道中 1
モーブル編スタートします。モーブルでの伴侶決めや問題は解決できるのか?不安しか無い多恵です。
『暖かい…ん?お布団薄いなぁ…』
いい香りと肌触りがいいお布団に微睡んでいる…
“ガタン!”
「わっ!」
「大丈夫です!落ち着いて下さい」
初めに視界に入ったのがブルーグレーの綺麗な瞳だった。びっくりして起き上がっるとバランスを崩し、大きな手に引かれ抱きしめられた。
「危ない!」
「すみません!ありがとうございます」
そうだ!アルディアを立ちモーブルに向かっていたんだ。どうしたんだっけ?
見上げるとシリウスさんが優しい眼差しで見つめている。恥ずかしくなり俯き
「えっと…ですね…アルディアを出て…どうしましたっけ?」
「アルディアのお見送りにお応えになり…お別れに涙され…お疲れになり…」
「あ… 」
思い出した!馬車の窓から手を降りアルディアの皆さんにお別れを言っていたら泣いちゃって…泣き落ちしたんだ!
この状況から予測するに抱っこされ寝ていた…恥ずかしい!イビキや歯軋りして無かった?
「すみません。ご迷惑お掛けしました」
「いえ…愛しい貴女をこの腕に抱き役得でした」
甘い雰囲気のシリウスさんに気まずい!
とりあえずシリウスさんの腕から離れ、シリウスさんの向えの席に座る。
一瞬寂しそうな顔するシリウスさん。いや私が恥ずかしぬから至近距離とか無理!
「今どの辺ですか?」
「あと少しでキラス村に着きます。今日はダルク宿で一泊し明日朝一に出発、昼に休憩を挟み日没前にモーブル城に到着予定にしております」
「結構かかるんですね」
「旅慣れされていない多恵様を考慮し、ゆっくり進んでおります」
「じゃー騎士さん達なら?」
「普通に行けば昼前には」
「ありがとうございます。気を使っていただいて…」
するとシリウスさんは訳アリマントを綺麗に畳み膝に掛けてくれる。温かさあげーん!
少し頬を染めたシリウスさんが
「マントを使っていただき嬉しい…」
「えっと…ごめんなさい!マントの意味知っていますが、それはあまり考えて無くてですね!単に暖かいし肌触りが良くてですね!」
慌てて言い訳をするとシリウスさんは微笑み
「分かっています。俺はまだまだです。モーブルに住まいを移される今、遠慮はしません。俺を知ってもらい受け入れていただく様に距離を詰めます」
「おっお手柔らかにお願いします」
意味ありげに微笑むシリウスさんの視線を避けて窓の外を見る。森を抜けた様で建物が少しずつ見えて来た。
ダルクさん達に会える!って言うか、ダルクさんが焼くぶぶ豆パンが食べれるぞ!
レシピを聞いた王城の料理人さんが焼いてくれたけどお上品なお味だった。ダルクさんが焼く素朴なパンが食べたかったのだ!
ぶぶ豆パンを想像しただけでお腹が大合唱した。恥ずかしくて思わず膝を抱えて鳴らない様にするけど…鳴り止まない!
『恥ずかしい!絶対シリウスさんに聞こえている!』
するとシリウスさんは窓開けて並走する騎士さんに何か言っている。そして私を見て
「もうすぐダルクの宿に着きます。お昼時もお休みになっておいでで、昼食を召し上がっておられない。空くのは当然です」
「えっ!まさか皆さん食べてないんですか?私のせいで休憩無し!」
「いや、皆は予定通り」
「あ…もしかしてシリウスさんは…」
また艶っぽい顔をして…
「眠る貴女を抱いていたので…小さく柔らかい貴女を抱き胸がいっぱいで食事など必要なかった…」
「すみません!」
初日からやらかしていた。大丈夫…私⁉︎
それから暫くすると直ぐに馬車が停まり宿に着いた。馬車の扉が開き先にシリウスさんが降り後に続く。手を借り降りると…
『超美少年?あれ?男子?女性?』
ブロンドヘアーを後ろで一つに纏めて、甘い顔立ちをし執事服の様なスーツを着た人が礼をしている。性別不明だし騎士さんでは無さそうだし、従僕さんでも無いみたいだ。
ふーあーゆぅ?
頭の上に疑問符をいっぱい付けた私を見て、笑いながらシリウスさんが性別不明の人を紹介してくれる。
「多恵様。専属侍女のアイリスです。アイリスご挨拶を」
「えっ!侍女さん⁈」
なんと侍女さんでした!まさに男装の麗人だ!女子校ならファンクラブ出来るよ!目が点な私を見て微笑んだアイリスさんは、右手を左胸に当てお辞儀して
「お初にお目に掛かります。多恵様にお仕えいたしますアイリスにございます。誠心誠意お仕えしお護り致します。何なりとお申し付け下さい」
「初めまして。多恵です。分からない事が多いので色々教えて下さい。後、様呼びは出来ればやめて下さい」
「そういう訳には…」
「じゃあ!仲良くなったらやめて下さい」
アイリスさんは口元に手を持っていき微笑み
「ケイティ姉様からお聞きした通りのお方ですわ。気取らず愛らしい…姉様から申し送りは受けております。姉様と同じく気を使わずなんでも仰って下さい」
「ありがとう。お世話になります」
挨拶が一通り終わるとシリウスさんのエスコートで宿に入ると懐かしい顔が…あれ?ダルクさんの隣の女性は?
「ダルクさんお世話になります。あれ?ルカさんは?」
「よっようこそお越しいただき、光栄で…えっと…」
「ダルクさん。前みたいに気を使わず話して下さい」
「いや!前は”女神の乙女”様って知らなくて、失礼したから…」
「畏まられると反対に居心地悪いです」
気を使うダルクさんにシリウスさんが苦笑して
「ダルク。多恵様のご希望のままに…」
「いいんですか⁈…よかった!俺には敬語は無理なんだ!」
やっと表情を緩めたダルクさんに案内され食堂に向かうと、そこに給仕をするルカさんがいた。駆け寄り挨拶すると流石兄弟だ、ダルクさんと同じ反応でめっちゃ畏まられた。苦笑し前と同じ様に気楽に接してほしいと告げた。
「多恵様。お食事の準備が出来ております。着席し召し上がって下さい」
「ありがとう」
アイリスさんが椅子を引いてくれ着席し食事を始めます。空腹MAXで何から食べていいか分からない!するとダルクさんが籠いっぱいに入ったぶぶ豆パンを持って来てくれた。
「やり!ぶぶ豆パンだ!それも焼き立てだ!」
「多恵様が好きだと聞いたので、沢山焼きました。どぉぞ!」
「ダルクさんありがとう!」
食べ出すと止まらなくて、必死過ぎて多分皆んな引いてるよね…でも今は食べるのが先だ!お腹が少しおさまり、ふとまわりを見ると暖かい視線が…
「私何かやらかしましたか?」
「一生懸命食べるお姿が可愛くて…」
恥ずかしい!気をとり直してここから優雅に食べる様にチェンジした。
食事がある程度終わりデザートになった時に、ルカさんにダルクさんの横の女性が誰か聞いてみた。新しい従業員さん?
「あっクリスタね。彼女は私の友人で兄貴のお嫁さんよ」
「へっ⁈ダルクさん結婚したの!」
この後ルカさんに聞い話ルカさんも結婚していた。ダルクさんは元は大柄なダイナマイトボディの美人系が好みだったが、私と会い小柄な可愛い系に好みが変わったそうだ。
そこに昔からダルクさんを好きだったクリスタさんが猛アプローチして、あっという間に婚姻。そしてルカさんはあのスカーフ祭りでダルクさんに置いて行かれた時に助けてくれた自警団の幼馴染といい感じになり、数日前に婚姻していた。宿が忙しい時だけ手伝いに来ているそうだ。
「兄貴みたいな身分も無く平凡な容姿で、王都にいる令嬢が嫁に来てくれる訳ないのよ。現実がやっと分かったんです。クリスタが来てくれて有難いとおもわないと!」
相変わらず兄に遠慮がないルカさんにほっこりする。大柄のダルクさんがアルディアでは珍しい小柄な新妻のクリスタさんを気遣っているのが微笑ましい。
仲睦まじいのを見ていたらちょっと寂しくなって来た。いつもなら必要以上に構ってくる婚約者は居ないんだ…
「へ?」
急に手が暖かくなった。手を見るとシリウスさんが手を握り優しい眼差しをくれる。
「俺を頼って下さい。心身共に貴女の支えなりたい」
「寂しいのバレちゃいました⁈大丈夫です。日薬で慣れますから」
「…」
食後はアイリスさんが付き添い部屋に行き、早めに湯浴みをして部屋でのんびりする。
ベッドに腰掛けると壁にタオルが掛かっているのに気付く。
「何これ?」
タオルを捲ると鏡があった。
「これって…」
「シリウス様から壁の鏡は多恵様がお嫌だとお聞きしましたので、事前に隠しておきました」
「ありがとうございます」
やっぱり気遣いのシリウスさんだ。あんな小さなエピソードも覚えているんだ。
感心していたら、アイリスさんが明日の予定を教えてくれる。って言っても宿を出発したらほぼ一日中馬車だ。お昼にランデンという街で休憩するくらいだ。
「多恵様がお望みならランデンで散策すると事もできますが」
「気晴らしに少し街ぶらしたいです。あっでも時間ないなら無しでOKです」
「畏まりました。シリウス様にお伝えして参ります。何かございましたら、扉外に騎士がおります。お声かけ下さいませ」
「はぁーい」
こうして1人になった。少ししたら喉がイガイガし洗面所でうがいをしようしたら、蛇口の使い方が分からない!
この後アイリスさん待てば良かったと後悔する事になる。
私は昔から取説は読まずぶっつけで触り覚えるタイプで、今回も触っていれば何とかなると思っていた。
「これ捻ればいいのか…なぁ…ギャァ!」
凄い勢いで水が出でそこかしこに飛び跳ねる。必死で緩めた取手を訳も分からず触りたくると、徐々に水量は減り出した。
「多恵様!何かございました…あっ!申し訳ございません。直ぐ侍女を!」
部屋の外から駆けつけた騎士が真っ赤な顔をして、助けるどころか部屋から出ていった。
まだ水は止まってない!勢いはマシになったが止まらない!
「いや!助けてよー!誰か止めて!」
また取手を触るとまた勢いを増す水に完全パニくる私!
“ばん!”
「「多恵様!」」
「シリウスさん!アイリスさん!助けて!水が!」
するとアイリスさんがバスタオルで私を包み込んで水を止めてくれた。
一緒に来たシリウスさんは目を見開きフリーズ中。
「多恵様とりあえず奥でお着替えを!」
「へ?」
自分を見たら…ずぶ濡れで夜着が透けて下着が丸見えだ!
「ぎゃぁ〜〜!」
初日からやらかし前途多難!
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になりましたら、ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします。
休載からパワーアップせずにしれっと帰ってきました。先日1作完結した事でホッとしてダラダラ状態で再スタートしました。
恐らく前回の様にガツガツ更新は無理で、アップペースもゆっくりになると思います。
未完の『(仮)選べなかった1度目の人生、2度目は好きにしていいですか?』も並行して書くので尚更ゆっくりです。
気長にお待ち頂きたいたら幸いです。
モーブル編も頑張ります。よろしくお願いします。




