアイリスさんの視線を受け結構ダメージを受けている。
シリウスさんはLOVEだから分かるからいいけど、アイリスさんが…
『まだ2日目だ!そんな簡単に為人なんて分からない!それにケイティさんの従姉妹だから大丈夫だ』
と自分に言い聞かす。
馬車の小窓を御者さんがノックする。
するとシリウスが窓のカーテンを開けてくれる。覗くとそこに街並みが広がり一気にテンションが上がる。
とある建物の前で馬車が停まり騎士さんが扉を開けてくれる。どうやらここが昼食を頂くレストランの様だ。
シリウスさんのエスコートで降りると目の前にウェイターの様な格好したイケメンの男性がいて挨拶し店内に案内してくれる。
席に着くとヌードルかパンが希望を聞かれてこの世界では珍しいヌードルを頼む。
案内された部屋は私とシリウスさんのみで、他の方は別の部屋で休憩されるようだ。でも扉外にはやっぱり騎士さんがいる。
ウェイターさんに飲み物を聞かれミントが効いたハーブ水を頼む。甘い雰囲気が続きさっぱりしたものが欲しい…
「あの…シリウスさん。私何かやらかしましたかね⁈」
「どうされました?」
「アイリスさんがその…」
「侍女が何がしましたか!」
「いえ…まだ日も浅く仲良くは無理なのは分かっているんですが…色々やらかし過ぎて呆れられているような…」
するとシリウスさんは苦笑して
「彼女はモーブルの他の女性と考え方が違い、男性の様な考えの様です。恐らくアルディアに生まれた育っていれば女騎士になっていたしょう。侍女なら侍女用の衣類を身に着けるところ、彼女はそれでは主人を護れないとあのような格好をし城内でも有名です」
「じゃあ!他の侍女さんはメイド服なんですか?」
「メイド服?あぁ…侍女の服ですね。お聞きかと思いますがモーブルに女騎士は存在せず、侍女が最低限の護身術を身に着け、騎士が護衛できない場所では侍女が主を護るのです」
「ふぅ~ん国によって違うんですね」
「アイリスはどちらかと言うと変わり者…失礼。しかし私からしたら責任感が強く、言いたいことをはっきり言うので多恵様とは上手くいくと思っています」
「仲良くなれますかね…」
「貴女を嫌う者などこの箱庭にはいませんよ」
「あはは…」
また甘い雰囲気を醸し出すシリウスさん。咳払いをして食事に戻る。
すると噂していたアイリスさんが入室してきて
「多恵様。お食事がお済でしたら“街ぶら”なるものに行きましょう」
「はい!シリウスさん行って来ていいですか⁈」
「“私もお供しましょう”と言いたい所ですが、この後の順路確認などやる事があり、アイリス嬢と騎士2名を着けます。半刻弱の短い時間ですが楽しんで下さい。欲しいものがありましたら遠慮なくアイリス嬢に言い付け下さい」
「見て周るだから大丈夫です」
こうしてシリウスさんと別れてランデンの街ぶらスタートです。
小さい街だけど綺麗な町並みで目が楽しい!バース領のトロイスみたいだ。露店では軽食や雑貨が売られ活気がある。ふと前を向くと進行方向に人だかりがある。どうやら大道芸人がやって来て客寄せをしている様だ…人が増えて来たな…
『ん?』袖を引っ張られて視線を落とすと3歳くらいの女の子が大道芸人を見ながら私の袖を引っ張ている。多分大道芸人に夢中で母親と間違えたのだろう。
『可愛いなぁ…雪の小さい頃を思い出すなぁ…』
女の子は私を見上げて驚き辺りを見渡す。母親じゃないのと母親が居ない事で一気に表情が曇り泣き出しそうだ。女の子の前に屈み
「こんにちは。お母さんと来たの?」
「…うん。お母さん…」
「はぐれちゃったのね!大丈夫おばちゃんが一緒に見つけてあげる?」
「おばちゃん?お姉ちゃんじゃないの⁈」
「えっと…お姉ちゃんでした」
危ない雪の事考えてたら48歳に戻っていました。
「さて、アイリスさんこの子の…!!」
立上り振り向いたらアイリスさんも騎士さんも居ない!!代わりに人ごみに飲み込まれ周りは人だらけになっていた。
『ヤバい!私も迷子になりました!でも私は大人だから取りあえずこの子を自警団か騎士さんにお願いして…』
女の子の手を引いて取りあえず人ごみから抜けて歩き出す。途中で露店の人に自警団事務所の場所を聞いて向かう。手を繋ぎ歩いていたけど疲れたのか座り込む女の子。仕方なく抱っこして自警団の事務所を急ぐ。やっと事務所に着くと騎士さんが2名いて事情を話し女の子を預けていると、女の子の母親が駆け込んできた。
「マリアナ!どこ行っていたの!!お母さんの手を離さないでって言ってのに!」
「お母さん!!」
親子の感動の?再会に立ち会い安堵する。母親と騎士さんからお礼を言われいい気分で事務所を出たが…
『忘れてた…私も迷子だった!』
「さっきアイリスさんとはぐれたのは確かジューススタンドの近くだったから、そこまで戻れば会えるかも…」
3歳児ではないから元の場所位行けるぞ。意気揚々と少し歩くとジューススタンドに着いた。
「あれ?さっきは店先に果物があったのに…違うスタンド?ヤバい…私迷子だ」
呆然としていると知らない男性に声をかけられた。所謂ナンパだ。断り歩き出すとしつこくついて来た。
「食事をおごるから行こう」
と断ったのに手掴まれ引っ張られる。
ヤバい!自警団の騎士さんめっちゃ遠くて助けを呼べない!いきなりピンチだフィラを呼ぶ?
「嫌がっているではありませんか⁉︎お放しなさい!」
振り向くと綺麗で品のいい女性と侍女らしき女性。そして帯剣した男性が2名いた。
帯剣した男性は平民の服を着ているが明らかに騎士さんだ。って事はこの女性は貴族!
ナンパ男はビビり走って逃げて行った。助かった…まずはお礼を言わないと!
「助けて頂きありがとうございます。助かりました」
「いえ、困っている方を助けるのは当然ですわ」
「すみません…追加でご迷惑おかけしますが、果物が沢山前に並べたジューススタンドって見かけませんでしたか?」
「確かあちらに…マイク。お嬢さんをご案内して差し上げなさい」
「いえ!これ以上ご迷惑をおかけする訳には…」
「いいのですよ。これからの事もありますし…」
「??」
女性は微笑み手を振りマイクという男性はエスコートしてくれ、ジューススタンドに向かった。
ジューススタンドの近くまで来るとアイリスさんの姿が…めっちゃ焦っている。あぁ…説教部屋行き決定だ。マイクさんにお礼を言おうと振り向くともういなかった。
「多恵様!!」
ド迫力のアイリスさんと護衛騎士の2人が走って来て逃げたくなった。後退りすると誰かにぶつかる。背後を見ると…
鬼の形相のシリウスさんが!!
「ごめんなさい!!へ?」
背後から抱きしめられた。
「貴女は私の心を揺らす」
「えっと…もう消えないので放して下さい」
「ダメです。また迷子になる」
見た目平凡な私が一人歩きしても何も起きない…って!ついさっきナンパ受けたな…
シリウスさんにがっつり腰を抱かれ馬車まで一直線。馬車の周りには既に騎士さんが出立準備が終わっていて皆さん表情が硬い。有無を言わさずに馬車に乗せられ馬車が動きだす。
車内はもうホラーだ!出発するなり怒られるのを覚悟していたのに、シリウスさんもアイリスさんも無言だ。反対に怒鳴って欲しい…沈黙とか拷問だ!沈黙に耐え兼ねた私は
「ごめんなさい。大道芸人に気を取られていたら、迷子に遭遇し一緒に迷子になりました。露天の人の聞いて迷子を自警団の事務所に連れて行き、母親に会えて安心して…」
この後のナンパは言わない方がいい。これ以上は惨劇が起きそうだ。
「多恵様に落ち度はありませんわ。護衛していた私共に至らなかったのです。怖い思いされませんでしたか⁈」
「えっと…うん」
ライデンからは馬車に乗るシリウスさんは片眉を上げて
「多恵様に無体を働いた者がいたのですね!」
『あぁぁぁ!!やっぱりシリウスさんにはバレる!やっぱり鋭いシリウスさん!』
この後、二人からがっつり説教を受ける事になり、最後の方は長い長い心の旅に出ました。
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『アラフィフになって運命の相手が来た⁉︎〜どうやら夫に騙されていたようです〜』
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