道中 2
初日からやらかして…
宿に私の声が響き外で待機の騎士さんまで部屋に駆けつけてきた。またフリーズ中のシリウスさんをアイリスさんが叱り飛ばす!
「シリウス様!私は多恵様のお着替えをして参りますので、速やかにこの場を治めて下さい!ほら!固まっている場合ではございません!」
私はバスローブを2枚着さされ、隣の部屋に押し込まれた。隣はアイリスさんの部屋で直ぐにお湯をはり湯船に入れられる。
頭から水を被り冷えていた体が温まっていく。まだ部屋の外は騒然としている様だ。体が温まった頃にやっとシリウスさんが指示を出す声が聞こえて来る。
『助けに来た騎士さん、シリウスさんお目汚しでごめんなさい。あと…貧相な体ですみません』
と心の中で謝った。
やっと温もり新しい夜着に着替えて、今アイリスさんから説教中です。
「なぜ!私が戻るまでお待ち頂けないのですか⁈使い方が分から無いなら尚更ですわ!」
「ごめんなさい…水を入れるくらい自分で出来るから…ただここの蛇口は初めてで…」
アイリスさんは流石がケイティさんの従姉妹で、こういう時はっきり意見してくれる。
ため息を吐きアイリスさんは
「ケイティ姉様が多恵様は他の令嬢と違うと言っていましたわ。この事ですのね…」
「重ね重ねすみません」
すると大きいため息を吐くアイリスさん。呆れられたなぁ…初日で初めましてから1刻も経たないウチに愛想尽かされるなんて…ごめんねケイティさん。
「私の庇護欲に火がつきましたわ!多恵様が遠慮なく頼ってもらえる様に精進致します。つまらない事でも何でも言いつけて下さいまし!」
「ありがとう?ん?でも極力自分の事はしますよ」
アイリスさんが何か言おうとしたら誰か来た様だ。アイリスさんが応対してくれる。
戻ってきたアイリスさんがシリウスさんが報告に来たが会うか聞く。
何でそん事聞くのか分からないけど、会うと返事して居間の方へ行くとシリウスさんが立っている。
「シリウスさん!初日からすみません!」
ジャンピング土下座の勢いで頭を下げて謝罪するけど反応無し…恐る恐る顔を上げると、顔を真っ赤にし狼狽えるシリウスさん。
「・・・」
「ダルクさんにも謝罪に行きたいのですが、今から駄目ですか?」
すると後ろからアイリスさんが
「それは必要ありません。洗面所の清掃は終わり賠償も終わっておりますから」
「でも、迷惑掛けているし片付けは騎士さんがされたのでしょう。謝罪しないと!」
「多恵様は陛下と同等に尊いお方なのです。謝罪など必要ありませんわ!」
あぁ…そっか…アルディアでは無いんだ!一から私の気持ち伝えないと分かって貰えないんだ…
『アルディアに帰りたい…』
高速でホームシックがやって来た。アイリスさんに”そうじゃない!”と反論したいけど、反論するパワーが湧かない。ただただ悲しい…
すると
「分かりました。今日はもう遅いので、明日出発前に時間を作ります。それでよろしいですか⁈」
「えっ…あっありがとうございます。まずばお二人に余計なお仕事増やしてごめんなさい。今後は分からない時は勝手にせずに相談します」
「ですから!」
アイリスさんが何か言おうとしたらシリウスさんが制し、私の前に来て一瞬躊躇してゆっくり抱きしめた。
「怪我がなくて良かった」
「ごめんなさい」
「お疲れでしょう。今日はお休み下さい」
こうしてバタバタした初日を終えて、てん君を呼びベッドに入る。
『たえ げんきない』
『ちょとアルディアに帰りたくなった』
『てん いる』
『そうだね。ずっといてね』
てん君を抱きしめて眠りについた。
『暖かい…』
でも?もふもふ(てん君)じゃなぃ?目の前は綺麗な緑が広がっている。顔を上げるとフィラだった。
「おはよう?あれどうしたの?」
「婚約者に会いに来ただけだが。昨晩は大変だった様だなぁ」
「うん。初日からやらかして…侍女さんに呆れられちゃった…」
フィラは何も言わず優しいキスをして抱きしめてくれる。
「お前のしたい様にすればいい。しかし他の男に無防備な姿は晒すな。これ以上お前を慕う者が増えるのは好ましくない」
「故意にしている訳じゃないよ」
「あの侍女は優秀だが…まぁ今は静観するか…」
「アイリスさんが何?」
「…場合によっては俺が黙っていない」
「意味不明…あのね揉めないでね⁉︎」
フィラはアイリスさんに思う所があるみたいだ。真面目で熱血ぽく頼り甲斐ありそうだけど…少し気になるなぁ…
「寂しい時や辛い時は呼べ。いつでも来るぞ」
「ありがとう。でも私も歩み寄らないとね」
「相変わらずいじらしく可愛いなぁ〜。今から妖精城に行き交わるか⁈」
「なっ!朝から盛らないで!」
「俺の番は可愛すぎる!」
“コンコン”
誰か寝室の扉をノックする。多分…
「多恵様。何かございましたか?」
やっぱりアイリスさんだ。話し声が聞こえた様だ。フィラに帰ってって言おうとしたら、フィラはベッドから降りて扉に向かう。
「えっ!ちょっと!」
止める間なくフィラが扉を開けた。アイリスさんは怖い顔してどこから出したか分からないが短剣を構えて
「何者だ!何故多恵様の部屋にいる!」
「お前が堅物侍女か!侍女なら主人の気持ちを汲み取れ。それに今以上の感情を持つな。持った時は俺が黙っていない。これは警告だ。心せよ」
「ちょっとフィラ!初対面で喧嘩売らないでよ!」
「フィラ…」
短剣を下ろしてフリーズするアイリスさん。そっか王族以外は妖精王を見た事無いんだった。目を見開いたアイリスは短剣を収め跪き頭を下げて
「妖精王とは知らず失礼いたしました。無知な者にお慈悲を…」
「許そう。我が婚約者が世話になるのたがら。しかし心せよ我が婚約者は箱庭の令嬢と違い謙虚で優しい。悲しませるな!」
「御意!誠心誠意お仕え致します」
どうやら騒がしのに気付いた扉前の騎士がシリウスさんを呼んで来た様だ。入室許可を求めるシリウスさんにフィラが入室許可を出すと入ってきた。
直ぐに騎士の礼をしフィラに挨拶するシリウスさん。フィラはそれを無表情で受けている。基本私以外には冷たいし無関心なんだよね…
「妖精王。何かございましたか⁈」
「我が婚約者が寂しいそうで慰めに来た。多恵は元は平民で人に傅かれるのを嫌う。アルディアでは多恵は自由だった。モーブルの様な仕え方では堅苦しいだろう。お前達は事前にアルディアからアドバイスを受けたのでは無いのか⁈主人の望みを汲み取れ」
「フィラ!やめて!まだ初日だしお互い手探りで関係を今から作って行くんだから!私も歩み寄らないといけないの!」
するとシリウスさんは分かるけどアイリスさんにも熱い視線をいただく。人との関係なんて簡単に出来るものではないんだよ。まだスタートしたばかりなんだ!
「妖精王の助言を肝に銘じお仕えいたします」
「多恵が泣くことがあれば妖精城に連れ帰るぞ」
「「御意」」
振り返ったフィラは艶っぽく微笑み抱きしめ優しくキスをして帰っていった。
気まずくなる前にお腹空いたと言い、半ば強引に食事をする様に話を持っていく。シリウスさんもアイリスさんも何も言わない。
とりあえず話に触れずに食堂に向かう。
部屋を出てまず2名の騎士さんにお詫びしたら、1人の騎士が顔を真っ赤にして狼狽えている。
『あっ…この方に貧相な体を見られたんだ!』
いざって時におばちゃんが出てしまい
「お目を汚してすみません。出来るだけ早く忘れて下さい。精神の安定の為に…」
「いえ!光栄な事で…っつ!」
若い騎士さんは青い顔をして硬直する。不思議に思い彼の視線を追うと、私の背後から射抜く様な視線をシリウスさんとアイリスさんが送っている。
「2人共!彼はある意味被害者なんだから、そんな怖い顔しないで!」
このままいたら騎士さんに危ないので急いで食堂に向かう。食堂に着くとダルクさんが給仕をしていたので、駆け寄り洗面所を水浸しにした事をお謝罪する。
「あの蛇口は古いから使い方を知らない人が多いんです。だから気にしないで下さい。騎士さん達が綺麗にしてくれたし、宿泊代に色を付けてくれたから俺的には問題なしです」
一番の被害者が騎士さんだと判明し、後でちやんと謝ろうと思った。
朝食が終わるとシリウスさんが騎士さんを集めてくれた。皆さんに迷惑掛けたと謝罪をした。騎士さん達は女神の乙女が謝ると思わなかったらしく明らかに困惑している。
「昨日の1日でお分かりだと思いますが、私は元は平民で貴族令嬢と違います。基本出来ることは自分でします。手助けいただきたい時はお願いしますので、よろしくお願いします」
騎士さん達は微笑んでくれ騎士の礼をしてくれた。
謝罪しやっと気持ちも落ち着きやっとモーブルに向けて出発します。
お見送りしてくれるダルクさんにお礼を言い、またくる約束をし馬車に乗り込んだ。
ここから馬車にアイリスさんも乗車。よかった!シリウスさんと2人だと時折甘い雰囲気醸し出すから焦るんだよね…
それにしてもアイリスさんが気になる。機嫌が悪い様な…そうじゃ無い様な…
車内の居心地が悪い…私アイリスさんと仲良くなれるの⁈当分の間はまたホームシックが高速で来そうだ。早く慣れないとなぁ…
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⭐︎お知らせ⭐︎
『(仮)選べなかった1度目の人生、2度目は好きにしていいですか?』
の作品名を変えました。書き始めた時から変えようと思いながら、いい題が思いながら浮かばず放置。半年経ちやっと変えれました。
新しい題は
『アラフィフになって運命の相手が来た〜どうやら夫に騙されていたようです〜』
です。こちらもよろしくお願いします。




